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新時代の礎 ~土地改革と産業の胎動~

西暦1895年の秋。カブールの空気には、戦火の残り香と同時に、変革の熱が混じっていた。


王政廃止から三ヶ月。アズィズ・ザミーン・シャーが議長を務める国家救済評議会は、速やかに国家再建へと舵を切っていた。


「軍のための改革ではない。民が食えなければ、銃を握らせても国家は立たぬ」


そう語ったアズィズは、まず最初に“土”へ目を向けた。


 


■土地の革命


王政時代、アフガニスタンの肥沃な土地の大半は、王族と貴族、それに宗教階級であるウラマーたちに握られていた。多くの農民は小作人として年貢を納めるか、借地にすがりつく生活を強いられていた。


「土地は耕す者のものであるべきだ」


アズィズの信念のもと、国家救済評議会は「土地整理令第壱号」を発布。宗教階級や逃亡した貴族の未登記地を没収し、再分配を開始した。


まず、革命に参加した兵士や義勇兵に5ファールサハ(約20エーカー)の土地を無償で配布。さらに、村落単位で共同耕作を奨励し、若年層には農業学校設立による指導を行った。


地方の一部では「ザミーン・シャーの土地は血ではなく鍬で得よ」と語られるようになり、農民たちは初めて土地に対する実感を得た。


 


■産業政策の胎動


だが、農だけでは国は栄えぬ。アズィズの次なる狙いは、鉱業と手工業を土台に据えた初期的工業化だった。


カブール郊外、旧軍営の一角に設けられた工廠では、兵器修理の傍ら、鉄器・銅器の加工、さらに織物の自営工場が稼働を始めていた。


「我々は“機械に働かせる”ことを始めねばならない」


そう語る彼の元には、インド、ブハラ、さらには密かにペルシャ経由で呼ばれた技師や技術者が集まり始めた。特にパルワーン出身の青年職人ムーサ・ユヌースは、後に“アフガニスタンのカーネギー”と称されることになる。


政府は国内初の水力発電による製粉工場と、蒸気駆動による織物機械の導入を進めた。すべては手探りだったが、アズィズの先導により「自立する経済」への道が開かれつつあった。


 


■独自兵器の開発:戦車への第一歩


その一方で、アズィズは国家の防衛も忘れてはいなかった。


「近代国家の軍は、兵士の勇気だけでなく技術で支えられねばならぬ」


自走砲「アサド」は前線での機動射撃に一定の成果を収めていたが、問題も多かった。反動吸収装置の不足、車体の不安定さ、機関部の故障率。だがそのすべてが、次なる進化を促す。


「……砲塔を搭載した装甲車を作れ。正面装甲は、ライフル弾程度なら耐えるものを」


設計班には、シャーから依頼された設計書を参考に、粗鋼を用いた車体の試作が命じられた。動力は単気筒のガソリンエンジン、変速は手動、速度は歩兵並み——それでも、敵陣に突進しながら砲撃を加えられる車両という概念は、兵たちの間に“鉄の象”として恐れと期待をもって語られるようになる。


「この機械が完成すれば、部族間紛争は終わる。列強の干渉も退けられるだろう」


 


■アマーヌッラーと国家理念


アズィズの横には常にアマーヌッラー・ハーンがいた。国の象徴として即位した若き王は、軍政の中心には立たないものの、国民からの信頼を受け、しばしば地方訪問を行っていた。


「我らの国は、過去ではなく未来を向いている。剣ではなく、知と技によって守られねばならない」


若き王の言葉に民は喝采を送り、アズィズもまたその後ろ盾によって政権の正当性を高めていた。


 


■終わりに


1896年3月、国家救済評議会は土地改革第一段階の完了を宣言。新たに登記された農地は3000区画、登録農民数は約11万に達した。また、産業局の報告では、製粉工場が月産20トンの小麦粉を供給し、織物工房が南部部族へ制服の供給を始めたという。


民はまだ貧しい。戦争の傷は深く、列強の干渉も消えてはいない。それでも。


――革命は、ただ王を退けることではない。民に未来を与えることだ。


そう信じるアズィズの目は、次なるステージを見据えていた。

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― 新着の感想 ―
恐らくですが、絶対王制廃止の間違いですかね。 王制廃止ではアマーヌッラー・ハーンが即位している事と矛盾しています。此処は立憲君主制への移行とでもした方が分かりやすいです。
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