031 再戦! 孔雀王ルシファー
二話投稿
「勝った。勝ったが……」
眼の前には崩れ落ちていく巨大な孔雀の姿。
こちらのパーティーは『戦士』の俺、『振り袖女子』の朝姫、『新春巫女』の華。
シャドウ栞は死んでいた。黒い影のような栞のシャドウが地面に倒れて転がっている。
リザルト画面を見ながら俺は呟いた。
「難度が上がって新しい攻撃パターンが追加されたのはわかった。だが、こいつ、弱くなってないか?」
弱いといっても最初の個体と比較しての話だ。
敵としては強敵であることに変わりはない。
事実、再戦した孔雀王ルシファーは、難度が上昇したことでHPが2倍になり、400万となっていた。
攻撃も12000ダメージの全体攻撃だ。朱雀王やシャドウサンタよりも圧倒的な強者であることは変わりない。
(そう、最初の時点ではフレンドシャドウも問題はなかった)
前回戦って理解しているが孔雀王は超ダメージの全体攻撃だけを繰り返す木偶だ。こちらには大罪耐性の付与に加え、『傲慢の天』によるデバフがある。
攻撃力の低下と大罪耐性で12000の敵の攻撃は6720にまで下がり、レベルMAXでない栞のシャドウであろうとも回復職となった華の全体回復を加えれば十分に戦線に立てる程度にはなっていた。
(それに、相手に中身が入っていなかった……)
再戦した孔雀王は一応大罪属性の攻撃をしてきたのだが、以前と違ってそれに脅威を感じることはなかった。
(あれはシステムが付与した大罪って感じだったよな)
以前と違い、意思を感じなかったのだ。
加えて、登場パターンや攻撃方法も初回の時と同じになっていた。
悪意が存在しなかった。殺される殺してやりたい、お互いにそう思っていたあの戦いの再現には至らなかった。
ただ、シャドウ栞はもう使えないことがわかった。
(1ターンごとのマナを追加する『マナの奔流』やリーダースキルによるHP回復もあるので全くの無能じゃねぇが……)
それは難度の上昇で大罪魔王に追加された新しい戦術によってだ。
HPが残り20%を切ると大罪魔王は『激怒』モードに入るようになった。
『激怒』状態の敵は、デバフを一度すべて解除し、攻撃力上昇のバフが付与、攻撃回数も増える。
敵の火力が上がって、1ターンに2回連続して攻撃してくるのだ。
複数の大罪耐性を持つ俺や、特殊ステータスとエピソードの合算でHPが15000を超える朝姫や華と違い、栞のシャドウはどうやっても耐えられない。
「孔雀王が変身しなかったのは、どうしてでしょうか?」
それでも孔雀王は弱くなった。
孔雀王は最後まで巨大な孔雀のままだった。
人型にはならなかった。孔雀王ルシファーは孔雀のまま滅んでいた。
「大罪にも脅威を感じなかったしな」
前回の戦いは俺と敵の意思と意思の戦いだった。だが今回のこれは、言うなれば。
「今戦ったのはシステムが再生したルシファーってことか」
あの傲慢に満ちた美しい魔王は死んでいた。
――いや、俺が殺したのだ。
だからもう、ここにはいないのだ。残骸と俺たちは戦った。そういうことだった。
「それで、どうします? 倒せることはわかりましたけど」
話がわからず暇そうな朝姫の問いに俺は考える。
正直に言えば、朝姫が加わったことによって、孔雀王との再戦は楽になった。
『激怒』が追加されたことは脅威ではあったが、特殊ステータスにエピソード、饕餮肉が手に入ったことで作れるようになった新しい料理による補正、ギルド施設による火力の増加、これらの強化を重ねた朝姫の必殺技は100万超えのダメージを叩き出す。
孔雀王の持つリーダースキル『跪け、傲慢たるや悪逆の天』による恐慌の状態異常も華の新しいリーダースキルで無効化できる。
(計算が乗算だからな。朝姫と華がバフスキルを持ってるのが強いんだよな)
ついでに言えば俺の攻撃も大罪魔王に対してならバフを最大に掛けて30万ダメージを超えられる。孔雀王のデバフの攻撃力低下(中)が解除できれば40万ダメージも夢ではない。
(Rレアの俺が、ここまで火力を出せるようになったか……)
『傲慢の魔王』によるオートカウンターもある。
次の大罪魔王が変身したとしても余裕で勝てるだろう。
「とりあえず、あと98、いや、99戦してみるか……。いや、33戦でいいのか?」
「どうでしょう? 計測してませんでしたからね。何が反映されてるのか……」
俺と華のやり取りに、えぇぇ、と不満そうに朝姫が声を上げた。
「そんなことしなくてもよくないですか?」
「いや、するよ。実績が欲しい」
現在、次にもらえるとわかっている実績は狂王・饕餮とシャドウ宝船の1000体討伐実績だ。
とはいえ、それを手に入れるには饕餮牧場を1000周しなければならない(それともギルドメンバー全員の周回総数だろうか? 既に持っている実績は気づいたら手に入ってたから総数か個人かわからないんだよな……)。
「あと一つでトロフィー数が20になるから、確認しておきたいんだよ」
現状、一番手っ取り早いのがルシファーの100体討伐実績だ。
不満そうな朝姫の頭を撫でてやりながら説得すると口を尖らせて「センパイがそこまで言うなら……」と渋々従う朝姫。
「あの、忠次様」
「華、その手があったか、みたいな顔をするなよ」
「バレましたか」
不満そうに反対すれば俺が頭を撫でるとか思うなよ華。調子に乗るなと華の額にでこぴんを何度もしてやると華がえへへえへへと嬉しそうに反応する。
「あの~センパイ。周回するんじゃないんですか?」
朝姫がそんな俺たちに呆れていた。
◇◆◇◆◇
ギルドハウス内のトロフィー室に新しく設置されたそのトロフィーを俺は手にとった。
『孔雀王ルシファー100体討伐!』
孔雀王自体は割と余裕で倒せることはわかったために料理バフをHPとATKに+1200する『牛鳥バーベキュー』からドロップ数を+5する『777ターキー』へと変更し、俺たちは追加で33回、孔雀王と戦った。
「実績の獲得条件は、メンバーの合計数だったようだな」
加えてだが、討伐時間を減少させるためにアクセサリーはシューズとジャージではなく、工作室で作ったATKとクリティカル率を上昇させるものを俺たちは装備している。
ちなみに、隠し効果がなくてもジャージとシューズはランニングするのに楽だから身につけていた。
『トロフィー効果 【レアドロップ率+1】【ドロップ数+1】が発動しています』
エピソードを取得してから、気づけば密着するようになった朝姫の頭を撫でつつ、俺は満足げに頷いた。
「やるか。怠惰の魔王」
倒すぜ、大罪魔王。




