始まりの湖
秋の森の奥深く、一人の男がいた。
満月が青白く差し込む夜、湖に反射する月明かりに照らされ佇む男は一人だった。
豪華な金の刺繍をされたマントを羽織り、ただ静かに月を眺める彼はある王国の騎士団長だ。若くして剣を極め、使命を信じ国と民の為に騎士団に入った。
だが彼は同時に悩んでいた。己の在り方は正しいのかと。今は亡き父の意思を継ぎ若くして騎士団長となった彼だが、多忙な故に館には帰れず、内気だが自分を慕ってくれた妹にずっと寂しい想いをさせてきた。残されたたった一人の家族なのに。
騎士としての自分と兄としての自分、どちらが本当の自分の使命なのか。決心するため妹に会いに来たのだ。
短い休暇の中久しぶりに訪れた思い出の湖に想いを馳せていた。もう少ししたら館が見えるだろう。もう少しだ。
――ラディア
冬の風音に紛れ妹の名前を呟いたとき、突如彼の周囲を激しい光が包み始めた。
男はその不可思議な現象に驚いた。光は目眩を起こしそうなほど大きな光の塊となり木々を照らす。赤や青に点滅し色を変えながら降りてきたそれは目の前で妖しく揺らいでいる。彼はこれから何が起こるのか、また何をされるのかも分かってはいない。
『人の子か』
だんだんと光が形を成し、ヒト型となり湖の上に立って話しかけてきた。女性の声だ、それも不気味なほど心地よく頭の中に響いてくる。
『おまえは矛盾を抱えているな?』
――誰だ
『情けないものだ、古の時代から何も…』
――誰だと聞いている!
『だが、良い』
『わたしはおまえのような者を待っていたのだ。矛盾を抱え悩む者を、過去の選択に後悔する者を』
――…!
心の奥を見透かされる感覚に男は恐怖した。誤魔化してきた自分の深淵を覗かれたような感覚が彼を襲う。自分は夢でも見ているのだろうか、自分の意識がこの夢を見せているのだろうか?
そうしている間にも光の形は次第にはっきりとしていき、さし伸ばされた細く華奢な手は男の額に触れた。
暖かい。
ああ、安心する。今感じたこの感覚はまるで…
『おまえに安らぎと幸せをあげよう。その代わりに』
『おまえの心をわたしに委ねろ』
自分の世界を広げるために書いていきたい小説ですがやはり難しい。
拙い点もあるかと思います、これから色々と慣れていきたいですね。