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風たちのたたかい

作者: ナマケモノ

ひんやりした風たちにとって、お日さまのあかりがあまりとどかないこのごろは、とてもたのしいものでした。

なかまたちといっしょに空にできたすべり台から、人やいきものたちのいる海や野山のやまにすべりおりてくるのです。

そして谷のブランコをぎいぎいゆらし、林のシーソーでぎっこんばったん、山のおすなばで土をいじりつつ、それにあきたら風どうしでおにごっこ。

つかれたら海の水のみばでごくごく水をのんで一休み。こうしてひんやりした風たちは、いつも空と野山のすみずみまでかけまわっていました。

ときどき人や犬をくすぐってくしゃみさせたり、とんでいる鳥をおっことそうしたりといたずらすることもありましたが、そんなときはお日さまが風たちをしかってあまりやりすぎないようにしていました。

 

しかしそんなたのしいときもいつまでもつづくわけではありません。

お日さまのあかりがだんだんととどくようになってきて、それまで空のすみにおいやられていた、ほかほかした風たちが元気づけられてきたからです。

今までひんやりした風たちがあそんでいたのをずっと見ているだけだったので、ほかほかした風たちはうらやましくてしかたがありません。


「こら、こんどはぼくたちがあそぶばんだぞ」

 

いつまでも空と地面にいすわるひんやりした風たちにむかって、ほかほかした風たちがとっしんしていきました。


「なんだおまえ。ここはおれたちのもんだぞ」

 

ひんやりした風たちも、まけじとほかほかした風たちをおしかえします。

とはいえさんざんあそび回ってつかれてる上に、お日さまの明かりはますます空にとどいて、ひんやりした風たちをしかります。


「あなたたちはもうたくさんあそんだでしょ。そろそろおゆずりなさい」


けど、まだまだあそび足りないひんやりした風たちはお日さまの言うことを聞きません。

やがて風たちはとっくみあいのけんかをはじめてしまいました。


ものすごい数の風たちがいっせいにあつまり、いたるところでおしあいへしあいしています。

あまりにすさまじいいきおいに、風たちはぐるぐるとさかまくうずになり、空と地面をゆらすほどの大嵐になりました。

ごうごうという音がひびき、海の波たちも海岸のほうへとにげだしていきます。

あんまりぐるぐるうずをまきすぎて、風たちも目を回し、だんだんとなにがなんだか分からなくなっていきました。

やがて自分がどっちの風だったか、それどころか自分がどの風だったかすらも忘れていき、風たちはぱらぱらとこまかいちりになってちらばっていったのです。

塵になっても彼らはけんかをやめようとしません。

とにかく手当たりしだい、塵という塵にむちゃくちゃにぶつかっていくのです。

たくさんの塵たちがどんどんと空にふりつもっていき、やがてそれは雲になってもくもくと広がっていきました。

たたかいの場は空から雲へとかわり、塵たちはぶつかり合いながら、あつまったりちらばったりをくりかえします。


塵たちはさらにはげしくぶつかり合い、とうとう火花になってしまいました。

火花たちはまたさらにぶつかり合い、一つのほそいたばになって雲の中をごろごろとかけ回ります。

あまりの熱気ねっきに雲は湯気ゆげへとかわり、火花たちはさらにいきおいづいて、まるでお日さまのようにあたりをてらしました。


その中ですっかりくたびれてしまった塵たちは、雲からにげだし雨になって野山へとおちていきました。つかれきった雨たちを、いちめんにさいたさくらの花がやさしくうけ止めていきます。

しかし雨たちはあまりにもたくさんで、桜の花のベッドもとてもぜんぶはうけ止め切れません。

雨のおもさにたえられなくなった花びらのベッドが、はらはらと地面にふりそそぎます。

それでも桜の花たちは、つかれた雨たちをうけ止めようと、けんめいに花をさかせつづけるのでした。


やがて雲ははれ、お日さまのやわらかな明かりが空と地面をてらしはじめました。

とうとう風たちのたたかいにけっちゃくがついたのです。勝ったのはほかほかした風たちのほうでした。


「やった。よおし、たくさんあそぶぞ」

 

ほかほかした風たちが空のすべり台をすべりおりると、そこにひろがっていたのは谷のブランコや林のシーソー、山のおすなば……たのしそうなものでいっぱいです。

うれしくなった風たちがさんざんにかけ回ったあとには、色とりどりのチューリップがさき、ウグイスやヒバリたちが合唱会をひらいていました。

人々もようやく春がきたと、コートやジャンパーをぬいで足どりかるくさんぽしています。


そんなあたたかな春の野山を、ひんやりした風たちが空の上からうらめしそうにながめていると、


「ほらほら、あなたたちはもうたっぷりあそんだでしょう。また来年になればいくらでもあそべるのだから、それまではゆっくりおやすみなさい」


そう言ってお日さまは光る手をのばし、ひんやりした風たちをやさしくなでていきます。

風たちはねむくなり、また次の冬がくるまでごうごうといびきをかくのでした。


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