ライトアップ
町の外れで馬車を降りた。ジルベルト様と手を繋いで歩いている。フローリア様とルシアン様も前夜祭へ行くけれど別行動することになった。お二人は町を見渡せる丘に行くそうです。
「凄いね! キレイだね」
「今年から始めたんだ」
ステンドグラスのランプから優しい光がゆらゆらと揺れて映し出される。本当にロワール領は美しい風景で溢れている。
「本当にキレイ……」
「喜んでくれて良かった。飲み物を買ってくるから休憩しようか。まずはゆっくりと眺めたいよね」
「うん、ありがとう」
少し待ってて。と言われて準備されたベンチに座る。ジルベルト様は領民達に気が付かれ挨拶をしていた。ふふっ。ジルベルト様の良いところだよね。
「お待たせ。なんで笑っているんだい?」
「領民との関係が良好なんだなぁ。って改めて思ったの。ジルベルト様は凄くいい領主様になるね」
「その時は領主の妻としてオフィーリアに支えてもらいたいね。はい、レモンジュース」
サッパリしててほのかに甘い。はちみつが入っているんだ! ジルベルト様は私の好みを分かっている。
「気に入ってくれた?」
「うん。おいしいよ」
「ははっ。そうじゃなくて前夜祭。オフィーリアが初めて僕の婚約者として領地に来てくれたから、何かできないかと皆で考えたんだよ。オフィーリアの歓迎を込めてさ」
え。この前夜祭って私のために……こんな素敵な歓迎を……どうしよう。嬉しすぎて……。
「あれ、どうした? もしかして重かったとか? 引いてる? やりすぎた!? 加減が分からなくて」
ふるふると頭を振る。
「……嬉しい、ありがと、う。ううっ……」
「え! なんで泣くのさ!」
「うれじいよぉぉぉ……」
ぶわっと涙が溢れ出た。
「オフィーリア」
ジルベルト様が私の肩を抱き寄せた。ジルベルト様の匂いがする。落ち着くまでジルベルト様の胸を借りてよ……
「本当にキレイ……ぐずっ」
「ほらジュース飲む? 落ち着くよ」
「ありがとう」
「初めての割には上手くいっているようだね。改善点もありそうだけど、それはそれで楽しみでもあるよね」
「これを見せたかったから早く来ちゃダメだったの?」
「うーん、それもあるけど、今回はちゃんとご家族を招きたかったというのも大きいかな。もちろんこれから毎年来てくれたら屋敷の皆も喜ぶから遠慮はしないでほしい。母が亡くなってから正式なゲストを招くのを躊躇っていたんだ。でもオフィーリアの家族を招待する。と父が言った時に屋敷の皆のやる気が上がってさ、オフィーリアを紹介した時もみんな喜んでくれたし、こんなに明るい屋敷の雰囲気は久しぶりだ」
ジルベルト様はこうやって亡くなったお母様のお話をしてくれる。懐かしそうにゆっくりと思い出すように。それがなんだか嬉しい。手を出されて立ち上がる。そろそろ灯りを消す時間なんだって。
「明日も楽しみだね」
「明日は明日で楽しみがあるんだけど、その前に連れて行きたいところがあるんだ」
「どこに連れて行ってくれるの?」
「明日まで内緒。朝一で出掛けよう……っとオフィーリア帰ったらすぐに部屋に戻って目を冷そうか……」
目元が熱いのは感じていたけど、そんなに腫れているの!? 見ないで……恥ずかしいから。フローリア様たちと合流しても顔を下に向けていた。暗いから分からないと思うけれど、屋敷に戻ると直ぐに部屋へ行った。そして冷たく冷やしたタオルと温かいタオルを交互で目元を抑える。明日までになんとかなるでしょ……
それにしてもキレイだったし嬉しかったなぁ……浸る間もなく湯浴みをすませベッドに入る。明日は早くに出るって言ってたものね。
ちゅんちゅん……と小鳥の鳴き声で目を覚ました。まだ早い時間で約束まで一時間ある。何着て行こうかな。なんとなくいつもの町娘風の服装ではなく貴族のお忍び風のワンピースに着替えた。早い時間からメイドを呼ぶのも忍びないから自分で着られる服にした。髪の毛は櫛でといてそのまま。
準備が終わった頃に私のメイドが起こしに来た。
「え! お嬢様、ずいぶん早いですね! 一人で起きられるなんて偉いです!」
「やれば出来るのよ! えへん」
と胸を張る。それから少し時間があったのでお茶を用意してくれたので飲んでいると待ち合わせの時間になった。ジルベルト様はエントランスで待っていてくれて馬車に乗り込む。
「朝早くにごめん」
「ううん。早起きしちゃった」
馬車は丘の方向へと行った。今日はは花まつり当日だから領民の朝は早いのかしら。皆すでに動きはじめていた。
「到着」
ジルベルトが言うと先に馬車に降りて手を出してくれる。町が見渡せてお花が沢山咲いている。
「ちょっと待ってて」
ジルベルト様が器用に白い花を摘み花の冠を作っていた。慣れているようで早かった。
「お待たせ。行こう」
手を繋いで歩いていくとそこにはお墓があってお花がたくさん供えてある。
「母さんに紹介したい子がいるんだよ。僕の婚約者で将来のお嫁さん。オフィーリアっていうんだよ。かわいいだろう?」
と言って花の冠をそっとお墓に備えた。ジルベルト様のお母様のお墓だったんだ……。
「はじめまして。オフィーリア・カルメルと申します。実際にお会いできなくて残念ですがこれから私がジルベルト様を支えていきますので見守っていてくださいませね。ジルベルト様はとても優しくて私にはもったない子息です。夫人の育て方が良かったのでしょうね。ジルベルト様は夫人に似ていると伺いましたからきっとお美しいのでしょうね」
さらさら……と風が吹く。
「ふふっ。そうでしょうね。夫人が嫁いでこられてからお花の町になったと聞きました。この場所も素晴らしいですね。また会いに来てもよろしいですか?」
さらさら……と風が吹く。
「私いいように考えてしまいますわ。また会いに来てもよろしいですか?」
実際には話すことは出来ないけれど、ここは心地が良くてまた来てもいいよ。って言われている気持ちになったの。私単純だから。
「なに? オフィーリアは故人と話が出来るの? びっくりなんだけど!」
「ううん。なんとなくそんな気がしただけ。でもね喜んでくれていると思うよ。領民に愛されていたんだね。こんなにお花が沢山供られていて枯れた花がないんだもの」
「うん。そうなんだ。とても愛されていたんだ」
「ジルベルト様や伯爵様の人柄を見ているとそうだなって思う。私もジルベルト様のお母様のように頑張るね」
「そうだね。でも僕を置いて先に逝くのだけはやめて欲しい。約束して」
ギュッと抱かれてしまった。そんなことは分からないし夫人だって不慮の事故だと聞いたから約束なんて出来ない。いつどこで何があるかだなんて……でもジルベルト様が欲しい言葉を伝えなきゃ。
「うん。約束する。ずっと一緒にいようね」
「……うん」
ジルベルト様の手が震えていた。
「大丈夫だよ。ジルベルト様のお母様が見守ってくれているからね……」
よしよしと頭を撫でたら耳が赤くなっていた。可愛い!
次回最終回です。最終回のあとは番外編を投稿していきます。
ありがとうございました。