放課後の光、そして招かれざる影
放課後の教室には、今日も光がゆっくり沈んでいた。
雨上がりの窓ガラスには薄く水滴が残り、
西の空はまだ少し濡れたようなオレンジ色をしている。
「……静かだなぁ」
ほのかはカーテンの端に手をかけ、風に揺れる白い布をぼんやりと見つめた。
廊下の声も、階段の音も、全部遠くにある気がする。
ポケットの中。
光の粒がふわりと動いた。
まるで「ねえ、外に出ようよ」と言っているみたい。
「……わかったよ」
制服の胸ポケットに光を忍ばせて、ほのかは教室を出た。
⸻
中庭は雨上がりのにおいがしていた。
アスファルトの上に残った水たまりが夕空を映し、
オレンジと群青が混ざった不思議な色をしている。
ほのかはしゃがみこみ、水たまりをのぞきこんだ。
空の色と、自分の顔と、光の粒が重なってゆらめく。
「ねえ……あなたって、なんなの?」
光は、まるで笑うようにポンと弾けた。
言葉では返ってこないけれど、
確かにそこに“意志”のようなものを感じる。
そのときだった。
――風が止まった。
空気が、ほんの一瞬だけ“静止”する。
水たまりの波紋さえ、ぴたりと止まっていた。
「……え?」
次の瞬間、光が震えた。
今まで見たことのない、深い藍色に染まっている。
水たまりの向こうに、何かが立っていた。
シルエット。
人間のようで、でも少し違う。
長い影が、雨上がりの地面をゆっくりと伸びてくる。
「……だれ?」
声が小さく震える。
けれど足は、不思議と動かなかった。
シルエットはゆっくりと顔を上げた。
目が、金色に光った。
その瞬間、ほのかの胸ポケットの光が強く輝く。
まるで「逃げて!」と叫んでいるみたいに。
「……なに、これ……!」
心臓がドクンと鳴る。
世界の音がすべて遠くへ沈み、
ほのかと“それ”だけが、この空間に取り残されたようだった。
⸻
「――見つけた」
たしかに、声がした。
低く、けれど耳に残る声。
ほのかは息を呑む。
「君、あの“光”を持ってるんだね」
風がふわりと吹き戻る。
世界の色が少しだけ戻った。
でも、空気の温度はさっきより冷たい。
胸ポケットの光が、震える。
まるでほのかの不安をそのまま映しているようだった。
⸻
ほのかは一歩、後ずさった。
でも、その“影”は近づいてくる。
そして次の瞬間、光の粒が飛び出し――
ほのかの手のひらの上に、強い光を宿した。
「……守ってくれてるの?」
光は小さく明滅した。
“影”は、じっとそれを見つめたまま、静かに言った。
「やっぱり――君が、“間の魔法使い”なんだ」




