天然魔法少女、誕生☆彡
夜の窓から入ってくる風は、すこし冷たかった。
机の上には、開いたままの理科の教科書。
でも、ほのかはもう1時間近く、1ページも進んでいなかった。
「……間の、魔法使い」
頭の中で、何度もその言葉が反響する。
“間”ってなんの間なんだろう。
人間と魔法? この世界と……別の世界?
目の前で、光の粒がふわりと浮かんだ。
まるで返事をするように、ゆっくりと円を描く。
「……ねえ、あなた、わたしに何をしてほしいの?」
光は、今までにないくらい強く、あたたかく輝いた。
次の瞬間、部屋の空気がふっと柔らかくなった。
世界の音が、すこしだけ遠のく。
(また……この感じ)
雨上がりの公園で“影”と出会ったときと同じ、
時間がふっと止まるような、あの静けさ。
「……君が、選ばれたんだよ」
声がした。
あの、影の声――。
振り返ると、部屋の隅に、
夕方と同じ金色の瞳があった。
「えっ、ちょっ……なに、家の中入ってきてるし!!」
「玄関からじゃない。僕は“ここ”に来ただけだよ」
(え……天然な私でも、さすがにそれは意味わからん!)
でも、怖くはなかった。
なぜか、直感でわかる。
この存在は、敵ではない。
⸻
「君は“間”に立つ子。
人間と、魔法のあいだ。
この世界と、もうひとつの世界のあいだ。
だから君が“選ばれた”」
「……え、ええっと……私、そんな立派な人じゃないんだけど」
「立派だからじゃない。
君が――君だから、なんだ」
影がほのかに近づくと、光の粒がゆっくりと広がり、
部屋いっぱいに淡い光の花びらが舞った。
「君の“やさしさ”は、どんな魔法よりも強い力になる」
ほのかは、自分の胸に手を当てた。
怖い気持ちも、不安もたくさんある。
でも、どこかで心の奥が、ほんの少しだけワクワクしている。
(私……もしかして、魔法少女になるの?)
⸻
「……わたしにできるのかな」
「君だから、できるんだ」
金色の瞳が静かに細められた。
ほのかの手のひらの光が、まぶしいほどに輝く。
ほのかは、ぎゅっと拳を握った。
不安と期待が入り混じったまま、でも――逃げなかった。
「……うん。
ちょっとドジかもしれないけど、
やってみる」
その瞬間、光が弾けるように咲いた。
部屋の空気があたたかく、やさしい風に包まれる。
制服のリボンがふわっと舞い上がり、
足元には金色の紋章が浮かびあがった。
(――これが、魔法……!)
⸻
影は静かにほのかを見つめていた。
「君の名前は?」
「……ほのか」
「ようこそ、“魔法の間”へ。――天然魔法少女、ほのか」
風が、夜の窓を通り抜けた。
星空の向こうで、何かがゆっくりと目を覚ましたような気がした。




