17.お化け弐号さんを捕まえます (2)
「さて、おばけ二号こと遠藤くんたち? 生徒会長から君たちに聞きたいことがあるのだけれど、その前に君たちから何か言いたいことはあるかな?」
腕を組み、サンルウムに置かれたテーブルに軽く寄りかかりながら言う殿下に、私たちより先に室内にいた彼らが、ハッ、とした顔をする。
「べ、べ、別に」
「い、言ってやれよ!」
「ないよ! あるのはお前だろ!!」
「はあ? お前だって散々言ってたじゃねぇか! なあ遠藤!」
「そうだよ、遠藤。お前、色々あるんだろ?!」
行進中に突然、水を落とされて混乱する蟻のように、おたおた、おろおろ、という表現がぴったりな顔をして、彼らは遠藤さんへと話の矛先を向ける。
「……掌返しが半端ねえなぁお前ら」
呆れながら言う吉広に、「ヒッ」と彼らは怯えた表情を浮かべる。
「お前ら友達なんだろ? 友達を売るようなことして恥ずかしくねえのか?」
「吉広、そもそも彼らは悪友、悪いことをつるむだけの間柄であって、友達ではない可能性がある」
「……ふうん」
長太郎の解説に、眉を潜めながら答えた吉広とともに、私も思わず「そういうもの……ですか」と小さく呟く。
「ま、どちらにしても、言いたいことはあるみたいだから、それは後でじっくり聞くとしよう。まずは、生徒会長、君の出番だね」
ぽん、と生徒会長さんの背を軽く叩き、殿下が彼を前へと押し出す。
そんな二人の動きとともに、私たちとともにいた忍がゆるりと動き、私も彼のあとを追った。
「ひとまず、山下君を返してもらう」
「な、そんなの誰に許可とって?!」
「許可?」
遠藤さんの言った言葉に、黙ろうと決めていたであろう殿下が、低い声をこぼす。
「君にそんな権限なんて、あるのかな? 遠藤」
ひやりと、背に氷を落とされたような感覚が走る。
怒っている。
この場にいる皆がそう自覚した瞬間。
山下さんを抱え込む彼らの背後にまわり、首の後ろに手を振り下ろす。
「がっ」
衝撃で意識を飛ばした彼らが怪我をしないように彼らを抱え込む。
「放っておけばいいのにぃ」
「それはだめでしょう? むやみに怪我をさせる必要はありませんし」
「ま、壱華ならそうよねぇ」
「忍も、でしょう?」
「どうでしょう?」
ふふ、と妖しげに笑ったあと、忍は軽々と、力が抜け、四肢をだらりと伸ばした彼らを地面へと座らせる。
そんな彼に続き、自分も、と持ち上げかけた時、スッ、と私の手から、重みが消える。
「葉山」
「此処から先はわたくしがやりますよ、壱華お嬢様」
「いや、ですが」
「お嬢様は、殿下の護衛でしょう? 殿下にお傍に居なくてどうするのです」
「……すみません、では、お願いできますか?」
「もちろんです」
にこり、と笑顔を浮かべ、忍と私が気絶させた彼らを、葉山は軽々と運んでいく。
そんな葉山の背を見送り、私は彼の言葉通り、殿下の傍へと駆け寄る。
「おかえり、壱華」
「はい、ただいま戻りました」
にこ、と笑った殿下に、いつも通りの言葉を返せば、彼は少し曖昧に笑う。
きっと護衛である私たちしか知らない殿下の表情。
いつものような、オムレットケーキのふんわりしたものでもなく、クリィムソーダのようにひんやりパチパチ弾けたものでもなく。
ほろ苦いチョコレイトのように、殿下は時々笑う。
「……何でしょう……」
その笑顔に、胸の中でチクリと何かが刺さった気がして、誰に問うでもなく、小さく呟いて首を傾げた。
お読みいただきありがとうございます。