第四話 第二王子殿下の初恋の相手
オーガスト殿下が事情を説明してくださいました。
「本来なら龍王神様お立会いのもと、龍神様と加護を受けた子ども双方に納得させてからつけるものなんだ。しかしアルバートの母親が勝手に強行したため、指輪の神力が歪んで外すことが出来なくなった。歪みのせいでセシリア嬢は体調も崩してしまった。……龍神様の神力をお借り出来ない高位貴族の令嬢は貴族として生きられない」
この王国に限らず、王侯貴族は国を守護する龍神様の神力をお借りすることで治水や魔物退治をおこなって民を守っているのです。
そして平民であっても、いいえ平民ならなおのこと国を守護する龍神様のお姿もお力も感じられない人間は厭われることでしょう。
公爵家から放逐されてしまったら、生きることさえ危ぶまれます。
「そう公爵を脅して、アルバートの母親は息子とセシリア嬢の婚約を結ばせたんだ。第二王子で王太子の婚約者なら、龍神様を認識出来なくても貴族として扱われると言ってね」
そうおっしゃりながら、オーガスト殿下がぶ厚い硝子の嵌め込まれた眼鏡を外しました。
空よりも美しい青い瞳が私を見つめます。
「セシリア嬢。栞を届けたときに言っていたよね、貼り付けてある花の指輪は初恋の相手にもらったものだって。あの指輪を君に贈ったのは僕だよ。……つまり、君の初恋の相手は僕だってことじゃないかな?」
『ん? よくわからんが、わらわが保証するぞ。セシリアはオーガストに惚れておった。オーガストが作った花の指輪を婚約指輪にして、わらわが立会人になって婚約式をおこなったくらいじゃからな』
「……オーガスト殿下は正妃様と同じ紫色の瞳だと思っていました」
『わらわはセシリアのこと自体は忘れておったが、なにかを忘れていることには気づいておった。それ故オーガストに神力を貸し与えて、指輪を外すための研究をさせていたのじゃ』
龍神様の加護を受けると龍神様の神力の影響を受けて髪や瞳の色が変わると言われています。
オーガスト殿下の青い瞳は、ガーネット様の神力の影響で赤みを帯びて紫色に変わっていたのです。
ちなみに眼鏡をかけていたのは、生まれたときの彼が青い瞳だったと知るだれかが紫色の瞳を見て、ガーネット様の神力を分け与えられていると気づくのを防ぐためだったそうです。そうなったらきっとアルバート殿下ではなくオーガスト殿下が王太子となるべきだと主張する派閥が出来て、国は乱れていたことでしょう。
『今はもう、オーガストに与えた神力は引き上げて親友のセシリアに戻しておる』
ガーネット様のお言葉に自分の髪を見ると、アルバート殿下に老婆のような白髪と言われた銀髪が赤く色づいています。
ああ、昔もそうでした。
一番の親友だから神力を分け与えると言われて、大好きなガーネット様と同じ色の髪になって、どれだけ喜んだことでしょう。
「君だ!」
そのとき、アルバート殿下が叫びました。
殿下は立ち上がり、私を見つめてまくし立てます。
「私の初恋の相手は君だ! 髪の色は同じでもフェイリュアは記憶の少女と顔立ちが違うし、そもそも男爵令嬢が気軽に王宮へ入れるはずもない。私がひと目見て恋をして、母上に婚約したいとお願いした相手は……セシリア! 君だったんだ!」
 




