失敗
「煙羅……毒の煙を発生させるって、毒で倒れたってこと?」
「煙の中に入っていった人も倒れていったのは毒を吸い込んって考えればそうなのかも」
ぽんっと私の手にスマホを返すと、大きくうなづいた。
「解呪……弱点は香炉って書いてあった。香炉を探してみよう。無駄かもしれないけど、もしかしたら効果があるかもしれない」
ゆきちゃんはそう言うと、自分のスマホを取り出して香炉を調べ始めた。
「お香を入れておく器……雑貨屋……アジアンテイストの雑貨屋に置いてあるかな。確か大学から駅に向かう途中に……探してくる!」
ゆきちゃんが走り出した。
私はどうしたら?何ができる?
和樹に相談してみようか。鑑定魔法を本当に使ったとしたら他にも何か知ってるかもしれない。
メッセージアプリを起動する。
『講義中にえんらが出て人が襲われた、どうしたらいい?』
授業中だから、すぐに見てもらえるかどうかは分からない。
と思ったら、すぐに既読が付いた。
『逃げて』
いや、逃げてるよ。
『どうしたらいい?』
『すぐに逃げろ』
『もう、教室から逃げたよ。それからどうしたらいい?』
『何も結梨がすることない』
どうして!
『もういいっ』
怒って通話アプリを閉じたけれど、通知がすぐに届いた。
『部室で待ってて。すぐ行く』
すぐ行くって、授業を抜け出すってこと?
と、思ってから失敗したと思った。
和樹に負担をかけてしまっている。
一方的に何をすればいいのか相談して、思うような返事がなかったからって一方的に怒り出して。
ごめん……。
反省しながら異世界同好会の部室に向かう。
医学部のが授業をするのは少し離れた棟だ。私の方が先に部室に到着する。
スマホを取り出して、香炉を調べる。
仏具としての香炉……近所の家に飛び込んで貸してもらう?
ゆきちゃんはお香を炊くときの香炉を探しにアジアン雑貨の店に行ったんだよね。
他に……。
「あ!これも、香炉っていうの……?」
異世界同好会の奥に設置されているロッカーを開く。
ここに、確か置いてあるはず。今は時期じゃないから使ってないけど。毎年使ってる。
「あった!」
急いでひっつかんで部室を飛び出す。
本当に煙羅なのか分からないし、香炉があってもどうにもならないかもしれない。
そもそも本当にこれを香炉と呼んでいいのか。仏具としての香炉じゃないとダメかもしれない。
私が見た煙が何なのか。なんで私にだけ見えるのか。分からないことだらけだ。
だからって、何もせずにはいられないよ。
もしかしたら、見当違いかもしれない。
もしかしたらまるっきり私のしていることは無駄なのかもしれない。
だけど……。あの時もし、ああしていたら……って、後で後悔だけはしたくない。
無駄だってねって、妖怪なんていなかったねって、あははははと笑い話にしちゃえばいいだけだ。




