【番外編】アンドリュー
療養後は王都に戻っても身体に不調はなかった。一週間に一度医者に見せていたけれど、二週間に一度、一ヶ月、三ヶ月、半年、一年……
「坊ちゃん、特に不調は見られないようですな。何かあったらすぐに相談してください。いいですね?」
「はい。ありがとうございます」
「無理だけはしないように。疲れたら休む、よく眠るのが一番ですぞ。坊ちゃんのお姉さんのようによく食べると健康になりますよ。見習うように」
薬も飲まなくて良くなったし、夜も咳き込むことなく眠れるようになった。先生の怪しいお茶の影響もあるかもしれないな……姉さまや母さまにも何かしらのお茶を作っていたし、研究者とは器用なものだ。それにしてもよく食べる姉さまを見習えって姉さまは人の目を気にせず食べてばかりなんだな。
先生は勉強を教えるために雇われたはずなのに最近は僕たちの遊び相手になりつつある。兄ができたようなそんな感じ。先生は王都と領地を行き来し忙しくも楽しそうにしている。先生のおかげで我が家の儲けも出ているし、父さまは自由にさせている。っていや自由にしすぎだろ……。研究費のおねだりも遠慮がなくなっている。家族が増えたと思えばいいか。
「アンドリュー、おまえしか頼りになるものはいないんだ、うちを頼んだぞー」
ある日父さまが言った。しばらくして姉さまの婚約が決まった。ぼんやりした姉さまにまともそうな人との縁談がまとまって良かった。と思った。しかも姉さまがステキな町だと連呼するロワール領の嫡男ジルベルト殿。
ジルベルト義兄に交流を深めよう。と言われ話をしていると、拗らせ系の執着系だと思った。しかし姉さまのことを一途に好きだったらしいから“返品不可”とだけ言っておいた。抜けている姉さまにはちょうどいいのかも。
どうやらロワール領は綺麗なだけでなく騎士の集まる町だと聞き、そりゃ安心だ。と思った。うちの領地とも近いし街道は整備が整いだしたから今まで半日掛かっていた時間は短縮されるだろう。何かあったらすぐに帰ってこられる距離だ。
僕が学園に入る年になった。入学準備をするために町へ行き屋敷へ戻ると、ジルベルト義兄とルシアン様が僕を待っていた。
「どうしたんですか? 珍しいですね二人揃って」
フローリア様はいない。
「アンドリューは今年から学園に入るから面倒なことに巻き込まれないように話をしにきた」
ん? わざわざ?
「それはどうも?」
なんの話だろう。
「アンドリュー、よく聞けよ?」
ルシアン様は侯爵家の嫡男だから、面倒事の回避術でも教えてくれるのか?
「はい」
「オフィーリアは癒し系令嬢と言われ人気がある。フローリアや僕と親くしているから虐めなどに遭わなかった。それにAクラスにはそんな卑怯な真似をするものは存在しない。恥だからな」
Aクラスに入るのは名誉なことだから虐めなんてするバカは相応しくない。
「……なるほど。二年生ではAクラスに入れということですね」
「それもあるがアンドリューは男だから自分の身は自分で守れ。先生は今領地に籠っているんだろ? 剣術の相手はいるのか? 僕が稽古をつけてやるぞ」
ジルベルト義兄が? そこまで強くないと自分の身が守れない? どう言うこと? 学園ってそんなに物騒なのか?
「え、それはちょっと……」
「アンドリュー、おまえはオフィーリアの弟なんだぞ。フローリアや僕がバッグに付いていると思われる。はっきり言う! 令嬢達のアタックはすさまじいぞ。早く婚約者を作った方がいい。しかしその婚約者を守れる男じゃないと捨てられるぞ? おまえは頭がいいからわかるだろう?」
令嬢達から嫌がらせをされるかもしれないから守ってやれ。ってことか。ジルベルト義兄のように決闘もあるってことか……無理。
「しばらくは僕たちと一緒にランチを摂ろう。次の年からはAクラスになるから、問題はないだろう。これはテスト範囲をまとめたものだからアンドリューにやるよ。オフィーリアもこれでAクラスになったんだからアンドリューなら目を通すだけでいいだろう」
「意外と面倒見がいいんですね」
ルシアン様がまとめたノートは、皆喉から手を出して欲しがりそうな丸秘ノートだ。
「そりゃジルベルトとオフィーリアの弟だからな。アンドリューの成績に関しては心配はしてないんだが、変な令嬢には引っかかって欲しくない」
「いまさらですが姉がお世話になっています。僕は僕ですなんとかしますよ」
ノートはお言葉に甘えて有り難く頂戴する。
「そうか? でもたまにはランチを一緒にしよう。学園生活を過ごせるのは僕たちが卒業するまでだからな。オフィーリアもフローリアも喜ぶ」
たまになら良いですよ。と答えた。あまり私生活に口出しされたくもないし、姉さまとジルベルト義兄のいちゃいちゃしているところを学園でも見ると思うと疲れる。
その後無事入学して成績は学年で三位だった……一位だと色々言われそうだし、ちょっと手を抜いた。
(ルシアン様から譲り受けたノートはヤバイ! あれを見るだけで一位になれる)ま、こんなもんだろ。
「リュー! 凄いね!」
姉さまが抱きついてきた。
「おい! 離れろ! 学園だぞ」
べりっと剥がしてジルベルト義兄にパスした。
「なんでよ! いいじゃないの。家族なんだし」
目立つんだよ、姉様たちは! いかん。このままでは遠巻きにされてぼっちコースだ。
「いいじゃないか。オフィーリアがこんなに喜んでいるんだぞ」
嬉しそうに姉さまを抱きながらそんなことを言っても、説得力がない。
「おいアンドリュー、手を抜いたな?」
ルシアン様にはバレていた!
「少し……」
「さすが賢いな。一位は財務大臣の子息だ」
こそっと耳打ちされた。面倒なことになりそうだった! 偶然だけどセーフ!!
「ちなみに二位は侯爵家の子息で騎士団長の嫡男」
おっと……
その後僕はなぜか騎士団長の子息に目をつけられ仲良く? なり、双子の妹を押し付けられ婚約することになった……この双子なぜか僕にべったりなんだが悪い気はしない……
「カレンさん、リューのことお願いしますね。我が弟ながら本当にいい子なの!」
やめろ。と言ってもやめないだろう。仲良くしてくれるのなら問題ないか。
「はい。オフィーリアお義姉様! こちらこそよろしくお願いしますわ!」
カレンははっきりした性格で、父と母とも仲良くしてくれて田舎の領地にも喜んでついてくる子だった。積極的すぎるところはあるけれど、僕にはそれくらいがいいのかもしれない。
【番外編 完】
番外編もこれにて【完】となります。
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