予選落ち
「魔法陣を言語として読みとくと、地球だとこんな感じ」
「これ、プログラムじゃないか。C言語?いやC++?何々……」
プログラムゥ?
「一行目がここ。二行目がこっち。三行目がここで四行目はここ」
「じゃぁ、次はここで、こうやって配置されているわけか」
先輩が魔法陣の紙を指でなぞる。
あっちこっちそっち。
えー、全然わかりません。
なんの規則があるのかな?
「ふーん。イケメンオタク先輩、なかなか筋がよさそうだね」
めっちゃ上から目線発言をする和樹。
「かっ、和樹、目上の人にそういう言い方は……」
「いいよ。異世界議論を交わすのに、年下も年上もないよ。でも和樹くんのようなイケメンにイケメンって言われるのは嫌味にしか聞こえないからやめてほしいな」
武田先輩がちょっと困った顔をする。
まぁ、うん。姉バカじゃないけど、和樹はイケメンです。世間的には「かっこいい」って単語が似合うように成長してきました!
でも私にはまだまだ、かわいいって単語しか出てきませんが……。だって、和樹は本当にかわいいんだもんっ!
そのかわいい和樹がこちらを向いた。
「っていうか、姉ちゃんは、分かんないだろ?」
和樹が紙を持ち上げてひらひらとこちらに見せる。
はい。全然わかりません。
「じゃ、帰っていいよ。ここにいても退屈だろうから」
「え?」
「いいですよね、イケメンオタク先輩。別に姉に用があったわけじゃなくて、俺と話がしたかったんですよね?」
う、またしても挑戦的な目を先輩に向ける。
な、なにこれ!
もしかして、異世界知識を競うトーナメントか何かでも始まるの?!
私は……。
魔法陣とその隣のプログラムが書かれているらしい紙を見る。
はい。予選落ちですね。
ぶ、文系だもん。仕方ないじゃないか!
「そうだね。僕が和樹君と話がしたいと結梨さんに言ったんだ」
「そういうことだ。姉ちゃん。だから帰っていいよ」
う。
ううう。わ、私だって、和樹と武田先輩と一緒に楽しく異世界の話したいのに。
……
和樹が、紙の裏に新たに小さな魔法陣を描き出した。そして、その下にプログラムを書き込む。
「小さな明かりをともす魔法陣?」
「よくわかったね」
わ、分かりません。私にはさっぱり。
帰ろう。はい。
おとなしく帰ります。
すごすご。
それから先輩と和樹は時々会っているようだ。私も混ぜてほしいなぁって言ったら和樹ににらまれた。
ちょっと、なんでよっ!
あっという間に武田先輩は卒業し、私は無事2年に進級。
そして、気が付けば3年になっていた。
和樹は受験生。
私はそろそろ就職活動の情報集めをしなくちゃいけない。それとともに資格試験勉強もしなくちゃ。
「で、和樹は東大に行くの?」
夏休み、ゼミにもいかずに家で勉強を続ける和樹に声をかけた。
「はい、これ」
ひらりと1枚の紙を和樹に渡される。
判定模試の結果だ。
東大、A判定。……しかも、なんか理Ⅱ?むつかしいとこじゃないの?
「そうか、和樹は東大に行くんだね……。上京するんだ」
東京で一人暮らしするのかな。寮暮らしかな。
家からいなくなるのはちょっと寂しいな。




