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第49話 アリシア、ロイスと話をする

「わたしと今すぐ逃げよう! 世界の果てまで愛の逃避行を!」


 ロイスの手を取り、椅子から立ち上がらせる。急がないと追っ手が来てしまう!


「アリシア……急にどうしたのよ?」


 キョトンとした顔でこちらを見ている。こんな無垢でかわいいロイスの表情がもう見られなくなっちゃうなんて嫌だよ! 絶対守りたいっ!


「結婚初夜なんて反対よ! このままここにいたらロイスが穢れてしまうもの!」


「穢れって……。私だってね、まったく怖くないと言ったらウソになるけれど……嫌……というわけではないのよ?」


 ロイスの耳が真っ赤に染まる。


「まさかそういうことに興味津々なの? エロロイス……エロイス?」


「誰がエロイスよ! 私ももう大人だし、結婚もしているのよ。これが普通なの。この世界の常識に沿って……ごめんなさい」


 ロイスはハッとしたような表情をした後、わたしに向かって頭を下げる。


「アリシアはまだ15歳になった心の整理がついていないわよね……」


「あーうん、そうね……。きっとわたしの精神年齢が15歳になれば、こんなふうにエッチなことに対する嫌悪感がなくなるのかもしれない……のかな? んー、だから間違っているのはわたしのほうってことよね……。なんかごめんなさい……」


 わたしも頭を下げる。

 ロイスは年齢的に大人なんだから、今日大人になるのもおかしくない……でもやだな……。どうしよう。わたし、どうしたらいいの……。


「アリシア~! ようやく来たか! 待ちくたびれたぞ、遅いぞ~!」


 スレッドリーが会場の入り口の扉からひょいと顔を出していた。わたしに会えたのがうれしいのか、バカみたいに明るい表情を見せていた。


「殿下、いけません! 今はシリアスな場面とお見受けしました。絶対に邪魔してはなりません!」


 後ろからラッシュさんの声。

 わたしとロイスの2人きりにするために、スレッドリーを止めようとしてくれていたのね。さすが聖騎士にしてお目付け役。その努力は受け取りました……。


「パーティーにちっとも顔を見せないから心配していたんだぞ」


 まったく空気を読むことなく、笑顔のまま近づいてくるスレッドリー。

 まさかあなたが口にしていた食べ物や飲み物をわたしが全部準備していたから、パーティーに出席できなかった、なんてつゆほども思わないのでしょうね。なんかもう、ここまで底抜けにおバカさんだと一周回って愛らしく思えてくるね。ちょっとだけだけどね。


「さきほどはお祝いのお言葉、ありがとうございました」


 ロイスが立ち上がり、深々と頭を下げて礼を尽くす。


「あれは本当の気持ちを言葉にしただけだ。同年代の結婚はとても励みになる」


 そう言ってから、スレッドリーがチラリとこちらを見てくる。

 何の視線かな? わたしには一切関係ありませんけど? 結婚披露パーティーにも出席していませんし、スレッドリー様のありがたーい祝辞もお聞きしていませんからね。


「ねぇ殿下。わたしたち、女同士のプライベートな会話を楽しんでおりますのよ。失礼ですけど、殿方ははずしてくださらない?」


 訳:女同士の会話に男が入ってくるな。邪魔だからとっとと失せろ。


「おお、そうかそうか。積もる話もあるだろう。邪魔をして悪かったな。つい、アリシアのことを見かけてうれしくなって声をかけてしまっただけなのだ」


 そう言ってスレッドリーは無邪気に笑う。


「そういうところがホントキライよ……」


 なんでも相手にストレートに感情をぶつければいいってわけじゃないんだからねっ!

 ロイスは笑いを堪えられなくなったのか、顔を背けて肩を震わせていた。


「なによ……」


「なんでもないわ……。あまりにもお似合いで笑ってしまっただけよ」


「誰がこんなヤツと! 弱くて無神経で全部キライ!」


「俺はダメか……そうか……邪魔したな……」


 スレッドリーが肩を落として立ち去っていく。


「殿下!」


 ロイスがスレッドリーを呼び止めるように声をかける。


「私から見ると、十分脈はありますからがんばってください!」


「ちょっとロイス! 適当なこと言って煽らないで!」


 脈なんてなしなしのなしなんだからね!

 変に期待を持たせるようなことを言ったりしたら――。


「本当か! 脈はあるか! ロイス嬢が言うなら間違いないな。よ~し、アリシアと結婚するぞ!」


 うれしそうに熱を帯びた視線を送ってくる。わたしが視線を外すと、スキップをしながら会場から出て行った。


「ロイス! ああいうのはホント困るんだけど! アイツめちゃくちゃ期待してた……」


 また猛アタックされるよ……。

 このあと大使として一緒に行動しないといけないのよ? 気が重すぎる……。


「実際、殿下のこと気になってるでしょ? あれだけアプローチされて悪い気はしていない。そうよね?」


「それは……そうだけどさ……。まだわかんないよ……」


「すぐに答えを出さなくてもいいじゃないの。幸いにも、アリシアには家の事情はないのだし、殿下も返事を待ってくださるでしょうし、心の成長が追いつくまで、時間をかけてもいいのよ」


 ロイスに握られた手が温かかった。

 心の成長が追いつくまで、か。わたし、大人になれるのかな……。


「私の夢はね、アリシアの赤ちゃんを抱っこすることよ」


「え……赤ちゃんって……そんなの想像もできないよ」


「その子がね、少し大きくなったらローラーシューズの使い方を教えてあげるわ。なんなら私、王宮に勤めて、お世話係をしましょうか」


「ねぇ、それって……」


 完全にわたしとスレッドリーの子どもをイメージしてますよね……。

 もしわたしに子どもができるとしたら、どんな子になるんだろう。男の子かな。女の子かな。髪は金髪? それとも銀髪? 混じったらどんな色なのかな? 男の子ならスレッドリーみたいに背が高くなるといいな。女の子だったら……友だち母娘って言われるくらいいっつも一緒に仲良く過ごしたいかも。って、わたしは何を想像してるの⁉ ないから、ないからね、絶対ないからね⁉


「あー、もうこの話おしまい! もっと違う話をしようよ! ほら、ガーランドでの思い出話とか!」


「そう? わたしは今とっても楽しいわよ」


 ロイスが口元を押さえることなく大笑いする。わたしもちょっと楽しかったかも……とは言わない。だって恥ずかしいものは恥ずかしいの!


 その後話題を何度も変えながら、わたしたちは夜更けまで2人きりで昔話に花を咲かせるのだった。



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第七章 アリシアと女神・スークル 編 ~完~



第八章 アリシアと王子・スレッドリー 編 へ続く


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ここまでお読みいただきありがとうございました。


ロイスの結婚式も無事終わりました。

アリシアはしばらく王宮でのあれこれに巻き込まれつつも、謎の思念体の国との対話を行うべく、パストルラン王国の大使として再び北の辺境・ダーマスへの旅立つことになります。

半ば強引に大使として一緒についてくることが決まったスレッドリー。2人の関係はどうなっていくのでしょうか。


アリシアの心の成長にも注目してあげてください。


それでは引き続き、第八章も読んでいただければうれしいです。

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― 新着の感想 ―
七章お疲れ様でした。続きも楽しみにしてます。 みんな大人になっていくんですねぇ。個人的にはスレッドリー君応援してます。 帰ってきてからまだソフィーさんと再会してないのがちょっと気になってます。
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