表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソシャゲダンジョン  作者: 止流うず
第二章 ―折れた魔剣―
65/99

033 七罪怠惰・魔王ベルフェゴール


 丘のような魔王の上がバトルステージだった。

 ゆっくりと景色が動いていく。

 青空の中、雲が流れ、俺たちの立つ魔王の背が揺れていく。

「おら! 『傲慢の天』だ!!」

 俺が下げた首飾りから闇が漏れ出る。俺の傲慢が世界に侵食していく。怠惰の魔王の空間に干渉し、敵全体の攻撃力を下げていく。

(……この、感覚)

 今、スキルを使った瞬間に俺の傲慢が成長した感触を得た。魔王の大罪に干渉した経験が、大罪をスキルとして操る精度を上げさせた。

 それはけして良いことではない。大罪は成長しすぎるとまずい。だが、そんなことを考えている暇はない。この魔王は危険だ。負ければ殺されずに延々と大罪で嬲られることになる。

 俺は平気だろうが、華と朝姫はそうではない。耐性を付与していても、それは完全ではないからだ。

「死ねやッ、おらァッ!!」

 スキルを使ったので、怪獣王ベルフェゴールに斬りかかろうとして足が何かにぶつかったように止まる。ああ? 見ればステータスの攻撃コマンドが黒塗りになっている。

 『石化』ではない。『石化』の状態異常は牛鳥バーベキューに混ぜた饕餮草で防ぐことができているし、そもそもが今回の華のリーダースキルは状態異常無効だ。状態異常の(たぐ)いは完全に防御できている。

(ちッ、怠惰の魔王(ベルフェゴール)の使ってくる状態異常が石化なら、朝姫のリーダースキルにしておけばよかったか)

 大罪魔王戦を警戒しすぎて悪いことではないが、朝姫のリーダースキルは前衛のHPとATKを1.5倍するものだ。損したという感覚になるも、考えるべきはそこではない。

 ステータスに見たことのない表示が出ていた。確認すれば『攻撃回数低下』だ。状態異常じゃない。弱体化(デバフ)だ。リーダースキルで撒かれたデバフだ。

(クソ、デバフを解除できるメンバーがパーティーにいねぇし、こんな特殊なデバフを解除するアイテムもねぇぞ)

 予想してしかるべきだった。精々が攻撃力低下や防御力低下ぐらいだと高をくくったのが仇となったか。

「センパイ!?」

 攻撃が止まった俺を見て、朝姫が焦ったように声を掛けてくる。

 視界の隅にあるカウントが減っていく。俺に許された行動時間があと少しで終わってしまう。


 ――決断が、必要だった。


 この状態異常は確定なのか、それとも確率なのか。

 花守先輩の結末を見た以上、最悪を想像すべきだった。

 検証の余裕はない。確定で攻撃回数が減ったと思わなくてはならない。

(最悪だ。魔王のリーダースキルによるデバフは永続だぞ)

 耐久してデバフが解除されることは期待できない。孔雀王の攻撃力低下はそうだった。ずっと残っていた。ならばこれを解除しない限り、俺はこの戦闘で置物になる。


 ――(いな)、負けることになる。


 回復職である栞と華が動けなくなる。それはもう、次のターンで全員が死ぬことを表していた。

 だから、決断は即座だ。どちらにせよ今回、華は『無敵』が張れない。だから、このターンに華が攻撃できなければ栞と俺は怪獣王を含めた、3体の狂王・饕餮の攻撃を食らって死亡する。

 そうすれば僧侶であっても蘇生スキルのない華と、(攻撃回数+1を持ち、一応攻撃ぐらいはできそうな)朝姫では詰む。大罪耐性は付与し続けなければ3ターンで消えてしまう耐性だからだ。こいつらのHPは俺に比べれば膨大だが、無限にあるわけではない。大罪魔王戦ではせいぜいが2ターン持てばいい程度でしかない。

「クソがぁああああああ! ギルドスキル発動だ! 『完全回復』!!」

 観念するしかなかった。24時間に1回だけ使えるギルドスキルを発動する。俺たち全員のステータスから『攻撃回数低下』のデバフが消失する。

 俺の攻撃コマンドに光が灯り、攻撃が可能になる。

 助かりはしたが、同時に、同じようなデバフを撒かれた場合に、もう対処ができないことも示していた。

「クソがぁてめええ、死ねやぁああああああああ!!」

 俺たちは大罪魔王の上にいるが、ここを攻撃してください、といった形にほんの少しだけ盛り上がった背骨部分に魔王剣ルシファーを思いっきり斬りつけた。技もなにもない一撃。だが大量のエピソードと特殊ステータスによって強化された俺の一撃は強力だ。

 更に、武器と装飾品でクリティカル率を90%にしている朝姫の共有エピソードに加え、料理バフの絶好調効果によってクリティカルが確定で発生する。

 目に見えて魔王のHPを削り取っ……クソがッ!!

「華ァ! 計算しろ!!」

 背後の華を怒鳴りつけるように指示を出す。孔雀王とゲージの減りが違う! 減りが半減!? 属性耐性? 斬撃耐性? いや、表示されたダメージ数値は計算した時と同じもの。耐性はねぇ! 違う要因だ!

 もちろん、こんなもん自分でも計算はできる。だが華は正確だ。間違いがない。確証が欲しかった。

2倍(・・)! HPが再戦した孔雀王の2倍です!!」

 返答は即座だった。2倍……? 2倍だぁ? つまり敵のHPは800万か?

(つか、なんで? 個体差? いや、『巨体』の効果か!!)

 別に魔王の全てがHPとATKが同値だとは考えないが、それでもそっちの方がしっくりくる考えだった。

 舌打ち。ギルドスキルを用いての変身前オーバーキルは成功しないタイプの魔王のようだった。

(まー、今回はこういう事態を警戒して『完全回復』を入れてたから『ATK3倍』は持ってきてなかったがよ)

 小胆に救われたといったところか。

 そんな気落ちした俺を慰めるためか、饕餮刀片手に朝姫が駆け出す。

「何がなんだかわかりませんが! センパイ! ボクに任せて!!」

「ああ! 行ってこい!!」

 俺が与えた大罪耐性の効果だろう。先のような心身の萎えた素振りは完全に消え去っている。

 朝姫に掛かっているバフは俺よりも多い、俺が与えた『勇猛』に加え、常時発動している『剣の(ひじり)たる者』、俺の血を飲んだことによる『エピソード2【赤く染まる刀身】』、加えて、現状できる最大まで強化したギルド施設の『教室』のATK20%、『運動場』の物理攻撃の威力アップ20%(もちろんこの2つは栞のシャドウを除いた全員にかかっている効果だ)、装飾品枠に【攻撃力の腕輪】のATK上昇20%が1つ。

「センパイの敵は、死、ぃ、ねぇッッ!!」

 大振りの一撃、ではない。

 俺が斬りつけた場所とは別、少しだけ盛り上がり、巨大な血管が脈動する瘤のような箇所、そこで朝姫は四凶獄刀を振り下ろす。剣先で血管を斬り飛ばした、と思った瞬間、見えていても認識のできない動きで刀が動き、別の箇所から血管を切り裂く。

 2回攻撃。俺と違い、特攻によるダメージ上昇はないが、それでも恵まれたレアリティによるステータスの暴力が魔王のHPゲージを大きく減らしていく。

「よくやった! 朝姫!!」

 走って俺の隣に戻ってきた朝姫を褒めた瞬間「うぉ」上空から光が降り注ぎ、俺にATK上昇(大)のバフがかかる。

 同時に大きく風が渦巻く。華の風魔法だ。

 弱点属性、さらにはクリティカルが発生し、狂王・饕餮3体が一撃で消滅する。加えて怪獣王ベルフェゴールのHPが大きく減少した。弱点属性が入っている。怪獣王(こいつ)、地属性か? いや、上位の地母属性だ。

 背後を見れば華が重箱片手に「わたしの方が役に立ちます」と大きな胸を張って、俺を見ていた。

 『信仰【力の理】』『魔導練達者』『風魔法を極めし者』。複数の特殊ステータスで強化(バフ)攻撃(まほう)を使いこなす優秀な従者に向けて俺は言ってやった。

「わかってるよ、華。よくやった!」

 ありがとうございます、という喜びを含んだ返答に笑いながら俺は魔王を想う。


 ――やっぱ殺せるよ、お前。


 もう一度攻撃回数低下をばらまかれればやべぇが、大罪耐性を持つ俺ならギブアップできて、またここに挑みに来れる。

 そうしたら対策を練ってまた殺しに来ればいい。まだまだ魔王は弱い。

 一撃でシャドウ栞が死にかける全体攻撃を喰らいながらも俺は傲慢に嗤うのだった。


                ◇◆◇◆◇


 数値通りの戦いだった。いつもどおりだ。この世界の戦いは、始まってしまえば、あとは積み上げたものをどうやってぶつけるかにかかっていて、戦いの最中に覚醒とか、強くなったりなんかはしない。

 だから、この勝利は決まっていたことだった。

『……ああ、ダルイ、戦うのはダルイ、生きるのはダルイ……』

 『七罪怠惰・魔王ベルフェゴール』が目の前で死にかけていた。

 魔王の本体、それは巨大な魔王の背にあった瘤から発生した人型の肉塊だ。

 俺たちが立つ(まおう)から生命が失われていく。流れる景色は止まった。

 魔王の歩みは止まり、地面の上に力なく横たわっている。

「あー、いい気分だぜ」

 巨大なものに勝つのはいい。俺が強くなった気分になれる。

 辺り一面は血に染まっていた。俺と朝姫と華とでさんざんに斬り裂いたからだ。

 魔王のHPはミリも残っていない。こいつも変身で回復をしたが、その度に、朝姫が『絶死・剣戟舞踏(メメント・モリ)』で強力なATKバフを自身に掛け、『必殺技』である『刀剣活劇ブレイドダンス復活の剣聖少女(リバースエッジ)』で回復したHPの多くを消し飛ばしていた。

 懸念だった攻撃回数低下は撒かれなかった。他に何か切り札を持っていたのだろうか?

「はぁ、はぁ、はぁ、センパイ。と、止めを」

 大罪の影響か、朝姫は肩で息をし、苦しそうだ。

 華も疲労を隠せていない。無言だが、強く止めを刺すことを俺に求めている。

 栞のシャドウはいるが、倒れている。魔王のHPが減少し、レイジモードに入ったターンに、一撃でHPをゼロにされたからだ。

「お前、何か言い残すことはあるか?」

『死ぬのも、ダルイ……』

 そうかよ、と俺は笑った。人型の肉の塊に剣を突き刺す。

 魔王のHPは調整していた。だから俺が止めを刺すのは偶然ではない。事前に決めていたことだ。

 ルシファーのときの最後っ屁のような大罪の奔流がないとも限らなかった。

「……何もしないのか?」

 肉塊のような怠惰の魔王が消え去っていく。丘のような魔王の本体からも生命の鼓動が消えていた。

 戦闘画面にリザルトが表示され、報酬アイテムとゴールドが入ってくる。

 そうして――


 ――ぱんぱかぱんぱんぱーん!! リーダーの新井忠次様に『願いの玉』を2つ。

 ――ちゃんちゃらちゃんちゃーん!! メンバーの神園華様と赤鐘朝姫様に『願いの玉』を1つずつ進呈しまーす!


 後光を背負い、天使(アルミシリア)が舞い降りてくる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき有難うございます
気に入ってくれた方はブックマーク評価感想をいただけると嬉しいです

Twitterで作品の更新情報など呟いております
私のついったーです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ