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ソシャゲダンジョン  作者: 止流うず
第一章 ―狂信する魔性―
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008


 『パーティー』システム。

 俺たちの命脈といってもいい、この世界の基本システムの1つだ。

 基本的に、俺達は他の学生と、このパーティーという奴を組まないとエリアをクリアすることができない。LRレアリティの先輩がたった1人でエリアに侵入し、ゴーレムに轢き潰されたことからもそれは明らかで、ならばRレアリティである俺なんて当然のごとくにパーティーを組む必要が出てくる。

 そういう現実を前にしては、先輩が苦手だの怖いだのは言っていられない。きちんと冷静に判断をする必要があった。

 この世界には『ルール』がある。

 りんごが木から落ちる、炭酸飲料を飲めばゲップをする、そんなどうやっても覆せない。絶対の法則だ。

「エリアの攻略にはパーティーを組むことが推奨されてる」

 先程した説明を再び先輩にしていく。先輩は理解してるし、俺も理解してるが、これは今後の方針を組み立てていく上での確認のようなものだった。

「ひっとぽいんとの低い魔法使いではモンスターの攻撃に耐えられない。だから(タンク)の役割をする戦士とパーティーを組む。道理ですね」

 俺の説明に補足をする先輩。『パーティーを組みましょう』そんな俺の言葉。さらには落ち着いて話したいという俺の説得により、ようやく制服を着てくれた先輩だ。しかし彼女は俺の腹に頬を寄せている。ぎゅっと腰にしがみついている。俺の体温は安心するとか妙なことを言って強引にしがみついてきたのだ。制服を着ることとの交換条件でもあった。くそぅ。

 美人でなければぶん殴っていたところではあるし、親しいわけでもない人間に張り付かれている現状は抗議したくもあるが、見下ろせばどこか狂的な光を宿した瞳が俺を見上げてくる。


 とりあえず、見なかったことにした。


「エリアにはルールがあります――」

 俺の言葉に先輩が頷く感触。腰の辺りでもぞもぞすんのやめてくんねぇかなぁ。とはいえ、説明に問題はないと認識して続けていく。

 『エリア』とは『始まりの洞窟』のような場所のことを言う。『朱雀の養鶏場』が『始まりの洞窟』と同じルールかはわからないが、たぶん一緒だろう。

 違っていてもあとで侵入すればわかることだ。ただ、先輩が一度このエリアで死に戻りしたとのことなので俺たちが全滅しても死に戻れるという保証はある。よかった。これ以上変な場所に飛ばされたら俺の精神が耐えられない恐れがあるので非常に助かる情報だ。

 話を戻そう。『休憩所』たる岩場から『エリア』に侵入する際、『パーティー』を組んでいない人物と共に『エリア』に侵入することはできない。

 パーティー登録をしていない人物が同じタイミングで侵入しても、それぞれが別に存在する、だけれど同じ仕様の『エリア』に侵入することになるのだ。

 誰かの説明によると、平行世界的に『エリア』は存在し、それは『パーティー』ごとに生成されている、とかなんとか。

 倒したはずのゴブリンが復活しているのはそれぞれ世界が独立しているためなのだとか。

 ならば俺たちは死に戻りしているのではなくただ俺たちが生きている無数の平行世界の中に意識を飛ばされているだけ、なのでは……? なんていう推測もあったが、そういうのはどうでもいい。

 要は『パーティー』を組まないとその人と一緒に『エリア』を攻略することはできないということだ。

「なので『パーティー』を組みます」

 そういうことを説明してから結論を言う。小顔美人の先輩は俺の膝に顎を乗せてこくりと小さく頷いた。

「別に攻略でなくてもわたしは『パーティー』を組みたいです」

 そうですか、と先輩の言葉に適当に返事をする。いちいち相手をしていては話は進まない。ぎゅっと腰にしがみついてくる先輩の体温。このひと、結構胸があって、それが俺の膝に乗ってるんだよな。誰だ和風美人とか言ったのは、性的にすぎんぞこの人。

 内心で突っ込みを入れながらも説明を続ける。

「パーティーは、『ルール』で前衛が3人までって決まってます。ただ人数もいないので制限のことは考えません。で、とりあえずですが安全策でフレンドシャドウの御衣木さんと俺で前衛を担当します。後衛は先輩、お願いします」

 聞いた話では、この先の敵は奇襲スキルとやらで相手ターンから始まり、そのまま先輩を連続した攻撃で殺した。

 その時の先輩のHPは1000だ。ダメージは先輩のリーダースキルで3割減。先輩は4匹目の攻撃で死んだらしい。なら、俺のHPなら十分に耐えられるだろう。俺のHPは2000あるからな。

 前衛に御衣木さんを置いてターゲットを分割すりゃもっと確実だ。俺たちのターンに回れば御衣木さんに回復をしてもらえるし。相手が妙なスキルや必殺技を使わなければ余裕で突破は可能だろう。

「ふれんどしゃどう。登録した『フレンド』を呼び出して戦わせるのでしたね」

 戦う。不思議な響き、なんて言いながら先輩はステータスを弄っている。そこに表示されるのは早速『フレンド』登録した俺、『新井忠次』の顔写真(アイコン)だ。そのたおやかな指で愛おしそうに写真の俺を撫でる先輩の姿に、ぞくぞくしながら俺は説明を進めていく。

「そうです。先輩にフレンドがいればたぶんここを抜けることも簡単だったんでしょうが……」

 LRのスペックは伊達じゃない。戦士が1人でもいればおそらく先輩なら余裕でここをクリアしていたかもしれない。もっとも難易度がよくわからないので推測でしかないが。

 ただ、その場合は俺が1人でここを攻略しなければならなかったことを考えると、この人がここで死にかけていたのは俺にとっては幸運だったのだろう。

 この妙な執着さえなければもっと幸運だったかもしれないが。

 失礼なことを考えている俺を知ってか知らずか、先輩はそんな俺の言葉に『笑顔』を浮かべる。

「いいえ、おかげで忠次様に会えましたもの。わたし、『ステータス』を知らなくて、本当によかった……」

 正気を失ってるんじゃないか、ってぐらいにわけのわからない発言に俺は一瞬固まる。

 しかし構わず、大事なものを抱えるかのように俺の腰にしがみついている先輩。長い、艶のある黒髪がふるふると揺れていた。

 ……ステータスを説明して気づいたことがある。

 詳しく踏み込むことを避けていたから、ちゃんと聞いてはいないのだ。

 だけど、ステータスをこの人が知らなかったってことは。

 この人が俺が来た時に飢餓状態だったってことは……。

 ごくり、と唾を飲み込む。『盲信』のテキストを思い出す。この人は、3ヶ月の間。ここで餓死と蘇生を繰り返していたのでは、なんてことを――。

「そうですか」

 踏み込まないようにしてそっと話を進める。

「とりあえず説明はこんな感じで。方針は、先輩のレベルをあげること。どんなボスがいようと先輩がいればなんとかなると思うので!」

 逆に言えば、先輩のレベルをあげてもどうにかならない場合。俺たちは詰みである。ここで一生、この狂った女と過ごさなければならないのだ。

(マジでぞっとしねぇよ……どうか弱い敵であってくれよ……)

 隠しエリアっても、始まりの洞窟から侵入できてしまう場所だ。この世界に良心が多少でもあれば、きっと倒せるレベルの敵が配置されているに違いない。

 ポジティブシンキングポジティブシンキング。

 見下ろせば、そんな俺を先輩がじっと見つめていた。不安そうな言葉がその口から漏れる。

「その、わたしは忠次様のお役に立てるでしょうか? れじぇんどれあ、というものがどういうものかはいまいち実感がわきませんが」

「先輩がいれば楽勝ですよ! なにしろレジェンドですからね!」

 俺の言葉に安心したような先輩は更に言葉を重ねてくる。

「そうですか。わたしがいて、よかったですか?」

「はい。もちろん」

 戸惑わずに肯定をする。そうですか、と先輩は俺の腹に顔を沈める。制服越しに吐息を感じ。俺は先輩の髪にそっと触れる。特に理由はない。目の前で艶々としていたから、なんとなく触れたくなっただけだった。

 そういえば説明に費やしたこの一時間で、恋人であるあの女よりも先輩と身体的接触をしてしまったが……。

 まぁいいかと俺は内心のみで呟いた。


                ◇◆◇◆◇


「やべ……魔法型のLRってすげぇのな……」

 一瞬にして粉砕された五体の『朱雀の雛鳥』を見ながら俺は呟いた。

 戦闘終了後のファンファーレが鳴り響き、ゴールドとドロップアイテムがウィンドウに表示される。

 「こんな簡単に」なんて呟いた先輩が『折れた杖』を握ったまま俺を見ている。その目に俺への尊敬の光が微妙に見えて、ただただ怖い。

 ステータスの説明をしたときも同じように見られたのだ。どうにも何かをする度に盲信を深めている気がする。

 そっと視線をウィンドウに向ける。粘ついた視線を感じ、しっしと手を振りたくなる。やりはしないが。

「あー、素材に、武器に、魂か。結構よさげだな。五体もいればドロップも美味いか」

 ゴールドもざくざく入っている。始まりの洞窟の通常戦闘4よりも多いな。

 しかし、とドロップアイテムの詳細を確認しながらLR魔法使いのヤバさを思い出す。

 そう、こちらにターンが回ってから一瞬で敵は全滅したのだ。


                ◇◆◇◆◇


 エリアに侵入し、ターンが開始されたと同時に、朱雀の雛鳥のリーダースキル『奇襲』が発動しています。エネミーターンから開始します。との宣告がされる。

 とはいえ、計算は終了している。覚悟しながら突っ込んでくる雛鳥の攻撃を受けていく俺と御衣木さんのフレンドシャドウ。

「こんなもんか」

 嘴は痛いが、痛いだけだ。死ぬわけではない。1人ならともかく先輩の目もあるので過剰に痛がったりはしない。いや、痛いけどな。

 さて、当然というところか。1ターンでは嘴がいくら突き刺さっても前衛に配置された俺とシャドウ御衣木さんのHPを削りきることはできなかった。

 一体あたりの攻撃が数値にして280前後。先輩のリーダースキルでダメージは軽減されているので元のダメージは400ぐらいだろうか? モンスターといってもステータスは一律ではなく誤差みたいな数値の個体差があるのでダメージは正確に280というわけではない。

(つっても、道中一戦目にしては威力が高いな。ここ、ゴーレムを倒せることが前提のエリアか?)

 ゴブリンの与えてくるダメージが100だ。その4倍。傾向からして俺1人だとたぶん道中3戦目ぐらいで詰みそう。ボスに関しては考えたくない。たぶんレベルを上げてもRレアリティ1人じゃどうにもならないボスモンスターだろうな。

 軽く絶望している俺を他所に、こちらのパーティーのターンが始まる。そして、あらかじめ設定しておいた行動順通りに先輩にコマンドが回った。

「じゃあ、いきます。えっと、えい!」

 背中に感じる先輩の戸惑いの視線に、促すように俺が手を振ればいっそ可愛らしいと言ってもいい声が聞こえてくる。

 俺の背後。『後衛』の位置で先輩が『折れた杖』を振るったのだ。

 風が巻き起こる。風魔法スキル『神ノ風』だ。ATK2.5倍全体対象風魔法スキル。座古とは比べ物にならない高威力の魔法スキルが敵陣を蹂躙していく。

 蹂躙とは言ってもエフェクトは静かなものだ。風の刃が乱舞するだけ。派手さだけなら俺の大斬撃の方が上だろう。しかしその効果は絶大だった。俺の攻撃なんぞこれに比べればカスみたいなものでしかない。

 炎を孕んだ小さな鳥たちが風によってズタズタに引き裂かれていく。次々とヒットポイントバーが消滅していく。それで終わり。戦闘終了。

「やべ……魔法型のLRってすげぇのな……」

 戦闘終了のファンファーレと共に、そんな俺の呟きが虚しく響いた。


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