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ソシャゲダンジョン  作者: 止流うず
第三章 ―神を包む繭―
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003 第二次世界大戦


 何もかもうまくいったことなんて、ほとんどない。

 それは俺の16年、いやこっちでも時間がきちんと経過してるなら17年か。17年程度のまだまだ短いながらも濃密な人生ではいつものことだ。

 だいたいが60点から80点。それが小胆に身を任せた俺の人生だった。

「で、どういうことだこりゃ」

「誰もいませんねセンパイ」

 禍々しい刀『四凶獄刀・饕餮』を利き腕に顕現した朝姫が、警戒するように俺の一歩前に出た。

 エリア2『見果てぬ平原』に俺たちはいる。

 隠しエリアである饕餮牧場をクリアすることで戻ってこれるエリアであるが、俺たちはとある理由から一度『朱雀牧場』から『始まりの洞窟』に戻り、『始まりの洞窟』をクリアしてここにやってきている。

 エリア1まで戻ればゴーレムと再戦できるのがわかったのはよかったが、エリア2に誰もいない? あれだけいた生徒が? どういうことだ?

 誰もいない理由を探ろうとステータスから『掲示板』を呼び出した俺に向かって、周囲の確認をしていた華が遠くを見ながら言った。

忠次様(かみさま)、誰もいないわけではないみたいです。四名います。留学生の……いえ、あれは合衆国(ステイツ)改造人間(サイボーグ)どもですね」

「ステイツ? サイボーグ? なんだそりゃ? マンガか?」

 確かに華が指を向けた方向に誰かが見える。遠すぎて俺には誰かはわからないが。目が特別いいのか、それともお得意の魔法でどうにかしてるのか、華にはしっかりと個人が識別できているようだった。

「合衆国、いえ、米国でも随一の大企業、ウエストカンパニー会長の孫という設定(・・)のサラ・ウエスト。珍しい三つ子の留学生という設定(・・)のスミス兄弟」

「ああ、ステイツってアメリカか。つか、設定、設定って。いや、サラのお嬢様は確かに金持ちだが」

 呆れた顔で華の顔を見るが、至って大真面目の表情で、油断していない姿に俺は口を閉じた。

「センパイセンパイ! 本当ですよ。赤鐘でも注意するように言われていました。神園の実験場である極聖学園にアメリカ軍が潜入させたというか、派遣させたというか」

「正確には日本国政府を通して合衆国政府がしてきた依頼で転入させた生徒たち、ですね。ただ、実際のところは監視という名目の産業スパイどもです。彼らは神園の遺伝子研究の最高傑作であるわたしのデータを欲しています」

 遺伝子研究だのアメリカ軍だのアニメかマンガみたいな話だ。如何(いか)に華と朝姫の話とて信憑性というものがない。

「……あー、聞かなかったことにしていいか?」

 つーか、突然すぎる。せめて何か事前に――。

 ふと、赤鐘朝姫のことが頭を()ぎった。

「センパイ? どうしました? 撫でますか?」

「……撫でないよ」

 話に加わりながらも俺の前に立ち、警戒を続けていた朝姫は俺の返答に肩を落とした。それでも警戒は怠っていないのか、遠目に見える留学生組と俺との間に立ち続けている。肉の壁のつもりなんだろうか? 死んでも生き返るこの世界でそれに意味はあるのか?

(赤鐘朝姫……自分を道具と称する妙な奴……俺の血を取り入れて髪と瞳の色を変えていた)

 朝姫の赤髪にメッシュのように残った黒髪は、俺の血を飲めばたちまち赤く染まる。

 それは時間経過で赤が抜けて黒に戻るが、その異端さこそは、この少女がもはや人ではなくなった証だ。

 それに心当たりはまだある。華の奇妙な勘の良さや、人の限界を超えた身体能力。

 いや、もとの世界の学園生活でも確かに外部生と内部生の奇妙な確執が――。

「忠次様、どうしますか? 殺しますか?」

「いや、いやいや、殺すなよ。なんだ? 危険なのかよあいつら? アメリカ軍だろうがなんだろうが同じ学校の生徒だろ。殺すなんてことは」

 ちょっとお前らおかしいぞ、と二人の様子を見るが、なぜかこいつらは警戒を続けている。

 俺が一般人だから平和ボケしてるのか? つか、どっちにしたって日本政府の依頼で来てるアメリカ人なんだろ。喧嘩なんかできるわけがない。

 そもそもこの世界で人を殺す意味があるのか? どうせ復活するんだぞ。やるなら第二エリアの真のボスであった怪獣王ベルフェゴールによって、花守五島が魂から消滅させられたように……。

(ああ、クソ、俺までこいつらに当てられておかしくなってやがる)

 人を魂から消しとばすなど、そんな残酷なこと、できるわけがない。

「遭遇まで5分ぐらいありますね。ちょっと早口ですが、彼らと神園について忠治様に説明を」

「神園華、ボクがちょっと走っていって時間稼いでくるよ」

 お願いします、と華が朝姫に頭を下げた。そんな華を見もせずに、朝姫は目にも留まらぬスピードで走りだすと留学生たちのもとへと走っていってしまった。

 俺は「喧嘩するなよーー!!」と大声で指示を出すのが精一杯だったが、朝姫は()を大きく振ってきちんと了解の意を返してくる。

 いや、あいつ刀出したままじゃねーか。わかってんのか本当に。

「それで、なんでお前らはあんなに警戒してんだよ」

 あいつらが本当に産業スパイだろうが、そういう状況じゃないだろ今は。

 もちろん世界が滅ぶかどうかなんてのは俺たちだけしか知らない情報だからそれはいい。

 だが現状、全生徒からすればよくわからない空間に長期間閉じ込められている状況だ。

 小さな喧嘩が大規模な抗争へと変化しかねないのだ。軽挙妄動は慎むべきである。

 呆れた視線を向ける俺に対して華はそうですね、と説明を始める。

「第二次世界大戦を知っていますね」

「馬鹿にするなよ。それぐらい知ってる」

 日本を含めた枢軸国とかいうのと、アメリカを含めた連合国で起こった世界規模の大戦のことだ。これによって日本は新型爆弾を国土に落とされて降伏した。小学生のときの夏休みにアニメを見たからちゃんと覚えてるよ。

「そのときに、神園が合衆国の政治家や官僚の全てを」

 もったいぶるような華の視線にはどことなく申し訳なさが漂っている。

「すべてを?」

「暗殺しました。大統領から長官から連邦議会から各州の職員から何からなにまで一人残らず」

「は?」

 俺の呆然とした声を無視しながら華は「その結果として死なない(・・・・)要人の研究から人工知能による統治へと変わっていったのはお笑いですが」と続ける。どういう、どういうことだおい?

「話を戻します。彼らの目的は神園の持つ遺伝子研究のデータでした。現在でも欧州(ヨーロッパ)で勢力を拡大している魔法少女対策のためにです。彼らは妖精戦争への対抗手段の一つとして、人造超人を作るべく神園に遺伝子データの提供を命じ、それを神園及び日本政府が断ったために戦争を行ったのです。ゆえに神園は反撃をしました。暗殺の実行犯たちは神園と宵闇と赤鐘がそのために合衆国に潜入させた超人たちです。もちろん当時の合衆国も暗殺の対策はしていました。ですが、個人の強者である対魔法少女用の主戦力は欧州戦線に送られていましたし、そもそも暗殺の警戒も対魔法少女に限られていて、つまり、日本産の暗殺者たちに対してはそれほど対策をとれていなかったのです。当時の彼らは日本を極東の島国と馬鹿にしていましたしね」

「魔法少女? いや、まて、暗殺って。そもそも神園ってのはいったい」

「忠次様。わたしの、神園の事情に巻き込んで申し訳ありません」

 頭が痛い。は? これを理解しろって? この世はマンガじゃねーんだよ。暗殺者ァ? 魔法少女ォ? 宵闇って……生徒会副会長の宵闇か? 厨二病にしたって……。

 俺は、俺を申し訳なさそうにみる華を見る。どうにも冗談を言っている雰囲気ではない。『主従』のエピソードにも反応していない。

 この女はこの与太話を本気で信じていて、本心から言っているのだ。

(いや、朝姫も信じていた。これは、どっちがおかしい? 俺の知ってる常識か? それとも神園と赤鐘が共同で娘たちに教え込んだ、旧家特有の壮大な嘘歴史か?)

 悩む俺の耳に、発砲音(・・・)が届く。

 慌てて朝姫の方を見る。戦っているわけではない。

 留学生の一人が片腕を上げていた。スミス兄弟の長男、アンドリュー・スミスだ。筋肉モリモリで長身の金髪イケメン。体育祭の野球勝負でジューゴが喧嘩を売った野球部に勝つために、一緒に野球をした思い出もある男だ。

 勧誘のために一緒に飯を食ったことだってある。初対面じゃない。

 だが……だが――ッ!! なんで、あんな……。馬鹿げている。

 ニコニコとした巨漢のアメリカ人が、俺たち二人に向かって大きく()を振っていた。

「おいおい、あれ(・・)は、なんだ?」

 なんで、アンドリュー・スミスの腕が外れて、中から(・・・)鉄砲(ライフル)の銃身が出てやがるんだ?

「朝姫さんに、今からの交渉を円滑にするために、合衆国の方々に正体を現すようにお願いしていただきました」

 そうかよ、と俺は内心のみで頭を抱える。

 ああ、畜生。


 ――やはりこの世はままならない。



                ◇◆◇◆◇


「新井忠次くん。私たち合衆国は貴方の亡命(・・)を受け入れる用意があります」

 亡命、と意味もわからず呟いた俺に、金髪碧眼ツインテールわがままツンデレお嬢様といった属性モリモリの、中学生ぐらいの身長の美少女、サラ・ウエストがそうです、と頷いてみせた。

 だが、性格が変わっていた。ジューゴの前であれだけツンツンデレデレし、俺ら取り巻きをゴミを見るように見ていた過去などないように振る舞っている。

 いや、これが彼女の本当の姿なのかもしれない。薄く微笑みながら俺を見つめてくるその視線の奥からは、どうにも感情を読み取れない。

「もちろん神園華さんや、赤鐘朝姫さんも、新井くんのご家族も」

「あーあー」

「国籍も用意いたします。亡命後の生活の援助もいたしましょう。言葉に不安なら専用の通訳も用意いたします」

「あー」

「あーあーと、どうかなさいましたか? 新井くん」

 俺は、わけがわかんねぇ、と心の中だけで呟きながら、精一杯の理性を働かせて、絞り出すように言うしかなかった。


「なぁおい。なんで、俺が亡命することになるんだよ?」


 ああ、クソ、マジで、なんなんだこれは……。

 スミス三兄弟が、事情を読み込めない俺に対して、呆れたように両手を広げてみせた。



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