金の花
エッセイ
ある朝目覚めると、昨夜遅くまで私の心を締め付けていたある物が消え去っていた。その物、というのはこの世の中に嫌気がさすこと、人を信じられないことの起因だったりする。自分という人間が将来的に心がぱっくりと割れてしまうのではないかという、大きな恐怖があった。そういったもの一切が梅雨のように終わりを告げた。ある一種の催眠のように感じられる。なんとも心地のいい朝だった。こういう、突然の事に驚きつつも心当たりを探していた。そして一つだけ思い当たる節があった。
昨晩のことである。私は現状、心が病んでいた。荒れた生活を繰り返すのを見かねた兄に心中を問われることになった。居間に呼び出され、いったいどういうつもりでここ数ヶ月過ごして来たのか、大学には通うつもりがないのかと聞かれた。私は全く悪びれる様子はなかった。ただ下を向いて、ぼそぼそとその時の心情を語った。だが私は嘘をついていたように思う。私は神経症を患い、人生の大まかな部分を生きてきた。そして現在、崖に立たされながらも、のうのうと逆立ちをするような物の考え方しか出来なくなっていた。そういうわけで、大学など出ても自分は仕事も何も出来ない人間になるだと絶望していたのである。それならいっそやめてしまうことが前向きに生きる道なのではないかとも考えていた。とても悲しいことである。それは、明らかな間違いであるのに。人は皆、希望を持って生きていくことが出来ればそれなりの人間になれるはずであるのに。
最終的に、私は兄の前で憎たらしくも泣いた。そして洗いざらい心中をぶちまけた。泣いて泣いて、満足した赤子のように、その日は早くに眠った。そして今朝に至るのだが、起きてすぐにはまだ心の中は乾いた涙でカラカラとしていた。その気持ちを保ったまま、趣味として自作小説の一端を書いた。書き終え、自身に問うた。長くて不要な思考ゆえに結論だけ示すと、大学を辞めるリスクを蹴ってまで辞める理由はあるのかと問うたのだ。昨晩はこの問いに対して、通う意味がないから、と一口で片付けていた。しかし今朝はそれをしなかった。仕事を探す上で大いにその価値は高まる。それに、その仕事をやって上手く行かなかってた際には、今思っている道を進めばいいじゃないか。そう考え直したのである。それに対し、良い反論は浮かばなかった。私は失敗を先読みする癖があった。だがその根拠になりうる出来事もたくさん味わってきたのである。しかしそれは一人きりで生きる道しか認めない場合でしか通用しない……
しばらく色々な思考をめぐらしたが、単純に人前で泣き、膨れ上がった物を起爆させたことで、心が変わったのである。別次元から来た自身に諭されるように唐突に。そしてその爆発は闇夜を駆け上がり、月の正面に金の花を描いたのである。
おわり