夕暮れの帰り道
「……間の、魔法使い?」
その言葉の響きが、ほのかの胸の奥にすとんと落ちた。
でも意味なんて、ぜんぜん分からない。
「え……なにそれ? 私、ただの中学生なんだけど」
「“ただの”なんて、君が一番わかってるでしょ」
影の声は低く、でもどこかやさしさのような温度を含んでいた。
金色の目が細められると、まるで夜の月みたいに光る。
「君が“光”を持っている。だから――見つけた」
(……怖い。けど、なんだろう……この感じ)
ほのかの心臓はドキドキ鳴っているのに、足はまるで地面に根を張ったみたいに動かなかった。
そのとき、手のひらの光がふっと大きく明滅した。
まぶしさに目を細めると、影の輪郭が少しだけ揺らぎ――
まるで霧にとけるように、ふっと消えた。
「……え?」
夕焼けの公園に、再び静けさが戻る。
雨上がりの風が、スカートの裾をかすめていった。
⸻
(なんだったんだろう……今の)
心臓の鼓動はまだ速い。
でも不思議と、“悪い感じ”はしなかった。
怖いけど……ぜったい、あれ、ただの人じゃない。
ポケットの光が、ほのかの指先にとんっと跳ねる。
「……なに、今の人。知ってるの?」
光はぽんぽんと明滅して、答えにならない返事をする。
「ほんと、あんたって天然なんだから……」
ため息まじりに笑いながら、ほのかは制服のポケットを軽く叩いた。
⸻
空はもう、完全に夜へと傾いていた。
部活の声も遠くに消え、
商店街のあかりがちらほらと灯り始める。
カラン、と靴音が鳴る。
傘を片手に歩く帰り道は、いつもより少しだけ長く感じた。
「……光、さ」
ほのかは、ポケットのなかの粒に小さく話しかけた。
「もし本当に、わたしが“魔法使い”ってやつなら……」
言いかけた言葉を、途中でやめる。
(なに言ってるんだろ、私。漫画じゃあるまいし)
でも、止められなかった。
胸の奥に、さっきの金色の目がずっと残っている。
――たぶん、これは“はじまり”なんだ。
まだなんにもわからないけど、
“なにか”が動き始めている。
⸻
家の角を曲がると、見慣れた玄関の灯りが見えた。
「ただいまー」
明るい声で言ってみても、胸の奥はまだ少しだけざわついている。
夜空には、一番星がきらりと光っていた。
それはまるで、あの“光”の仲間みたいに――。




