近寄る人たち
廊下を歩いていただけなのに……。
「オフィーリア嬢、今度オペラに行かないか? 我が家は年間シートを取っている」
「オフィーリア嬢、植物園に行かないか? 静かに鑑賞出来るように貸切にしよう」
「今度、学園でダンスパーティーがあるよね、パートナーになってくれないか?」
「それはずるいぞ! それなら私はドレスをプレゼントする!」
「私はさらに宝飾品も付ける!」
……なにこれ。どうしよ……。こわい。少しずつ後退りする。するとドンっと誰かにぶつかった。
「ん? オフィーリアか」
ハリーだ。ハリーは身長が高い!
「ごめん、ちょっと隠れさせて」
制服のスカートの裾を絞ってハリーの後ろに隠れた!
「――オフィーリア嬢がいない!」
「おまえらと言い争っている間に行ってしまったんだな!」
「逃げられたか!」
子息達が肩を落としてその場を去った。
「……行ったぞ」
「……うん」
きょろきょろして子息がいないことを確かめてハリーから離れた。さて、と教室へ戻ろう。
「ありがとう。助かった」
「オフィーリア、この前食事会に来なかったな」
先日の食事会の話?
「テストもあったし忙しいでしょう? 私は初めてのテストだったから勉強してた」
テストも近かったし、ハリーはお茶会とかも忙しいんじゃないの? ハリーが来ていたと聞いて、子爵に顔が似てきた、元気そうだった。ハリーはお誘いが多いと聞いた。その日はリューと先生と遊びにいってたんだっけ。
「それくらいの時間はあるに決まってるだろ」
決まってる。って知らないけれど、まぁいいや。
「そうなんだ。また機会があるかもしれないね。それじゃあ行くね」
リューは面倒くさがって行かないだろう。わざわざ食事会なんてしなくてもおばさまはお母様のお友達だしうちに来るから会っているし。
「待った!」
手首を掴まれた。
「なに?」
「……今度お茶でもしないか、その、二人で。久しぶりだし募る話もあるだろう。領地へ行っていた時の話を聞かせてくれ。学園にもまだ慣れてないだろうし相談に乗る」
人気がある子息と二人になるのは避けたい。幼馴染だけど周りに変な誤解をされたら困る。ハリーのことを好きな令嬢に嫌がらせとかされたくないし!
「あ、結構です」
「え?」
ズバッとお断りした。
驚くハリーだけど、なぜ? という気持ちになる。
「(人気のある)子息と二人になるのはちょっと……昔みたいに気楽な関係ではないから幼馴染とはいえその辺はしっかりしなきゃ。挨拶くらいが丁度良い距離なのかも。ハリー言ってたじゃない? 学園生活を楽しみたいって」
ハリーが驚いた瞬間に手首を払った。
「さっきは知っている顔を見たから咄嗟に隠れちゃったけど、これからは迷惑かけないようにするね。ありがとう、じゃあね」
一人になるとさっきみたいに子息たちに声をかけられるのか。対策を考えないといけない。慣れてないから余計なことしそうだしなあ。こういう時の相談相手といえば……! フローリア様。
「ふふ。お友達とランチをするのに憧れていたのよ」
フローリア様かわいらしい。尊い。
「こんな場所があったのですね。知りませんでした」
いつもはお弁当を持って外や教室で食べたりするのだけれど、こんな静かで素晴らしいテラス席があっただなんて!
「知っていてもここで食べようとは思わないんじゃないかな」
ルシアン様が言う。
「どういうことですか?」
「学園は平等だけど、弁えてこその平等。学園的には王族とか地位のある家の子供を預かる以上安全を考慮しなきゃいけない。だからこういう場所が存在する。むしろ学園的にもフローリアとか僕とかにはこういう場所にいて欲しい。って、ところだよ」
なるほど……学園はセキュリティがしっかりしているから安全だけど、もしものことを考えてということね。知らなかった! 広々としていて何組も座れる様になっているけれどプライバシーは確保できる感じ。一人でお弁当を広げている先輩もいる。
フローリア様とルシアン様が横並びで座って、私とジルベルト様が横並びに座った。ジルベルト様は、ここで食べるか一人で食べるかのどっちかなんですって。
「ジルは友達がいないのよね」
「フローリアと僕は友達だろう、それにオフィーリアも」
ルシアン様が擁護? した。
「私も多くはないですよ。三年ほど領地に住んでいましたからそれ以前に交流のあった令嬢数人しか……」
フローリア様とは立場が違うのにこの差よ……。
「多ければいいってもんじゃない。友達が増えれば増えるほどどんな人間かと精査しなきゃいけない。僕は少なくても問題ない」
精査ってルシアン様っぽい。それぞれ持ってきたお弁当を広げてランチタイムを楽しんだ。その後お茶を出してもらった(頼めばお茶の準備をしてくれるところは流石VIPテーブル)
「あ、そうだ。相談があるんですがよろしいですか?」
ルシアン様とフローリア様を見ながら言った。
「なんだ? 聞かせてくれ」
「何かあったのね?」
さっきの子息たちの話をした。急に声をかけられて戸惑っていることとか断るのが面倒だとか、お父様に言われたことも話した。
「そうか、伯爵の言う通りだな。声を掛けてくる子息の半数はハイエナ認定で間違い。ダンスパーティーはパートナーがいる。と言って断っておけば良い」
「いませんよ? 一人で行ってもいいんですよね?」
学園のダンスパーティーは一人参加もオッケーと聞いた。一人で行って気楽にダンスを楽しむとかなんとか?
「一人だと声をかけられる。誘われると断りにくいだろうからジルベルトと行けばいい。近くに私とフローリアがいると牽制できる。そうしよう」
フローリア様が頷いた。え? ジルベルト様の意見とかは!