業務スーパー vs 貴族令嬢
貴族令嬢は実在する。
もちろん一般には公表されていないが、賢明なる小説家になろうユーザーともなれば日々投稿される作品に貴族令嬢の物語がやけに多いとお気づきだろう。実は全て実話であり、それぞれ本物の貴族令嬢たちが自らの体験を書き記し、下々にその絢爛なる日々を垣間見せて下さっているのだ。
ざまあ系が多いのは、貴族社会の苦労を現わしている。
一流の貴族はアウトプットに留まらず、下々の生活をインプットしていかねばならない。老執事にそう諭されたとある底辺貴族令嬢が訪れたのは、氷結の魔法で満たされた魔導士の館、業務スーパー。金髪ロールの令嬢は老執事に問う。
「爺や、館の半分が氷漬けではないか」
「お嬢さま、それらは冷凍食品でございます」
見れば多くの食材が、ひと袋1kg未満の冷凍食品で、値段も安くほとんど1,000円以下とリーゾナブル。特にブラジル産鶏もも正肉2kg1,000円は破格といえよう。余談だが世界的に鶏肉はヘルシーなムネ肉の需要が高く、日本人が好むもも肉は安価で輸入できるのだ。
「爺や、ブラジル産は危ないと聞くが」
「お嬢さま、それは情弱と言えましょう」
ブラジルの主要産業は鶏肉である。その輸出量は世界最大であり、そこに怪しい成長剤や危険な薬物を使用すれば、たちまち国が傾いてしまう。味は国産に敵わないかもしれないが、安全性はブラジル国家が保証してくれている。それでも危険と言い張る人と、日本の魚介類は放射能まみれと言い張る人は同レベルと言えよう。
根拠なく人を惑わす妄言を吐く者は罪人である
そして、貴族令嬢の存在を疑う者も罪人である
罪のない者だけが石を投げよ、痛ッ!本当に投げないでよ!
貴族令嬢は館の冷凍食品をつぶさに観察した。骨取りされたカレイの切り身やサバは保存も効いて独り身にはさぞかし便利だろう。冷凍ごぼうのささがきなど金平ごぼうを作るときは重宝するはずだ。うまく使えば我が城の料理人も少しは楽が出来よう。
しかし貴族令嬢の目を引いたのは、大好物の激安フライドポテトと冷凍唐揚げ……ではなく、意外にも生の麺類だった。
「爺や! これは夢かまことか! 生麺の値段を見よ!」
「極太生麺ひと袋18円、今宵はこれを頂きましょう」
店……いや、館によって値段や製造元はまちまちだが、麺類の安さは目を見張るものがある。関西圏だと姫路の株式会社オースターフーズ・太焼きそば (150g) は爺やイチオシの優れものである。ふたりは買い物を済ませ、ホクホク顔で城に帰るのだった。
◇◇◇
「爺や、業務スーパーの食材で作る今宵のディナーは?」
「お嬢さまの大好物、あんかけ揚げソバでございます」
「揚げソバか……油がはねて作るのは面倒じゃ……」
「ご安心を、猿……いや、お嬢さまでも簡単に作れます」
「いま何か言ったか」
「いえ、サルバドール・ダリも好んだ料理法です」
「そうかそうか、教えてたもれ、ホーホホホホ!」
ダリの名作「記憶の固執」に揚げソバが描かれているとは寡聞にして存じないが、貴族の調理場ともなれば魔法の小道具は用意されている。解凍魔法の触媒、ノンフライヤーである。
生麺なら解凍不要なので直接麺を入れて数分放置、茶色く焦げてきたら適当に裏返し再び放置。難しいことは何もない、カリッカリの揚げ麺が簡単に出来上がる。油も使わずヘルシーで後片づけも不要。
ついでに唐揚げも冷凍のままノンフライヤーに投入。10分ちょっと放置すればアチアチの唐揚げが完成。すこし冷やして揚げソバの具に使用、スライスすれば見栄えもいい。ほっかほっか亭のとりめし弁当も実態は唐揚げを切って乗せてるだけなのだ。
「爺や、揚げたてをひとつ寄こすがよい、ぱく! 」
「あ、これ、はしたない! 」
ジュワ。
「あっちいいいいいいいいいいいい!」
「お嬢さまあああああああああああ!」
あんかけは片栗粉大さじ2杯程度、水は300cc、調味料は業務スーパーにこだわるなら「金の中華だし」大さじ1杯、まあそこはお好きな中華だしを使えばよろしい。味が薄ければ後から調整すればいい、料理下手は良かれと味を足し過ぎて取り返しがつかなくなりがち。料理の基本は薄味。
フライパンで適当な野菜とあんかけを、とろみがつくまで軽く煮込んだら完成。
「いただきましてよ、ホーホホホホ!」
「いただきますぞ、お嬢さま」
がりがり、ざくざく、ばっきばき。クリスピーな麺が口の中で暴れん坊将軍。しかし余の顔を忘れたかと言わんばかりに出汁の利いたあんが舌の渇きを成敗する。時間が経ち、あんが染みてしっとりした麺も悪くない、そう思う令嬢であった。
画面に映る貴族の城。
流れる北島三郎の唄。
次回、「ラ・ムー vs 貴族令嬢」乞うご期待あれ!
次回予告は嘘です、やりません