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ソシャゲダンジョン  作者: 止流うず
第二章 ―折れた魔剣―
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032 怪獣王ベルフェゴール


 饕餮牧場の休息エリアでのことだ。

 決戦前の食事として、三人でバーベキューをすることにした。

 料理は『牛鳥バーベキュー+4』だ。+4なのは使用している肉に、再戦した孔雀王からドロップした『極上孔雀肉』が入っているためだ。

 極上孔雀肉には、使用した肉系料理のクオリティを最大にする効果がある。クオリティが最大になるとステータス上昇効果が倍加され、食べた人間に『絶好調』のバフが付与される。

 とはいえ、それら効果を抜きにしても孔雀肉ものすごい美味(うま)い。華が作ったネギっぽい饕餮草を刻んだソースと絡めながらもっしゃもっしゃと食べていく。

 現時点で手に入る肉系素材すべてをただ焼いていくだけのシンプルな料理に見えるが、ソースを用意したり、きちんと下味をつけるなどの処理がなされていて、結構手間がかかっていた(準備したのは華と朝姫だが)。

「はい。センパイ!」

 振り袖姿の朝姫が、肉を山盛りにした皿を俺の傍らの折りたたみテーブルに置く。

 礼を言いながら申し訳程度に添えられた野菜もついでにパクつく。美味い。饕餮肉の塊を食べる。美味い。肉の脂が口の中に満ちる。ギルドハウスの食堂で野菜と一緒に購入できる烏龍茶を飲んで口の中の脂を喉に流し込む。

「うめぇ」

 げふっとフレポで出た肘掛けつきの折りたたみチェアに寄りかかった。

 陽光が顔にかかる。牧草の匂いのする風が鼻をくすぐる。朝姫が俺の膝に頭を乗せてくる。

 肉体が復調し、触り心地の良くなった髪を撫でながら、考えを巡らせる。

(この魔王が終わったら、レイド戦の準備だな……)

 怠惰の魔王は通過点だ。まだ会ったことはないが倒せるだろう。

 苦戦するかもしれない。一度ぐらいは負けるかもしれない。だが、勝てない相手ではない。再戦した孔雀王と戦ってわかった。


 ――この段階なら、まだ余裕で倒せる。


 特殊ステータスやエピソード、バフの合算による桁のおかしいダメージ。敵のHPが400万だろうがなんだろうがまだ倒せる。

 だがそれは俺たちだけだ。特殊ステータスとエピソードを構築した俺たちだからできたことだ。

(他の連中を鍛えなければな)

 俺の傲慢の影響は理解できる。華も朝姫も特殊な人間だ。俺の傲慢を許容できる人間が、そう多くないことは理解できる。

 だが、パーティーメンバーは無理でもギルドのメンバーとしてなら利用できるはずだ。

 俺の接触は最低限にして、華か朝姫に育てさせる。

(それと、大罪耐性を付与できる人間が欲しい……)

 大罪戦には必須と言ってもいい人材だ。レアリティに関わらず、それができる人間が必要だった。

 そのためには、多くの人間を引き入れなければならない。俺の傲慢と悪評を考えれば、見つけて勧誘するより育てて見出す方がまだ現実的だろう。

「忠次様?」

 ソースの匂いと声に目を向ければ、焼きそばを盛り付けた皿を片手に、ジャージ姿の華が立っていた。

 鉄板の近くでずっと作業をしてたせいか汗が白い肌を流れている。

 料理をするのに邪魔だったのか、三つ編みにした髪が肩で揺れていた。

「華、これからも頼むな」

「ええ、もちろん」

 何のことかわからないだろうに、華は微笑むと俺に撫でられている朝姫を軽く蹴りつつ料理に戻っていく。

「センパーイ、蹴られましたー」

「そうか。可哀そうに」

「えへへ。センパイやさしー」

 朝姫の頭を撫でて機嫌をとってやれば、華が振り返って自分の足を憎らしそうに見ていた。羨ましがるぐらいなら蹴るなよ。

 華に向かって舌を出した朝姫が俺を見上げてくる。

「あとボクにも言ってください」

「ああ、お前も、マジで頼むぜ」

 喜ぶ朝姫を見ながら思う。


 ――ジューゴ、たまにはお前と……。


「飯でも食いたいぜ」

 呟けば、立ち上がった朝姫が傍のテーブルから焼けた肉を俺に差し出してくるのだった。


                ◇◆◇◆◇


 舌先にバーベキューの最後に食べたアイスクリームの甘みが残っている。

「この戦いが終わったら――」

 華がバーベキューの最後に出した、いちごのジャムをからめたバニラアイスは絶品だった。

 肉の脂で汚染された舌の上で溶けたそれは、元の世界で食べたものよりも格段にうまいものだった。

「――またやるかな。バーベキュー」

 眼の前で、華の風魔法が戦闘エリアを蹂躙していた。

 それは華が回復ジョブであるために、特殊ステータスから使用した魔法による攻撃だ。

 大型トラックほどの大きさの『狂王・饕餮』の身体が竜巻に巻き込まれて崩壊していく。狂王・饕餮の属性は土であるために、風属性魔法によるダメージは倍加する。同時にクリティカルも発動していた。

「はは、やっべぇな」

 ジョブによるスキル補正がないくせに、桁のおかしいダメージが出ている。1ターン目でリザルト表示が出ていた。 


 ―『エリアボス【第二の悪魔・怠惰の王】』へ挑戦できます―


 神社の残骸にも、アイスクリームメーカーにも攻撃はしない。

 ジャージとシューズは今回は着てきていない。

 決戦だ。せいぜい派手にしてやろう。

 鮮やかな龍の刺繍の成された振り袖を着た朝姫が俺の前で『四凶獄刀・饕餮』を構える。

 背後で巫女装束の華が『新春巫女』専用装備である、漆を塗った重箱『神ノ重箱オセチ・ボックス』を抱え直した。

 『戦士』ジョブの俺は制服だ。

 再戦した孔雀王がドロップしたレシピで作った暗黒色の長剣『魔王剣ルシファー』の柄を強く握る。

「じゃあ、行くぞ」

 はい、と2人がそれぞれ頷く。

 そうして俺は『YES』を選択する。


                ◇◆◇◆◇



 名称【魔王剣ルシファー】 レアリティ:【LR】 レベル【100/100】

 HP【+1000】 ATK【+2000】

 スキル:『システム【プライド】』

 効果:攻撃を100%暗黒属性に変更し、一定確率で『攻撃力低下(小)』と『恐慌』を付与する。

 説明:傲慢の魔王の残骸から作成された剣。くらやみよりも深き闇の底。


                ◇◆◇◆◇


 饕餮牧場の決戦場は、小高い丘のような場所にある。

 YESを選択した直後のことだ。その地面が大きく揺れた。

「おいおい、地震かよ……!?」

「地震じゃないですよ! これ!」

「まさか……」

 俺が驚き、朝姫が叫び、華が地面を睨む。

 大地そのものが浮き上がるような浮遊感が俺たちを襲った。

 魔王剣を地面に刺してバランスを取りつつ俺は周囲に視線を巡らせる。

「は?」


 ――スケールが大きすぎて、脳が理解を拒んでいた。


「まさか……? って、まさかかよ……ッ!?」

 それは地震のような身震い(・・・)

(落とされる……!?)

 刺していた剣が揺れ動く地面より外れかけ、とっさに華が風の魔法を操った。

 風によって俺たちの身体が固定される。

 これで振り落とされることはないが。

「おいおいおいおい、これはよぉ」

 地面(・・)が動いていた。

 巨大な何かが、饕餮牧場を歩き出す。その何かの上に、俺たちはいた。


 ――『怪獣王ベルフェゴール』のリーダースキル『衰えよ、汝が生は怠惰なり』が発動。

 ――『石化』『攻撃回数低下』『巨体』の効果が発動します。


『ブモォオォオォオオオオオォオオオオォオオオオォオオオオオンン!!!!』

「う、うるせーーーー!!」

 巨大なあくび(・・・)が、空間を震撼させた。華が慌てて魔法を操り俺たちの耳に防音の膜を作り出す。

「あれが、大罪、魔王……」

 朝姫の刀が萎えたように地面に落ちた。

 いや、刀だけではない。膝から崩れ落ちている。思えば華の反応も少し(にぶ)い、いつもの華なら相手のアクションの前に対策をとれていたはずだ。

(クソ、大罪か)

 いまだ戦闘は始まっていない。戦闘コマンドは発生していない。これはゲームでいうところの戦闘前の演出だ。孔雀王にもあったものだ。

 だが、これは、これは……。

(この大罪の強さは2戦目以降だぞ)

 難度か? いや、そんなはずはない。再戦したルシファーの演出は初期のものにリセットされていた。難度の影響じゃない。

「畜生畜生畜生畜生、誰だ……!」

 唸り声と共に、取り巻きたる狂王・饕餮が3体、饕餮牧場の彼方から現れ、この丘のごとく巨大な魔王の身体を駆け上がってくる。


 ――人よ、怠惰であれ。

 ――果実よ腐れ、大地よ、衰えよ。

 ――我が名は怪獣王ベルフェゴールなり。


「誰がこいつに挑みやがった!!」

 叫ぶ俺に対して、誰かが嗤う。(いな)、そうではない。誰かではない。

 魔王(・・)が嗤った。微かに、寝ぼけたような声で。

 強く魔王の身体が跳ねる。華の魔法で固定された俺たちは平気だが、そうではないものがいた。それが、降ってくる(・・・・・)

 それは学園の制服に身を包んだ見覚えのある顔。


 ――花守五島だった。


「てめぇかァッッ!!」

 叫んで気づく。いや、いや、そうではない。そうではない!! 畜生、なんだこれ、花守五島(こいつ)

 同じ戦闘エリアに別のパーティーが存在している? いや、そうだ。大罪魔王のオリジナルは一体だ。別々に挑んだパーティーが、同じエリアに存在できるのは正しい。

 だが、だが、なんだこれ。倒れた花守先輩の身体には、HPゲージがミリ単位で残っていた。生きているのかも怪しい花守先輩が、魔王によって生かされていた。いまだ花守先輩の戦闘は続いていた。続かされていた。

「なんだ、よ。これは……?」

 システムの悪用? わざと敵側が止めを刺していない? この魔王に負ければこうなるのか?

「も、もう、嫌だ。俺は、もう、やだ、嫌だ……」

 生きていたのか? ぶつぶつと泣き言を呟いた花守先輩の身体が薄っすらと消えていくところだった。HPゲージはまだ残っているのに。


 ――背筋が寒くなる。


「ま、待て! 先輩! 待て!! 花守五島! 待て! 消えるな! リタイアしろ!」

 俺の声にも反応せず、花守先輩は「から、だ、が、うごかな……だる、い」と呟いて消えていった。

 その消え方は、システム的に死んだのではない。蘇生はもうない。

 これはルシファーとの戦闘で流された記憶で見た死だ。精神の死だった。大罪による圧力によって魂が圧壊した。その末路だった。


 ――お前たち人間は、殺すのも面倒だ。


 魔王が語る。大罪適性のある俺にだけ届く声。


 ――ルシファーを滅ぼせし、傲慢なる者よ。お前もここで、怠惰に滅べ。


「クソがッ! てめぇ、上等だァッ!!」

 演出が終わる。

 フレンドシャドウの栞のリーダースキルが発動する。

 華の特殊ステータスと、栞のスキルによって必殺技のコストたるマナがチャージされる。

 戦闘コマンドが表示される。

 戦闘順は俺が最初だ。

「華ァッ! 朝姫ッ!! 気合をいれろッ! ()るぞッ!! 」


 ――『付与(ハートセット)傲慢たる獅子の心(プライド・レオ)】』

 ――『号令(デッドカウント)隷下突撃(イェーガーストライク)】』


 俺の傲慢が、パーティー全体へと降り注ぐ。



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