放課後のMISSIONってなに!?
春の午後の空気は、少しだけ甘い。
昼のざわめきが静まり、校舎全体がゆるやかに深呼吸をするような時間──放課後。
窓の外では、グラウンドの野球部が「いーち!にー!」と声を張り上げ、
バスケ部のボールがリズムよく床を跳ねていた。
その音を、教室の隅っこでぼんやり聞いていたのが──
中学1年生、天然少女・ほのかである。
「……ふぁ〜あ……」
ちょっと気が抜けたあくびをひとつ。
誰もいなくなった教室は、昼間の喧騒が嘘みたいに静かで、
まるでほのかだけを包み込んでいるようだった。
机の上には、ひとりで解いていた数学のプリント。
本当はもうとっくに家に帰ってもいい時間なのに、
なぜか今日に限って、ほのかは「ちょっと残ろっかな〜」と居残っていた。
……理由?
そんなの、本人もよくわかっていない。
なんとなく。
“なんとなく”って言葉が、ほのかの人生をちょっと特別にしている。
「え……?」
そのときだった。
ふと、教科書をしまおうと手を伸ばした机の中。
そこに──真っ白な封筒が一枚、ひっそりと入っていた。
しかも、表面にはきらりと光る金色の文字でこう書かれていた。
《放課後 ミッション》
「……みっしょん?( ˙꒳˙ )? 」
何これ、ドッキリ?
もしかして、クラスの誰かのイタズラ?
でも──この文字、妙に綺麗で、どこか現実じゃない感じがする。
ほのかは小首をかしげ、指先でそっと封を切った。
中には、小さなカードが一枚だけ。
《旧校舎の屋上に集合。光の扉を開けるのはキミ》
「……ひ、光の扉ってなに!?Σ(゜Д゜)」
思わず声が裏返る。
教室にはもう誰もいないのに、自分の声がやけに大きく響いて恥ずかしい。
でも、胸の奥がくすぐったくなるような──
“なんかが始まりそうな予感”が確かにあった。
天然なほのかのすごいところは、
こういうとき「怖い」より先に「ちょっと行ってみよっかな〜」がくるところ。
「……まぁ、旧校舎くらいなら……いける……たぶん……?(方向音痴だけど)」
ランドセルではなく、真新しい中学のカバンをぎゅっと抱え、
ほのかは校舎を出た。
春の風が頬を撫でる。
さっきまでいた教室のぬくもりが、もう少しで夜に飲み込まれてしまいそうな時間。
グラウンドの声も、校門の外のざわめきも、だんだん遠のいていく。
旧校舎は、新校舎の裏手にある。
昼間でもちょっと薄暗くて、
一年生の間では「おばけが出る」とちょっとした噂になっていた。
「……あれ?こっちだっけ……?」
さっそく方向音痴が発動した。
でも、足は止まらない。
心臓が高鳴って、まるで胸の奥がポッと光ってるみたいに暖かい。
──そしてたどり着いた旧校舎の扉は、驚くほどすんなりと開いた。
ギィィ……と軋む音が、夜の入り口を告げる鐘のように響く。
ほのかは屋上への階段を上る。
窓から差し込む夕焼けが、橙色から群青へと変わり始めていた。
「ここ、ほんとに入っていいのかな……」
ちょっとだけビビる。でも、やっぱりワクワクが勝つ。
──屋上の中央。
そこには、信じられない光景が広がっていた。
夜空よりも澄んだ光の輪が、地面に浮かび上がっている。
まるでアニメのワンシーンみたいに、幻想的で、現実離れしていて、
でも確かに“そこにある”。
「……え……えええええ!?!?」
ポカンと口を開けて固まるほのか。
カードがふわりと手から浮き上がり、光の輪の中心へと吸い込まれていく。
──そして、風が吹いた。
春のやさしい風じゃない。
まるで物語の幕を上げるような、少しだけきらめいた風だった。
その瞬間、ほのかの世界はほんのすこしだけ、色を変えた。




