ナニ言ってんの?
「オフィーリア、そんな約束をしたのかい?」
ジルベルト様が笑いながら聞いてきたけれど、笑ってないよね? 笑いながら怒れるなんてすごい技術だわ。目が怖い!
「話は出たんだけど、婚約しない。ってことで終わったのよ。そうですよね、おじさま、おばさま!」
あ、驚いて子爵夫妻をおじさまとおばさまって昔みたいに呼んでしまった。お二人とも気を悪くされてないかな……。
「あぁ、そうだね、ハリー何か勘違いしているんじゃないか?」
「そ、そうよ! おかしな事を言って困らせないでちょうだい。お二人ともごめんなさいね。ハリーったらちょっと感傷的? になっているみたいなの。ほら、オフィーリアちゃんとは幼い頃仲良かったから……そうだわ。疲れているのかしら。連れて帰るわね……ご機嫌よう」
「オフィーリア、よく思い出せ!」
その一言を残しハリーをグレイブス夫妻が連れて帰っていった……なんだったんだろ。
「……オフィーリア、一体あの子息はなんのことを言っているのか、説明してくれるかい?」
にこり。と効果音が聞こえそうな笑顔で手をガッツリと繋がれてしまった。
「休憩しようか、飲み物でも飲みながらゆっくり」
ひゃあ! 怒っている!! それは私に対してなのか、ハリーに対してなのか分からない。だから怖い。
******
「で、あの男ナニを勘違いしているのかな?」
「子息の家の両親とうちの両親が仲良かったから小さい頃はよくうちに遊びに来てたの。幼馴染だって話はしたと思うんだけど……」
「聞いた。ただの幼馴染だよね。学園では仲の良い素振りはないし……ん、学園では」
学園では……って、それ以外? ないない!
「プライベートでも連絡とってないからね!」
「だよね、疑ってごめん。婚約早々浮気は勘弁して欲し、」
「ないから! 知っているでしょう。挨拶くらいがちょうどいい関係なんだって! それにハリーは婚約の話が出た時になんて言ったと思う?」
「……さぁ?」
「僕のタイミングでなら婚約してもいいから待っててもいいけど~みたいなことを言ったの! そんなこと言われて婚約したいと思う? 学園生活を楽しみたいから面倒だとか、そんなこと言われたら、いくらいいなって思っていても“絶対ない!”ってなるでしょう?」
「あぁ。その話か、ムカつくな。それよりハリーって呼び捨てで呼んでいたんだね」
え? そこ? いまそこ!?
「いいと思っていたって事は好きだった。って事か……」
わっ! 変なこと口走っちゃった! どうしよ……。
「……あ、うん。でも子供の頃だし、その頃は私の周りにハリー、じゃないグレイブス子息とリューしか異性が居なかったから、他の子息を知らないというか……出会いがなかったもので……なんかすみません」
まるで浮気がバレたみたいな気分になる。
「昔のことなんだね。今はどう思っている?」
「ナルシストで自分勝手だって思っています。自分のことが大好きで、イケメンだと思っていて、世の女性は微笑めばついてくるとか思ってそうだし、自分勝手だし(二回目)関わりたくないって思っているし、ちょっとは綺麗になって見返したいくらいは思ってるけど……」
あぁ、そうなんだ。ハリーは自分の隣にいる人には美しくなきゃ。みたいなことを言っていた。だから綺麗になって見返したい。って思ってた。もう過去の話だけど。仲は良かったけれど領地に行っても手紙の一つもくれないような薄情な男なんだよ。
期待しちゃいけないんだって……。領地に行った理由の一つはハリーをさっぱり忘れることだったし、それに領地での暮らしは楽しかった。何よりジルベルト様と出会えたことは奇跡だと思う。
「オフィーリア?」
「過去は過去だよ。ジルベルト様が大好きだし、グレイブス子息やリューのことがなかったら領地に行く事もなかったかも。そしたらジルベルト様と出会えてなかったかもしれないし」
そんな未来はイヤだな……でもリューには健康でいて欲しい。
「……ごめん。そうだよね過去は過去か。黒歴史を思い出させてごめん」
黒歴史……ひどい! ちょっと言いかた! 眉間に皺が寄ってしまった。ジルベルト様はふふっ。と笑った。
「ごめんごめん。嬉しくてさ、今は僕のことを大好きなんだよね?」
「……うん、好き」
「これからの未来は二人で作ろう。ちょっとだけ妬けたけど、子供の頃の淡い思い出だろうからね。それも含めてオフィーリアが大好きだから」
比べてはいけないけれど、ハリーなんかとジルベルト様は全然違う! 優しくて思いやりがあって誠実だし、それに……すごくかっこいい! 惚れるなと言われてもムリだわ……。
「もっと好きになってもらえればすむ話だからもう二度と聞かない」
「うん……」
オフィーリアと言われてジルベルト様を見ると綺麗な顔が近寄ってきた! コレって! アレ?
ど、どうしよう。と、とにかく目を瞑るんだよね! ギュッと目を瞑ると、チュッと、温かいものが……額に。あ、アレ? 驚いて目を開いた。
「オフィーリア、可愛い」
ひゃぁ! 次は頬に……そしてまた目が合ったから自然に目を瞑った。唇に温かいものが重なった。16歳の誕生日の思い出。
ありがとうございました。




