変わる家族と変わらない家族
「和樹!あんたは!せっかくおばあちゃんがあんたのために買ってきてくれたのに……ゲームばっかりやってないのっ!」
反抗期に突入した和樹はいつもこんなものだけれど、この時ばかりは母さんは和樹の態度を許しはしなかった。
「いい加減にしなさい!ゲームばっかりやって!ちゃんとおばあちゃんの顔を見てお礼を言いなさい!」
母さんがゲーム機を取り上げた。
「うるせーな、くそばばぁ!ちゃんと礼言っただろ!返せよ!」
「ちゃんとじゃないでしょ!どこがちゃんとなの!ゲームのせいでちゃんとできないならもう、ゲームは禁止!」
携帯ゲームを母さんから取り返そうと、和樹が手を伸ばす。
「うっせーって、ゲームのせいじゃないって。手袋なんていらねーし!いらねーもんもらって礼なんて言えるわけねーだろ!」
和樹の言葉に、母さんの怒りがマックスに達した。
そりゃそうだ。おばあちゃんの耳にもしっかり聞こえるんだもん。流石に言いすぎ。
「あんたは……おばあちゃんになんていうことを!あんなにかわいがってもらったのに、おばあちゃんに謝りなさい!」
「知らねぇよ!かわいがってくれなんていってねぇし!」
和樹が母さんをにらみつけた。
反抗期だから、反抗的な顔つきに反抗的な態度に反抗的な言葉に……それも成長の一つだからねぇと、いつもならため息一つで受け流す母さんだったけど。
さすがに、おばあちゃんに対する暴言は受け流せなかったみたいで。
バシンと、和樹の頭を叩いた。
「和樹っ!血がつながっていないあんたを、本当の孫のようにかわいがってくれたおばあちゃんに……あんたはなんてことを……!」
母が失言した。
「え?血が、つながってない?」
おばあちゃんは、父さんの母さん。父方の祖母ね。
だから、母の連れ子だった和樹とは血がつながっていない。
「母さん、どういう……こと?」
和樹に動揺が見える。
私は、和樹と母さんと血がつながっていないというのは知っていたけど、和樹はまだ知らなかったんだ。
そりゃ、動揺もするよね!
何てこと言うの!母さん!あ、字面で言うと義母さんなんだけど、私は本当の母さんだと思ってる。
それから、もちろん義弟だなんて一度もそんな単語は思い浮かんだことなんてない。
「わっ、私は、血がつながっていなくたって本当の"弟"だと思ってるからね!」
「え?姉ちゃんとも、血がつながってない?」
―――!
失言ーーーーっ。
母さんのこと言えない!私も、何てこと言うの!
わわわ、私のバカ!
おばあちゃんと血がつながってないってだけなら、なんとでもごまかせたのにっ!ごまかせたのにっ!
「ど、どういうことだよっ!」
和樹が頭をフリフリして、ふらふらと立ち上がる。
それから、居間を出て、階段を駆け上がり自室に入った。
「ああ……」
「ごめんなさい、母さん……」
「ううん、結梨ちゃん。ずっと隠しているわけにはいかないし、ちょうどいい機会だったんだわ」
おばあちゃんが立ち上がった。
「おばあちゃん?」
「私が、話してこようね。今はきっと、結梨ちゃんの顔もお母さんの顔も見るのがつらいだろうからね」
そうして、おばあちゃんが和樹に家族の話を教えてくれた。
私を生むと同時に亡くなった私の母のこと。
私が3歳になったころ、父さんの親友がなくなったこと。
母さんは、父さんの親友の奥さんで、お腹に和樹がいたこと。父の親友も母さんも頼れる親族が誰一人いなかったこと。
さらに悪いことに、父の親友は社宅に住んでいた。
亡くなってしまったため母さんは身重の体で社宅を出なければならず、見るに見かねた父が家に呼んだ。
3歳の私の面倒を見ていたおばあちゃんが、もう一人孫が生まれるんだねと、母さんと和樹を快く受け入れた。
和樹が10歳になったときに、父さんと母さんが結婚したこと。
おばあちゃんが帰ってからも和樹は部屋から出てこなかった。
それから、和樹は1週間、学校へ行く以外は自室にこもりっきりだった。ご飯も部屋で食べていた。
1週間たってからは、またいつもの和樹に戻った。
母さんにくそばばぁと言う反抗期和樹に。
父さんとは他人行儀になるかと思ったが、冬休みに一緒にスキーに行ったらもとに戻っていた。
それなのに……。
……なぜか、私だけ半年も口をきいてくれなかった。
えーん。




