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美女と雷獣

作者: ミカヅキグマ

 男性視点です。

 ある日の昼下がり、俺は一仕事終えて依頼の品を担いでギルドの受付に持って行った。


「ほらよ、水鳥十羽と卵十個だ」


 俺は受付にいた(あん)ちゃんに水鳥を渡し、おっさんには袋に入った卵を渡した。卵はともかく、水鳥はかなり大きいから渡すと言うより台に置いたと言う方が合ってるか。


「おおっ! 早かったね。ほう……水鳥は一撃で仕留められてて羽も綺麗だから装飾に使えそうだ。どれ、卵も確認させて貰うよ」


 おっさんがこう言うと兄ちゃんは水鳥を台車に乗せて奥に持って行った。恐らく詳しく査定をするのだろう。水鳥の損傷が少ないと討伐報酬の他に買い取りもして貰えるのだ。高額になるといいんだがな。

 おっさんはというと、卵を手に取って一つ一つ確認している。


「ふんふん、どれも違う巣から取ってきたんだね」

「ん? そういう依頼だろ」


 この水鳥は個体ごとに産んだ卵の柄が違うのだ。なのでおっさんは卵を布や指で擦って柄が細工されていないか念入りにチェックしている。


「それがねぇ、この間せこいことする奴がいたんだよ。同じ巣から取ってきてインクと魔法で適当に柄を描いててさ……」

「うわ……大丈夫だったのか? 」

「親鳥が気付く前に返せたから大事には至らなかったよ。けど危なかったなぁ」


 なんでも巣から卵が消えると親鳥が凶暴になるらしい。我が子を奪われたら当然の反応だな。一個ぐらいならバレないらしいが、流石に複数個消えてたら気付くんだそうだ。

 そんな鳥の個体数が増え気味だとのことで、俺に間引きの依頼がきたのだ。


「ふむ、どの卵も別の巣から取ったと確認出来たよ。報酬は鳥の査定が終わるまで少し待っていてくれるかい? 」

「おう」


 俺が返事をすると、おっさんは何かを思いついたかのように腕を組んで片方の手を口元に当てて悩みだした。聞き取れないが何かブツブツと言っている。そんなにヤバイ話か?


「どうした? 」

「うーん、いい仕事があるんだが……」

「お! やるやる! 」


 俺はおっさんから仕事内容を聞く前に返事をしてしまった。いい仕事と言われたら反射的に言ってしまうもんだろ?

 自分で言うのもなんだが、そこそこ腕が立つから余程のことでなきゃ大丈夫だろう。それにおっさんが俺の力を見込んで言い出したんだから問題ないはずだ。


「それがねぇ、すでに何人か紹介しているんだけど断られててねぇ。どの人も君と同じかより実績があるのにさ」


 おっさんから彼らの名前を聞いたが、確かに実力のある人達だ。それなのに依頼人は断る。何が不満なんだ?取りあえず変な奴なのは確かだ。


「もしやと思って顔が良い人も紹介したんだけど駄目だったよ」


 顔が良い奴は実力以外でも仕事が貰えるから羨ましい。しかし、変な奴に気に入られる場合もあるから、それはそれで大変なんだろう。まぁ、俺にはまったく縁のない話だ。


「ところでその依頼って護衛か? 」

「ああそうだよ。言ってなかったっけ? 」


 おっさんはそんなの一言も言っていない。


「もしかして依頼人は女か? なら女を紹介すればいいだろ」


 常に一緒にいないといけないので、依頼主が女だと男を嫌がる場合があるらしい。


「もう紹介したよ。だけど嫌だって。はあ、もうどうしたらいいのか。……というわけで会うだけ会ってみてくれないか? 」

「分かった。望み薄だけど会ってみるか」


 依頼人はギルドの二階の一室を陣取っているそうで、俺は数十秒ほどで目的地に到着した。


「言い忘れていたが、身分の高いお方だから失礼のないようにね」


 俺がもっと早く言えと文句を言う前にドアが開けられた。俺が姿勢を正して入室すると、そこには如何にも金持ちそうなお嬢様がソファに座って茶を飲んでいた。彼女はかなり美人でスタイルも良く、非の打ち所がない。強いて言うならば完璧すぎて冷たさを感じる。


「お待たせいたしました。こちらの彼は、まだ若いですが様々な勲章を授与されるほどの実力を持っておりますので、護衛に相応しいかと存じます」

「ほう? 」


 お嬢様がチラリと俺の顔を見てきた。まさに品定め中の顔である。少々イラつくが金のためだ、仕方ない。


「……あー、どんな勲章を持っているんだったかな? 」

「えっ、ああ、銀二と銅十……ぐらいだったと思います」


 俺はおっさんに突かれて我に返った。別にお嬢様に見とれていたわけではない。どんな我が儘な奴なのかと見ていただけだ。美人過ぎて別の世界から来たのではと思ったりしていない。


「問題ないな。彼にしよう」

「そうですよね。では別の者を…………えっ、よろしいのですか? 」

「む、そちらが適任だと思ったから連れてきたのだろう? 」


 お嬢様は首を傾げる。ちょっと動いただけなのに絵画のようになるとは恐ろしい。


「あのー、今後のギルド運営のための参考にしたいので、決め手をお教え願えますか? 」


 おっさんよ、俺に決まったのがそんなに不思議か?


「顔だな」

「は? 」


 俺は予想外の言葉に驚いた。自分で言うのも悲しくなるが、俺は美男子でもなんでもなく爽やかな雰囲気もないのだ。大体は顔が怖いだの愛想が悪いとも言われるし散々だ。


「その顔にある傷が良い。後はその目つきだ。相手を威嚇している感じが良いな」


 俺には初仕事の時に顔を怪我した。今でもその傷跡がデカデカと残っている。目つきは多分遺伝だろう。

 営業のためと思い笑顔の練習をしたが、不気味がられたので二度とやる気はない。


「おおっ! そうでございましたか! いやー、人相が悪くてよかったな! 」


 おっさんはバシバシと俺の肩を叩いてきた。いつもだったら、この程度は少しも痛くないが今回は痛い。


「はははそうですねー」


 人相が悪くてよかったが、よくない。俺だって流石に胸がチクリとした。


「それでは契約書にサインをお願いします」

「そうだったな」


 お嬢様は達筆すぎて読めない字を書いた。俺の拙いサインも書かねばならないのが少々恥ずかしい。だが、書かねばならないので俺はなるべく丁寧に書いてみるも、努力は虚しく不格好な字になってしまった。


「おおっ! これで契約成立です! 」

「待ってくれ、今更だが報酬を聞いてないぞ」


 俺は肝心な事を聞くのを忘れていた。これはお嬢様が人並み外れた容姿をしているせいだろう。でなきゃ俺が聞き忘れるはずがない。


「ん」


 お嬢様は綺麗な指を三本立てて俺に見せてきた。


「銀貨三枚か? それは安すぎるぞ」


 お嬢様は相場を知らないのか?


「そんなわけなかろう。金貨三枚だ」

「マジか……太っ腹だな」


 俺の経歴でこれだけ貰えるとは思わなかった。


「ただし、諸経費はここから出せ」

「ああなるほど。分かった」


 食費や宿代や馬車代も金貨三枚から出さねばならないそうだが、よほどランクが上のを選ばなきゃ問題ない。十分食っていけるし、不足した物を買い足していける。


「話合いは終わりましたかな? 」


 おっさんはとてもいい笑顔で俺らのやり取りを見守っていた。


「ああ」


 こう言うとお嬢様は立ち上がった。ただそれだけだが、ダンサーが一曲踊ったかのような錯覚を感じた。


「では早速行くぞ」


 お嬢様は小さな荷物を背負った。


「え、今からか? 」

「当然だ。追手に……いや何でもない」


 お嬢様は追われているのか。もしや家出か?

 流石に犯罪者ではなさそうだが、家出なら俺が誘拐犯にされたり家出を幇助したとかで後から罰せられたりしないか?

 まぁその時は全力で逃げてやるさ。逃げ足には自信がある。


「じゃあ、おっさん。水鳥の報酬は振り込んでおいてくれ」

「分かったよー。気を付けてねー」


 お嬢様と俺はおっさんに見送られてギルドを出た。


「ところで期間はどれくらいだ? いや、ですか?」

「先ほどまでの口調で構わない。期間か……。今は決めていない。目的地もだ」


 金貨三枚が一日や数日だけでなく、それなりの日数貰えるようである。ここら辺は危険な魔獣はいないし治安も悪い方じゃないので儲けものだ。

 護衛する期間と目的地が決まっていないとなると、お嬢様は庶民の暮らしを観光気分で見たいだけかもしれない。金と時間があって羨ましい限りだ。


「そうか。わかった。……なあ、その格好で出歩く気か? 」

「悪いか? これでも地味な服にしたんだぞ」


 お嬢様はひらりとスカートを揺らしてみせた。靴も鏡かと思うくらい磨かれている。誰もが振り返ってしまうほどの美しさだが、こんな町娘は存在しない。追手を気にするのなら姿を変えるべきだ。


「色は地味だが、生地が地味じゃねぇ。庶民が着るようなんじゃねぇだろ。絹か、それ? 」

「む……」


 お嬢様は何がいけないのかと言った顔でブラウスを摘まんでいる。


「あとそれ、オーダーメイドだろ。サイズがピッタリすぎだ」

「お主らのもそうであろう? 」


 お嬢様は俺の上半身を指さした。今俺が着ているのはTシャツだけである。仕事中は動くからジャケットを着てると暑いし、買ったばかりで汚れるのが嫌だったので着てこなかった。


「俺らのはざっくりとしか合わせてねぇよ。それに俺がオーダーメイドつったのはデザインもだ。完全にあんたに合わせて作られている。俺達のは元からあるような、……市販の型紙ぃ? を使ってんだよ。それに最近は既製品が普及している」

「そ、そうなのか? 」


 お嬢様は何も知らなかったようだ。正真正銘の箱入りのお嬢様なのだろう。


「とにかくだ、目立つから着替えてこい」

「分かった。では店に案内しろ」


 俺はお嬢様が着られそうな服屋に案内し、彼女は庶民が着る服に着替えたが、元の容姿がいいのでまだ目立っている。髪を切ったり染めたりしても効果は薄そうだ。


「服は引き取ってくれぬそうだ」

「そりゃそうだろう。で、どうすんだ、これ」


 俺はお嬢様が今まで着ていた服と靴を持たされていた。何やらとてもいい匂いが鼻の中をくすぐって来る。ずっと嗅いでいたいが、それでは変態になってしまう。俺がすべきなのは護衛なのでそうなってはいけない。


「まあ、とある場所に送っておけば大丈夫だ」

「とある場所ってなんだよ。実家か? 」

「……む、何処かで中継させるべきか? 」


 お嬢様は現在地を特定されたくないのだろう。やはり家出だ。


「知らんわ。やるならさっさとやれよ。日が暮れちまう」

「ふふふ、次の町に入れなくなってしまうのだろう? それなりの立場ならば夜間に門を開けさせられるが、我らは一般庶民だ。それは出来ない」


 お嬢様は自信満々だ。


「いや、宿が取れなくなるだけだ。どこの町にも大層な門があると思うな。この町にもないだろ」

「な……そう言えば……」


 お嬢様は本当に庶民の暮らしを知らないようだ。かく言う俺もお嬢様の暮らしなど知らぬから、貴族にも貴族しか知らない世界があるのだろう。


「ほら、さっさと実家に送れ」


 俺はいい匂いのする荷物をお嬢様に渡した。何度も通行人にチラチラと見られるのに堪えられなかったからだ。どこからどう見ても下僕が荷物を持たされているようにしか見えなかったのだろう。雇われているので大差ないが。


「分かった」


 お嬢様は郵便局に行き荷物を送る手続きをした。これは出来るらしく時間はかからなかった。


「よし、出来た。これでようやく町から出られるのだな! 」

「いや、俺の荷物を宿から取ってくる」


 大した物は置いていないが、あるに越したものはない。


「ここに住んでいるのではないのか」

「まぁ冒険者ってやつだ。根無し草ともいうが」


 気が向いたらこの町に戻って来るかもしれない。


「元は何処にいたんだ? 」

「それは護衛するのに関係あるのか? 」


 このお嬢様が人を差別するようには見えないが、俺は出自で嫌がられたことがあるのでつい言ってしまった。


「質問に質問で返すのはよくない。が、答えたくないのならばそれでよい。私も突っ込んだ質問をしてしまいすまなかった」

「別にいいさ。俺は孤児だよ。別の町の孤児院で育ったんだ。俺は体格が良かったから冒険者になったってわけだ」


 兵士になるのも考えたし誘われたが、厳しい規則が嫌だったので冒険者を選んだ。


「孤児院で読み書きを習ったのか? 」


 他の孤児院では労働させられるだけで勉強させてもらえない所があるらしい。俺がいた孤児院は比較的新しくて綺麗な場所だった。冒険者になってから各地をめぐったが、俺は恵まれていたのだと実感した。


「ああ。勉強をしっかりとすれば孤児でも仕事を貰えるって言われてな。実際俺の先輩――兄や姉と呼んでたが、彼らは役場やお屋敷で働いてる」

「その孤児院の信頼もあったからこそだろう」

「ああ……」


 俺はいくら雇い主とはいえ、初対面なのにベラベラと話してしまい恥ずかしくなってきた。幸い宿に到着したのでこの話をおしまいに出来た。


「ここだ。おい、おばちゃん、俺は仕事が入ったからこの町を出ることになった」

「あら~そうなの? あなたのおかげでヤンチャなのが大人しくなってたのにねぇ」


 俺がちょっと騒々しかった奴らを睨みつけて撃退してから、おばちゃんは食事を多めに盛ってくれていた。


「何かあったらギルドに言えば対応してくれるさ」

「残念ねぇ……。あら? すっごい美人さんだけど……彼女? 」


 んなわけなかろう。


「ちげーよ。依頼主だ」

「そうです。私は彼の腕を見込んで護衛を依頼したのです」

「そうだったのねぇ。やだわ、間違えちゃって。ごめんなさいねぇ」


 ウフフと笑うおばちゃんを置いて、俺達は部屋に向かった。

 部屋に入ると、お嬢様は狭い部屋が珍しいのか隅々まで見ていた。


「お嬢様は普通の喋り方が出来たんだな」

「出来るとも。おおそうだ。お嬢様と呼ばれると目立つから、そうだな……ベルと呼んでくれ」


 呼びやすくて良い名だ。元の名前はもっと長いのだろうが、庶民のふりをするのならこれくらいでいいだろう。


「分かった。俺はアレックスでいい」

「では早速だがアレックスよ」

「なんだよ」

「ジャケットの前は開けておけ」


 俺が上げたファスナーをベルは下げた。彼女との距離の近さや行動で俺はドキリとした。


「は? なんでだよ」


 だが、意味が分からない指示で今は眉間に皺が寄る。


「筋肉が見えないだろう」

「筋肉? 」


 痴女か。痴女なのか?


「筋肉が見えていれば強さを見せつけられるだろう? つまり変な輩に絡まれずに済むってことだ。これは私の身の安全にもつながる」

「ああなるほどな」


 確かに一理ある。ヒョロヒョロナヨナヨしている人間よりターゲットになりにくいだろう。


「決して私が見たいからではない。本当だぞ」


 痴女だ。痴女に違いない。




 俺達は宿を出て、町を出て、徒歩で街道に出た。俺はベルに馬車を使うかと聞いてみたが、彼女は歩きでいいと言ったので望み通りにした。舗装されていないので、彼女はすぐに歩きにくいと文句を言うと思ったが黙って歩いていた。


「取りあえず何処に行きたいとかあるのか? 」

「ないな」

「ここら辺だと、少し行ったところに綺麗な湖があるらしいが」

「観光地には興味ない。私は普通の暮らしが見たいんだ」


 言われてみれば観光地は客商売だ。接客業でなくとも町の人達は人との接し方に慣れているので自然ではない。いわばセミプロと言ってもいいのではないか。


「行き当たりばったりでいいんだな。了解」

「ふっ、その方が追手を撒けそうだからな」


 この世間知らずのベルお嬢様に追いついていないことからして、追手はそれほど脅威ではないと思われる。だが、彼らはきっと彼女の親に怒られているだろう。いつになったら娘を連れ戻せるのかと。それは少々気の毒だ。

 俺はベルが一日も早く屋敷に戻る決心をするように仕向けるか、それとも超マイナーな場所に連れて行って金貨三枚を毎日貰って悠悠自適な暮らしをするか悩んだ。悩んだがベルが俺の服を摘まんで来たので即終了した。


「おい。誰かが走って来たぞ。怪しい奴か? 」


 遠くに砂埃が見えている。


「んー? ああ、あいつは走るのが趣味なだけだ」


 道が一直線なので距離があって、走って来る人間が見えていた。

 数秒後、その走るのが趣味の奴は俺達のすぐ近くで立ち止まった。


「よう雷獣! なんだ? デートか? 」


 そいつはその場で足踏みをしながら、とんでもないことを言ってきた。


「違う。依頼主だ」

「だよな! お前の面じゃこんな別嬪さん無理だわな! じゃーなー! 」


 わざわざそれを言うために立ち止まったらしく、すぐに砂埃と笑い声を残して去って行った。


「なんだったんだ……」

「なんだと言えば、雷獣とはなんだ? アレクサンダーのサンダーからか? 」


 アレックスはアレクサンダーを短縮したものだ。ってこんな説明はいらないか。


「スペルが違うだろ。ああ分かって言ってるのか。ほら、顔の傷が雷みたいだろ? それから付けられたあだ名だ」

「ほう……」


 ベルは何を思ったのか手を伸ばして、俺の頬に触れてきた。俺は何をされたのかすぐに分からなかった。


「っ、……気安く触るな」

「すまない。お詫びに私の顔に触れてくれて構わない」


 ベルは俺に頬を突き出してきた。


「んなっ、何言ってるんだ。これから気を付けてくれればいい」

「うむ、覚えておこう」


 俺は早くもお嬢様の謎の言動のせいで調子が狂いそうだ。




 もう日が沈みそうだったので、到着した町で宿をとった。しかし一室しか空いていなかったので俺はベルと同室だ。


「ダブルベッドか……。俺は床に寝るからベルがベッドに寝てくれ」


 宿の主人からちょうどいい部屋があると言われたので覚悟していたが予想通りだった。


「む、私の寝相はそんなに悪くないぞ」

「依頼主と一緒に寝られるわけないだろう」


 お嬢様は危機感がないようだ。


「私は気にしないが」

「気にしろ」


 気にしてくれ。護衛と護衛対象という関係でなくても、先ほど出会ったばかりの人間と一緒に寝るのはおかしいと思ってくれ。

 それだけ俺は信頼されているのか、ベルは本当に何も分かっていないのか、どちらなのだろうか。


「せっかくベッドがあるのに勿体ない」

「屋内だから大した事ないさ」


 俺は野宿用に持っていた寝袋を床に置いた。


「む、この寝袋は脚を別々に入れるのか? 」

「ああ。寝袋に入ったまま歩けるやつだ。ちなみに手が分かれているのもあるらしい」


 便利かと思って購入したが、今の所便利さは感じていない。感じる場面に遭遇していないだけだろうか。


「……それは寝袋と分類していいのか? 防寒具じゃないのか? 」

「俺にもよく分からん」


 ベルはベッドに腰掛けて興味津々に寝袋を見ていた。


「そうだ。私も旅に必要な物を色々と持って来たのだが、これで大丈夫なのか見てくれ」


 ベルは嬉しそうにベッドの上に荷物を並べていったのだが、一体どうやって小さな鞄に入っていたのか見当がつかないくらい並べられていった。


「魔法で小さくしているのか? 」

「軽くもしている。どうだ? これで野宿出来るか? 」


 俺は野宿なんて嫌なのに、ベルは笑顔だ。んまぁ、お嬢様だったら豪華なベッドでしか寝たことがないからやってみたいだけだろう。金持ちの考えは分からん。


「野宿なんてよっぽど寒くなきゃ、こんなに荷物がなくても出来るぞ」

「そうなのか? 布団の代わりはいいのか? 」

「何もなくたって眠れるだろう」


 寝るだけなら何もいらない。


「地面にそのまま寝るのか? そうか……」

「冬だったらいるが、今の時期は外で寝ても凍死しねぇしな」


 幸い俺は冬に屋外で野宿したことはない。が、暖房器具や寝具がなかったことはある。しかもすきま風が入って来て凍えそうだった。その時は結局ウトウトとしただけで一睡も出来なかった。


「雪山だと寝てはいけないというな」

「そんな所に行かないだろ。つーか行くな」


 興味津々好奇心旺盛なベルお嬢様は目を輝かせている。もし今が冬だったら連れて行けと言われていたのだろうか。いくら金貨の枚数を増やされても俺は絶対に行かない。登山のプロでも命を落とす危険があるから当然の判断だ。


「ほらさっさと片付けろ」

「アドバイスはないのか? 」

「これだけありゃ十分だ」


 必要になれば金があるので買えば良い。あるいは簡易の物を作る。俺は冒険者になってから短いが、それなりに経験を積めたのである程度対応出来る。

 ベルはせっせと荷物を鞄に収納していった。あれだけの荷物がどうやって入っているのか不思議だったが、魔法のおかげであっという間に鞄に入れられていった。ベルは魔法が自在に使えるようで羨ましい限りだ。俺は大して魔法が使えないからな。……いや、もしかしたら魔法が得意な奴にやってもらったのか? 金持ちならあり得るな。




 食事と入浴が済み、後は睡眠だけだ。


「本当に床で寝るのか? 」

「ああ」


 俺はベルに背を向けて寝袋の中に入った。というのも、ベルの寝間着姿が目に毒だったからだ。

 寝間も庶民の物を買わせればよかったと深く後悔した。


「本当の本当に良いのか? 」

「いいって言ってんだろ。ほら、明日も色んなモンを見てまわりたいんだろ。さっさと寝ろ」

「それもそうだなあ」


 これでベルが大人しく寝た。と思った数分後に声をかけられた。


「なんだよ。どうした」

「契約の儀式をするのを忘れていた」


 ベル曰く、俺がベルに危害を加えないようにするものらしい。流石貴族、そんな主従関係云々のものがあるようだ。

 ベルは灯りをつけ俺に正面に来るように促してきたので、俺は渋々彼女と向き合った。


「まずだな、手をこうして握りあうんだ」

「お、おう……」


 ベルは遠慮なく俺の手に指を絡めてきた。これは世に言う恋人つなぎというやつだろうか。これを両手でやった。

 彼女の手は小さい。そして指は細く手自体が薄い。よくこんな手で生きてこられたなと思ったが、お嬢様だとこれが当たり前なのかもしれない。爪も綺麗に整えられているし、当然ささくれもない。まさに使用人がいる奴の手だ。


「これから私が言う言葉を復唱してくれ」


 ベルは断りもなく彼女と俺の額をくっつけた。彼女が何かを言うたびに息が顔にかかる。そのせいで俺の心臓は煩くなり、彼女の言葉が上手く聞き取れない。だが、依頼主の指示は絶対なので俺は必死に復唱した。


「――共にすると誓約する」


 これで全部らしく、手と額から熱が離れた。名残惜しいような気がしたが、これ以上やっていたら俺の心臓がおかしくなっていただろうから離れてよかった。本当に。


「では明日もよろしく頼むぞ」

「おう」




 翌日、ほぼ一日中歩いて別の町に到着した。宿に行くとベルと俺はまたダブルベッドの部屋に通された。ベルが床に寝てみたいと酔狂なことをいうので、俺は必死に止めたが言うことを聞かなかったので、俺は渋々ベッドに横になりベルは寝袋に入った。

 明日はベルが体が痛いと嘆くだろうから馬車での移動になるだろう。俺は宿に入る前に駅馬車だか乗合馬車の乗り場があるのを確認しておいてよかったと思った。

 俺はベッドのおかげか、道中の子守ではなく護衛で疲れていたからかすぐに眠りについた。そして明け方、俺は異変に気付いた。


「ん? 」


 俺は何か糸状のものに触れた。しかもそれは一本ではなく大量にある。これはまるで……。


「ベル! なんで俺の隣で寝てんだ! 」


 俺が触れたのはベルの頭だった。彼女の髪の毛は今まで触れたことのないほど滑らかな物体であった。


「さ、寒いぃ」


 ベルは思わず俺が引き剥がしてしまった毛布を求めて手を伸ばしている。俺は彼女の白い腕に釘付けになった。いや、それよりも露わになった程よく肉付いた太股に目を奪われた。朝から刺激が強すぎて俺は目眩を起こしそうになる。


「うっ! ……そうだ」


 俺は慌ててベルを毛布で包み込んだ。これなら彼女は寒くないし、彼女の肌も見えない。これで一安心である。


「あったかぁい」


 ベルは再び眠りについたようだ。

 俺は床に転がっているベルの寝袋を触ってみた。すでに冷たくなっているので、彼女は大分前から俺の隣で寝ていたようだ。いくら寝ていたとはいえ、隣に誰か来ても気付かないなんて大問題だ。もしこれが魔獣だったら俺は死んでいただろう。


「気がたるんでるんだ……。クソ……」


 美女と高額報酬で浮かれていないと言えば嘘になる。浮かれないはずがない。こんな好条件滅多に出会えない。少なくとも俺は初めてだ。


「気を引き締めていかねぇと……」




「む……」


 騒動から二時間後、ベルは目覚めたがまだ眠そうな目をしている。髪もぐしゃぐしゃになっている。


「さっさと起きろ。次の町に辿り着けねぇぞ」

「んむぅ寝たりない……」


 ベルは毛先だけ残して毛布の中に潜り込んだ。


「駄目だ、起きてさっさと支度しろ」

「分かった……」


 ベルは少々むくれた顔をしながら、寝間に手をかけた。俺の前で脱ぐ気のようだ。そんなことをされたら、今度こそ俺はどうにかなる。


「待て、俺が部屋を出て行ってからにしろ」

「んー」


 俺はドキドキしながら退室し、少し経過して落ち着いた頃、ベルが着替え終わったと言ったので入室した。


「髪の毛が絡まってしまった。助けて欲しい」


 ベルは髪の毛がぐしゃぐしゃのままだった。一応自分で何とかしようとしたのか、手にはヘアブラシが握られている。


「……はぁ」


 俺はベルの護衛のはずだ。それなのに身のまわりの世話をさせられるとは思いもしなかった。まぁ、別に俺は孤児院にいた頃に下の子ども達の世話をしていて、髪を梳かすなんて慣れているからいいんだけどな。


「んー細いし柔らかいから絡まりやすいのか……」

「昨日は平気だったのに……。今日は寝心地がよかったからだろうか」


 どういう因果関係があるのか分からない。


「もう短く切っちまえよ」


 俺はそれは惜しいと思いつつも、とても面倒臭いので思わず言ってしまった。


「アレックスは短髪が好きなのか? 」

「好きでも嫌いでもねぇよ。あーここをほどけば終わるか」


 俺の奮闘のおかげでベルの髪は無事に元通りになった。彼女の髪を触るのは悪くないとチラリと思ったが、面倒くささが遥かに勝るのでもう二度とやりたくない。


「ありがとう、アレックス。明日も頼むぞ」

「お、おう」


 ベルの笑顔を見たら自分でやれと強く言えなかった。




 俺は今日もまたベルと共に街道を歩く。それにしても追手はまだ来ないのか。いや、報酬は欲しいからまだ来なくていいか。


「今のはなんだ? 大きな鳥が走って行ったぞ! 」


 ベルは子どものようにはしゃいでいる。


「鳥車だ。あいつらは真っ直ぐにしか走れないらしい」

「それだと調教や操縦が大変じゃないか? 」

「いや、どちらもあまり効果がないらしいから、直線の道でしか使われていないはずだ。最初に歩いた道でも時間が合えば見られただろう。んで、曲がれなくて危険だから貴族や金持ちは乗りたがらない」

「ほう、それで見たことがなかったのか」


 こんな感じでベルが気になったものの質問が続く。まるで幼子のようだ。俺には見慣れた物が彼女にとっては珍しいようで、終始初めて見たと驚いてばかりだ。


「体の方は大丈夫か? 」


 俺はベルが寝袋で寝て体が痛いのではと思い尋ねてみたが、ベルはそう解釈しなかった。


「ああ、思っていたより歩けるぞ。こっそりと体を鍛えていた成果だ」

「……計画的に家出したのか」

「もちろんだ。いつか外に出てみたかったからな」

「……出たことなかったのか? 」


 これは箱入り娘というレベルなのだろうか。


「正確に言うと建物の外ではなく敷地の外にだな。私はずっと塀で囲まれた所にいたんだ」

「塀と聞くと俺は監獄かなんかだと思っちまう」

「ふふっ人の機嫌を伺っていないといけないのは似ているかもな」


 ベルは自嘲気味に笑った。

 いくら娘が可愛くても、閉じ込めるような真似をするだろうか。過保護すぎやしないか?


「そうか。だけど、結婚したら出られるだろ? ったら自由になれるんじゃねぇの? 」


 少なくとも親の束縛からは解放される。


「結婚、ねえ……。どうだろうな」


 ベルはまたも自嘲気味に笑う。こんな顔は彼女に似合わない。


「んん? もしかして嫌な奴と結婚するはめになったから逃げてきたとかか? 」

「フッ……あのままあそこにいたら、もの凄く年上の者と生涯を共にしろと言われて閉じ込められていたかもな……」

「おいおいなんだそりゃ……」


 若い後妻を屋敷に閉じ込める変態ジジイか?

 親の束縛から逃れられても結婚相手が同じような奴だったら無意味だ。気の毒すぎる。


「お嬢様するのも大変なんだな……」

「同情するなら、ずっと金貨三枚を払わせてくれ」

「ははっ、それこそなんだそりゃだ」


 攫ってくれではないのか。んまぁ、言われてもしないが。……嘘だ。もっと情が湧いていたら何処か遠くに連れて行っただろう。もちろん金貨など貰わずに。


「って俺は何を考えて……」


 ベルと過ごすようになって三日目だが、俺は少々おかしくなっている。やはり浮かれているのだろうか。


「どうしたのだ? 」

「何でもねぇよ。ほら、町に着くぞ」

「まだ昼前だがどうするんだ? もっと先の町に行くのか? 」


 ここの町より次の町の方が少し大きい。そのため宿も複数あるだろう。


「そうだなぁ……。その前に武器を調達したいからここで見ていいか? 」


 だがこの町には腕の良い鍛冶職人がいるそうなので、次の町よりここで見るべきだろう。


「待て、武器ってそのナイフじゃないのか? 」


 ベルは俺の腰元を指さした。水鳥を倒すのにはこれだけでも十分だったので買っていなかったのだ。


「や、長剣だが……」


 前に使っていた長剣は技を使ったら折れてしまったので屑鉄として売った。


「む、今まで武器を持たずに護衛をしていたのか? 」

「俺は素手でも強いから問題ない」

「それならいいが……」


 ベルはジトリとした目で俺を見ている。何も危険な目に遭っていないのに、そんな顔をされるとは思わなかった。

 俺はそんなの気にせずに早速武器屋に行った。いや、気にせずと思っている時点で気にしているか。


「いらっしゃい。何が欲しいんだ? 」

「長剣を見せてくれ」


 店頭に置かれているものもあるが、これではすぐに壊れてしまうだろう。こういう店はいい物を店の奥に置いていると相場が決まっている。


「大剣じゃなくていいのか? 」


 店主は俺の全身を見て言った。確かに俺くらいの体格だと大剣を振り回している者も多い。


「両手が塞がるからいらん」

「ハッ長剣も両手で持つだろうに」


 まぁそうなんだが、素早く動けなくなるから嫌なのだ。


「デカい分値段が張るだろ。すぐに壊しちまうから高いのは買いたくないんだ」

「壊すって……アンタまさか剣殺しやら剣の壊し屋とか言われてる奴じゃないよなあ? 」


 店主の目つきは仇でも見るようなものに変化した。そりゃ丹精込めて打った剣がボロボロにされたらこうもなるだろう。


「違う。あれは俺よりもっと年上の奴だろ」

「ハハッ冗談だよ。そいつは俺が若いときから噂になってたからな。ほら、アンタに合いそうなのはここらへんだよ」


 店主はカウンターに何本か並べた。どれも機能性に優れていそうな見た目である。

 何故かベルが俺より前にやって来て、興味深げに長剣を見ている。もしや普段見る華美な剣と見比べているのだろうか。


「危ないから離れてろ」


 これから素振りをしてどれが手に馴染むかを見るので近くにいたら危険だ。


「なんだ、嬢ちゃんも欲しいのかい? 短剣でも用意するか? 」

「いいえ、大丈夫です」


 ベルは大人しく店の隅の方に寄った。俺はそれを確認して何度か剣を振った。並べられた剣を全てやってみたが、どれも大した違いはない。となると値段で選ぶことになる。


「安いのにするか……。切れ味も大きな違いはなさそうだし……」


 大体客に勧める時は、様々な価格帯のものを出してくるのが定番だ。例えば格安のものと、客が買えそうな値段のものと、それよりやや高め、まれに店でもトップを争う値段のものも出したりする。今回は超高額の代物は出されなかった。


「待ってください。一番高い剣にすべきです。高いのにはそれなりの理由がありますもの」

「そりゃあそうだが……作った人が同じなんだからそんなに変わらないだろう」


 振った感じは先ほども言った通り大差ない。


「ふふっ、値段の違いは材料の違いです。それにこれには魔法がかけてあるのでは? 」

「ああそうだ。嬢ちゃんよく分かったな。この剣には強化魔法がかけてあって、壊れにくくなっている」


 壊れにくいのなら買い換える頻度が下がる。


「マジか。つかなんで、さっきの話を聞いてて言わねぇんだよ」

「そこそこいい値段だからな。兄ちゃん払えるのか? 」

「……ギリいける」


 本当にギリギリだ。ベルからの報酬が足されてなければ買えていない。こんな高価な買い物は初めてだ。


「そうか。お買い上げありがとうございます」


 店主はニヤニヤしながら、他の剣を下げていった。


「まだ買うって言ってねぇだろ。他に強化魔法がかけてあるのはないのか? 」

「私が薦めた剣が嫌なのですか? 」


 ベルはわざとらしく目を潤まして俺を見てきた。俺はそんな目で見つめられたことがないので動揺してしまった。


「それも言ってねぇだろ。分かったよ買うよ。買えば良いんだろ! 」


 俺は高価な剣を腰に下げて次の町に行った。




 次の町の宿で無事にベッド二つの部屋をとれた。ツインベッドだとベッドの取り合いをしなくて済む。尤もベルと俺の場合はどちらが寝袋で寝るかなのだが。


「同じ部屋だな! 」

「……あ、そうか。別々の部屋にすりゃよかった」


 全く選択肢に入っていなかった。これはヤバいな。慣れとは恐ろしい。


「同じ部屋でなければ私を守れないだろう」

「それもそうか」


 次からも同室だ。同じ部屋でも違うベッドで寝るのなら何も過ちはないだろう。彼女の寝間着姿を目に入れなければいいだけなのだ。


「……ベル、言い忘れていたが寝間着も庶民の物に買い換えろ」

「何故だ? アレックス以外見ないだろう」

「お、俺以外……。って何が起きるか分からねぇんだから、どんな時も平民らしくしてろ」


 肌触りが良さそうで柔らかいらしい生地は、ベルの体の凹凸をはっきりとさせるのだ。はっきり言って目の毒以外の何者でもない。


「ふーん。てっきり私の美しさに心奪われるからかと思ったぞ」


 ベルは目を細めて楽しげだ。俺をからかってるようだ。


「んな! おまっ! 自分の事を美しいと思ってるのか! 」

「皆がそう言うのだからそうなのだろう? 違うのか? 」


 そりゃ美しいものに美しいと言うだろうよ。どこの世界でもそうだ。ましてや身分の高いご令嬢ならば世辞で言われるだろう。まぁ、ベルの場合はただ事実を言っているだけになるが。


「ちが……くはないが……。自覚しているんだったら、もう少しどうにかしろ」

「どうにかとはなんだ? 」

「どうにか、ってのはどうにかだ」


 どうしても今朝のことが頭をよぎり、思考の邪魔をする。


「ふん、庶民らしく腹を出して寝れば良いのか? アレックスのように割れた腹筋を出せばいいのか? 」

「俺がいつそんなことをした」

「今朝だ。見事な腹筋だったぞ。そして寒そうだったから私が腹を布団で隠してやったのだ」


 今思い出してみると、確か起きた時にシャツがめくれたままだった……気がする。


「それはどーも。だが、布団に潜り込むなよ。どんな教育を受けてるんだ」

「なんだ? 夜這いとでも思ったのか。いやらしい奴め」


 どうやらベルはそういう知識はあるらしい。それなのに俺と一緒に寝るかどうか聞いていたようだ。


「よばっ! お嬢様なんだからそういう言葉を口にするな」

「私がいつお嬢様だと言ったんだ」

「金持ちは皆お嬢様だろうが」


 俺は彼女の風貌や話し方から勝手に世間知らずのお嬢様だと思っていた。

 確かにベルは一度も何処の貴族の令嬢だとかは名乗っていないが、貴族でなくても豪商や豪農かもしれない。そう、いずれにしろお嬢様には違いないのだ。


「……」

「違うのか? まさかどこかで強盗をして金を……」


 それで追手が……。俺は犯罪者の逃走を手伝っていたのか?


「断じてそれはない。小遣いをずっと貯めてたんだ。たまに手伝いをして駄賃も貰ってた」

「駄賃で金貨かい。随分とすごいお手伝いをしたもんだな」

「ふふっ、凄いだろう。知りたいか? 知りたいだろう? 」

「結構だ」


 どうせ内容と金額が釣り合わないに決まっている。おそらく、貯金しているベルのために多めに渡していたのだろう。聞いたら汗水垂らして働いているのが馬鹿らしくなる。そうさ、嫉妬さ。悪いか。


「少しは興味を持て」

「俺は護衛だ。必要ない」

「いいさいいさ。道中話してやるな」




 その日の夜中、警鐘が鳴った。俺はベルを揺すって起こした。


「うむぅう……なんだぁ? 」

「この鳴らし方だと魔獣が出たようだ。逃げるぞ」


 鐘を二回ずつ鳴らす、これが魔獣出現の合図だ。


「……退治に行かないのか? 」


 ベルは上体を起こした。どうやら完全に目が覚めたようで、彼女の目ははっきりと俺を見ている。


「俺は護衛だ。依頼主の安全確保が優先だ。ほら、さっさとしろ」

「この町の人達はどうなる? 」

「知らん。他の冒険者や兵士が何とかするだろ」

「アレックスならすぐに倒せるんじゃないのか? 」

「そんなん見ないと分からん。いいから早くしろ」


 俺はベルに彼女の荷物を渡した。


「望み通りにするが、アレックスは討伐に向かってくれ。私は自分の身は自分で守れる」


 ベルが寝間着を脱ぎだしたので、俺は慌てて後ろを向いた。またも俺はベルの太股を見てしまった。


「はあ? そんな嘘に騙されるか」


 俺がついていないと日常生活ですら危ういのに、ベルが自分の身を守れるほどの力を持っているとは思えない。


「嘘じゃない。何なら私が魔獣を倒すか? 」

「本気で言ってるのか? 」


 ベルの声は嘘を言っているようには聞こえない。


「そうするともう金貨を払えなくなるがな」

「ん、護衛の必要がなくなるからか? いや、倒せるなら元々必要ないよなぁ」

「私の魔法は目立つからすぐに追手が来てしまうんだ」

「……ああなるほど」


 自分で戦える力があるのに、わざわざ護衛を雇ったのは目立つからか。なるほど、難儀なことだ。


「私は町民と同様に安全な場所に避難する。アレックスは魔獣を退治してくれ」

「承知した」




 俺は買ったばかりの剣を握り締めて、魔獣の元に走った。到着するとすでに何人かが戦っていた。いや、戦っているというより立ち向かって行っては吹っ飛ばされているという感じだ。

 魔獣は大きく、そうだな、二階建ての建物ほどの身長がある。


「お前ら下がってな! 」


 俺は飛びかかって魔獣の首筋を狙って剣を振り下ろした。命中はしたが、毛皮と分厚い皮膚でダメージを与えられていない。俺は休まずに剣を振り上げて顎先を狙った。


「チッ擦っただけか」


 どうやら魔獣は反応が速いようで躱されてしまった。俺は魔獣を蹴って屋根に着地した。誰かが魔獣に向かって矢を放ったが、魔獣はこれも弾き返した。

 今のところ、吹っ飛ばされてただけで当たり所が悪くなければ、皆すぐに立ち上がっている。爪や牙での攻撃がないので、受け身を取れれば軽い打撲程度で済んでいるのだろう。


「防御力もあって反応速度もいい。だが攻撃力はさほどない。時間をかけてジワジワと体力を削るか? だがこっちも疲れるし、何より性に合わねぇ。この剣がどれくらい丈夫か試してみるか」


 そう、相手の防御力と速さを上回ればいいだけだ。簡単なことだ。


「お前ら! もう一回下がってくれ! 」




「な、あれはアレックスなのか……? 」


 ベルの視線の先には、全身に電撃を纏って目にも留まらぬ速さで動き回っている生き物がいた。


「おう、嬢ちゃん。あれがあいつの雷獣って二つ名の由来だ。あいつは顔の傷のせいだと思っているみたいだがなあ」

「走るのが趣味の人! いつの間に! 」

「ぬあっ! 俺は飛脚なんだよ! あの野郎なんて説明してんだ! 」




 魔獣は地に伏せ動かなくなった。無事に討伐出来たらしい。


「はぁ」


 俺が息を吐くと、後ろに下がっていた奴らから歓声が上がった。そして遠くで見守っていた町民からも喜びの声が聞こえた。


「アレックス! 」

「ベル……ってうおぅ! いきなり抱きつくなよ」


 この何か当たっている柔らかい物は胸か? 胸なのか? 胸だよな? 


「凄いな! 流石だ! 感動したぞ! 」

「おう、まあな……」


 俺は今とても気持ち悪い顔をしているに違いない。ニヤつくのを我慢して格好つけているのだから。


「そうだ、剣は……」


 俺はこの気持ちを一旦忘れるために、剣の無事を確認することにした。重さはそのままなので折れてはいないだろう。


「欠けても折れてもなさそうだぞ」

「ああそうみたいだな」


 高価なだけあって頑丈なようだ。うん、よかった。魔法のおかげだ。これからはケチらずにちゃんとした剣を買おう。安物買いの銭失いというしな。うん、うん。


「っていい加減離れろ」


 そろそろ俺が理性がなくなって馬鹿になりそうなので、ベルを引き剥がした。


「寒いからちょうど良いかと思ってな」

「俺で暖を取るな。しかもちゃっかり俺の上着を着てるし! 」


 当然ながらベルの体には大分大きい。


「あったかいぞ。最初は寒いからアレックスに届けようかと思ったが、寒いからな、私が着ることにしたんだ」

「ああそうかい。……はぁ、今は着てろ」


 俺は今休みたい。いや、少々興奮気味なので眠れないか。勘違いするな。ベルに抱きつかれたからではない。戦闘後なので気分が高揚しているからだ。


「はぁ……」

「む、何処か傷めたか? 回復魔法で治すか? 」


 ベルは俺の顔を覗き込んできた。暗くて彼女の表情はよく分からないが、声色から心配しているようだ。


「いや無傷だよ。心配してくれてありがとな」

「ふふっ優秀な護衛に何かあっては一大事だ。何かあったらすぐに言ってくれ。出来る限り対処しよう」

「あー……そうか」


 何故今、俺は少し胸のあたりがチクリとしたのだろうか。どこか傷を負わされたのだろうか。


「それにしても、星が綺麗だな。こんなに広い星空は初めてかもしれない」

「そうかい」


 俺は嬉しそうな顔をするベルの隣で、孤児院に入る前を思い出した。あの時は毎日星空の下で眠っていたので、ベルとは暮らしてきた場所が違うのを痛感した。多分これからも違うのだろう。今は長い人生のうち一瞬だけ隣にいるだけだ。


「お嬢様は夜中に外に出ないもんな」

「ああ出ないな。出られないと言う方が正しいが」


 ベルは衣食住に困った事はないが、自由に外出が出来なかった。孤児の俺とどちらが不幸かなんて不毛な争いはすべきでない。不幸比べなんて馬鹿げている。


「外に出られて嬉しいだろうが、そろそろ宿に戻るぞ。依頼主に風邪を引かれちゃ困る」

「旅をしていればまた見られるものな。次はどんな空を見られるか楽しみだ」


 俺の高ぶった感情は平常時と同じくらいになってきた。




 翌朝、俺というよりベルの睡眠不足のためと、魔獣の死体の処理がまだ終わっていないので、もう一泊することになった。前者は説明するまでもなく、後者は血の臭いを嗅ぎつけて他の魔獣が近寄る危険性があるからだ。


「ああそうだ。昼飯を食った後、ベルの寝間着を買いに行くか」

「よい案だ」


 飯を食う時は、ベルがあれもこれも食べたいと言うから大騒ぎである。どれもお屋敷で出されるような高級なものでないのが珍しいのだろう。俺は彼女に食べられるだけ注文するのを覚えさせた。今までは食い切れないほど出されていたらしく、最初は怪訝そうな顔をしていた。


「どうだ。変な食べ方じゃないか? 」

「ああ庶民ぽくなってきたぞ」


 ベルはガブリと肉に食らいつき満足げだ。

 一体いつまでお嬢様の庶民体験の旅が続くのだろうか。俺は金が貰えるならいつまででもいいが、度々身分の差を思い知らされて少々嫌になってきた。

 だが、これは最初から身分の差など分かりきっているのにおかしな話だ。なんなんだろうな。

 そうこうしているうちに、食事が終わった。


「次は寝間着だ。どんなのがいいのだ? 」

「気に入ったのを買えば良いだろう。俺に聞くな」

「ケチをつけてきた癖に……」


 ベルは目つきが悪くなっても美人のままだ。ってそうじゃなくてだな。ケチもつけたくなるさ。体のラインが分かる上に、少し透けてんだから。


「まあ良い。行くぞ」


 行くぞと言った数分後に店に着いた。店内は女性向けの服しかないので、俺は店の前で待つことにした。


「アレックス、何故ついて来ない」

「ここで見張れば良いだろう」

「私が何を買ってもケチをつけるなよ」


 ベルにとんでもない物を買わせないために、俺は渋々店内に入った。入ったのだが、店員も客も女性しかいないので、とても気まずい。だが、ベルも含めて誰も俺が入店しても怪訝そうな顔をしていないので、俺が勝手に気まずさを感じているだけだ。萎縮している方が変なので、俺は気にしないふりをした。


「さっさと選べ」

「今店に入ったばかりだろう。せっかちめ」


 ベルはどう見ても寝間着の役目を果たしそうでない物を手に取って、首を傾げている。そして俺に意見を聞く。いや聞くなよ。自分でも変だと思ってんだろ。


「しっかりした生地にのしろ」

「これから暑くなるから汗を吸うような素材が良いだろうな」


 ベルは夏になっても家出を続ける気のようだ。今は春から夏に移行中だが、夏になるにはまだかかる。


「これで良いか? どうだ? 」


 ベルは今までの服と比べたらごく普通の寝間着を体に当てて、俺に見せてきた。似合わないはずがない。


「それが気にいったんならレジに行け」

「意見を聞いているのに……。まぁ、否定しなかったから正解なのだろう」


 俺は少し店から離れた場所でベルが来るのを待った。流石に店の前で待つ勇気はなかった。


「ああいた。何故店の前で待たないんだ」

「俺がいたら客が入りにくいだろ」


 嘘だ。恥ずかしかっただけだ。


「ふーん」

「ほら、俺が持つから。荷物を寄こせ」


 ベルから荷物を受け取ると、何やら他にも買ったようで少々嵩張っている。


「替えも買ったのだ。駄目だったか? 」

「別にいいが」


 ベルは荷物を縮小軽量出来るので、多少荷物が増えても大丈夫だろう。多分。


「そんなことより! 追手から逃げるために良いことを思いついたんだ」


 と笑顔で言いながら、ベルは俺の空いた方の手を握ってきた。これはもう慣れている。恋人つなぎと言うやつだ。彼女と会った初日に経験しているので、なんてことない。もう慣れた。そう慣れている。


「なっなんのつもりだっ! 」

「こうしていれば、護衛と依頼主には見えないはずだ。どうだ、よい案だろう」

「んなぁっ! 」


 俺は突拍子もない案に驚いただけだ。照れているわけじゃない。


「名付けて恋人作戦だ! 」

「こっ、恋びっ! 」


 俺はあまりにも馬鹿げた作戦なので驚いただけだ。恋人と言う言葉に驚いていない。


「まぁ、元々宿で同じ部屋に通されるくらいだから雇用関係には見えなかっただろうが、念には念をいれよう」


 ベルは俺の手を握り直し、よりがっちりと手を握った。なので手の密着度が高くなり更に熱を感じるようになった。


「そっそうか。なるほどな……。うん、そうだな」

「アレックスの手は大きいし分厚いな。それに温かい」

「お、おう」


 現在俺の手は汗まみれだ。今までこんなになったのなんて余程の強敵に遭遇した時ぐらいだ。ある意味強敵なので、この反応は間違ってないのか?


「私の手はどうだ? 」

「え? 手? ああそうだな。小さいし指は細いし、滑らかだな」


 俺は言い終わって、滑らかってなんだと思った。肌触りを堪能している場合か。気持ち悪い野郎だ。


「ふふっ、今度アレックスにもハンドクリームを塗ってやろう」

「遠慮する」


 断れた。誘惑に惑わされずに断れた。俺偉い。

 って、馬鹿か俺は。思考力が低下しているぞ。しっかりしろ。




 宿に着き部屋に戻ったので、俺は恋人つなぎから解放された。何故か手を離した瞬間に残念だと思ってしまったが、気のせいだろう。


「フッフッフー、では先ほど買ったものを見せてやろう」

「なんでだよ」


 意味が分からないが、ベルは遠慮するなと言いながら袋に手を突っ込んだ。俺は先ほど遠慮すると言ってしまったので、また拒否するのは気が引けた。なのでそのまま彼女がすることを見守った。


「どうだ。似合うか? 」


 ベルは寝間着を広げて彼女の体に当てて俺に見せてきた。うん、良い笑顔だな。


「ベルに似合わないものってあるのか? 」

「そりゃあるとも。で、どうだ? 気に入ったか? 」


 ベルは実に良い笑顔をしている。


「俺が気に入るかどうかじゃなくて、ベルが気に入るかどうかだろう」

「ふふん、実は別のも買ったのだ」

「ん? 着替えだろ? 知ってるぞ」


 流石にそこまで記憶力は悪くない。むしろ良い方だ。……多分。


「それではない。着替えは同じ物を買った。その他にアレックスが好きそうなのを買ったのだ」


 俺が好きそうなものと聞いて、頭に寝間着の役目を果たしそうにない奴が浮かんだ。あれはやたらと布面積が少なかったし透けていた。何故あんなのが一緒に売られていたのか理解出来ない。まさかあれを買ったのか?


「どうだ。良いだろう」


 ベルは先ほどよりも大きいサイズの物を体に当てて見せている。少々デザインが異なるが、とてもよく似ている。俺が理解出来ずに無言でいると、ベルはそれを俺に渡してきた。


「これはお揃いだ」

「は? お揃い? 」


 孤児院にいた時は皆と同じ衣類を身に付けることもあったが、冒険者になってからは鎧以外ない。ましてや女と一緒など一度もない。


「ペアルックというやつだ! これで部屋の中でも恋人作戦が出来るぞ」

「お、おう……そうか」


 今俺はさぞかし間抜けな顔をしているのだろう。絶対ににやついている。そうに決まっている。

 俺はその日その寝間着を着て熟睡した。




 ベルと出会ってから一ヶ月が経った。もう彼女の髪を梳かすのも手を繋ぐのも慣れた。彼女と喋り、食事をするのも、同じ部屋で寝泊まりするのも慣れた。毎日金貨三枚貰うのも慣れた。


「ところで金貨の残りはどれくらいだ? 」

「安心してくれ。手持ちは少なくなってきたが、まだまだ沢山あるぞ」


 金貨も魔法で縮小と軽量化しているのだろう。


「うーん。しかし引き出したいが、そこから足が付くかもしれないので避けたいな」


 足が付くと聞くと犯罪者かと思ってしまうんだが。

 と考えていたら、ベルが衝撃的なことを言った。


「となると体で……」

「は? 」


 体でってことは体で払うってことでいいのか? そうなのか? 俺はよく分からない感情になった。金は欲しいがベルの、……いや何を考えているんだ。つーか、彼女は自分が金貨三枚の価値があると思っているらしい。うん、ある。むしろそれ以上だ。


「肉体労働をするしかないな。どこかで良い仕事を受けられればいいんだが」

「ああそういう意味か」


 何故俺はがっかりしているのだろうか。少しでも期待していたのか? アホすぎる。


「しかし私名義で受けると」

「足が付くから俺の名で受けろってことか。分かった」


 というわけで、次の町で依頼を受けることになった。




「この報酬だとアレックスの一食の食事代にしかならない……」

「平和で何よりだろ」


 報酬が安ければ危険性と難易度が低い。当たり前か。今回は安い報酬の依頼を複数受けた。これならベルでも簡単に出来るだろう。


「大鼠の退治だったな。鼠といったら一匹だけじゃないんだろう? 」


 これからやるのは、とある店の倉庫に住み着いてしまった鼠一家を退治する依頼だ。


「だろうな。だから煙で倉庫から追い出して、そこを退治する」

「先ほど道具店で買ったこのハーブを使うのだな」


 俺達は早速倉庫内でハーブを燃やして煙を出した。ハーブは鼠が好みそうな隙間付近に置き、そして俺達は鼠が出てくるのを外で待つ。


「ベル、地面に何を書いているんだ? 」


 鼠が逃げ出るのを待つ間、ベルは木の枝で何か文字か模様を書いている。術式って奴だろうか。


「鼠に反応して攻撃魔法が発動するようにしたのだ」

「大丈夫なのか? 」

「前にやってるから平気だ」


 ベルの言葉通り、俺達は何もせずに大鼠一家を全て退治した。俺がこんなに便利な術があるのかと感心していたら、ベルが術式を足で消しだした。そのため砂埃が舞う。


「おい何してるんだよ」

「証拠隠滅だ。これで私が退治したと分からなくなる」


 ベルがやったのは平民だと習えないものだそうだ。要するにお貴族様達だけの術なのだろう。便利なんだから、皆が使えればいいのにな。まぁ、便利な物は自分達だけの物にしたいんだろう。

 無事に術式の痕跡を消し終えたので依頼人に報告した。なお、この鼠の毛皮は冬毛だと金になるが、今は夏毛なので焼却処分される。

 俺達は焼却場から次の依頼主の家に向かって歩き始めた。


「あの鼠の肉は食べないのか? 」

「美味くないぞ」


 そう、全く美味くない。肉が臭いしかたい。出来ればもう二度と食いたくないが、何時何が起きるのか分からないので、匂いを誤魔化せる香辛料を持ち歩くべきかもしれない。


「そうか。よし、次は猫ちゃん探しだ! 」

「あー金持ちのペットだったか。どっかで寝てるんじゃないのか? 」




 違った。お金持ちの猫は太りすぎて棚と棚の隙間に挟まって動けなくなっていただけであった。とは言うものの、衰弱していたのでベルが回復魔法をかけて応急処置をした。


「猫ちゃんが無事でよかったにゃー」

「にゃーって……」


 可愛いなとか思っていない。急に何を言い出したのかと驚いただけだ。それなのに頭に残ってしまった。そのせいで俺の頭の中で何度もベルがにゃーにゃー言っている。


「次はいつも夕方に起きる怪現象の調査だにゃー」

「どうせ夜行性の生き物の仕業だろ」




 俺の予想通りだった。コウモリが天井裏を歩き回っているだけだった。実に取るに足らない仕事だった。平和で何よりだ。

 俺達は報酬を受け取った後、宿で本日の成果を見た。


「こ、この今日稼いだ分だとアレックスの一日の食事代にしかならない……」

「俺の食事代で計算するなよ」

「私だと二日分だにゃー」


 油断していたので、俺はドキリとしてしまった。


「にゃーにゃー言うな」


 などとくだらないことを言いながら今日は終わった。




 次の日もそのまた次の日も、依頼を受けて稼いでいった。少しずつ難易度を上げていたので、その分報酬が上がっている。


「今日はアレックスが沢山食べた日の分稼げたな」


 今日もベルは部屋の机にコインを何列かに並べている。几帳面なのか模様の向きを揃えているし、少しもずれていない。


「俺の食費で考えるなって……」


 完全に俺の食べる量を把握されている。

 かく言う俺もベルの食事量を覚えてしまった。


「うーん。アレックスが街道で倒した魔獣の方が報酬が高かった……」

「あいつは肉が美味いし、毛もブラシに使えるから買い取り価格が高いんだよ」


 町から町への移動中、猪によく似た魔獣を倒したのだ。

 討伐依頼は出ていなかったので、買い取りだけだった。


「次はもっと強いのを倒そう。でないとアレックスに賃金が払えなくなる」

「別に後払いでもいいぞ」


 すでにかなり金貨が貯まっているので、金には困っていない。


「いいのか? けど……」


 ベルは一瞬悲しそうな顔になり目が泳いだ。動揺したのか? 追手に見つかったら更に厳しく閉じ込められると思ったとかか?


「けど? 」

「うん。後払いだと何らかの理由で払えなくなる可能性があるから、きちんと今払う」

「そうか……」


 もし後払いなら、この護衛の仕事が終わった後でもベルと会えるかもと期待してしまった。よく考えれば振り込まれるだけだろう。


「だから明日はもっと難易度の高い依頼に挑戦するぞ」


 ベルは握り拳を作って張り切っている。


「んーまあ、今までのを見ていると大丈夫だろうが……」

「手助けは無用だ。アレックスに払う金なのだから、手を借りたら意味がない」

「おい待て。最初から俺、手伝ってないか? 」


 ほとんどの依頼は俺が何かしら手伝っている。ベルの単独ではない。彼女が怪我をしないようにサポートしていた。


「はっ! い、言われてみるとそうだな。き、金貨三枚に上乗せするか? 」

「いや、十分貰っているから今のままでいい」


 さっきも言ったが、大分金が貯まっている。


「そうか。……アレックス、ありがとう。私はアレックスに出会えて良かった」


 ベルが微笑むと、俺の顔が熱くなっていった。耳も熱い。


「なんだよ、急に」


 流石にこの笑顔を見たら照れる。照れない方がおかしい。もしそんな奴がいるなら感情がないんだろう。


「言ってみたくなったのだ。当たり前だと思ってはいけないからな」

「じゃあ毎朝俺にヘアブラシを渡すのやめろ。俺は護衛だ。ブラッシング係じゃねぇぞ」


 俺はベルの髪の手触りを覚えてしまった。


「アレックスが上手いからつい……。駄目か? 」


 上目遣いをしたら否と言えないのを分かっているだろ。クソッ。


「もう慣れたからいいさ」

「ふふっ、では明日も頼む」


 俺は翌朝もベルの髪を梳かしてやった。




 残念ながらこの町は高額報酬の依頼がなかったため、昨日と同じくらいの報酬の依頼を受けた。依頼内容はただの採集だ。崖に生えている花を採ってくればいいそうだが、これは俺より魔法が使えるベルの方が得意だ。風の魔法であっという間に何輪か採集した。


「これでいいな」


 ベルは花の匂いを確かめている。そんなに匂いがしないからか何度も嗅いでいた。

 ちなみにこの花は薬に使われるそうだ。


「じゃあさっさとギルドに戻るか」

「その前に、私は興味深い看板を見つけたのでそっちに行ってみてもよいか? 」


 ベルは目を輝かせて看板がある方を指さした。なんてことのないポーズなのにビシリと決まっている。


「さっきのキャンプ場のやつだろ。行かないからな」

「手軽に野宿を体験出来るのに! 」

「しなくていい」


 何故わざわざ面倒臭いことをしたがるのか。庶民体験中だからか?


「依頼主は私だ。私の言うことを聞くものだろう」

「なら俺は護衛対象の身の安全を考えている。つーわけで、キャンプはなしだ」

「む。アレックス、私は結界を張れるんだぞ」


 結界があれば魔獣は近寄れない。それなりに上位の魔導師でないと結界は張れないはずだから、ベルはかなり魔法が上手いのだろう。


「マジか。ってそれも絶対じゃないから駄目だ。ほら帰るぞ」

「ここは比較的安全な地域だろ。どうせ魔獣が出ても大した事ないし、屋内にいても危険なものは危険だろ」


 屋内の方が危険度は低いのは明らかだ。ベルも分かっていて苦し紛れで言っているようだ。


「駄目なものは駄目だ」


 俺はベルの不満げな声を聞きながらギルドに戻った。

 報酬を受け取ると、ベルが行きたい店があるというのでそちらに向かった。


「アレックス見てくれ! 室内用テントだそうだ! 」


 それは店の奥に展示してあった。

 この店の前は先ほど通過したので、ベルはその時に確認したのだろう。


「部屋の中ならいいんじゃないのか? 」

「では買ってくる! 」


 今日の稼ぎは室内用テントに消えた。俺への支払いの足しにするんじゃなかったのか?

 まぁ、まだあるらしいからいいんだが。にしても、金持ちのやることは分からん。なんだよ室内用テントって。

 ベルがこれで静かになるのならいいか。なりより楽しそうだしな。




「よし、設置出来たぞ。なかなか良いではないか」

「そうかい」


 室内にテントを設置するために、少し広めの部屋を取った。金に余裕があるので別にいいんだが、金持ちのすることは全く分からん。……ってさっきも思ったな、これ。

 元々いつもより高めの値段の部屋をとっていたんだが、今日はそれよりも高い部屋だ。俺はこんなに広い個室は初めてかもしれない。

 ベルの護衛になってから食事や宿の質を上げられたのはいいことだが、彼女の行動には驚いたり呆れたりと忙しい。面白いといえばそうだが、反応するのが面倒臭い時もある。


「早速寝てみよう」


 ベルは寝袋を持ってテントの中に入っていった。その数分後、ベルが顔を出した。


「アレックス、何故来ないんだ? 」

「は? 」


 一人用にしては大きなテントだと思っていたが、どうやら俺も入るためだったらしい。俺はテントで寝たいなどと思っていないんだがなあ。


「早く来てくれ」


 ベルは顔を引っ込めたが、代わりに白い手が手招きしている。彼女は感想を言いたいだけではないか、俺は渋々テントに入った。するとベルが寝袋にすっぽりと入っていたので、俺は彼女の脇で身を屈め気味に座った。


「楽しそうだな」

「もちろんだ! 初めてだからな! いつもと違うことほど、心躍ることはないぞ」


 テント内は少々暗いが、ベルの笑顔は輝いている。


「そうか。そりゃよかったな」

「アレックスも横になってみてくれ」


 俺は拒否するのも面倒だったので、ため息を吐きながらベルの指示に従った。が、すぐにこれは失敗だったと気付いた。彼女の顔が近いのだ。


「どうだ? ワクワクしないか? 」

「へ? ああ、まあ……」


 ベルは睫毛が長いなとか、横顔も綺麗だな、とか思っていない。返事が遅れたのは見とれていた訳じゃない。テントなんて珍しくないからだ。なんならテントなしで野宿なんてざらにある。それなのにワクワクしないかと聞かれたら戸惑うだろ?


「初めてってこんなに良い物なんだな」

「おう……」


 俺はベルに釣られて思わず笑ってしまった。このせいで、翌日ダブルベッドで一緒に眠ることになって大変だった。彼女は俺と隣で寝ても問題ないと判断したらしい。で、何が大変って、ベルを潰さないかどうかだ。別に俺が彼女に手を出すとかそんなんじゃない。俺は護衛なんだから、そんなやましい事をするはずないだろ。ただ彼女が寝ぼけて手足を絡めて来た時はヤバかった。だが日頃の鍛錬のおかげですぐに回避出来た。ってなんで俺は早口になってるんだ。




 ベルの護衛についてから三ヶ月経過した。一向に彼女の追手は来ない。国が広いのもあるが、それでいいのか? かなり良い家のお嬢様だろ? 確かに人が少なめの町や道を選んでいるが、いくらなんでも追手が来ないのは変だ。


「太陽が上がってきて、暑くなって来たな」


 ベルはつばが広い帽子を購入したので、俺よりは涼しいだろう。ちなみに最初、日傘を買いそうになったので止めた。


「だな。少し行くと分かれ道がある。避暑地でデカい神殿がある所と、そこそこ栄えている所と、鉱山の一歩手前だ」

「どこが良いのだ? 鉱山の一歩手前か? 」


 鉱山がある町は人が多いが、一歩手前ではそれほど多くはない。だが人や物の出入りが激しく、危なげな輩も多く来る。山の中なので娯楽がないせいで喧嘩がその役割になっていたりする。


「そうだが、治安が良くないらしいから駄目だ。先に言った二つのうちどちらかにしろ」

「では、そこそこ栄えている所で頼む」

「はいよ」


 ベルは神殿や聖堂や教会が好きではないらしい。それに観光地もだ。とにかく人が集まる場所や貴族が来そうなところには行きたくないようだ。いくら箱入り娘でもこんな美人なら顔を覚えられている可能性があり、目撃情報があればすぐに連れ戻されてしまうからだろう。


「む、待て。鉱山の方に進んだら更に分かれ道がないか? 」

「ない」


 実はあるが、ないことにする。


「アレクサンダー。私がどれだけ準備してきたと思っている。何度も地図を眺めていたのだぞ」

「すまん、嘘だ。本当はある。だが、治安が良くないからベルには行かせられない」

「その町には素敵なショーをする店があると侍女から聞いたぞ」


 俺はそんなのは聞いたことがない。


「駄目だ。俺でもお行儀が良いとか言われるんだぞ」

「ははは、実際お行儀がいいだろう。服はきっちり畳むし、食べ方も綺麗だし、身だしなみも整えているしな。ちょっとがさつなだけだ」

「え、そうか? 」


 そんなに見られているとは思わなかったので、顔が熱くなってしまった。いや、熱中症か?


「そうだとも。口には出さないが、食べる時にお祈りもしているだろう。教会で育ったからか? それも王都の近くの」

「俺がいつそうだと言ったんだよ」


 合ってる。王都の近くの育ちだと分かったのは、訛りがあまりないからだろう。しかし教会で育ってなくても祈りぐらいする。


「違うのか? 公立の孤児院はどこも教会と併設されているだろう? 」

「何故、公立の孤児院だと思ったんだ」

「しっかり教育されているからだ。文字の読み書きだけでなく礼儀作法も教えられている。私立だと残念ながら労働力としか見られていない場合が多いのだ」


 もちろん学問を学ばせる私立孤児院もある。それに公立でもある程度大きくなったら働かされる事もある。と言っても丁稚奉公に行くための実務研修のようなものだ。


「……ひでぇ話だよな。俺も実際に見るまで知らなかったよ」

「だがな、貧困家庭だと親がいても子は働かねばならない。となると親がいるのに働き、親がいなければ教育を受けられるという状況になる。おかしな話だよな。……本当はどの子どもも教育を受けられるようにせねばならないんだ。皆が食うに困らない生活を送れるようにしなければならないのに」

「ベルが気に病むことはないだろ……。おい、そっちに行くな。そこそこ栄えているのはこっちだ」


 俺はベルの細い手を引いて、軌道修正した。


「んで、さっきの素敵なショーってなんだ? 侍女から聞いたとか言ってたな」

「ふふふ。私も耳を疑ったが、その者から聞いた別の侍女が行ったら本当にやっていたそうだ」

「一旦確認して良いか? 何人侍女がいるんだ? 」

「……ごにん? 」


 ベルの言い方からして、もっといそうだ。ただの勘だが彼女は少なく言った気がする。


「五人か多いな。で、どんな内容のショーだ? 」

「男の裸踊りだ! 最初は服を着ているそうだが、徐々に脱いでいくらしいぞ! 」


 帽子で顔に陰がかかっていても分かるくらい、彼女の目は輝いている。もしや鼻息も荒くなっているのか?


「うわ……」


 そうだった。痴女だった。


「ああ見たかった……」

「安全第一だ。諦めろ」


 俺は町に着くまで何度もベルのため息を聞くはめになった。




 宿に着き、ベルが大人しくなったので、俺はてっきり素敵なショーを諦めたのだと思っていた。だがそんなはずなかった。彼女はうわごとのように道中ずっと見たかったと呟いていたのだから。なんだったら、一番楽しみにしていたかのように言っていた。そしてここで俺が同情の眼差しを向けたのが失敗の始まりだった。


「アレックス……」

「どうした? 」


 ベルはヘッドボードに寄りかかり、足を投げ出してベッドに座っている。そして目つきが悪い。それでも美人なのは変わらない。むしろ迫力が増している。


「私はずっとずっと楽しみにしていたんだ。それなのに見られないなんて、こんな酷い仕打ちあるか? 」

「残念だったな」


 先ほど貧困について話していた人と同一人物とは思えない。


「そこで私は思いついた。目の前に大変良い体つきの男がいるではないかと」

「おい、性別が逆だったら大問題だぞ。や、このままでも十分問題発言だ」

「よぉし、金貨五枚を出そう」


 ベルは俺の話を聞かずに手を広げて俺に見せてきた。


「断る」

「ククク、これから毎日出そう」


 ベルはとても悪い顔をしている。


「うおっマジか。……ってやらないからな」


 危うく承諾しそうになった。金の力は恐ろしい。


「ああっ、ずっと楽しみにしていたんだ。何年も何年も……。そのショーを見るのだけを目的に過ごしてきたと言っても過言ではない」

「え、今までの旅で散々はしゃいでなかったか? 」


 ベルは目的を達成していなくてもかなり大喜びしていた。俺が呆れるぐらい彼女は騒いでいた。毎日俺にあれこれ質問したり、庶民の体験をしたいとせがんだり大変だった。まさか鳥車に乗る羽目になるとは思わなかった。なかなかスリリングな乗り心地だったが、彼女は気に入ったのかまた乗りたいと言っていた。


「無味乾燥な日々をただそれだけを心の支えにして生きてきたんだ」


 ベルは俺のツッコミを無視して話し続けた。俺をどうにかしてでも脱がせたいらしい。


「大袈裟だな。屋敷にも兵士ぐらいいただろ」


 お嬢様一人に五人以上も侍女がいるのだから、兵士も相当数いるはずだ。


「いたがどの者も私の前に来るときは鎧を装備しててな、筋肉など見られはしないのだ」

「帰ったら頼んでみろ。どいつも喜んで脱いでくれるだろうよ」


 それもどうかと思うが、俺がこの状況から脱するためにはこう言うしかない。


「嗚呼っ! アレックスが脱がないのに、どうして彼らが脱ぐのだろうか」

「ベル、大袈裟に言っても俺は脱がないからな」


 ベルは小さく舌打ちをした。それ聞こえてるからな。


「俺は護衛だ。仕事内容に脱衣なんてない」

「で、では変更しよう。私の望みを叶えてくれるって」


 ベルは起き上がって横にいた俺にすがるような体勢になった。


「んだよ、それ。なんでもありになっちまうだろ」

「一回だけでいいんだ。なあいいだろう? 」

「よくねえ。どうせ、その一回だけが増えていくんだろ。一生に一度のお願いとか言ってよお」


 子どもの頃に何度も聞いた言葉だ。言ったし言われた。


「お、良い言葉だな。一緒に一度のお願いだ。頼む」


 ベルは庶民の子どもがやることは知らない。だからなんだと言われても困る。


「くどい。やらないと言っているだろう」

「私はアレックスの言うことを聞いてここまでやって来た。やりたいことが出来なくても今まで我慢してきたんだ」


 安全でないものを排除するのは当たり前だ。


「ずっと我慢しててくれ」

「他は我慢する。だが、これだけは……どうか長年の夢を叶えさせてはくれないか? 」


 ベルの顔を見たら許可しそうになるので、俺は彼女とは反対側を見た。もし俺と彼女の位置が逆だったら窓ガラスに彼女の顔が映って見えていたかもしれない。まあ、今はカーテンで見えないがな。


「もしかしてずっと言う気か? 手を替え品を替え、だらだらと言い続ける気か? 」

「嫌ならばさっさと承諾すればよかろー! 」


 ベルが子どもだったら駄々っ子のようにバタバタしていたに違いない。


「俺が睡魔でうっかり許可するかもしれないのを待っている気なら、それこそ諦めろ。俺は何日でも起きていられるぞ」

「その勝負では私が完全に不利だから挑むつもりは毛頭ない。だが、今日はショーへの気持ちが溢れているから言い続けるかもしれない」

「おう、ずっと言ってろ。俺は耳栓を持っているから聞かねぇぞ」


 地域によっては個室がない宿もある。大部屋で雑魚寝ってやつだ。なのでいびきや歯ぎしりや寝言を聞かないために用意してある。


「むむむ……」

「ああ、別に起きていなくてもいいのか」


 寝てしまえば聞こえない。俺はベルに背を向けてベッドに潜り込んだ。


「ふんっ。アレックスなんて寝ろ、寝てしまえ! 朝までぐっすりとな! 」

「ん? 今の言い方、変だったな」


 いつものベルの声ではなかった。何かを思いつき、隠しているかのようだった。三ヶ月も一緒にいればそれくらい分かる。

 俺は起き上がってベルをじっと見つめた。


「なっ何がだ? 」

「まさか俺が寝ている間に脱がす気か? 」

「しょんなことないぞ。ああーその手があったかー。なんで思いつかなかったんだー」


 ベルは噛んでいるし、棒読みだし酷いものだ。


「目が泳いでるじゃねぇか。寝ている奴の服を脱がすとか犯罪だろ。すんなよ? 」

「うっ私が犯罪を犯さないためにも、鍛え上げられた体を見せてくれ……」


 ベルはベッドの上で、打ち上げられて干からびた魚のようになっている。


「うわ、なんかやつれてる……」


 根気負けだ。俺はベルの願いを聞いてやることにした。そう言うとベルはすぐに元気を取り戻した。しまった、もしかして演技だったのか?


「さあさあ、早く見せてくれっ」


 ベルはお行儀良く座り直した。背筋伸びすぎだろ。


「ウキウキしすぎだろ……。ったく……」


 俺は仕方なく、仕方なくベルと揃いの寝間着を脱いだ。凝視されている中で脱ぐのは、やはり恥ずかしいものだ。


「おおっ……。隆起している……。なんと力強いことか……。ンフフフフ」


 ベルのうっとりとしたような、ニヤニヤとしたような顔はしばらく忘れられそうにない。出来れば忘れたいので極力思い出さないようにしよう。でないと護衛がつとまりそうにない。


「その言い方はなんとかならないのか? 」

「ふふふ、ポーズをとってくれぇ」

「何で俺が……」

「筋肉の動きが見たいんだぁ」


 俺はまたも仕方なくポーズをとる。ポーズってこんなんでいいのか? よく分からないまま腕を曲げてみた。ベルが喜んでいるのでいいのだろう。何度かポーズを変えたら、ベルがまた要求してきた。


「脚の筋肉も見たい……」

「ええー……調子に乗るなよ……」

「アレックスの筋肉が素晴らしいのがいけないんだ」

「意味が分からん」


 俺が渋っていると、ベルが金貨をもう一枚増やすと言ってきた。いや、金貨の枚数の問題じゃないんだが。と思いつつも、金は欲しい。だが安売りしていいのだろうか。


「これを逃したらきっと一生見られない気がするのだ……」


 こう言われたらベルの望みを叶えてやるしかない。俺はまたまた仕方なく寝間着のズボンをめくってふくらはぎを見せてやった。


「ほら、これでいいのか? 」


 何やってんだ、俺。


「ふくらはぎもムキムキだ! ……だがもっと上も見たい」

「んーもう少しぐらいならめくれるが……」


 こんな感じで、どんどん脱がされていくのではないか。俺は危機感を覚えたが、いざとなったら拒否すればいいかと思い、俺はズボンを膝上までめくり上げた。なんなら太股の半分くらいまで見えている。


「おおっ! 太股もムッキムキだな! 」


 ベルはご機嫌だ。今まで見たことがないくらい目を輝かせて頬だけでなく耳まで赤くしている。


「もういいか? 」

「も、もう片方の脚も……」


 目を潤ませて言われたら見せぬわけにはいかない。


「まったく……これで終いだからな」


 俺はため息を吐きながらもう片方もめくり上げた。その時だ。何やらドアの向こう側で気配がした。俺は声を潜めてベルに隠れるように指示をしたが、隠れる前にドアの前の奴らがドアを蹴破ってきた。

 そして侵入者は叫んだ。


「殿下! ご無事ですか! 」


 でんか、でんかとは殿下か?

 五人ほどが部屋に侵入した来たのだが、そいつらは皆軍人の格好をしている。それも王国軍の。


「貴様、殿下から離れろ! 」


 奴らはベルが言う追手のようだ。と言うことはベルは殿下のようだ。ベルが殿下?

 俺は武器を持っていないので、奴らに抵抗せずに大人しくベルから離れた。


「ベル、お前、お姫様なのか? 」


 俺は四人に剣を突きつけられている状況よりも、そちらの方が気になった。確かにベルは自分から貴族だとは言っていないが、まさかお姫様だったとは驚くしかない。いや、世間知らずすぎる所にヒントがあったのか?


「なっ! 私でさえその愛称は敬称を付けても呼べないのに! こちらのお方は我が国のただ一人の王女殿下であらせられる、マリアベル様だぞ! 」


 ベルの本名はマリアベルというらしい。この名前なら俺でも知っている。

 俺が納得していると、集団のリーダーらしき軍人は先ほどのベルとは違う意味で顔を真っ赤にしている。激昂とでも言えばいいのか。

 ちなみにリーダーは声が高いし体もデカくない。かなり若そうだ。貴族だからリーダーだか隊長だかをやってるのか?


「アレックスに剣を向けるな。彼は私の護衛を引き受けてくれたのだぞ」

「こんな何処の馬の骨か知れない奴の名を呼ぶなどお止めください! 」


 俺も自分が何処で生まれたのか、どんな両親なのか知りたい。が、知ったところで何か変わるとは思えないので、別にいいかと思っている。


「もう一度言う。アレックスに剣を向けるのを止めろ」

「しかし! 」


 俺に剣を突きつけている四人はベルの指示に従おうとしたが、リーダーの声で剣を下ろすのを止めた。


「アレックスが本気を出せばそこからすぐに抜け出せる」

「んまぁ、無傷かは分からんがそうだな」


 無傷かどうかもだが、部屋を破壊しかねないのでやりたくはない。


「何をおっしゃいますか! 私の部下を舐めないでいただきたい! 大体、顔に傷を付けられるような未熟者に殿下の護衛など出来ません! 」

「アッシュ、お前の父親も私のお祖父様を庇った際に出来た傷が残っているな。お前の父親も未熟者だと言うのか? 」

「そ、それは! こ、この者と父とでは……」


 ベルの迫力にアッシュとやらは萎縮している。


「お前は目の前の気に食わぬ者に気を取られ、身内までも侮辱したのだ。そんなことも分からぬのか」

「うっ……しかし、この者が殿下を連れ回したのは事実でございます」

「先ほども言ったが、アレックスは私の頼みを聞いてあちこち案内してくれたのだ。彼は何も悪いことをしていない。むしろ恩人だ」


 恩人か。照れくさいな。つーかさっさと服を着させてくれねぇかな。寒くはないが流石に恥ずかしい。

 ベルはチラリと視線を俺に向けた。いや、四人にか。


「お前達はさっさと剣を下ろせ。私の命令は聞けぬというのか」


 ベルの睨みが利いたのか、四人は納剣した。アッシュはと言うと、俺が寝間着を着る間もずっと睨んできていた。


「寝所にまで来るとは無礼にも程がある。一体どのような教育を受けたんだ」


 さてはベルは俺の筋肉の観賞を邪魔されて機嫌が悪いんだろ? 


「殿下に王宮に戻って頂くためです」

「ならば朝でもよかろう」


 そうか。ベルとの旅はこれでおしまいか。やはり寂しいものだな。もう会うこともないのだろうと思うと心が痛い。


「すぐにでも戻って頂きませんと、陛下のご即位十周年の記念式典に間に合いません」

「別に姪の私が参加しなくてもいいだろう」

「殿下がいない式典など華やかさに欠けます」


 他の王族がいるだろうに、こんなこと言っていいのか?


「ベル、こう言ってんだから参加してやれよ」

「貴様は黙っていろ」


 説得に協力したのにこの言い方はないだろう。ふざけんなよ。俺が舌打ちをすると、アッシュはまた俺を睨んできた。


「いつまでここにいるつもりだ。お前は用済みだ。さっさと出て行け」

「ああ? 俺もこの部屋の料金払ってんだよ」


 出て行くのはお前らだろ。


「ハッ! 貧乏人め! 殿下をこのようなボロ宿に泊まらせておいて、何を言うか! 」

「ボロ宿だあ? 平民にとっては雨風凌げりゃ立派な宿だよ! 国民の大半はこの宿と同じような家に住んでんだ! 馬鹿にすんじゃねぇ! 兵士ってのは国民を守るためにいるんだろ? それなのに侮辱すんのか! 国境の軍人達はそんなこと一言も言わねぇぞ! 」

「何を知ったように! 」


 俺がアッシュと睨み合い、一触即発になりそうになった時、廊下が騒がしくなった。鎧が擦れる金属音がするので増員だろうか。


「マリアベル殿下! 及び御夫君! 王宮にお連れする準備が整いました! 」


 ごふくんって、なんだ?


「なっ! どういうことですか、殿下! 」

「んーっと……、あれか? 契約のやつだろうか? 」

「はい! 殿下は三ヶ月前に婚礼の契約をなさっておられます! 」


 三ヶ月前といえば俺とベルが出会った頃だ。だが俺達がやったのは……あれ、共にすると誓約するとか言ってたよな。思い出せ。そうだ。生涯を共にすると契約する、だ。って生涯?


「……お前達、新婚旅行の邪魔をするな! 」


 ベルが俺に抱きついてきたので、俺も思わず彼女の腰に腕を回してしまった。


「なっ何をおっしゃいますか! 」

「見ろ! お揃いの寝間着だぞ! 」

「おう。ペアルックとやらだな」


 こんなところで恋人作戦が役に立つとは、って意味が分からん。恋人通り越して夫婦じゃねぇか。


「ど、どういう……」

「はい。先ほど調べましたら殿下が婚礼の契約をなさっているのが分かりました」


 ただでさえ、フラフラとしていたアッシュは崩れ落ちた。ベルに心酔していたのか。四人の部下達は同情の眼差しを向けている。


「ははは、何度も繰り返さなくても良いではないか。流石の私も照れてしまう。なぁアレックス」

「そうだな、ははは」


 このままベルと一緒にいられるのは正直言って嬉しい。嬉しいが、結婚ってことだよな。結婚、結婚?


「アレックス、馬車を待たせるのは悪いからさっさと着替えようではないか」

「そうだな」




 俺達は着替えて馬車に乗った。流石王族が乗る馬車だ。座面がフカフカだし、装飾も豪華だ。正面にアッシュが座ってさえなければ最高の乗り心地だっただろう。


「ほれ、ベル。これを掛けてろ」


 今は夏だがこの地域は夜冷えるので俺がベルに毛布を渡すと、アッシュは「そんな汚いもの」とか言ってきやがった。


「ふふっ、アレックスの匂いがする」

「やめろって」


 ベルは俺にも毛布を掛けてきて、スルリと俺の手を握ってきた。俺はもうベルと手を繋ぐのは慣れているのでドキリとはしない。しかし、彼女の手の冷たさに驚いた。さらに彼女の手は震えている。これは寒さじゃない。恐怖からか?


「アレックスはあったかいから寝てしまいそうだ」

「もう夜なんだから寝てろ」

「ああ……」




 ベルが俺に寄りかかって寝ているのを、アッシュが歯ぎしりをしそうな形相で見ていた。


「フン、何故孤児院育ちの奴などと」


 ブツブツとうるさい奴め。


「聞こえてんぞ。俺について文句言うのはいいが、他の孤児院で育った奴らを悪く言うな」

「何を善人ぶっている。どうせお前らは金のことしか考えていない癖に」

「お前らって、今は俺とアンタが話しているんだろ」

「チッ」


 なんだコイツ。無視すればよかった。いや、より苛つかせてやろうか。と言ってもどうしたら良いのか分からないので、暇つぶしに話しかけてみるか。そのうち苛つかせる方法を思いつくだろう。


「それにしても凄いな。スレイプニルって」


 スレイプニルとは八脚馬である。通常の馬より速く走れる。


「まあ平民は見たことないだろうよ。どうせこの速さも平民は持て余すだけだろうし、何より凡庸なお前らが使役出来るはずがない」

「いや、ベルを覚えてて喜んでたから記憶力がいいんだなと。ベルは数回しか会ったことがないって言ってたからさ」


 ここでピクリとベルが動いた。


「むぅ、アレックス呼んだか? 」

「名は出したが呼んでねぇ」


 ベルは俺しか見ていない。ククク、正面の奴が目つきが悪くなっている。


「こそこそ話をしてるのか? 」

「スレイプニルの話をしていただけだ。ベルと仲が良いのかって」

「何度か彼らが引く馬車に乗せて貰っただけだ」

「神殿に行かれた時ですよね? 」


 正面の奴は表情筋を鍛えているのか、瞬時に人相が変わった。


「……そうだな」

「今回も神殿を中心に探したのですがなかなか見つからず……」


 そりゃあベルは神殿の類いには近寄らなかったのだから見つかるはずがない。


「殿下が出て行かれる前に調べていたのに変だと思い、侍女達に何度も聞き取り調査をしました」


 すぐに見つからないように、わざと興味があるふりをしたのかもな。目眩ましか。


「しかし一向にそれらしい情報が得られなかったので、侍女達の周囲を調べました。そうしたらあの地域の資料を集めていたのが判明したため、殿下がいらっしゃるのを待っておりました」


 侍女達はベルの味方のようだ。それとも本当に彼女らは知らなかったのだろうか。


「ほう。追いかけるのではなく、待ち伏せに切り替えたのか」

「ええそうでございます。流石、殿下。何の痕跡も残さずに移動なさってましたね」


 それ、誉めるところか?


「アレックスのおかげだ」

「んまあ、追手がどうのって言われたら、人目につきにくい場所を選んで行くわな」


 俺はアッシュに睨まれた。自分達の思い込みのせいなんだから、俺を睨むんじゃねえ。


「はぁ、また寝てもよいか? 」

「おう」


 俺は先ほどより強く手を握られたが、彼女の手はもう冷たくなかった。




 スレイプニルの馬車はたまに休憩はするが、夜もずっと走りっぱなしで王宮に向かった。つまり俺達はずっと座った体勢なのだ。たまに体を動かさないと体に悪そうだ。いくら国王陛下の即位十周年の記念式典まで日にちがないからって、王女様にこんな苦痛を味合わせるなよ。

 と言うか、そんなのをやるなんて町中の誰も言っていなかったよな。どうせ金持ち達だけで騒ぐのだろう。


「直に王都内に入ります」

「そうか」


 ベルは顔色は良くないが、笑顔だ。これは愛想笑いだな。怒られるかもしれないから緊張しているんだろう。それともまた閉じ込められると思っているからか?

 俺に何か出来るだろうか。いくら夫とはいえ、平民で孤児の俺に発言権などあるのだろうか。目の前のコイツの俺に対する発言からして、他の奴らからも差別されるんだろうな。


「アレックスの待遇はどうなっている」

「さあ? 私には分かりません」


 知ってそうな顔をしているが? 俺の事を言いたくないだけだろ。


「そうか。アレックスは腕が立つから父上も気に入ると思う」

「ベルの父親ってどんな人だ? 」

「元帥だな」


 人となりを聞いたつもりだったんだが、まあいいか。

 元帥とは軍のトップだ。そんな人に挨拶もなしに娘と結婚していただなんて、何をされるか分からない。そして、ベルをずっと閉じ込めていたのもこの人物である。ヤバいな。


「マジか」

「マジだぞ」


 アッシュは鼻でフンと笑いやがった。自分でどうにか出来ないのにな。子どもかよ。

 俺は一瞬逃げようかと思ったし、どう謝罪するかも考えたが、どれも無理そうなので諦めた。




 王宮に到着してしまった。裏から入ったのだが、それでも気後れするほどの圧倒感がある。観光で来たのなら、思わず感嘆の声を漏らしていたかもしれない。

 俺はベルの手を取って、彼女を馬車から降ろした。彼女は何日も座っていたからかよろついたので、俺は腰を支えた。ベルの腰は細い。こんなんで大丈夫なのかと心配になる。

 俺は一応エスコートらしきことをしようと、曲げた腕をベルに見せた。すると彼女は俺の腕に手を乗せた。これでよかったらしい。


「マリアベル殿下、よくぞご無事に戻られました。御夫君、お初お目にかかります」


 年嵩の女性はベルの専属の侍女達の頭だそうだ。侍女達は五人どころか十人はいる。彼女達に囲まれ、城の中に入った。皆俺に興味津々なようでジロジロと見てくる。他の使用人達は分からないが、侍女達は俺に嫌悪感を抱いておらず、むしろ好意的な反応を示しているのでホッとした。

 少し歩くと如何にも王族といった格好の男女が立っていた。当然彼らの周りにも兵士や侍従や侍女達がいる。


「父上! 母上! 」


 ベルは俺の腕から手を離して、彼女の両親の元に駆けていった。なるほど、美形な家族だ。そして父親はかなり強そうだ。強いってどころじゃないだろう。

 俺は若干恐怖があったが、たじろいでいる場合じゃない。挨拶をせねば。


「おお! 君か、ベルの夫は! 」


 先を越されてしまった。だが、きちんと挨拶をすべきだろう。俺は孤児院時代に習った通り、最敬礼をして挨拶をした。多分こんな感じだよな。


「まあ! 礼儀正しい方ね! 」

「それはそうだ、ベルが選んだのだからな! ハハハハハ! 」


 思ったより好感触だ。俺の首は繋がったままだ。胴体も分断されていない。

 ベルと両親は再会を喜んでいたが、どうやら衣装の寸法合わせがあるそうで、一旦分かれることになった。




「はぁ、殺されずに済んだ……」


 俺は衝立の中で着替えた。多分、城内で見窄らしい格好をするなとのことだろう。

 にしても、この服は生地が良すぎてくすぐったいな。

 などと思いながら俺が衝立から出ると、すぐ近くにベルがいた。まさか覗いて……それはないか。


「ころ……? 何故そうなる? 」

「父親ってのは娘の結婚相手に厳しいもんだろ」

「ふーん。そう言えば、父上もアレックスの技量を見定めようとしていたな」


 後でボコボコにされるのではなかろうか。


「ほほほ、ではアレックス殿の寸法を測らせていただきますよ」


 この人は仕立て屋だそうだ。白髪と髭で品の良さそうな老爺だ。俺は随分と縁遠い所に来てしまったらしい。まぁ、馬車に乗った時点で思っていたんだけども。周囲にベル付きの侍女達がいるのも余計にそう思わせる。


「ふむふむ、かなり鍛えられた立派な体つきでいらっしゃいますね。兵士にもなかなかおりませんよ」


 老爺は手慣れた感じで俺の体を測っていった。下半身の寸法の際、ベル達に聞こえないようにコソッとどちら側か聞かれた。


「アレックスが着るのは軍服か? 」

「ええ、冒険者で勲章もいくつもお持ちのようですので、そのように指示を受けております」


 俺はこのまま軍人になるのだろうか。規則正しい生活が嫌で冒険者になったのに、まさかこうなるとは夢にも思わなかった。


「勲章か。そう言えば私も見せて貰った事がなかった。式典でどれをつけるか決めようではないか」

「ああ俺にはよく分からんから頼む」


 俺は自由になったので、鞄から勲章をゴロゴロと出した。その際にベルに雑だと注意された。ケースに入っているんだから別にいいだろう。


「銀が二つと、銅が十だったよな。銀二つは決まりとして……ん? 」


 俺がどうしたのか聞くと、ベルは険しい顔になっていた。何か拙い物でもあったのか? まさか偽物?


「これは白銀ではないか! 」

「なんだ、銀じゃないのか。ちなみにそれは一番最初の仕事で貰ったんだ。そのおかげで仕事を貰えて食いっぱぐれなかったんだが……駄目なやつか? 」


 俺はこの時に顔を負傷したのだ。


「馬鹿を言え。これは王族に関する仕事をした時に貰えるものだぞ」

「いやはや、それを最初に手にされていたとは……。どうやら商船の仕事のようですね」


 王族の荷物を運ぶ船らしい。知らなかった。立派な船だとは思ってたが、そんなに大切な物を運んでいたとは。


「船長だか商団の団長を庇って怪我をしたんだ」


 あの時は船を下りた後でも事件に遭遇するし大変だった。


「おおっどちらも記念式典にいらっしゃいますから、お喜びになるでしょう」


 え、何を話せばいいんだ。


「二つだけだと寂しいから……ん? 」


 今度は何だ。ベルは銅の中から違うケースを三つ集めてじっと見つめている。俺には何故この三つが違う入れ物なのか分からない。


「これはまさか! 」

「まさかではないでしょうか! 」


 二人だけで盛り上がるな。ただの銅の勲章だろう。

 ベルが順に箱を開けていった。


「やはり赤銅に青銅に黄銅! 」

「なんだか、そいつらだけ色が違うんだよな。地域差か? 」


 確かこれらは王都から離れた場所での仕事で貰った。


「これは国境防衛で功を挙げた民間人に授与されるものでございます」


 なお、民間人には銅までだそうだ。


「それで国境の軍人達は、と言っていたのか……」

「そんなことも言ったな」


 俺はベルに呆れたような目で見られ、老爺には尊敬の眼差しで見られた。


「各将軍方もいっらしゃいますから、さぞかしお喜びになるでしょう」

「何を話せばいいんだ……」


 俺がため息を吐いたとき、とうとう恐れていたことが起きた。ベルの父親に呼び出されたのだ。俺は最後にベルの顔を見ておいた。彼女は笑顔で俺を見送ってくれた。




 俺が案内されたのは兵士の訓練場のようだ。やはり俺はベルの父親、元帥にボコボコにされるようだ。


「様々な勲章を持っているじゃないか! まさか国防のものまであるとは思わなかったぞ! 」

「はい。国のためになれたのなら嬉しく存じます」


 返答がこれでいいのか分からない。


「流石ベルが選んだ男だ! 」

「王女殿下のお眼鏡にかなうことが出来、光栄でございます」


 これでいいのか? 俺は混乱してきた。


「……ベルは幼い時にこう言った。お父様より強い人と結婚すると」


 駄目だ、もう駄目だ。俺はここで……。ベルすまん。もう会えそうにない。


「アレックス、剣を取れ」


 元帥の目がギラリと輝いた。俺は怖いと思ったが、同時に強者と戦えるのが嬉しくなってきた。この人は強い。きっと今まで会った誰よりも。

 俺は口角が上がるのを堪えながら剣を手に取った。


「では手合わせをお願いいたします」


 俺は一気に踏み込んだ。だが受け止められた。思いっきりやったつもりだったのに、難なく受け止められた。なんて反射神経だ。腕力も相当のもので、押し返されそうになる。

 最初から技をやるか? それとも様子を見るか? さてどうする。

 悩むな。元帥は俺の力を見ようとしているのだから、技をすべきだ。技名なんて考えてない。ただある日やってみたら出来た。そこから鍛錬して実戦で使えるものにした。


「! 」


 元帥を一歩退けさせた。

 よし、ここから連続で斬り付ける。うわ、これでも受け止めるのか。手を止めなければ押しきれるか? 無理だ。なら剣の振り方を変えるか。


「ほう」


 変えたのに、余裕のある反応をされた。クソッ!


「まだ何か面白いことをするか? なければこちらから行かせてもらおう」

「!! 」


 なんて鋭い剣捌き。確実に命を刈り取ろうとしてくる。木剣じゃなかった時点でそうなんだが、これはずっと凌げるものじゃない。少しでも判断を誤れば大怪我をする。逆に言えば急所や弱点を狙って来るので、それを意識していればいい。

 違うな。そんなの想定済みだろう。そろそろフェイントを入れてくるんじゃないかって、早速そうしてきた。


「ほう、頭に入れていたか」


 ヤバいな。本当にヤバい。俺はよく反応出来ているよ。いやぁ、すげぇな。だが、守りばかりになっている。攻撃に転じなければ負けてしまう。分かっているが、俺にはこれ以上どうしようもない。

 ヤバいと思っているのに楽しくて仕方ない。恐怖よりもどうしたらもっと強くなれるのかと探求心の方が勝っている。


「! 」

「! 」


 さて次はどうするかと思案していたら、突然寒くなった。冷たい、寒い、なんだこれ。元帥の技かと思ったら、彼も手と足が凍っている。


「父上! アレックス! 何をしているんだ! 」

「ベル……」


 ベルは俺に抱きついてきた。うん、この柔らかいのは胸だな。うん。


「もうっ、オスカーったら」


 元帥の名前はオスカーのようだ。元帥にはベルの母親が寄り添った。


「二人とも城を壊す気かしら? ベルがバリアは張ってくれたからよかったものの、気付くのが遅れていたら大変だったわよ」

「アレックス、怪我はしていないか? 」

「ああ、どこも……」


 ベルは泣きそうな顔をしている。うーん、可愛い。って心配させたんだから反省せねば。


「ベルよ、私には聞いてくれぬのか? 」

「父上は知りません」


 ベルは俺の胸に顔を埋めた。俺は慰めるように彼女の背を撫でた。これで合ってるよな? 


「そんな! 」

「はいはい、貴方には私がついてるから大丈夫よ」


 俺が視線をベルから周囲に移すと、何人もの人々がいた。それも何重にもなってだ。俺は元帥だけでなく、城内の人々からどんな人間なのか見定められていたらしい。

 俺の力は、俺自身は認められたのだろうか。分からん。文句があるならかかってこい、ってのも違うか。


「アレックス、お前は私の元で働け」

「え、あ、はい」


 どうやら軍に入るのは決定のようだ。しかもいきなり元帥の下か。強い奴がいっぱいいるんだろうなあ。


「駄目です。アレックスは私と一緒にいるのです」

「おいおい。三ヶ月も新婚旅行をしたのだから、もういいだろう」


 すでにベルが何を言ったのか伝えられているようだ。


「や、あれは、その……」

「あら? どうしたの? 」

「もっと一緒にいたいのです! 」

「あらあらぁ」


 ベルは嬉しい事を言ってくれるが、契約は間違ってしたものだ。本当は夫婦じゃない。俺はただの護衛だ。暫くしたら離婚するんだろうか。




 俺の悩みは晴れぬまま、夜になった。俺とベルは夫婦なので同じ寝室だ。当然である。

 俺が風呂から上がり寝室に行くとベルはいなかった。彼女本来の寝室にいるのだろうか。


「……? 」


 なるほど、ベルはベッドの中に隠れているようだ。よく分からんので、俺は少し様子を見てみることにした。

 しかし、ベルはすぐに出てきた。どうやら熱かったらしい。


「何してんだ? 」

「驚かせようと思って……」


 ベルの視線は俺の胸元に集中している。そうか、シルクの寝間着の隙間から大胸筋を見ているのか。数日前に散々見たのに飽きないな。


「ハッ! つい見とれてしまった」

「そうかよ。んじゃ俺はソファで寝るからベルはそのままベッドで寝てくれ」


 ベッドも豪華だが、ソファも豪華で寝心地は悪くなさそうだ。


「一緒に寝ないのか? 」

「寝るわけないだろ」


 何かあってはいけない。俺には我慢出来る自信がない。


「夫婦なのに何故だ? 」

「ベルは間違えただけだろ。本当は夫婦じゃない。だろ? 」


 自分で言っていて悲しくなる。


「間違えでもなんでも夫婦は夫婦だ」

「あのなあ、ああもう! いいか、ベルは俺をどれくらい信用してんのか分かんねぇけど、俺は男でベルは女だ」

「知っている。見れば分かる」

「分かるって本当に分かってんのか? 」

「分かってるとも。生殖行為だって知っているぞ」

「知ってて言ってんのか、一緒に寝るって」


 正気か?


「最初から言ってるだろう」

「最初……」


 最初、そう言えば初めて会った日にも直接言葉に出していないが言っていた。彼女は距離感が近いのではなく、ずっと俺のことを?


「っもういい……」


 ベルは背を向けて再びベッドの中に潜っていった。明らかにいじけている。

 俺は意を決して彼女に寄り添うにベッドに横になった。


「ベル……」


 ベルは名前を呼んでも振り向かなかった。となれば抱き寄せればいい。シルクの触感にはまだ慣れないし、彼女の体温も知らない。なので彼女の手を握った。これなら慣れている。


「アレックス、怒っているか? 」

「んー……別に怒っちゃいねぇよ」


 驚いてはいる。

 ああ、元帥に殺されるかと思ったが、今は生きているので問題ない。強い人と戦えて学べたしな。


「巻き込んでしまった」


 俺は彼女の顔にかかった髪の毛をどける。


「誰にでも間違いはあるさ」

「……間違えてない。私は何も間違えていない」


 俺は彼女の髪を撫でる手が一瞬止まるも、すぐに再開した。


「んー、ああ……そうだよな。最初から、だもんな。なあ、俺が嫌がるとは思わなかったのか? 」

「ふっ、私の顔や体をジロジロと見てきた者が私を嫌いなはずなかろう」

「ハハッ。なんちゅう自信だ」


 ベルは王女様で筋肉が好きで、俺の妻だ。しかも策略家のようだ。




 ここで終わると思ったか? まだある。

 翌日、国境を守る将軍達が俺に会いたいと言うので、俺とベルと一緒に彼らに会った。


「おおー! あん時の坊主! 」


 豪胆そうな人だ。


「随分デカくなったが、顔の傷は変わらないな! 」


 剛健そうな人だ。


「私の所に来たときはすでに今くらいでしたかね」


 表情から本心が読み取りにくそうな人だ。


「ほう……」


 他の三人よりは若い。将軍らしいが武人らしさはあまりない。

 俺はこの四人のうちの三人には会ったことがあるはずなのだが、誰も思い出せない。


「俺んとこに引き抜きたかったが、元帥相手じゃなあ」

「あん時、無理にでも引き止めておけばよかった」

「今から元帥に交渉します? 」

「それはいくらなんでも無理ですよ」


 やはり思い出せない。適当に話を合わせておこう。と思ったが、彼らは勝手に話しているので、頷くだけでいいか。


「ウロチョロしてて大丈夫かと思っていたら、次々に切り倒していくもんだから驚いたもんだ」

「銅が三つとは、あと一つだったのに惜しかったな」

「ははっ! 北部は近年静かですから貰いようがないですよ」

「失礼な。争いを未然に防いでいるんですよ。五年前だって危なかったんですから」


 五年前か、ちょうど俺が冒険者になった頃だ。


「確か、ちょうど来ていた隣国の王女が誘拐された事件だったか? 」

「すぐに見つかったそうだな」

「一般の方が誘拐発生直後に見つけてくださったんですよね? 」

「ええ。その見つけてくれた少年にお礼を言いたいのですが、行方が分からなくて。なんでも顔を怪我してて、鎖鎌を持っていたとか」


 鎖鎌、北、五年前……。俺の初仕事は国の西から乗船し北で下船した。もしや……。


「アレックスがこの白銀の勲章を貰ったのも五年前よね? 」


 ベルがテーブルに並べられている俺の勲章を手で示した。すると将軍達は一斉にその勲章を見つめた。その眼光の鋭さには肝を冷やしてしまった。


「この商船の仕事を貰えたのも、当時俺が鎖鎌を使ってたからです。なんでも怪鳥が出るので、それに対抗出来る冒険者が必要だとかで」


 怪鳥を討伐し下船後、俺が町を歩いていたら事件に遭遇したんだったかな。俺が誘拐に気付いたのは、泣き叫んでいる幼子の毛先がまばらに切られていたからだ。それに髪や肌、手の指が綺麗なのに平民が着るような服を着せられており、違和感しかなかった。何よりその子を抱えていた人物と似ていなかった。その人物は慌てて使用人だと名乗ったが、主の子どもを大切に扱っていないのは不自然だ。それで俺が誘拐犯に大声で声をかけたのだ。


「本当ですか? ああ、なんということか……」


 北方の将軍は俺の手を握り感謝を述べている。

 うん、この人も確実に強い。穏やかそうな顔と喋り方だが、確実に強い。もちろん他の三人も強そうだ。


「これで黒銅の勲章も貰えそうだな! 四種コンプリートだ! 」

「んん? コンプリートしたら何かあるのか? 」

「ないですね」


 ここで、ベルが侍女に呼ばれて立ち去った。明日の式典で着るドレスの最終確認だそうだ。

 一人にしないでくれなどと情けないことは言えないので、俺は笑顔で彼女を見送った。


「しかしまあ、王女様の心を射貫くとは、……やるなあ。ククク」

「ははは」


 射貫いたのか? 俺がベルに興味を持っていたのを見透かされて……ああ、ベルも筋肉質な人間が好きだからちょうどよかったのか。うん。互いの好みだったからよかったんだな。


「今頃、国内外の貴族や王族が泣いてるだろうな」

「怒り狂ってるかもしれませんよ」

「では国境を厳重に警備しませんと、乗り込んでくるやもしれませんね」


 四人の将軍は実に楽しそうである。


「国でただ一人の王女様だから、皆が自分の息子やら孫やら甥やらと結婚させようとしてたんだよ」


 戦略結婚というやつか。


「それで昔、誘拐未遂が起きたんだ」

「え? 」


 とある貴族がベルを誘拐しようとした。貴族の言い分はベルをお茶会に誘っただけだそうだが、ベルを誰にも告げずに連れ出したのは事実だ。この事件は元帥の部下がすぐに気付いて阻止したそうだ。当然ながら元帥は憤慨し、その貴族は登城を禁止されたらしい。


「そのせいで王女殿下はそれはそれは、大切に大切にされたのですよ」

「要するに、……ってご存じですよね」


 ベルは自由に出歩けなくなった。元々王女なんだから平民と比べたら自由はないだろう。しかしやり過ぎだ。元帥の気持ちは分かるが、警護を増やせばいいだけだろう。

 俺は腹が立って奥歯を噛んだ。


「まぁ怒るな怒るな。元帥も好きで王女殿下を閉じ込めていたんじゃない」

「神殿側からの要請もあったらしいぞ」

「元帥も王女殿下が自由に外で遊べないのを悲しんでおられました」

「すみません。神殿って? 」


 神殿とベルが閉じ込められたのと、どう関係するのか。


「ご存じないのですか? 王女殿下が聖女候補だったのを」


 聞いてないぞ。設定盛りすぎだろ。だがまあ、言われてみりゃベルは神殿の類いを嫌がってたもんな。そういうことか。合点がいった。

 あれだけ魔法が使えて、王女で、しかも美人なら神殿側もベルを聖女にしたがるだろう。


「当代の聖女はもう九十歳になられるから、そろそろ交代せにゃならん」

「何十年も神殿から出られないのか。俺は嫌だねぇ、そんなの」


 ベルが以前言っていた「もの凄く年上の者と生涯を共に」とは神様と結婚って意味だったのか。


「ふっ。市井の人と交流せずに何を、……おっとこれ以上は言わない方がいいですね」


 続くのは何を救うのか、だろうか。確かに言わない方がいい。


「王女殿下の場合は国側で難色を示していましたからね」


 政略結婚に使えるからな。聖女になったらそれは不可能になるので嫌がるに決まっている。


「だが誰と結婚しても角が立つ。さてどうしようかと言う時に」

「家出とは傑作だ」

「それも平民の青年と結婚していたなんて」

「ただし、国のために働いて勲章を授与された人間です。誰も文句は言えないでしょう」


 四人の将軍はニヤニヤと笑っている。なんだこの笑みは。俺が親兄弟と別れたばかりの子犬のように萎縮していると、さらなる強敵が現れた。そう、元帥だ。


「楽しそうじゃないか。私も混ぜてくれ」


 俺達は起立して元帥を出迎えた。

 俺は早くベルが戻って来てくれと願った。しかし女神はやって来ない。おのれドレス、どんだけ時間かかってんだ。


「そういえば、お二人は手合わせをしたとか」

「ああ、若いのにあれだけ冷静に判断して動けるとは大したものだよ」


 四人の将軍は先ほどのニヤニヤとした顔から一転し、完全に猛獣か猛禽類の表情になっている。ベルよまだか。


「ほう? では式典の後に手合わせを」

「いえいえ、何なら今すぐにでも。どうです? 」

「ここなら怪我をしても優秀なヒーラーがいますしね」


 四人の将軍だけでなく、元帥もクククと笑っている。俺が子どもだったら泣いていただろう。小便も漏らしていたかもしれない。

 俺が冷や汗まみれの笑顔で耐えていたら、助けが来た。


「アレックス殿の散髪の準備が整いました」

「すぐに行きます。皆さんとお話しが出来てとても楽しかったです。失礼致します」


 俺は一目散に逃げた。




「逃げられたな」


 元帥は義理の息子の背を見送ると、出された茶をぐいっと一口飲んだ。


「我らを目の前にして良く耐えた方でしょう」

「もう少しで泣き出すんじゃないかと、ククッ」

「それにしても、元帥。まさか王女殿下が宿敵と同じ二つ名の男と結婚するとは驚きですね」

「雷獣ですか」


 元帥はああ、と小さく言った。雷獣とは彼が若い頃に幾度となく戦った相手の二つ名だ。本名も素性も知らない。ただ強い奴だとしか知らない。本当に強かった。一度も勝負がつかなかった。彼は自分に倒せぬ者がいると知り、さらに腕を磨くきっかけになった。


「まさか息子ですかね? 」

「いや、顔貌が似ていないし技も違う。ただの偶然だろう」


 元帥は最初、またあの強者と勝負出来るのかと、今度こそ倒せるのだと思った。別人なのは分かっているが、血が沸いた。


「彼と戦ったのはそれを確かめるためですか? 」

「いいや、ベルの夫になるのなら強くなければならない。だからどの程度の男か見てやっただけだ」


 元帥はこう言うも、あの青年と戦っていた時は若い頃を思い出し、楽しくて仕方なかった。そして彼を鍛えればもっと楽しませてくれるだろうと胸が高鳴っている。可愛い娘が帰ってきただけでなく、育て甲斐のある若者がやって来た。こんなにも嬉しいことがあるだろうか。


「おや、城を壊しそうになるほどの力を放出されていたと聞きましたよ? 」

「元帥と張り合えるほどの実力の持ち主なんですね。あの青年は」

「流石ベルだ。よい男を選んだ。我が娘ながら天晴れだ」


 アレックスはこれからもっと強くなる。出自に文句を言う輩はいるだろうが、直にそれは消えるだろう。あってもただの僻みにしか聞こえなくなる。


「完璧すぎるのだ。彼の功績もだが、いた孤児院も」


 アレックスがいた孤児院がある教会の名前はマリアベル教会。マリアベルが誕生したときに寄進されたものである。


「流石我が娘だ」


 元帥はニヤリと笑い、残りの茶を飲み干した。




 元々連載のつもりで用意していた作品なので、大幅にカットしました。出せなかったネタがまだあるので、気が向いたら連載するかもしれません。

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