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最終話 初恋は実らないものと聞いています。

 オーガスト殿下の青い瞳が、すべてを凍りつかせそうな冷たい視線でアルバート殿下を射ました。

 心なしか、私の腕の中にいるガーネット様も怯えているようです。


「そうだね。お前の母君は息子の初恋を叶えるためと、目の上のタンコブの僕が公爵家とつながりを持つのを防ぐため、父上に甘えて宝物庫に入り龍王神様から授かった指輪を盗み出したんだ。……隣国には、龍神様の加護を受けた兄弟を妬んで龍王神様から授かった指輪を無理矢理嵌めたら外せなくなったという故事がある。それを知っていたんだろうね。母上は宮廷内に無意味な派閥が出来ないよう、お前の母君に話しかけて仲良くしようとしていたから」


 隣国の故事では、嵌めた兄弟が反省して外そうとしたら指輪が外れたそうです。

 アルバート殿下のお母君が、嵌めた自分ならいつか私の指輪を外せるかもしれないと言ったので、指輪の事情が秘密にされていたようです。


「……アルバート殿下」

「セシリア!」


 私は、ガーネット様の頭を撫でながらアルバート殿下に申し上げました。


「私が殿下の初恋だなんて光栄です。ですが初恋は実らないものと聞いています。殿下はフェイリュア様をお選びになったのではないですか。私は、アルバート殿下とフェイリュア様のお幸せを願っております」

『うむ。セシリアとアルバートの婚約解消は、この王国の守護を龍王神(父上)から任されておる、わらわ姫龍神ガーネットが聞き届けた!』


 ガーネット様がそうおっしゃった以上、私達の婚約解消は国王陛下にだって覆せません。

 アルバート殿下はがっくりと地面に膝をつきました。

 気がつくとフェイリュア様の姿がありません。私がガーネット様にお願いしてアルバート殿下を奪われた仕返しをするとでも思われたのかもしれませんね。でもそんなことするはずがありません。だって私の初恋の相手は──


「もうすぐ午後の授業が始まるね。今日は僕も普通に授業を受けようかな。……もう研究室に閉じ籠る必要はなくなったし」

『うむ』


 なぜかガーネット様が私とオーガスト殿下の真ん中に入って、ふたりの手を握ります。

 アルバート殿下以外の人々もカフェテラスを出て、それぞれの教室へ向かい始めました。

 私とオーガスト殿下の教室は同じです。歩きながら、彼が言います。


「こうしていると、なんだか僕達親子みたいだね」

「そ、そうですね……」

『昔を思い出すのう。ふふっ』


 ガーネット様は楽しそうです。……教室までいらっしゃるおつもりでしょうか。まあ、この王国を守護していらっしゃる姫龍神様を追い出せる教師はいないと思いますが。

 見た目こそ幼女ですけれど、ガーネット様のお心は子どものままではありません。

 幼いころの私は、彼女を姉のように思っていました。


「セシリア嬢は」

「……セシリアでかまいませんわ」

「じゃあ君もオーガストって呼んで欲しいな」

「はい、オーガスト」


 私達の会話を聞いて、ガーネット様が満足そうに頷きます。


『うむうむ。懐かしいのう嬉しいのう』

「セシリアはさっきアルバートに、初恋は実らないものって言ってたけど、本当にそうなのかな?……僕の初恋は君なんだけど」

『そうじゃったのう。わらわにまで嫉妬するので参ったわ。さっきアルバートを睨んでいたのを見たときは、昔のことを思い出して血が凍ったぞ』

「申し訳ありません、ガーネット様」

『ふふふ。あの婚約式の日と同じことを言うぞ。セシリアを幸せにすると誓うのなら、ふたりの仲を認めてやるのじゃ』

「あの、あの……」


 言葉が出てこない私にオーガストは、答えはゆっくりでいいよ、と微笑みます。

 オーガストが私に真実を語らなかったのはアルバート殿下のお母君の発言のせいだけでなく、私がアルバート殿下を初恋の相手と信じて愛しているのなら、アルバート殿下に愛されて幸せになれるのなら見守っていようと思われたからだそうです。まあ、それはそれとして指輪を外す研究は続けていらしたのですが。

 初恋は実らないものと聞いていましたけれど、私の初恋は実るのかもしれません。

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