ズレてる私、魔法もいける?
翌朝。
ほのかはいつもより少し早く目を覚ました。
カーテンのすき間から朝の光が差し込んで、部屋の空気がほのかに温かい。
昨日の“あの光”の感覚が、まだ手のひらに残っている気がして、
ほのかは布団の中で手を開いてみた。
……何もない。
けれど、何かが“そこにある”ような気がする。
まるで見えない小さな生きものが、
まだ彼女の中で眠っているような、そんな感じ。
「……夢じゃなかったよね?」
小さくつぶやきながら、制服に袖を通す。
鏡に映る自分はいつも通りで、髪の寝ぐせも完璧に直っている。
頭のいい優等生の顔。
でも、その内側には、昨日から続く“ふわふわした違和感”があった。
⸻
学校に着くと、教室はすでにざわざわと賑やかだった。
友達の**美桜**が机に肘をついて、にやりと笑う。
「おはよ、ほのか。なんか今日、雰囲気違くない?」
「え? 髪型かな? トリートメント変えたんだ」
「……ううん、なんか“光ってる”感じ」
「え、えっ?」
思わず慌てて自分の髪を見る。
もちろん、光ってはいない。
でも、美桜は本気で言っているようだった。
「ほんとに、なんか柔らかい光まとってるっぽいんだよね〜。
まさか天使化とかしてない?」
「ちょ、そんな……! してないよ! たぶん!」
周囲のクラスメイトが笑う。
ほのかは照れ笑いしながらも、
心の中では少しだけ“もしかして”と思っていた。
――昨日の魔法、まだ消えてないのかもしれない。
⸻
昼休み、ほのかは中庭のベンチに座って、こっそりと手を広げてみた。
やっぱり、光が生まれる。
昨日よりもずっと小さいけど、
それは確かにほのかの指先に寄り添っていた。
「……ねぇ、出るタイミング、自由じゃないの?」
つぶやいてみるが、光はただゆっくりと瞬くだけ。
命令を聞くでもなく、気まぐれに揺れる。
まるで、ほのかの“ズレたペース”そのもののようだった。
「……やっぱり私、魔法のテンポまでズレてるかも」
苦笑いしながら、ほのかは光を手の中で転がす。
光は、まるで笑うみたいに、ぽん、と跳ねた。
「……え、今、笑った?」
問いかけても、返事はない。
でも、たぶん“聞こえないだけ”なんだと思った。
⸻
放課後。
ほのかは帰り道で夕焼けを見上げながら歩いた。
ランドセルじゃなくて通学カバン。
小学生のころより少し背が伸びて、
でも世界のほうがもっと速く進んでいるような気がした。
「みんなとテンポが違うのって、悪いことかな」
ぽつりとつぶやく。
光はほのかの肩の上に浮かび、
まるで答えるように、小さく明滅した。
ほのかはその光を見て、ふっと笑った。
「うん、まぁ……悪くないかもね」
夕陽の中で、
“ズレてる”という言葉が、少しだけ優しく聞こえた。




