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ソシャゲダンジョン  作者: 止流うず
第三章 ―神を包む繭―
73/99

006 クエスト機能


「えー、ボク、刀のままの方がいいです」

「いや、俺だけだと怪しまれて勧誘できねーから手伝えって言っただろ」

 うぇぇ、という表情で俺の腕に、自身の腕を絡ませていた朝姫が全身から力を抜いてへたり込もうとする。

「子供かお前は」

「子供でいいですよぅ」

 立ち止まっている暇などない。腕の筋肉に力を入れ、朝姫をずるずると引きずりながらエリア3を歩いていく。

 廃墟の村のようなエリアには多くの生徒がいた。エリア2以前のエリアに人がいないことや、この先のエリアの敵の強さを考えれば、恐らく全校生徒の半数以上がこのエリアにいる。

「エリア2から生徒全員引き上げるとはな……派手な手を使うぜ」

「センパイに確実に会うためにですよねー」

「エリア3に生徒を集結させれば、勧誘のためにも俺はここに来ざるを得ないからな」

 エリア到着時に必ず出現する蘇生地点(リスポーンポイント)を監視していれば、俺の到着タイミングもわかるという寸法だ。

 実際そうなった。到着と同時にギルド会議に俺は呼ばれた(監視は予想できたので、華は到着と同時にステルス魔法を自身に掛けて逃れた)。

「800億の女ですもんねー。神園華は」

「言うな。気が重くなる」

 ごめんなさーい、という朝姫は未だに俺の腕にぶらぶらと掴まっている。軽い。軽いが鬱陶しい。一度腕を放させて、腰を掴んできちんと立たせる。俺にしなだれかかる朝姫と一緒に周囲の人間を確認していく。

「まず、白陶先輩に会いに行くぞ」

 朝姫を連れ去ったのは誤解じゃねぇが、とにかく関係性を健全なものに戻す必要がある。

 俺の評判からすると楽観はできねぇが、元気になった朝姫を見せれば一発だ。たぶんな。

(ちょうどクエストが出てるしな……お友達料金代わりにこなしとくか)

 大罪魔王を倒したことで新しく発生したクエスト機能から白陶先輩の依頼(クエスト)を確認する。


依頼名:パンと水の提供のお願い

依頼者:白陶繭良

内 容:余裕のある方、パンと水の提供をお願いします。

報 酬:な し


 これはデイリーミッションとは少し違う。個人がクエストを作成し、他の生徒に依頼ができるようになったのだ。

 白陶先輩の依頼には設定されていないが、もちろん報酬を設定することもできる。

 というか、当たり前に考えて報酬がない依頼を受ける奴などいないので相応の報酬を設定しないといけない。

 現に報酬のない白陶先輩の依頼はここに来た時と変わらず残っていた。誰も受けていないのだ。

 ついでに大量に発生しているゴミのようなクエスト一覧を眺めれば、フレポで出る道具と道具の交換依頼などもあって、皆は早速それぞれに工夫し、クエスト機能を活用しているようだ。

「それと、この依頼もな……」

「それですか。どういうことなんでしょうね」


 依頼名:エリア3踏破依頼

 依頼者:ベルゼブブ

 内 容:全生徒によるエリア3の踏破

 報 酬:参加者全員に300000ゴールド


「華が言うには。難度上昇によるボーナスの付与には二名以上の何者かの意図が存在するって話だったが」

「それが天使と、悪魔……ではなく、えっと魔王ってことですよね?」

「いや、悪魔でもあってる。アナウンスは悪魔なんだよ」

「え? 魔王じゃないってことですか?」

「魔王でもあるんじゃないか? 天使(アルミシリア)は魔王って言葉を使ったし――」

 んん? あー、いいや。これはよくわかんなくなる。どっちでもいいだろ。

「とにかく難度上昇による敵の強化はアルミシリアで、ギルドハウスやクエスト機能なんかの俺たち生徒への支援は大罪魔王たちが設定していたってことだろうな」

 天使が試練を与え、悪魔は手助けをする。普通は逆だ。

 だが、ルシファーに見せられた最後の光景を思い出せば、その真実も見えてくる。

「うーん、ボクたちに何をさせたいんでしょうか?」

「悪魔は俺たちを殺すことで、天使との賭けに勝てる。だから生徒がラストバトルに到達しやすいようにしている」

 アルミシリアが難度を上げるのはそのためだ。全滅を防ぐために難度上昇による時間稼ぎを組み込んだ。

「だが、なぜ奴らはこんな回りくどいことをする?」

 こんな遠まわしなことをせずとも、天使が正直にアナウンスをすればいい。それをしないのはなぜだ?

「さー? わかりませんねー」

 自身の腕を俺の腕に絡ませている朝姫は、退屈そうに俺の腕の筋肉を揉んでいた。

「お前、さてはこの話に飽きてるな?」

 飽きてませんよー、と誤魔化すように俺の体にぎゅうぎゅうと薄い胸を押し付けてくる朝姫の頭を撫でくりまわせば朝姫はきゃあきゃあと騒いで逃げようとする。

 くそ、真面目な話をしているというのに。こいつめこいつめ。

「ちッ、新井、お前はほんと楽しそうだな」

 ん? と声が聞こえてきた方に視線を向ければ、ズボンを締めるベルトにフレポから出る木刀を差した男子生徒(イケメン)がそこにはいた。

 そいつは砕けた家屋の壁に背を預け、俺たちをつまらなそうに見ている。

 瞬時に俺から離れた朝姫が手に四凶獄刀を顕現し、警戒した様子で俺の前に立った。

「朝姫サン。どうもです。快復したんですね。ご健勝で嬉しいです。あ、俺ですよ俺」

「赤鐘の門下ですかね? 誰ですか?」

「やっぱり覚えてない。だからまぁ俺らは真昼サンについたんですが」

 不機嫌そうに朝姫の顔が歪んだ。

「は? その話、今必要でしたか?」

 朝姫は知らないようだったが俺はそいつを知っていた。

 疲れた顔をしたイケメンの剣道部員、青柄(あおえ)長巻(ながまき)

「青柄かよ。何のようだ?」

「朝姫サンにご挨拶だよ新井。俺は赤鐘の門下だからな」

 周囲に言い訳するように朝姫に向かいながらも、青柄の言葉は俺に向けてのものだった。

 周囲を警戒している。生徒会が俺たちを監視しているのか?

「新井、忠告だぜ。運動部の現トップは剣道部部長の黒柄(くろつか)サンだ。あの人は神園と真昼サンのシンパだから運動部は自動的に神園につく。だから勧誘しても無駄だ」

「情報、いいのか?」

「ふん、それとだ。ついでに忠告しておくぜ」

「ああ? なんだよ?」

「朝姫サンはよくない(・・・・)。その人は持ち手を不幸にする妖刀だ」

「ああ!? なんだお前!! たかが分家の分際で本家に喧嘩舐めた口利きやがって! こいつぶっ殺していいですかセンパイッッ!?」

 沸騰したように顔を真っ赤にし、青柄に敵意を向ける朝姫。

 朝姫の刀を握る小さな手には信じられないような力が込められ、今にも青柄に斬りかかりそうだった。

 そんな朝姫の行動を抑え込むように、俺は朝姫の肩に腕を回し、青柄に向かって笑みを作る。

「おう、知ってる」

 ええ!? なんでぇ!? と朝姫は青柄を警戒しながらも俺の脇腹に四凶獄刀の柄を押し付けてぐりぐりしてくる。

 ああ、そうだな青柄。赤鐘朝姫の性格は最悪だ。好き嫌いは激しいし、やりたくないことは俺に押し付ける。

 俺以外の他人のことは全員ナチュラルに見下しているし、知り合いであるはずの青柄(おまえ)の名前を覚えてすらいない。

 仲間であるはずの華とよく喧嘩もする。顔はかわいいが基本小生意気で癪に障るところが多い。

 どうしようもなく選択肢がなかったから俺は朝姫を選んだが――他に選べるなら他の奴を選んだだろう。

「それでも俺は、朝姫(こいつ)でいいんだよ」

「ちょっと! センパイ! 感動的な感じに誤魔化さないでくださいよ」

 朝姫がつんつんと刀の柄で俺の脇腹をつついてくる。

「新井はそういうとこあるよな。あとお前、性格少し変わったか?」

 呆れたふうの青柄の言葉。俺はへッ、と鼻で笑う。

「青柄は相変わらず義理堅いよな」

「ちッ、前に世話になった礼だよ」

 剣道部二年のエースの青柄が、他校の女子にストーカーされていたのを解決したのをまだ恩に思っていてくれたようだった。

 解決。解決なぁ。

 青柄のストーカーにジューゴをぶつけただけだし、俺らも俺らで楽しんだから恩に感じなくてもよかったんだが。

「言いたかったのはそれだけだ。じゃあな、新井。それと朝姫サン」

 魔剣化おめでとうございます、と言いながら去ろうとする青柄に俺はアイテムボックスから華の作った饕餮肉のジャーキーの束を取り出して投げつけてやった。

「青柄! そのうちお前も来い! こっちは結構楽しいぞ!!」

「……黒柄サンが許してくれたらな」

 片手を上げて去っていく青柄を見送りながら俺は心の勧誘リストから運動部関連を静かに削除した。

「センパイって、もしかして」

「あ? なんだよ」

「いえ、なんでもないです」

 なんだよーお前ー、と髪の毛をぐしゃぐしゃっとしてやれば、きゃあきゃあと朝姫はうざがりつつも喜ぶのだった。


                ◇◆◇◆◇


 エリア3の片隅にある廃屋に五人の少女がいる。

 穏やかな雰囲気ではない。一人の少女が四人の少女に向かって声を(あら)らげて抗議をしていた。

「い、今、な、なんて言った!?」

 言葉を発したのは緑髪の少女だ。困惑の表情で四人の少女に食って掛かる。

「追い出すって言ったのよ」

 黒髪の少女が軽蔑するように緑髪の少女に向けて宣告する。

「全く、これだからケビエル派は」

「方針に従えないなら会議のときに言えばいいのにねぇ」

 青髪と赤髪の少女も緑髪の少女を責め立てる。

京子(きょうこ)ちゃん……」

「ひ、ひかり……」

 ひかりと呼ばれた淡い白色の髪の少女に、京子と呼ばれた緑髪の少女は縋るような視線を向けた。

「あ、あたしは、だって。や、やってない」

「でも京子ちゃんしかいないんだよ」


 ――風の魔法(・・・・)を扱えるのは。


「だ、だからあたしは」

「何考えて宵闇の下忍に手を出してるのよ? 殺したくなるほど隙だらけだったの?」

「ち、ちがう! エリア2になんかあたしは行ってない!!」

 黒髪の少女の追求に、緑髪の少女は否定の言葉を放つ。だがこの場の誰も少女のことを信じてはくれない。

「ま、元ケビエルは今もケビエルってことでしょ。勝手するならすればいいんじゃない」

 結論は出たとばかりに青髪の少女が小屋から出ていく。

「ちぇ、ここが元の世界なら京子をぶっ殺す理由ができたのに。殺しても蘇生するんじゃあねぇ」

 京子に軽蔑の視線を向け、赤髪の少女も小屋から出ていく。

「とにかく、ギルドからは除名。パーティーは組まない。フレンドも解除。風斬(かざきり)京子、もうアンタは私たちとは無関係ってことでいいわね」

 嘲笑するように黒髪の少女も小屋から出ていく。

 最後に残ったのは眦に涙を浮かべた淡い白髪の少女だ。

「京子ちゃん。信じてたのに……」

「ひかり! だからあたしは、あたしはやってないって!」

「私も信じてあげたいけど……風魔法を使えるのはやっぱり……現場には風魔法の痕跡が残ってたんだよ?」

「だから!!」

「いい加減に言い訳はやめて! 戦闘エリア以外で妖精もいない人間に、魔法が使えるわけないでしょ!!」

「だ、だから、それは……! 大罪とか……」

「大罪を持った人間が魔法で暴れたのは聞いたよ。でもそれは無差別だった。エリア2で宵闇の忍者が襲われた事件は理性的だった。忍者の三人だけが殺され続けた。理性的だった。大罪とは違った。ねぇ、京子ちゃん? 私たち魔法少女と神園との間に亀裂を作って何がしたかったの? それが人間と妖精の和平を掲げるケビエル派の方針なの? 本国の同胞たちがどれだけ大変な思いで今も戦っているのかわかってるの?」

「だから違うんだって!」

「私も、信じてあげたかったよ……」

 さよなら、と涙を流しながら白髪の魔法少女も小屋を出ていく。

「だから、ちがうんだよぉ……あたし、誰も殺してなんかないんだよぉ」

 元和平(ケビエル)派の風の魔法少女、風斬京子はその日、所属していた魔法少女の組織から追放された。


『星宮ひかりはエピソード1【失望と追放】を取得しました』

『アクア・アップルガースはエピソード1【失望と追放】を取得しました』

『緋村茜はエピソード1【失望と追放】を取得しました』

『闇口・マクスウェル・クロネはエピソード1【失望と追放】を取得しました』

『風斬京子はエピソード1【失望と追放】を取得しました』


 冤罪であった。神園華が起こした事件の余波である。


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