【番外編】フローリアの兄・ステファン
「いい結婚式だったな」
「えぇ。オフィーリアキレイだったわ」
ロワール領での結婚式にフローリアの兄ステファンも参列していた。
「領民達の歓迎が凄かったな」
「オフィーリアはきっと領民に好かれるわね。亡くなったジルのお母様にも感じが似ているところがあるもの。優しくて思いやりのあるところ」
「亡き夫人は美しい方で社交界で人気があったな。あまり姿を見せないものだから幻の貴婦人と呼ばれていた。懐かしいな」
何度か会ったことがあるが、出しゃばる事なく控えめで優しく柔らかい雰囲気の方だった。
「不慮の事故でジルのお母様が亡くなられて悲しみが続いていたから、領民も嬉しいのでしょうね。ジルがオフィーリアみたいな子と出会えるようにお母様が導いてくれたのかも知れないもの」
あの時の伯爵の落ち込みはすごかった。後妻の話は全て断っていた。それほど夫人を愛していたのだろう。
「ジルベルトはオフィーリア嬢と出会えて良かったな。見てみろあの嬉しそうな顔。あんな顔を見るのは初めてだ」
フローリアの友人ジルベルト・ロワール。ルシアンと親戚で幼い時から仲良くしていた。キレイな顔をした男の子で女の子と間違えられる事も多々あった。それを思うと立派になったなぁ。騎士団にスカウトされる事もあったのに、答えはいつもNOだった。
ロワール領から騎士になり王都に行く人数は国内No. 1で今でも恐ろしいほど騎士の卵が集う場所。国としても下手したら厄介な領地なんだが、刃向かう気はさらさらないようだし喜んで王都に騎士を送り出し引退後はまたロワール領に帰ってくる。領主の人柄だろう。
泥臭い領地かと思えば花やステンドグラスが有名で今やまつりは前夜祭を行うほど人気観光スポットになっている。前夜祭はオフィーリア嬢の歓迎の意味を込めて始めたと言うから、どれだけ歓迎されているのかがよく分かるエピソードとなっている。
「オフィーリアは可愛いだけじゃなくて面白い子だからお互い子供ができたら、私たちの様に遊ばせたいわ。絶対可愛いわね、ジルとオフィーリアの子!」
「そこは婚約させたい。じゃないのか?」
幼い頃から仲良くしていたら親としてはそう思うだろう?
「それは私のエゴになっちゃうもの。そうなればいいとは思うけれど無視はできないもの」
フローリアが親になる事を考えているとは! 成長したなぁ。
「お兄様、オフィーリアを気に入っていたでしょう? 良かったの?」
! オフィーリア嬢はフローリアの友人で気難しいルシアンと友人になり、拗らせ系のジルベルトさえも虜にした。
「そりゃ……悪くないと思ったのは認める。しかし妹の友人としてだ。私と何かあるとなると将来は公爵夫人になるんだ。オフィーリア嬢には負担が大きすぎるだろ。きっと今のような笑顔は見られなくなるだろうな」
ジルベルトと並んで心から嬉しそうに笑っている姿を見てそう思った。公爵夫人なんて並大抵の神経じゃやってられない。表では常に笑顔で裏ではどろっどろっの世界だ。
オフィーリア嬢が私を好いてくれているのならどろどろした部分は全て引き受けても良いが、マナーや付き合いを一から見直しとなる。王族とも付き合わなくてはいけないし他国の王族とも……それはかわいそうだ。負担が大きい。
「お兄様が助けてあげられるでしょう?」
「本人の努力が大きく左右するが、あの子を潰したくない。フローリアもルシアンも分かるだろう?」
ルシアンの家は侯爵家、しかも嫡男だから生まれた時から高位貴族として厳しく育てられている。学年で上位の成績は当たり前の世界だ。敵も味方も多い。フローリアだって幼い時から“孤高の華”なんて二つ名のせいで友人がいなかった。かわいそうだと思っていたが、ようやく学園で友人ができた。
それからのフローリアは楽しそうだったし、友人となったオフィーリア嬢は素直で、よく食べ気取らない性格のつい助けたくなるようなかわいらしい子だったし好感を持つのにそれほど時間はかからなかった。この私が妹の友人なだけの伯爵令嬢の誕生日会や地方の結婚式に出るなどとあり得ない行動だ。
社交界デビューするという誕生日会の日は忙しい合間を縫って少しの間だけ顔を出すことが出来た。行った瞬間に笑ってしまったのだが……ジルベルトの色を纏うオフィーリア嬢にピタッとくっついて離れないジルベルト。
「婚約おめでとう。似合いの二人だ」
心からそう思った。プレゼントは花束とオペラの鑑賞券と食事券。二人で楽しめるようにと最上の席を取った。レストランは今予約が取れない店で有名なシェフがオープンした店。これくらいなら負担にならないだろう。
「わぁっ。いいんですか!」
「勿論。二人で楽しんでおいで」
ジルベルトにも礼を言われた。こいつのこんなに柔らかい表情を見るのは初めてだった。挨拶をし会場を出ようとしたのだが、よからぬ話が耳に入る。なんでもオフィーリア嬢の幼馴染が何かやらかした? ふむ。これは聞き捨てならないな。調べておこう。
それからその幼馴染は騎士団に入団が決定。厳しい隊に入れるようにしておいた。その分早く腕が上がるだろう?私はこう見えて優しいから、それくらいは当然の事。
オフィーリア嬢の花嫁姿をぼーっと見てつい感傷に浸ってしまった。
「お兄様、どうかしましたか? オフィーリアとジルに声をかけにいきましょう」
「そうだな」
ルシアンと三人で声をかけに行く。
「幸せになるんだよ。何かあったらすぐにフローリアに相談するといい、私も力になる」
「いつもありがとうございます。ステファン様!」
今まで見た中で一番キレイな笑顔でそう言ったオフィーリア嬢。その笑顔で私を籠絡するとは……末恐ろしい子だ。動悸が激しい……惜しいことをした。