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グルメ・イン・ア・ラビリンス  作者: 綾部 響
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意外な訪問者

ラビリンスから戻って来た私達は、また「ホーラウンド酒店」の運営に精を出していました。

「御馳走さんっ! メルちゃん、ありがとねー!」


「はーいっ! 有難う御座いましたーっ!」


「美味しかったよっ! シャルちゃん、また明日も来るからねーっ!」


「うふふっ! お待ちしていますわっ!」


 最後のお客様が出て行った事を確認して、看板を「営業中」から「準備中」へと掛けかえればランチサービスも終了して漸く閉店、私達も一息つく事が出来ます。

 本日のランチは、昨日ラビリンスから持ち帰った「ヘビトカゲ」の肉料理。

 蛇の肉と言えば少し引くかもしれないけれどこれがまた珍味で、今日来店したお客様にも軒並み好評でした。


 そして好評と言えば……。





 グリンの「ホーラウンド酒店」二階に新たな住人となったシャルが、今日からウェイトレスとして働く事になったんだけど、これがまた殊の外お客様達に好評だったのよねー……。

 アイネさんに引き取られた「オーディロンの森」で、16年間外の人達と接触をしてこなかった「真性ボッチ魔女」だった筈なのに、あれで中々人当たりが良いみたい。


 最初こそ声を出せずに店の隅で立ち尽くし、この店のウェイトレス・コスチュームに照れまくっていて、


「こ……こんな恥ずかしい恰好で人前に出るなんて、正気の沙汰とは思えないですわっ!」


 なんて駄々を捏ねていたんだけど、そもそも働きたいと言い出したのは彼女自身だし、それに来店したお客様方が、


「シャルちゃんって言うの? 可愛いねー」


「シャルちゃん、その衣装すっごく似合ってるよ!」


 なんて誉めそやすものだから、すっかりその気になっちゃって……。

 初日だと言うのに、もう私より人気の看板娘になっちゃったわ……。


 確かに彼女はスタイル抜群で、この店のコスチューム「メイド服」が嵌り過ぎてるくらいに似合ってます。

 彼女の愛らしい顔と長く綺麗な青い髪も、このコスチュームと確りマッチしてるんだから、お客さんの目が釘付けになるのも仕方ないわね。


「すぐに持って来てあげるから、そこで待っていなさいっ!」


 そして少し失礼にも聞こえる彼女の話し方も、お客様にはどこか可愛らしく映ったのかとても好評でした。

 仕事ぶりも驚く程要領良くて、最初こそぎこちなかった動きも、閉店間際には注意する所がなくなる程でした。





「メルー、シャルー、お疲れ様ー」


 ホールでテーブルの上を片付けている私達に、厨房から出て来たグリンがそう声を掛けてきました。

 営業中は厨房に籠っていて殆ど見る事の出来ない彼のにこやかな笑顔を見ると、漸く仕事が終わったと感じる事が出来ます。

 私も、その声がした方向へと顔を向けました。


「あっ……グリン、おつ……」


「グーリーンーッ! (わたくし)、頑張りましたわーっ!」


 グリンに声を掛けようとした私よりも大きな声を出したシャルが、片していた仕事を止めてグリンへと駆け寄りました。

 く……先を越されたわ……。


「ははは、シャルは今日が初日だからね。どうだった? 何か問題なかったかい?」


「少し戸惑いましたけれど、何も滞る事無く熟しましたわ! 接客など私に出来るかどうか不安でしたが、このお店にやって来る皆様は優しい方々ばかりで私の不慣れな振る舞いも大目に見て頂けました」


「ははは、この店に来る人達は、父さんの代から馴染みの常連さんが殆どだからね。最近は新しいお客さんも良く見えるけど……。それでも来るのは良い人ばかりなんだよ」


 シャルは目を輝かせて感想を言い、グリンもそんな彼女に優しく答えています。

 多分初めて働いた興奮で、少しでもグリンに褒めてもらいたいと言う気持ちがあるんでしょうね。

 でもそんな彼の言葉に、シャルは引っ掛かる部分を覚えた様です。


「……そう言えばグリン、ここはあなたの家でもあるのですよね? でも、ここであなたの御両親を見かけませんでしたわ? あなたの御両親は……」


 そう言えばシャルには、グリンや私の身の上話はしてないわね。

 もっとも、そんな事を自分から率先して話す人も少ないんでしょうけれど……。


「ああ……。僕の両親はもう15年前に死んだんだ……。たまたま買い付けで向かっていた先にラビリンスが出現してね……。そこから出て来た怪物に殺されたらしいんだよ……」


 そう……彼の両親はこの街の南、「バーナムント内海」に浮かぶ「デルガイ島」へ出かけていた帰りに、突然出現した「レベル14 ラビリンス」から出て来た怪物に、商隊ごと襲われて全滅してしまったのです。

 近隣に駐留していた守備隊も間に合わず、駆けつけた時には生きている者は居なかったと言う事でした。


「……それ以来、この酒場は少し前までメルの両親が切り盛りしてくれてたんだけどね」


 でも、グリンに悲壮な感情はありませんでした。

 確かに両親が死んだと言う事実は悲しい事だけれど、当時私達は3歳で物心をついて間もないと言う事と、15年も経てば悲しみも随分と薄れるからです。


「……私達家族はここに移り住んで、グリンと酒場を切り盛りしてたんだけどねー……5年前に両親とも流行り病で死んじゃったの。だから今では、この酒場には私とグリンしか居なかったのよ」


 テーブルに残っていた最後の食器をカウンターに乗せて、私はグリンの言葉を引き継いでそう説明しました。

 乗せられた食器は、彼がそのまま奥へと持って行きます。


「……あの……その……」


 話を聞いたシャルは、どうにも居心地の悪い様な雰囲気で言葉を出せずにいました。

 彼女にしても、少し聞き辛い事を聞いたと言う思いがあるんでしょうね。


「なーに、シャル? ひょっとして気を使ってるの? もう何年も前の事だし、そんなに気遣う必要なんかないわよ? それに、あんただって似た様な境遇じゃない」


 彼女も、生まれて間もなく「オーディロンの森」に捨てられていた処を、アイネさんに拾われた経緯を持っています。

 両親が居ないと言う点では全く同じだし、全く親の温かさを知らない彼女の方が、ひょっとすれば不幸かもしれません。

 それでも彼女はアイネさんに、本当の親と同じ位大事に育てられたみたいだし、そんな事は関係ないかもしれないけれどね。


「……う……うん……」


 そんな歯切れの悪い言葉を出すしか出来ない彼女は、どう声をかけて良いか分からないと言った様子でした。

 この話をこのまま続けても誰も気持ちの良い気分にはならないので、ここは話題を切り替えた方が良いわね。


「メル、シャル。お昼の用意が出来てるから、早速食べる事にしようか」


 ナイスタイミングで、奥から顔を出したグリンがそう声を掛けてきました。


「ほら、シャル。お昼、食べちゃおう。午後からもバッチリ働いて貰わないとなんだから、確り食べてよね!」


「お……お任せなさい! 私がいれば、貴女など必要が無いと言う処を見せて差し上げますわっ!」


 私が彼女の背中を軽く叩くと、シャルは殊更に大きな声でそう答えました。

 それは空元気で自分を鼓舞している様な、それでいて私達に気を使っている様でもあり、何とも彼女らしいと微笑ましくなりました。


「すみませーんっ!」


 私達が食事の用意されているカウンター奥にある厨房へ向かおうとした時、入り口から元気な男の子の声が聞こえました。

 看板は準備中の筈で、お客様が入って来るとは思えません。

 怪訝な表情でそちらの方へと振り返ると、そこには何処かで見た覚えのある男の子と女の子が立っていました。


「……あら……? あなた達……?」


 それは一昨日、「レベル4 ラビリンス」で助けた冒険者の少年少女でした。


やって来たのは……ラビリンスで出会ったあの子たち……!?

ここに何の用なのかしら?

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