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第74話 アリシア、ストレスのはけ口にされる?

 結局、わたしとスレッドリーが湖の向こう岸にたどり着くことはなかった。

 湖の……たぶん真ん中くらいまで歩いたところで、引き返さなければいけない時間になってしまったからね。


 帰りはローラーシューズでバビューン。

 進むのには時間がかかるのに、引き返すのって一瞬だよね。


 上を見ても、下を見ても空が広がっていて、世界にわたしたち2人しかいないみたいで、なんだかすごく穏やかな気持ちになれたような気がする。

 こんな時間がずっと続けば良いのにって、そんなことあるわけないのにね。



 というわけで、集合時間厳守。

 わたしとスレッドリーが時間通りに集合場所に到着すると、すでにエヴァちゃんとステファンは待っていてくれたみたいだった。


「2人とも聞き込み調査お疲れ様! 早速だけど結果を教えてちょうだいな」


 後半戦のスレッドリーの立ち回りにどう影響を及ぼすのかを確認しなきゃ。


≪アリシア、その前に少し作戦会議の時間をください≫


 エヴァちゃんがそう宣言し、スレッドリーとステファンをその場に残し、わたしだけを少し離れたところに連れだしてきた。


 何よ。あー、その顔。お説教? 良いよ、聴くよ。



≪アリシアはそれで良いのですか?≫


 何が、とは尋ねてこない。


 良いよ。

 って、こればっかりはわたしが決めることでもないし。スレッドリーが決めたことだから、わたしはそれを尊重するだけだよ。


≪私はそうは思いません≫


 エヴァちゃんがどう思おうと、わたしがどう思おうと、スレッドリーが自分で進むと決めた道に誰かが口出しする権利はないんじゃないかな。それにね、たぶんだけどこの国はスレッドリーのことを必要としているんだと思うよ。


≪それです。私が気に入らないのは≫ 


 気に入るって……。

 最近、ホント人間みたいなことを言うよね。

 まあいいや。何が気に入らないの? 言ってみてよ。


≪ドリーちゃんはアリシアのことを必要とし、アリシアもまたドリーちゃんのことを必要としています。これに間違いはありませんね?≫


 まあ、現時点ではそうなのかなー?

 そうね、スレッドリーがわたしのことを必要としているなら、いくらでも手を貸すつもりだよ。ストラルド陛下にもお願いされているし。


≪必要とされているから手を貸すのですか? アリシア自身が『そうしたいから』という気持ちを隠そうとしても私には隠せませんよ≫


 そこは……良いじゃない。

 求められたら助けたくなっちゃうし、今のスレッドリーは気持ちばっかり先行しているから危なっかしくて放っておけないし。そういう意味ではわたしが『そうしたい』っていうのもそうなのかもね?


≪ではアリシアの『そうしたい』という気持ちはどこまで続きますか? 求められるならば一生続きますか? それとも一定の期間が過ぎたら自動的に終わるような時限的なものですか?≫


 そんなこと今訊かれてもわかんないよ。

 軽々しく『一生』なんて答えられないし。だからって別に期限を定めているわけではないし?


≪ではなぜ、ドリーちゃんとの関係がいずれ終わるようなことをほのめかすのですか?≫


 それは……たぶんそんな予感がするから、かな……。

 スレッドリーは名前も知らない、顔も見たこともない国民すべてを救おうとしているけれど、わたしにそこまでの気持ちはないし。きっとそういう想いのズレがどこかで大きなすれ違いになるだろうなって思っただけ。


≪ただの勘ですか?≫


 そうね、勘かな。


≪根拠がないのなら、もう二度とそのことを考えないでください≫


 そんな無茶な……。


≪求められればどこまでも助ける。それだけで良いじゃないですか。求められなくなった時のことを今から考えて、そんな顔をしないでください≫


 ……そんな顔?

 わたし、そんな変な顔してる? 今どんな顔をしているのかな?


≪表面に貼り付けられただけの笑顔が見るに堪えません……≫


 そんなにひどい……?

 うまく笑えていると思っていたのに、ちょっとショック……。


≪私のアリシアがそんな顔をしていると思うと……ドリーちゃんを殴りたくなります≫


 なんで⁉


≪アリシアにそんな顔をさせたのはドリーちゃんだからです≫


 わたしが勝手に想像して、勝手に落ち込んでいるだけなのに……。


≪ドリーちゃんの押しが弱いせいです。今夜たっぷりと説教をすることにします≫


 いや……理不尽なことで怒るのはやめてあげて?

 これからお兄さんとの大事な話し合いなんだし、夜にはへとへとだと思うの。


≪私には関係ありません。この国がどうなろうと、スミナルド陛下が暗殺されようと、私にとっては些末なことなのです。アリシアをこんな顔にさせるくらいなら、今すぐ国を滅ぼしますが、それでアリシアは笑顔になってくれますか?≫


 いや……それは……ならないと思うけど。


≪そうでしょうね。ドリーちゃんが望んでいない結果ですし、ドリーちゃんが悲しめばアリシアも悲しみます。つまりそういうことなのですよ≫


 なにさ。回りくどい言い方するじゃんか……。

 

≪ドリーちゃんの望みを叶え続ければ、アリシアが笑顔で居続けられる。私が望むのはそういった未来なのです。ですから、2人にはずっと一緒にいてほしいのです≫


 結論のところが飛躍している気がするんだけどね……。

 まあ、エヴァちゃんの気持ちはわかったよ。


≪ドリーちゃんがいつまでも危なっかしくて手を貸したくなるような、そんな人物でいられるように影ながらサポートしますのでご安心ください≫


 それ、安心しても良いやつかな……?


≪ですが、これだけは言わせてください≫


 ここまで言いたい放題だったと思うけれど……まあ聞こうか?


≪アリシアの子を産むのは私です。それだけはドリーちゃんに譲りませんからね≫


 わたしの子って……。

 わたしの性別は女、だけど……?


≪そんなものは『創作』スキルの前には些末なことです≫


 ミィちゃんにガッツリ怒られろ!

 ミィちゃんはそういうのにめっちゃ厳しいからね?


≪愛のためになら、性転換することには寛容な女神様です≫


 そういえばそうだったわ……。

 ナタヌを男の子にしようとしたり……。

 嫌だよ。

 わたしは今のわたしが気に入っているからね? 男にはなりたくない!


≪ドリーちゃんのためにですか? それだとナタヌさんが悲しみますよ≫


 その言い方は……ずるくない?

 わたしには2人とも大切だから……。


≪その時が来たら、私にお任せください≫


 何か……すごく嫌。


≪言いたいことは言えたのですっきりしました。さて、作戦行動に戻りましょう≫


 すっきりって……。

 わたしゃ、エヴァちゃんのストレスのはけ口か……。


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