プロローグ
プロローグ
読まなくても、内容に支障はないです
――母の胸の中にいた。自分を優しく抱き抱えるその人が、本当に母なのか知るすべはもうないけれど、きっとそうだ。
辺りはまだ薄暗く、はっきりとしたことは覚えていないが、キャンプをしていたのだと思う。ゆらゆら燃える炎をジッと見つめていた……ような気がする。
そこにはたくさんの人がいて、楽しそうに笑いあっていた。
ある人は肩を組んでご機嫌に歌いながら、ある人は缶ビールを片手に、湯気立つ鍋を囲んで、とても幸せそうに。
そんな中を、なんの前触れもなく白い光が染めた。すごくすごく、綺麗な光がほんの一瞬だけ。
光が無くなると、気づけば地面に倒れていた。母に抱かれたままだ。しばらく地面に倒れていたけれど、母はピクリとも動かない。その場に絶えなかった笑い声も聞こえず、ただ一つだけ聞こえるのはパチパチと炎の燃える音。
ふと、誰かが近づいてくるのに気づいた。とても荒い息遣いで、少しずつ近づいて来る。
すぐそこという所まで近づいてきて、ようやく姿が見えた。長い金髪の女性だ。顔は暗くてよく見えないが、炎に照らされた金髪が艶やかに揺れている。
女性は立ち止まり、こちらをジッと見つめたかと思うと、おもむろに手をかざしてきた。女性が手をかざすと同時に、身体が温かい光に包まれ激しい睡魔に襲われる。
意識が薄れゆくなか、光が照らした女性の顔が見えた。女性は寂しそうに微笑みながら、僕へと手を伸ばし―――