013 新メンバーたち
「オー! チュージ! こいつは最高ダ! 肉全体に熱が染み渡るゼ!」
華が『朱雀剣』を加工して作った朱雀串を肉に刺し、『朱雀大樹』で作った炭を使って『狂王肉』を次々と焼いていく留学生。
「新井くん! ドリンクなくなったけど、追加の奴ってギルドハウスの中? 勝手に入っていいの?」
「いいぞ。逢糸たちはもうギルドのメンバーだからな。鍵のかかってる部屋以外ならギルドハウスのものは好きに使っていいぜ」
傍に立って肉が焼けるのを見ていた朝姫に向かって「朝姫、逢糸を食堂まで案内してやれ」と命令すれば「はーい」と朝姫は逢糸を先導しながらギルドハウスの中に入っていく。
「気が利くじゃねぇか。アンドリュー」
俺は涙を流しながら焼けた肉を次々と食う出部と、カロリー計算が、とぶつぶつ言っている千潮くんを横目にしつつ、肉を焼き続けるアンドリューに向かって炭酸飲料を差し出した。
受け取ったジュースをごくごく飲むアンドリューがぷはー、と息を吐いた。
「サンキュー。チュージ」
「で、どういうつもりなんだ?」
「ハハ、肉を焼きたくなっただけサ! トレーニングは飽きたしネ!」
(トレーニング室を使ったのか。許可はくれてやったが、好き勝手やってんな)
暮らしに不便がないようにギルドに入れているし、個室もくれてやった。だがアンドリューはお客様だ。
この連絡員に信頼を寄せることはできない。だがそれでも亡命という選択肢を残すためにも、最低限の交流ぐらいはしておくべきであった。
「ホラ、食ってくれヨ。この肉、最高に美味いゼ!」
どさどさと肉を盛った皿を、アンドリューが俺に向かって突き出した。
「へッ、ありがたく食わせてもらうぜ」
華の焼いた肉は完璧で、ただ美味いとしか言えない焼き方だったが、アンドリューのそれは豪快な焼き加減に、アメリカっぽい味付けが加わってこれはこれで味わい深く、美味い。
「ステイツは」
アンドリューの呟き。それは肉を焼きつつも周囲を気にしながらの気を使った声量だった。
「チュージを歓迎するよ。きっとネ」
「ふん、そうだといいがな」
サイボーグの少年は、そんな俺の言葉ににっこりと笑った。
「チュージ、野菜も食うかイ?」
皿を差し出せばどさどさと焼いたアスパラだのピーマンだのを肉と一緒に乗せてくるアンドリュー。
「追加のジュースもってきたよー!」
声の方向を見れば、ギルドハウスからクーラーボックスを肩に背負って逢糸と朝姫が出てくるところだった。
◇◆◇◆◇
名称【千潮阿月】 レアリティ【SR】
ジョブ【戦士】 レベル【41/60】
HP【4700/4700】 ATK【2350】
リーダースキル:『熱血ボクシング』
効果 :戦士のATKを2倍する。
スキル1 :『熱血ストレート』《クール:3ターン》
効果 :1ターンの間、自身のATKを2倍する。
スキル2 :『熱血ジャブ』《クール:4ターン》
効果 :敵1体を『気絶』させる。
スキル3 :『なし』
効果 :『なし』
必殺技 :『弾丸ラッシュ』《消費マナ3》《クール:3ターン》
効果 :敵1体にATK1倍で5回の攻撃する。
名称【逢糸真琴】 レアリティ【R】
ジョブ【僧侶】 レベル【40/40】
HP【3600/3600】 ATK【2200】
リーダースキル:『手慣れた後方支援』
効果 :自分のターン開始時、パーティー全員のHPを400回復する。
スキル1 :『シンプルケア』《クール:4ターン》
効果 :味方一体の状態異常を全て治療する。
スキル2 :『なし』
効果 :『なし』
スキル3 :『なし』
効果 :『なし』
必殺技 :『キュアオール』《消費マナ4》《クール:3ターン》
効果 :パーティー全員のHPを4000回復する。
名称【出部藤吉】 レアリティ【HN】
ジョブ【戦士】 レベル【15/30】
HP【1700/1700】 ATK【850】
リーダースキル:『なし』
効果 :『なし』
スキル1 :『なし』
効果 :『なし』
スキル2 :『なし』
効果 :『なし』
スキル3 :『なし』
効果 :『なし』
必殺技 :『フェイント』《消費マナ3》《クール:3ターン》
効果 :敵一体の次の攻撃をミスさせる。
◇◆◇◆◇
他の二人はレアリティ相当だが、千潮くんがとにかく攻撃に特化している。
装備を調え、特殊ステータスやエピソードを獲得させればレアリティが一つ下でも、朝姫の最大ダメージを超えかねないスキルの相乗効果を持っている。
いや、朝姫を剣聖刀にして俺が千潮くんにバフを掛ければ――
「ふーん、こんなものですか」
そこまで考えたところで、朝姫が皿に盛られた肉を箸でつまみながら「ボクの方がすごいですね」と自慢げに薄い胸を張った。
「ほー、そこまで言うなら朝姫ちゃんも見せてみろよな」
「いいですよ。ほら、ほらほら」
ジョブチェンジを繰り返しながら次々と自慢げにステータスを周囲に見せる朝姫に、すごいすごいと逢糸が手をたたき、千潮くんがやるじゃねぇか、とステーキに噛み付く。
「げふ、あー、もう食べれない」
肉を食い続けていた出部が椅子をぎしぎしと軋ませながらげっぷをした。
「アサヒはキュートだね。それでチュージ、俺にもジョブチェンジはさせてくれるのかイ?」
「……ま、働き次第ってとこだな」
「ハハ、掃除洗濯なんでもゴザレ! 任せてくれヨ! お茶も点てられるゼ!」
自分で焼いた肉を切り分けて食べつつ、アンドリューが金髪をキラキラさせながらハンサム顔に自信ありそうな笑みを浮かべた。
「ハイスペックサイボーグか。マンガだなホント」
妙な事になっている自覚はある。だけれどそれらは受け入れなければならないことで……。
(とにかく次だ。まず出部に大罪耐性を取らせてから華を回収する。そのときにまた人を勧誘する。パーティーメンバーも……)
パーティーメンバー候補としてエピソードを得るべきは千潮くんか? だったら千潮くんを重点的に鍛えて――
「おいおいチュージ? どうしタ?」
烏龍茶片手に肉をつまみつつ今後のことを考えていればアンドリューがニヤニヤ笑って問いかけてくる。
「なんだか楽しソーだゼ?」
「そうか? いや、そうかもな」
頭のおかしい女子は一人しかいないし、そいつも今は格付けに忙しい。
なんだか久しぶりに解放された気分だった。




