美しい町の男の子
「この町は朝が早いのね!」
町の市場へとやってきた。新鮮な野菜、新鮮な果物、中には見たことのないものもあった。
「こっちには織物まであるわ」
図柄が可愛い。お花模様が多いようだった。
「わぁ、これ……素敵」
ステンドグラスのサンキャッチャーだった。
「どれも素敵ですね」
侍女のメアリーも気に入ったようだ。
「リューのお土産にしよっと! すみません、これとこれください」
ブルー系とオレンジ系のサンキャッチャーをそれぞれ買った。一つはアンドリューのお土産。
「ステンドグラスが有名らしいですね。昨日の教会のステンドグラスもそうでしたし、照明器具なんかも人気だそうですよ」
きれいな町にステンドグラス。町の人たちもみんな明るくて楽しそう。それからも市場を見て回り、少し歩き疲れたところで飲み物を買ってベンチに座る事にした。
「このジュース美味しいね。甘くてさっぱりしていて飲みやすい」
「お嬢様、帽子を被ってくださらないと日傘を差しますよ?」
「ごめん、被るね」
たくさん歩いたから帽子の中が蒸れそうで帽子を取ったらメアリーに注意された。メアリーがいると日傘を自分で持つ事が出来ない。自分で持つから良いと言うと、私の仕事を取らないでくださいませ。と言われる。
私は町娘に扮しているのだから日傘を差されるとどこかの令嬢だと思われてしまう。護衛もメアリーも私服を着てもらっているんだから!
「もう少し見て回りますか?」
留守番をしているアンドリューが待っている。本を読むと言っていたのは、半分は本当だけど私に気を遣ったんだと思う。だからせめて美味しいお菓子を買って帰ってお茶をしようと思う。
「そうね。あと少しだけ、それじゃ行きましょうか」
立ち上がった矢先に、小さな女の子が走っていて石に躓き転んでしまった。
「わぁぁぁん……」
女の子は泣き出してしまった。すぐに女の子の元へ駆けつけようとしたら、同じような年頃の男の子が駆け寄ってきた。
「大丈夫か!」
女の子に声をかけている。
「ほら、泣くな立てるか?」
「……ひっぐ、」
「怪我をしているな……」
「あの、良かったらこれ使ってください」
男の子に声をかけてハンカチを出した。こちらをチラッと見た男の子の瞳は澄んだブルーの瞳でアッシュブラウンの髪の毛の男の子。地面に膝をついて女の子を立たせていた。
「君は?」
「あ、すみません。通りがかりの者で怪しい者ではありません。怪我をしているのでばい菌が入ったら大変なので……少し我慢してね」
女の子の怪我をした足にハンカチを巻きつけた。もう一枚のハンカチで女の子の涙を拭いた。
「あら! 偉いわね。もう泣き止んだのね」
ぐすん。と鼻を啜りながら女の子は私たちを見た。
「お姉ちゃんありがとう、お兄ちゃんも」
「一人なのかい? お母さんは一緒じゃないのか?」
男の子は優しく女の子に声をかけていた。
「お兄ちゃんと一緒」
「あら、お兄ちゃんはどこにいるの? 一緒に探しましょうか?」
こくん。と頷く女の子、でもすぐにお兄ちゃんが慌てて走ってきた。
「マリー!」
「お兄ちゃん!」
「転んだのか? 少し目を離してしまった。マリーごめんな」
マリーちゃんの頭を優しく撫でていた。
「マリーちゃんって言うのね、お兄ちゃんと合流できて良かったね」
「うん! お姉ちゃん、お兄ちゃんありがとう」
「すみません。手当までしてもらって……あ、ハンカチ」
「いいのよ、ばい菌が入ったら大変だもの、帰ったらすぐに手当てしてあげてね」
「本当にありがとうございました」
マリーちゃんはお兄ちゃんの手をしっかり握って手を振ってくれた。
「バイバーイ」
女の子が手を振るので私も手を振った。するとマリーちゃんを起こした男の子が声を掛けた。
「待った! 痛かったのによく耐えた、これはご褒美だよ」
男の子はマリーちゃんとお兄ちゃんにキャンディを渡していた。するとマリーちゃんはさらに笑顔で手を振って帰って行った。
「お兄ちゃんが来てくれてよかったです」
「あぁ、そうだね。それよりハンカチは良かったの? 見る限り高級な感じがしたけど」
「ふふっ、アレは私が刺繍したものですから、高級ではありません。それに人助けに使えたのならとても嬉しいです」
「そうなんだ。君はこの町の人じゃないよね?」
「えぇ。王都からカルメル領へ向かう途中です」
「カルメルの町はのんびりしていて良いよね。カルメル領のチーズが好きで良く市場で買うんだ」
「私も好きです」
わぁ。領地のことを知ってもらえている。嬉しくてつい笑顔が溢れる。
「好きって……」
顔が赤いわ……大丈夫かしら? 今日は気温も高くて日差しも……
「チーズですよね? 他にもミルクも美味しいですよ!」
「あぁ……ミルクね……絞り立ては美味しいんだろうね」
「はい。すっごく甘いんですよ」
楽しく話をしていたらメアリーがコホン。と咳をした。
「ごめんなさい、私そろそろ行かないといけなくて」
「そうか、気をつけて」
「はい。ありがとうございます」
頭を軽く下げた。いい人そうだったなぁ。この町の人は優しい人が多いのね。断然この町が好きになっちゃった。
その後アンドリューにお土産に買ったサンキャッチャーを渡したらとても喜んでくれた。この町の良い思い出になった。