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ソシャゲダンジョン  作者: 止流うず
第三章 ―神を包む繭―
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029 織田信長


 蘇生地点傍の椅子へと座った俺へ、ジュースだの肉だの菓子だのあるらしいね、と生徒会長(かみぞのじろう)は言った。

「華」

「はい」

 会長の催促を受け、俺は華に茶の用意をさせ、ふと思いつく。

「昼飯用の弁当もいるか? 華の作った奴だが」

「貰おうかな。黒衣、受け取っといて」

忠次様(かみさま)、こいつらのためにお作りしたのではないのですけれど……」

「いいからくれてやれ」

 嫌そうな顔をした華だが、命令をすれば貯蓄してある朱雀肉弁当や饕餮肉弁当を取り出して副会長に手渡した。

 そうしてしばらく待てばお茶とケーキが設置したテーブルに並べられる。

「へぇ、本当にケーキだ。一流店並の味じゃないか。さすが神園の製品だ」

「……家で作らせてなかったのか?」

「自分の家の商品は家訓で手を出せなくてね。そこまで迂闊でも堕ちてもいないってこと……いや、そうでもないか。神園が地獄に落ちるのは当たり前か……」

 なんでもないように笑ってそれを言う会長だが、そんな泣き言を俺が聞いていてもしょうがない。早速本題に入ることにした。

「それで……800億の女じゃなかったのか?」

「そうだね。そうだった。そうだったんだよ。はぁ、まさか商品が自分から価値を暴落させるとは思わなかった。華の今の価値は日本円にして0円……いや、マイナスも在り得るか。僕も頭が痛いよ。これで廃嫡は決定だ」

「ああ? どういうことだよ。理由を言え。生徒会長」

「忍者が三人。魔法少女が四人。覚えはあるかい?」

「あー、魔法少女なら。なんか俺らを罠に掛けようとしてたからって――」

 そこまで言って会長が鋭い目をしていることに気づく。ただ会長は俺が少し言った内容で十分だったんだろう。言葉を被せてきた。

「全員行方不明だ」

「ゆくえふめい?」

「ああ、そうだよ。これはとても重大な問題だ。そう、一般生徒なら石板の条件を満たして消えたってことにしてもよかった。だが、彼らはまずいんだ。特にうちの製品がそれをやったってのがまずい」

 俺は口を閉じ、考える。何? 華が忍者だの魔法少女だのを攻撃するとまずいってことか? いや、なんでだ?

 疑問を覚える俺に構わず副会長(よいやみ)がずい、っと俺に詰め寄ってくる。

「下忍の白部(しらべ)さぐる、言ノ葉乙音(ことのはおとね)茂木(もぎ)柿子(かきこ)です。覚えはありませんか?」

「は? 華音の取り巻きの名前じゃねぇか。え? そいつらが行方不明で、なんだったら俺らが誘拐したのかってそういう?」

「そうではありません。そこの愛玩人形(かみぞのはな)がやったのかと、主人のあなたに聞いています。新井忠次」

 冷たい、いや、敵意を抱いた副会長の視線に俺は肩を竦めた。

「エリア2の連続殺害は一度目なので見逃しました。何か行き違いがあったのでは、と。ですが今回はもう、見逃せません。たとえ神園華であろうとも」

 静かに、俺と華に対して殺意を発する副会長。

 会長と副会長の三人で映画を見に行ったことだってあるのに、相も変わらずこいつは鉄の女だ。

「エリア2ってのはわかんねぇが華。どうなんだ?」

「掲示板で忠次様の悪評を書き込んでいたので排除しました」

「悪評? どういうことだ?」

「彼女たちが『洞窟のドン』の正体だったんです」

 ……へぇ、ああ、確かに。こいつらは確かRレアの三人組のくせにエリア1に残ってて不思議だったんだが、そういう理由か。

「だってよ。なんだよ生徒会。そんな前から俺へ攻撃してたのかよ?」

「黒衣? どういうことだい? 僕はそんな指示はしてないけど」

 生徒会長にも問われたからだろう、副会長は首を横に振り、そんな指示はしていないと言う。

「と、とにかく、ならばなおのこと確認しなければなりません。居場所を教えなさい。もしかしてあなた達の拠点に連れ帰っては――」

「そんなことはわたしが許しません。あんな奴らを忠次様の傍に置くわけがありません」

「……まぁ、俺は別にどうでもいいけどな」

 あの悪評のせいで俺はこんな目にあっているが、華が排除したと言ったのだ。

 それはもうひどい(・・・)ことをされたに違いない。むしろ同情すらしている。

「で、どこにいんだそいつら?」

「廃屋に身を潜めているようですね。……ああ、死ねなくなったからですか。すごいです。あんな猿以下の生き物でも、きちんとエピソードの意味を理解しているなんて。宵闇黒衣、よく教育しましたね。お前も同じようにしてやりたいところですが」

「華、何をしたのかは知らねぇがやめとけ」

「ふふ、そういうことです。忠次様の御慈悲で命拾いしましたね」

 物騒すぎる。少し自重させるべきだろうか? 悩む。あまりやりすぎると後が怖いが、俺の悪評を垂れ流していた連中と聞いた以上、同情はするし、やりすぎだとも思うが、それはそれとして気分は良い。

 俺と華のやりとりを生徒会長は渋い顔をして聞いていた。

「さっきから新井くんのことをかみさま、と呼ぶのが気になるけど……ああ、いいや。とにかく宵闇を神園は自由に扱っているが、それはそういう契約をしているからでね。別になんでもしていいわけじゃない。華、お前ならわかっていると思ったんだけれど……」

「だからなにか? ふふ、それがどうしたのですか?」

「……わかったよ。それで魔法少女はどうしたんだ? 彼女たちと神園には契約がある。彼女たちをうちの製品が害すれば、この世界だけの問題じゃなくなる。元の世界での日本の外交にも――」

「処理しましたが? そろそろ補助要員の魔法少女たちが救助を? ええと、あら?」

 まだ救助されてないみたいですね、と華は言った。

 はぁぁぁぁぁぁぁぁ、と会長が深いため息を吐く。そうして俺に「こういうわけだよ」と諦めた顔で言った。

「自壊の勅令を使ったのもそういうわけさ。初撃で華を壊せなければこちらが危ういと思ったからで……ふふ、無駄だったみたいだけれど」

「ああ、同情するよ。それで会長、確かめたいことはこれで全部か? 他には?」

「以上だよ」

 そうか、と俺は会長が諦めた理由に納得した。

 つまり華が神園に損害を与えすぎて、これ以上ひどいことになる前に処理しようとしたが失敗したということだった。

(……悪いことをしたな……)

 神園はなんだかやばい連中らしいが、その点だけは同情する。

 だがそもそもそんな華を生み出したのはこいつらだ。自業自得と俺の中の傲慢が嘲笑う。

 さて、それはそれとして俺も忙しい。やることは山程あって、ここでだらだらと会話をしているわけにもいかない。

 じゃあ俺らは、と会長に別れを告げようとして、会長は「まぁ待ってくれよ。新井くんにちょっとお願いがあって」と話を続ける。

「あー、物資提供だとかそういう協力はできねぇぞ」

「いや、そうじゃない。僕たちはもう新井くんと関わりたくない」


 ――それは……ええと?


「……勧誘がどうとかじゃなくてか?」

「そうだよ。一般生徒への勧誘だけどね。きちんと新井君にお願いするよ。勧誘はやめてくれ。まぁお願いして守る君たちじゃなさそうだけど。これは僕の意地でもあるから、今後は一般生徒に、君たちについていかないよう生徒会からきちんとお願いする」

 ……どうにも、俺らに攻撃するためとかそういう意味で言っているように聞こえないのが不気味だった。

「それは、どういうこったよ」

 真面目な顔を会長が「皆を君の破滅に付き合わせるわけにはいかない」と言った。

「あ?」

「君は破滅すると言った。かつての天下人たちのようにね」

 至極大真面目にそんなことを言う生徒会長は、華が淹れた紅茶に口をつけ、もう一度言った。

「織田も、豊臣も、最終的には徳川も、みんな滅んだよ。ハルイドの作品を集めた権力者たちは」


                ◇◆◇◆◇


「……織田って、あの織田信長?」

 あのゲームによく出てくる魔王? ☆5とかLRとか女だったりおっさんだったりする?

「そう、安っぽいから僕はこの話あんまり好きじゃないし、敵を作るだけだから神園も吹聴してないんだけど、神園が滅ぼしたようなものだよ、織田信長は」

「あーあー、待ってくれ。え? その話マジで言ってる?」

「マジだよ。大マジ。っていうか冗談で君との交流を断てるわけないだろ。友達だったんだよ僕たち」

 いや、友達ではないけどさ。

「会長は友人が新井忠次しかいませんでしたからね」

「黒衣だって映画の前の日に、って、わかったわかった。殺気を向けないでくれ。これでも主人なんだよ?」

「もう主人ではなくなるようですが」

「元の世界に戻るまでは契約は有効さ。さて、新井くん、そういうわけだよ」

「……そういうわけじゃねぇだろ。なんだよ。ちゃんと説明しろ説明を」

 会長は、だから、と傍のテーブルでお茶とケーキに手もつけずにこちらを見ている白陶繭良と赤鐘朝姫を指さした。

「白陶と赤鐘、これに華を加えて三種。ハルイドの作品でも特に血の濃い怪物だ。特に白陶はまずい。他者に与える影響が強すぎる。だからね、新井くんはおしまい(・・・・)だよ」

「なんでだ」

 言っていて「ああ、そうなのか、やっぱり」と思ってしまう。

 華と朝姫の二人だけでも殺し合いが発生している。ならば――もう……。

 それでも俺は、俺の傲慢を奮い立たせ、生徒会長に対し、不機嫌な様子で、動揺した素振りなんかも絶対に見せず、傲岸不遜に振舞い続ける。

「偉いね。新井くん」

 いっその事、慈しむような目で会長はそんな俺を見てきた。

「今なら、全部捨てるなら間に合うよ。新井くん。最後の矜持だ。君は僕が守ろう」

 これが誘惑だとは思わなかった。会長は善意で言っている。友人であるらしい俺を助けたくて、自分の破滅が決まっているのに手を差し伸べてくれた。

 そしてこういうときに限って、華も朝姫も繭良も、三人とも何も言わない。

 俺は俺の持つエピソードに感覚を向けた。

 揺らいでいない。繭良は別として、華と朝姫のエピソードの全てが。


 ――いっそのこと壊れてくれれば俺も意地を張らずに済むのに。


 ああ、畜生。なんでこうなるんだ……俺はただ……。

「……なんとかする」

 その言葉を振り絞るのにはとても力が必要で。

「なんだって?」

なんとかする(・・・・・・)って言ったんだよ」

 なんとかする方法も、理由も決まってはいないのに。

「なんとかって、そんな子供みたいな。具体的な方法とか」

「知らねぇよ。俺はなんとかするって言ったんだ。だからなんとかなるんだよ」

 眼の前の男が動揺していて、それ以上に俺がもういっぱいいっぱいで。

「む、無茶苦茶言うね」

「うるせぇなぁ。いいだろ。別に。そうするって決めた。俺が、俺であるために」

 いっその事全部捨ててしまえば楽だっただろう。

 だが俺は決めている。もう楽はしないと。何もしないことを、しないのだと。

「危険だからってなんだよ。たかが女子三人だろ。俺は男だぜ。なんとでもなる」

 だから、俺にできることが、こうやって意地を張るだけだったとしても、やりとげなければならない。

 会長が身体を震わせた。笑っていた。駄々をこねる子供を前にした大人のように、俺の言葉などまるで信じていないように彼は言う。

「わかった。わかったよ。はいはい。そうだね。そういうことにしとこう」

 立ち上がった会長は数秒だけ天を仰いだ。

 そしてすっきりした顔で副会長に「じゃあ行こうか。黒衣」と告げた。

 彼の眼の前のお茶もケーキもなくなっている。話しながらもきっちりと食べていた。抜け目のない男だ。

「それでもね、新井くん。白陶繭良だけはダメだよ。今なら間に合うから捨てるんだ」

 理由を聞きたいと思った。だけれど俺は聞かないことにした。

 聞くなら、繭良から聞き出さなければならない。そうしなければ俺は、俺の心に弱みを作る。

「俺は、助けると言った」

 繭良の方向から、なんだか湿っぽい空気が流れてきたような気がしたが無視して会長に宣言する。

「だから助けるんだよ、俺は」


『神園華はエピソード8【今日は虹を見た。明日はきっと鯨を見る】を取得しました』

『赤鐘朝姫はエピソード6【ボクが守らないと】を取得しました』

『白陶繭良はエピソード4【恋慕】を取得しました』


                ◇◆◇◆◇


 『エピソード8【今日は虹を見た。明日はきっと鯨を見る】』

 効果:『新井忠次』と同一パーティーの際、『神園華』はマナを1消費して攻撃ダメージを1.5倍する。

    『神園華』は『新井忠次』以外と良性エピソードを発生させられない。

 今日は素晴らしいものを見た。明日もきっと素晴しいものが見られるだろう。


 『エピソード6【ボクが守らないと】』

 効果:『新井忠次』と同一パーティーの際、『赤鐘朝姫』は敵の『属性耐性・無効・吸収』を無視することができる。

    『赤鐘朝姫』は『掲示板』機能を使用できない。

 ああ、この人はボクが守らないと。ダメ(・・)になる。


 『エピソード4【恋慕】』

 効果:『白陶繭良』は『新井忠次』に付与する強化の効果を一段階上昇させる。

 この溢れる感情を、きっと皆は恋と呼ぶ。




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