フローリア様のお茶会
「オフィーリア様。ようこそ」
「ご招待いただきありがとうございます。失礼じゃなかったらこれを……」
例のブツを渡した。危ないものではないのに手が震える。拒否されたらどうしよう。恥知らずな田舎娘! と追い出されたりとか。ううん。自信を持って渡そう!
「まぁ、何かしら?」
「少し変わったケーキをお持ちしました」
大丈夫かな。先生とシェフの自信作。受け取ってもらえたんだもの。フローリア様は私の持ってきたケーキをお皿に並べるようにとメイドさんに渡していた。それからガーデンに案内されて……
「わぁ。ステキです。これは……お花ですか?」
風にそよそよと靡いて美しい。ピンクのお花が垂れ下がった枝から無数に咲いていた!
「東洋より持ちこまれたサクラというお花なの。この時期にしか咲かないから見てもらいたくてガーデンティーパーティーをするの。この時期はお客様が多いのよ」
初めて見た。これがサクラか……さすが公爵家だわ。東洋と聞けばオリエンタルな空間に思えるから不思議。席に案内されるとそこには噂の学年一位の侯爵家令息の姿が! とりあえず頭を下げた。
「ルシアン、彼女のことを知っていて?」
「ん? すまない」
「はぁっ。本当に興味がないのだから……彼女は私の友人でオフィーリア・カルメル伯爵令嬢よ」
友人って紹介された、いいのかな。
「カルメル伯爵令嬢か。僕はルシアン・ソレイユ。先日の茶会にいたんだよね」
最後は取ってつけたかのような感じだった。フローリア様がいう通りまったく興味がないのでしょう。話したことはないけれど同じ空間にいたのは確か。田舎のモブ娘だから仕方がない。
「始めまして。とご挨拶すれば間違いないですね。先日のお茶会でフローリア様と席が隣になった縁でお誘いいただきました。オフィーリア・カルメルと申します」
「あぁ、すまない。興味のない人の顔を覚えるのが苦手なんだ」
天才にも苦手があるんだ。覚えとこ。
「挨拶も終わったから座りましょう。もう一人いるのだけれど……あとからでいいわ」
座った瞬間にお茶が出されるなんて公爵家のメイドさんたちは優秀ね。学園での話がほとんどで、テストの話だとか先生の話だとが会話の中心だった。しばらく経ち侯爵令息がぽそっと言った。
「へぇ。友人か。なるほどな」
「そう言っているじゃないの。まだお話しするのは二回目だけれど、先日のお茶会でオフィーリア様と仲良くなりたいと思ったのよ。彼女なら損得勘定なしで友人になれるって」
「えぇ……っ! 何が私をそうさせましたか! 全く覚えがなくて……フローリア様とお話しするのはとっても緊張しますし、あ! もちろん光栄で嬉しくて、友人と思って頂けるなんて、」
「もう友人よ。ダメかしら?」
……美しい。美しすぎて思わず頷いていた。
「良かった!」
「フローリアと友人なら僕とも友人になってくれ」
ん? 侯爵家の令息と? それはないでしょう? 返事が出来ずに固まった。
「ははっ。この子変わってるね。僕も友人になりたいと思う。確かに損得勘定がないな。侯爵家ってだけで群がる人間が多いのに、この子からは全くそういうものが感じられない。あ、そうか癒し系だからか……」
だからその癒し系って何? 愛玩具みたいでイヤなんですけど!
「その……癒し系とかってなんですかね。意味がわからなくて」
真面目に聞いてみた。
「親切な方に田舎くさいから。だと言われまして、確かに久しぶりの王都でしたからそう思われても問題ないのですが、こんな田舎者とフローリア様や侯爵令息と友達なんて世間が許しませんよ」
「そんなバカなことを誰が言ったのかわからないけれど、オフィーリア様とお話をしていると和みますのよ」
「確かに。僕のことはルシアンと名前で呼んでくれ。僕もオフィーリアと呼ぶ」
「あら! ルシアンもオフィーリア様の良さに気がついたのね。嬉しいわ」
仲が良さそうなんだけど、ところでこのお二人どういう関係なのだろう? 二人を交互に見る。
「ふふっ、私たちね幼馴染でね、来月正式に婚約するのよ」
なんと! 確かにお似合いだ。
「ルシアンがテストで一位を取ったら婚約するわ。と言ったら本当に一位を取ったの。今年の学生は優秀だから大変だったのよね?」
「あぁ、二位のカトリーヌは特に優秀だから悔しがっていた。僕に負け留学をすると言っていた。帰ってきたら女性初の大臣抜擢もあり得るほどの人材だから国費で留学するんだと」
一位の侯爵令息ってどれだけ優秀なの……やはり私は場違い……。
そんな話をしていたら、サクラの木から人がぬっと現れてつい“ひっ!”って、声を上げた。
「ジル! 遅いじゃない。早く席に着いてちょうだい」
「ごめん、つい。庭が綺麗で庭師と話し込んでしまったんだ」
あ、この人って!