僕の姉さま
オフィーリアの弟はアンドリューという。
僕の体が弱かった理由は王都の空気汚染が原因で領地で暮らすことにより驚くほど健康を取り戻した。たまに咳をすることはあれど、顔色も良くなり剣術を習い始めた。引きこもり? だった王都での生活は本を読んでいることが多く、自分で言うのもおかしいけれど姉オフィーリアの授業についていけるほど優秀。することがなかったのだからせめて勉強くらいはできないとね。
姉さまは王都で暮らしていたときは普通に貴族令嬢らしい生活を楽しんでいた。お茶会に出席したり、街で買い物をしたりと僕が出来ない経験をしている自分を責めている節もあったけど。僕が療養をするとなったとき、姉さまと離れて暮らさなくてはいけなくなる。そう思っていた。
『姉さまも一緒に領地へ来てくれるの?』
『えぇ、行くわよ。リューがいないと寂しいもの。一緒に領地へ行って健康を取り戻しましょうね。領地は空気もいいし、食べ物もおいしいもの! 本邸のみんなも喜んで迎えてくれるわよ』
と乗り気だった。姉さまがあっさり行く。と言ったのは嬉しかったけれど、何か心境の変化があったのではなかろうか? と思っていた。いつかそのときが来たら聞いてみよう。領地でももちろん勉強はしなくてはならなくて家庭教師をつけてくれた。姉さまはすぐにさぼろうとするから僕は見張りを兼ねている。
姉さまは2歳上だから先に学園に行くことになる。そのときは僕も一緒に王都へ戻ろうと身体を鍛えている。ある日先生が言ったことに対して姉さまが変な返事をした。
『Aクラスで下位にいるかBクラスで上位になるかどっちがいいと思う?』
『もう少し努力してAクラスの下でも上にいた方がいいと思う』
と僕は答えた。BクラスよりAクラスの方がいいに決まっているだろう……雲泥の差だぞ……。それにもっとまじめに取り組めば絶対解けるのに、途中で考えることを放棄する節がある。
『分かった、じゃあ頑張る』
素直なところは姉さまの魅力の一つなんだろう。先生に至っては僕を放っておいて姉さまの勉強に付きあっている……いいんだけれど、この教先生距離感がやけに近くないか? 先生は子爵家の三男でまだ若い。父さまが領地での家庭教師を探していたときに紹介された優秀な男で、将来は植物学者になりたいのだそう。
三年契約で姉さまが学園に入学するまでの付き合いになる。なぜここに来たかと言うと、うちの領地にしかない植物っていうのがあるそうで、授業のない時間は部屋に閉じ籠り研究をずっとしている。変わった男だけど、教えるのは上手いと思う。
そんな領地での生活はゆったりとしていて、二人でピクニックをしたりもしている。
姉さまは周りの目を気にしない。タイツを脱ぎ素足になり川に足を入れ始める……僕も男なんだけど……ってスカートまくりすぎだろ! 恥ずかしくなり露出狂と言ってしまった……
姉さまのそんな姿を見て顔を赤らめたのは内緒。
それからさらに半年が経った。僕も程よく筋肉がついてきた(と思う)王都の建築ラッシュはまだまだ続いていて埃が気になるけれど体を鍛えることにより、変化があったのは確かだ。ひどいときはハンカチで鼻や口を押さえていればなんとかなるだろう……
姉さまはミルクが好きで朝も昼もミルクを飲む。ミルクジェラートは特にお気に入りで良く食べている。ミルク効果なのかお互い身長も伸びたし、姉さまは体つきも女性らしくなってきた。
「あっ。このブラウスボタンがキツい……」
「お嬢様、またお胸が成長されたようですねー」
ぶっ。飲んでいたスープを吐きそうになった……食事中に言うなよ……!
「あら、また大きくなったの? 成長期って感じね。制服の胸回りもう少しサイズを大きくした方がよさそうね」
母さままで……
「僕、いるんだけど?」
いい加減無視して話すのをやめてほしい。僕という男の目もあるんだけど……
「リューも身長が伸びたわね」
「取ってつけたかのように褒めていただきありがとうございます」
母さまが領地に来ることを提案してくれたんだよね。母さまものんびりとしたところがあるから王都はごみごみしていると言っていた。
「えぇー! 本心よ。領地にきて良かったって思っているのよ。あのか弱かったリューがこんなに元気になってどれだけ嬉しいか……」
僕だって元気になれたのは嬉しい。
「もうすぐでリューに身長抜かされちゃうね。ミルクをもっと飲まないと……」
またその話に戻るの?
「あのさ、姉さまは今成長期でしょう? 僕も成長期なんだよね……僕は男だからすぐに姉さまの身長を追い越す自信がある。節々が痛いから伸びる前のサインだって先生も言っていたよ」
「お父様も身長が高いからリューもそうなるの? 見上げて話すと首が痛くなるのよね」
最近節々が痛い。痛くて眠れない事があって先生に聞いたら身長が伸びる前のサインだと聞いた。もっと身体を鍛えようと思った。
次の日母さまは王都へと向かうことになった。行きたくないとか面倒だとか言っていたけれど元々予定されていた。
「お土産買ってきてね」
姉さまと二人で見送った。
「ねぇ、先生に聞いたんだけど今日は、花まつりがあるんだって」
「どこで?」
「ステンドグラスのきれいな町あったでしょう?」
王都から領地へ行く途中に寄った町だ。馬車で半日もかからないはずだ。
「うん、姉さまいつか行こうって言ってくれたよね」
「そうなの! 行かない? 先生も付き合ってくれるって言うし、お母様もいいって言ってくれたの」
「うん、行く」
「……念のため、薬も持って行ってね」
気を遣わせてしまった……
「そうだね、持って行くよ」
ほっとした顔をする姉さま。大丈夫? が口癖の姉さまだったけど、少しずつ体調が良くなってきたときに言われた事があって、心配されすぎて冷たくあしらったことがあり、それから『大丈夫?』と言わなくなった。心配してくれる人がいるとは幸せな事なのに……。
「うん、じゃあ行こっか! 先生呼んでくるね」
……先生を呼びに? いや、ダメだろ! 前呼びに行った時に先生が寝ぼけて姉さまをベッドに引き込んだのを忘れたのか! 先生は寝ぼけていたと言い、土下座をして姉さまは『よくある事よね。気にしないで』なんて言ったけどあるわけない! 令嬢が起こしに行くなんてあり得ないことなんだけど!
「待った! 僕が行くから」
案の定ベッドに引き込まれた。姉さまには絶対に先生の部屋には入るな。ときつく言っておこう!