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33.(忍目線)殿下とボクの学院祭の思い出1

「なあなあしのぶちゃん」

「なに?」

殿下でんかってアレが素?」

「アレって? ああ、あれ」


 つんつん、と右肩をつつかれ横を向けばクラスメイトの一人の男子がボクを見て言う。


「まあ……素に近いかもね」

「あーなるほど。成程ナルホド」


 そう言いながら何回か首を縦に振る彼、磯貝くんの横に、もうひとり、男子生徒が増える。


「何なに? なんの話? 談合?」

「違ぇよ!!」


 べしっ、と手の甲で見事なツッコミを入れる磯貝くんに、叩かれた方のクラスメイト、大村くんは「あ、オレ分かった! デートのお誘いデショー?」と笑顔を浮かべながら人差し指をたてる。


「あら、デートのお誘いだったの? 磯貝くん」

「まあ忍ちゃんの顔はドタイプなんだよなぁ。卒業までに一回くらいはデートして欲しって、違うわ!」

「華麗なるノリツッコミー!」


 きゃきゃきゃきゃ、と楽しげに笑う大村くんに、磯貝くんが再度、軽めのツッコミを入れる。


「でー? 実際のところ、なに話してたん? きーちゃん、殿下に用事ー?」


 きーちゃん、と呼ばれた磯貝くんは、「んー?」と自身にのしかかっている大村くんの存在を華麗に受け流している。


「相変わらずの距離感ね、君たち」

「まあ生まれた時からの幼馴染だしね」

「きーちゃんとは生まれた時間も10分差なんだよー」

「へえ。誕生日が同じだったことは知っていたけど、そんなに近いのね」

「そなのー!」

「性格は全然ちかくないけどな」

「そりゃねぇ!」


 けらけらけら、と声をあげて笑う大村くんに、磯貝くんは肩をすくめる。


「で、きーちゃん、何で殿下でんか見てたん? 用事ならオレ声かけてこよっか?」

「いや、用事っつうか」


 そう言って、磯貝くんがまたチラと殿下を見やる。


「何ていうか……殿下、ちょっと変わったな、と思って」

「変わった?」

「あ、体調悪そうとかそういうんじゃなくてさ。何ていうか……」


 思わず問いかけたボクに、磯貝くんはひらひら、と手を振ったあと腕を組み首をかしげる。

 そんな次の言葉を考えているであろう磯貝くんをジイと見つめていれば、「殿下の変わったところー?」と大村くんが口を開く。


「えーそうだなぁ、1年の時よりも背が伸びたでしょー? なんか進級するたびに忙しそうー。あ、ちょっと音痴なところは変わってなかったよね。あとねぇー、朝の登校挨拶が終わって教室に着いた時にみんなにおはようって言うところも変わってないよねー。あとー」

「あ、分かった」

「ん? 何なにー?」


 指折り数えながら入学からの殿下の変わったところをあげていた大村くんの言葉の途中、磯貝くんがポンッと手を叩く。


「最近、ちゃんとクラスにいる、って感じがする、のか?」


 うんうん、と頷いたあとに、ボクに問いかけてくる磯貝くんに、「え、きーちゃん、どうゆうこと?」と大村くんが不思議そうな表情を浮かべる。


「なんていうか……今まではそこにはいるけど居ないというか、存在はしてるけど、なんか違うというか」

「それ、妖怪伝説みたいだねぇ」


 けらけら、と磯貝くんの発言を聞いて大村くんが楽しげに笑う。


「なんか違うって言ってもねぇ? 嘉一かいちはずっと存在はしてはいたけど……実感がない、みたいな感じってこと?」

「あー、それに近いのかなぁ。なんか凄い人、っていう印象がずっとあって、ずっと近寄りがたかったんだけどさ」

「最近は違うのー?」


 ボクの問いかけに答えた磯貝くんに、今度は大村くんが首をかしげながら問いかける。


「んー、なんかこう……変な話かもなんだけどさ、先週の学院祭の衣装合わせのときに、皆と話してる時の殿下でんかを見てたら、『あ、なんだ。やっぱ殿下も同年代なんだな』って思って」

「ふふ。きーちゃんの中で殿下は俳優さんとかみたいな存在だったんだね」

「俳優?」

「そ。ポスターとか、絵とか。そういうモノでは見たことあるけど、実在するのか? ってずっと思ってた人が、舞台にあがってるのを見たー、みたいな」

「あー、そんな感じでもあるかも。しのぶちゃんの言ってた感じでもある」

「……ああ、うん」


 ノートに簡易的に絵を描きながらに言う磯貝くんの言葉に、小さく呟いて頷く。


「しーちゃんもそうだったん? 護衛役なのに?」

「そうねぇ」


 大村くんの問いかけに、曖昧な笑顔を浮かべ、ひとり考える。



 初めて嘉一かいちを見たのは、一枚の小さな小さな写真。

 そこに映る少年に、「こんなきれいな男の子がいるのか」と驚いたことは今でも覚えている。


 ボクがあの時、本物の嘉一を見て思ったことは、磯貝くんの感情と似たようなものかもしれない。


 ー 「実在したのか」


 そう思った感覚は、今でも忘れられずにいる。


 例えそれが、皇太子殿下暗殺のための、仕組まれた事柄だったのだとしても。

 本物の嘉一を見た時の、あの時の光景も感情も誰のものでもない、ボクひとりのもの。



「しーちゃん?」


 覗き込むように問いかけてくる大村くんの声に視線をあげれば、彼の背中越しに見える、ひとりの少年。

 記憶の中の彼と変わらないのは、毛先が少しはねている黒髪と、茶色い瞳。

 その持ち主は、ただ静かに、ボクを見て、静かに笑う。


 そんな彼に、いち早く気がついたのは、眼鏡をかけた少年で、そんな彼らに、ボクはふふ、と小さく笑顔を浮かべたあと、目の前のクラスメートへと視線を戻す。


「だって小さい時の嘉一の写真、ほんっっとに可愛かったんだもの」


 うふふ、と笑いながら言えば、「あー、それ知ってるかもー」と大村くんは笑う。



 そうしてまた、他愛もない会話を始めたボクを、少し遠くから、少しだけ目尻をさげながら笑う彼らの視線に、ボクはひとり口元を緩めた。










お読みいただきありがとうございます!

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