初めての戦い、えっ!?敵ってこうくるの!?
春の夜空に、月がまあるく輝いていた。
ほのかは変身した姿のまま、屋上でしばらくぼーっと空を見上げていた。
スカートの裾はさっき転んだせいでちょっと汚れてるけど、
その姿はまぎれもなく──“魔法少女”だった。
「……ねぇルゥ、なんか……まだ夢みたい……」
「夢じゃないよ」
ルゥがふわふわとほのかの周りを回る。
金色の光が、まるで花粉みたいにふわりと舞って、夜の空気に溶けていった。
「でも、変身したからにはやることがある」
「……やること?」
「うん!キミがこの街を守るんだ!」
「え゛っ!?いきなりそんな重大任務!?」
まさかの“街を守る”というスケールに、ほのかの目が丸くなる。
数学のテストですら緊張するのに、いきなり“街”って。
心の準備があまりにも足りない。
「ちょっとちょっと、いきなりボス戦とかじゃないよね!?」
「さすがに最初はチュートリアル敵だから安心して!」
「ちゅーとりある……って、ゲームかぁぁぁっ!!( ゜д゜ )」
そんなツッコミが空にこだましたその瞬間──
屋上の空気がふっと変わった。
空気がぴしっと張り詰める。
耳に届く音がスローモーションみたいに遠のいていった。
旧校舎の屋根の上。
そこに、黒いもやのようなものがふわりと現れた。
「うわぁ……で、でた……!?」
「うん、あれが“シャドウ”だよ。人の心の弱さに寄ってきて、街を不安で満たす厄介なやつ!」
ぼやけた影のような存在は、音もなくじわじわと形を変えながら、
屋上に降り立とうとしていた。
まだ戦いなんてしたことがないほのかは、足がちょっとすくんでしまう。
「……ね、ねぇルゥ……私、戦い方なんて知らないよ……!」
「だいじょーぶ!キミには魔法がある!」
「いや、魔法使ったことないし!!」
「心で“光を放て”って思えば勝手に出るから!」
「そんなアバウトな!!」
パニックになりかけたほのかの足元で、光の輪が再び輝いた。
杖のような、けれど指先にすっぽり収まる小さなロッドが手の中に現れる。
金色に淡く輝くその光は、ほのかを少しだけ勇気づけてくれた。
「……大丈夫……できる……はず!」
そうつぶやいて一歩踏み出したその瞬間──
ガッ
足元の段差に引っかかって、見事にコケた。
「ひゃああああああああっ!!」
「ええええええええええっ!?」
派手に転んでしまったほのかのロッドが、偶然シャドウに向かって振り下ろされる。
──バシュッッッ!!
まばゆい光が闇を切り裂き、シャドウは一瞬にして霧散した。
「……え?」
「……え??」
戦い、まさかの一撃終了。
「ま、まさか転んで勝つとは思わなかった……」
「……えへへ( ´꒳`)……私、天才かもしれない……」
「いやそれ、ドジがうっかり最強パターン!!」
ルゥが思わずツッコむ横で、ほのかは胸に手を当てた。
初めての戦いは、恐怖とドジと、ちょっぴりの勇気で終わったけれど──
心の奥が、ほんのりあたたかい。
「……やれた、私……!」
夜空を見上げる。
月はさっきよりも、少しだけ輝いて見えた。




