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ソシャゲダンジョン  作者: 止流うず
第三章 ―神を包む繭―
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031 地獄関ヶ原/エリア6『城への道中』


 エリア3にある大天幕、そこに新井忠次たちを見送った会長と副会長が戻ってきていた。

「会長……その、本当によろしかったんですか?」

 副会長である宵闇黒衣の言葉に、会長たる神園次郎はゆっくりと瞬きした。

「ええと、よろしかったって何が? どれのこと?」

「新井忠次ですよ。いえ、確かに拘束するのは難しかったですが」

「ああ、華がいたからね。忍者があれだけいても無理だったんだから、魔法ってのは厄介だねホント」

「いえ、神園華ではありません。妨害していたのは赤鐘朝姫です」

「んん? 赤鐘の魔剣がどうしたって?」

「あのとき私達はエリア3にいた部下全員で彼らを囲みましたが……万全を期すなら、風紀委員の彼女の到着を待った方がよかったですね。もう遅いですが」

「んん? あいつを呼んでまで? ええっと……赤鐘朝姫、会談中はだらけていたように見えたけれど」

「彼女、我々が行動を起こせばいつでも会長を殺せるように構えてましたよ。あの姿勢は、神園華よりも隙がなかった。彼女は会長の話なんか全然聞いてませんでした。新井忠次だけを見て、そしていつでも会長を殺せることを宵闇の忍者に示し続けていました」

「……いや、僕が殺されても蘇生地点は傍だったろうに……」

 呆れた次郎に黒衣はいいえ、と首を振った。

「赤鐘朝姫、彼女が赤鐘の奥義の全てを継承しているなら、彼女の一閃は、会長に()を含んだエピソードを発生させたでしょう」

「……それは、なるほど……怖いな……」

 次郎は忠次が連れていた赤い髪の少女の姿を思い出す。性格に難があるとは聞いていたが、いざ魔剣となってみれば赤鐘朝姫は赤鐘真昼よりもずっと赤鐘に相応しい魔剣だ。

「……遺失血統なんて言ってもやはりハルイドの作品か……ふふ、赤鐘は惜しいことをしたね。真昼では朝姫の代わりにはならない」

 頷いた黒衣は、それで、と会長へ問う。

「これから、新井忠次はどうしますか?」

 神園次郎は息を吐いた。魂までも出てしまいそうなほどに深いため息だった。

「エリア3に来たら監視してくれ。ただ、彼は破滅するから、もう相手にしないでいい。彼には僕たちが手を出せない隠しエリアとやらで破滅してほしいから、余計なちょっかいはやめようか」

「友人だったのでは……?」

「友人としてできる限りの提案はしたさ。それを断ったんだから、もう僕は神園の次期当主として判断するしかない」

「そうですか……神園華も……」

「ああ、もういい。あれの価値はゼロになった。魔法少女と宵闇に手を出した以上、商品どうのこうのじゃないよ」

 諦めの混じったそれは自身の破滅を覚悟した人間の言葉だった。

 黒衣がゆっくりと頭を下げる。

「会長、すみません。下忍たちが、その……」

「いや、華の管理に失敗した僕のミスだし、君たち宵闇の忍者と神園の契約は華よりも優先すべきことだ。神園と宵闇はご先祖様、そう、あの忌まわしき関ヶ原からの付き合いだしね」

 凡人として、僕は契約を守るだけさ、と神園次郎は呟いて、白陶繭良のことを、いや、繭玉の御神体のことを考えた。

 かつて神園の人形たちが為政者の倫理を失わせた結果、起きてしまった歴史的事件のことを。

 それはかつて忠次と見た映画のような荒唐無稽な出来事だ。

 歴史家が見たら噴飯して創作だと語るような事件だ。

 本能寺の変。

 神園の人形に理性を狂わされた織田信長が、繭玉の御神体を喰らい、巨大化し、化物となった。

 周囲の人間を手当たり次第喰らい、結集した軍すらも退け、最後は対抗するために同じく繭玉の御神体を喰らった明智光秀に討たれた事件。

 関ヶ原の合戦。

 西軍と東軍が雌雄を決するはずの関ヶ原。石田三成によって豊臣が保有する繭玉の御神体の肉が兵士全員に配られた結果、血みどろの凄惨な屠殺場ができあがった。

 宵闇の前身たる風魔の忍者を使った徳川が、御神体の肉を奪取し、同じことをやって相討ちになったものの、その結果として関ヶ原の敗残兵が日本全土へ散り、日本は血と肉が転がる屍山血河の地獄と化した。

 繭玉の御神体の数を幕府が管理するようになったのはそれからだ。

 危険だからと絶滅させることはできなかった。

 未だ龍が飛び、道士が支配する周王朝や超力兵団を保有するロシア帝国が海を隔てた隣にある以上、有事のための手段の一つとして、繭玉の御神体を保持しておく必要があったのだ。

 そして維新。江戸城が穢土城となり、人々は全て狂った超人となり、魔法少女の介入すら許さなくてはならなかったあの凄惨な事件。

 落ち目の徳川が神園の人形に唆されて、赤鐘の剣士たちに白陶の肉を食わせた結果産まれた死骸聖母の軍団。

 荒唐無稽すぎて関係者全員が口を噤んだ事件だ。後世の人間が創作だと断じるしかなかった事件だ。

 唯一全貌を知る神園さえも、この事実に神園が関わっていることを知られぬよう、念入りに記録を抹消した事件だ。

 化物どもめ、と神園次郎は呟いた。

「新井くん。関わり続けるなら、もう君は破滅するしかない」

 だが忠次が生き残ったならば……。

「エリア4で雌雄を決することになるのかもね……」

 神園次郎の言葉に、宵闇黒衣は静かに決意を固めるのだった。


                ◇◆◇◆◇


 エリア6にて剣崎重吾を中心とした攻略組のギルドが結成された数日後のことだ。

 各パーティーが抱える情報を交換しあい、ボスに何度か挑むことで彼らは対策を練っていた。

「よし、これで物理反射と魔法反射のタイミングがわかったな。なんだよババア、あんた結構便利じゃん」

「ババアって言わないでくださいな。東郷先輩」

 カミラが呆れたように言えば、うげぇやっぱ慣れねぇ、という顔をした東郷が「と、とにかくジューゴ! 明日挑んで次はエリア7だ!」と叫んだ。

「ああ、そうしようか」

 牽制し合う御衣木栞と咲乃華音を隣に置いた剣崎重吾が東郷の言葉にうなずき、そしてこの場にいるもうひとりの少女に向けて問いかける。

「君もそれでいいよね? 灰子(はいね)ちゃん」

「……もう、それでいいです……」

 『LR(・・)』『戦士』新井灰子は剣崎重吾の言葉に小さく頷いた。

 灰子は小柄な少女だった。

 灰のようなくすんだ髪で目が隠れているものの、髪の隙間から微かに見える目は紅色に染まっている。

「不気味な奴……新井に妹なんかいたんだなって痛ぇ!! 何しやがんだババア!!」

 東郷がそんなことを呟けば、その太ももをカミラが抓りあげる。

「灰子は私の友人ですのよ。失礼はおよしになってください」

「あ、アンタに友人なんかできるわけが――痛い痛い痛いわかった許してぎゃあ」

 逃げ出すように場を離れる東郷を呆れたように全員が見送る中、重吾が灰子に向かって小さな声で囁いた。

「もうすぐだ。忠次が来る。俺がエリア7にたどり着けばあいつも俺を追いかける速度を上げる」

「……私は、もう、嫌……知りたくなかった……兄さんも置いてきてしまった……うぅ……こんなこと、どうして栞さんは耐えられるの?」

 灰子のつぶやきに重吾と栞以外の全員が頭に疑問符を浮かべるも、重吾はにっこりと笑った。

「俺はその言葉の意味を知らないけど、栞が何かを隠してるのは知ってる」

「そして、そのうえで楽しんでるんだよね。じゅーくんは」

 呆れたような栞の視線に灰子は信じられないような目で栞を見る。

「……信じているの? こんな、こんな救いのない世界を……」

「大丈夫だよ。灰子ちゃん」

「だい、じょうぶ?」

「じゅうくんがいる。そしてちゅうくんももうすぐ来る」

 昔から二人が揃ってできなかったことなんてないんだよ、と栞は笑った。

「俺は先に忠次に怒られそうだけどさ」

 ふふふ、ははは、と笑い合う二人を新井灰子は諦めたように見た。

「どうせ……全部ダメになる……兄さんが来れば、もう、全部……終わってしまう……」

 そもそも新井灰子は新井忠次が来たところで何もできないことを知っている。

 あの兄にできることなど何もない。

 そういう存在だからだ。

 そうあるように定められたからだ。

 灰子はこの世界に来て知った。

 初期設定として、付与されていた特殊ステータスが教えてくれた。


 ――新井忠次に、救いなどないことを。



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