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トラックとベンツ

烏川時生(からすかわときお)。トキは享年17歳だった。


私は見通しの悪い道路のカーブ付近で足を止めた。

橋が見える、少し先は海だ。波と風の音しか聞こえない。

橋まで歩きそっと一輪の青いヒヤシンスを瓶に入れて置いた。


少し冷たい風が凪いで、視界に自分の名前が見えた。

吊り下げ名札を身に着けたままであった事に気がつく。

このまま花を買ったのかと思いながら、私は無感情に名札を取り外した。


名札には「手塚彩海(てづかあやみ)」。名前の下には会社所属部が記載してある。

指紋認証だから入退室カードは不要だといつも思うが、会社は時に不必要な事をしたがる。

社会に出てまだまだ青二才だが、私はもう疲れ切ってしまっていた。


私は今、20歳。当時の彼より3歳年上になっていた。

時間が経てば解決するかと思われたけれど、空虚な気持ちはいつまでも埋まらなかった。


トキとは幼稚園からの幼馴染だった。

私の名前は、あやみ、だが、アヤ、と略されたので、私もトキオの名前を、トキと略して呼び合った。いつも二人で行動していた。兄弟のような関係だった。

喧嘩もしたが、なんだかんだ仲は良かったと思う。


関係性が変わったのは高校二年の頃。

トキは頻繁に告白される事が増え、深く考えない彼はすべての女子との交際を承諾していたようだ。

最後は幼馴染の私に攻撃の矛先が全て向き、トキに近づかないし口も利かないと言う事で彼女たちの怒りも収束を向かえた。


トキに絶交を告げたあの日も、一人でここを歩いていた。

我ながら絶交とは、子供っぽかったと思っている。

だがトキも同じ位子供だった、傷ついたのだろう。


トキが私を追いかけ呼び止めた、あの時の告白の言葉を思い出すとただ切なくなる。

彼はその直後に私を庇ってトラックに跳ねられ、この橋から落ちてしまった。

台風が接近していたため捜索は途中で打ち切られ、捜索が再開されたのは7日後だった。

彼は未だ行方不明者だが、その時の事故の状況を知っている私には、彼がどこかで今もまだ無事に生きている、とは思えなかった。


私を追いかけてこなければ。

私を庇わなければ。

私さえ……


ネガティブな思考を遮るようにドンと体に衝撃が走った。

はじめ何が起きたか分からなかったが、体が反転するうちに、視界の隅に黒塗りの車が橋の手すりからはみ出しているのが見えた。


ここは見通しの悪いカーブだ、スピードを上げすぎて事故が起こる事はよくある。

男が叫びながら車から降りる、私に見えたのはそこまでだった。

叫んでいる言葉をアテレコするなら示談金が取れない!とでも言っているのだろうか?


最近、誰かの呟きで黒塗りの当たり屋が増えたと言う注意喚起の話を聞いていた。

ああ、あれかと何の感情もなく水面に飲み込まれた私には、もう何も聞こえない。

ずっと彼の代わりにこうなればいいと思っていたが、沸き起こる感情は想定外の物だった。


痛い、苦しい、まだ死にたくない!


衝突の衝撃であちこち骨折したらしく、腕も足も動かせず呼吸も出来なかった。


意識が遠のく中で頭の中に響く声。


『慈愛の女神の眷属として、あなたを悠久の時の中に転生しましょう。

真名を言いなさい。あなたを導く神のしもべの元であなたは蘇り目覚めることでしょう。』


まな?…名前の事か。

とっさにアヤと自分の名前を答えようとして、最後まで答えられず意識が遠のいた。


『……あなたの特性を知り世界の均衡を整えるのです…』


頭の中で誰かが喋っていたが痛みと苦しさの方が勝り内容はもう分からない。

唐突に、体が柔らかな何かの上に放りだされて、バウンドした。

我に返るまで数秒、自分がいる場所は天蓋付きの巨大ベッドだと気づくのに数秒かかった。

身を起こしてやけに肌触りの良い物を着ていると気が付いた、シルクの下着だ。


ベッドから先は薄暗く詳細は良く見えないが、高級ホテルのスイートルームだろうと思うほど、豪華な絵画や花瓶が置いてある。何もかもが高価そうな雰囲気を纏っている。

体の傷みがない。濡れてもいない。夢ならどこからどこまでが夢だったのか。


「……アヤちゃん?」

背後から懐かしい声が響いて背筋を正した。

早鐘を打つように動機が早くなる。

振り返ると、薄暗かったが、それでも相手の顔は判別できた。


「トキ…?」

肌が泡立つ。もう二度と会えないと思っていた人がそこにいる。

奇跡的に助かったのだろうか、しかし……


「……誰?周囲の人たちは…」

トキは多種多様な様子の、個性的な女の子に囲まれていた。


この状況は……


最近ツイッターで黒塗りのベンツリプライが宣伝漫画に多いなと思い、悪乗りで書いた物です。

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