手をつなぐ
「分かった。協力するよ」
「いいの?」
和樹がびっくりした顔をする。
「和樹にはとーってもかわいい彼女がいるって言いふらせばいいのよね?そうだ。いっそ中学のころからの付き合いで、ラブラブなことにして。あー、同じ高校出身の人がいたらバレる?うーん。中学からずっと好きな人がいて、高校卒業してから付き合い始めたとかなら矛盾が起きないのかなぁ?」
和樹が、カップを持つ手を上から包みこんだ。
「俺は、結梨に、彼女になってほしい」
「え?でも……痛いよ?姉を偽装彼女にするなんて……ばれたら……」
いくら女よけができてラッキーでも、痛い男だと思われたらマイナスじゃない?
和樹が、何かを諦めたように私の手を離した。
それから、わざわざ椅子から床に座りなおして、ポンポンと、私に椅子に座るように誘う。
椅子に座ると、和樹は上目遣いで私を見た。
「妄想彼女の方が痛いでしょ?約束もないのに今日はデートなんだとか、一人でどこかに出かけてSNSにデートnowとか写真上げるとか」
ああ、それはそれで確かに痛い。
上目遣いのまま、和樹は首を少し斜めにする。
「ねぇ、お願い。彼女になって?」
くっ。あざといだろう。和樹はいつから、こんなあざとい技を使う用に……!
かわいい弟に上目遣いでお願いごとされたら……。
「そんなに異世界同好会に入りたい?」
和樹がこくんと頷いた。
「……えーっと、今の2年3年4年のメンバーは、私に彼氏がいないの知ってるから、事情を話して協力してもらうってことで……」
ゆきちゃんにメッセージを送る。
『和樹の偽装彼女になることになった』
はてなマークがいっぱい飛んでいるトカゲの画像が帰ってきた。
だよねー。訳が分からないよね。
『異世界同好会入りたいらしい。武田先輩みたいに追っかけ女子が入らないように彼女持ちのフリをするんだって』
『あー、和樹君、ドラゴン飼育法とか異世界物好きだったもんね。彼氏に会えるの楽しみにしてるよ』
彼氏って。偽装彼氏だし。いや待てよ、和樹にとって私は偽装彼女になるけど、私にとって和樹は依頼主?
……じゃないと、弟を偽装彼氏にしていた痛い女になってしまう。和樹側には理由があるけど、私には特にないわけだし?
それから2日後。
「結梨、行くよ」
大学の授業が今日はある。初めての偽装彼女の出番。
って……。
「え?まさかと思うけど……その手」
玄関で、和樹が左手を前に差し出している。
「は、や、く!電車に乗り遅れる!」
和樹の手は見なかったことにして、靴を履いて玄関を出ると、右手をつかまれた。
「くおっ、やっぱり!そう来たか!」
あの姿には見覚えがあったんだ。
和樹が小学校に入るまでは、家族でお出かけというとちゃんと手を繋いで出かけていた。
玄関で手を前に出して繋いでもらえば家を出ていい合図。
かわいかったなぁ。




