028 おめでとうございます! よくできましたー! by アルミシリア
「それと、これですね」
ことりと華が金銀で装飾された青い金属板を食堂のテーブルの上に置いた。
「これがギルドエンブレムか……」
ギルドストーンと呼ばれるアイテムを嵌める穴が7つ存在するこの金属板には『世界を救う同好会』の文字が刻まれている。
「これにルシファーのドロップから生成したギルドストーンを嵌めます」
華の手に摘まれた石は奇妙な色合いをしていた。暗黒色の石。闇の詰まった大罪の結晶。
――『ギルドスキルが解放されました』
アナウンスを聞き、ギルドの項目を開けば確かにそのような項目ができている。
「ギルドスキル、ね」
自身のステータスに関係する話ではないだろうからか、朝姫の興味は薄い。
華はいつものとおりだ。俺の隣に立ち、顔を寄せながらステータスを覗き込んでくる。
「24時間に一度だけ使えるスキル、ですか」
ギルドスキル、大層な名前の通り、どれもこれも豪華なスキルだ。
死亡した全員を蘇生させるスキル。戦闘から確実に逃亡するスキル。ATKを1ターンの間、3倍にするスキル。1ターンだけ無敵になるスキル。味方のHPを全回復し、ステータスを正常にするスキル、などなど。
ただしそれらは無制限に使えるというわけではない。
戦闘でギルドスキルを使うためには、ギルドエンブレムにスキルをセットしなければならない。そして、セットできるスキルの数は、ギルドストーンと同じ数だけである。
「ギルドエンブレムにギルドスキルをセットする。スキルは1回の使用ごとに24時間のチャージ時間が必要。使用したら再使用できるまで入れ替えも不可……」
「ギルドストーンはスキルを使うためのバッテリーのようなもの、ということでしょうか?」
なら、一度スキルを使ったら新しいギルドストーンを生成して嵌め直せばいい、というわけでもない。
一度嵌めたギルドストーンは外せないからだ。試しに俺がやってみて駄目だった。今は朝姫がぐいぐいと引っ張っているがつるつると滑るギルドストーンを前に口をへの字に曲げている。
「壊すなよ」
「こ、壊しませんよ!」
「ギルドストーンを破壊して再生成したものを嵌めるというのは?」
「どうだろうな。再生成できない場合を考えると怖いが……そもそも複数作れるのか?」
「いえ、一度作ったら作成する選択肢自体が消滅しました」
「同じものを自力で作ることは?」
試しはしたのか、ギルドエンブレムと同じものをアイテムボックスから出してみせたが、華は首を振った。
ステータスで確認してみれば、ただの金属板でしかない。
一度作れば無理なのか? ギルドエンブレムの検証は、表のエリアで適当なギルドにやらせてみるか?
ルシファーの素材が必要だが、素材をくれてやればできるか? レシピの発生条件に倒すことも含まれるのか?
そもそもギルドエンブレムを作るための工作室はギルドハウスが条件だ。
そこまでやったギルドがギルドスキルが消滅するリスクを覚悟してまでこの実験に協力してくれるのか?
ぐだぐだと悩みながら思う。
ああ畜生。これは……このシステムの穴を見つけるという発想自体が……。
――ただただ惰弱だ。
「ずるいことをすると、弱くなる……」
「忠次様?」
「難度上昇もある。アップデートは発生している。ギルドスキルの穴を見つけたところで天使が黙っていると思うか?」
それとも、どうしてこんな簡単な穴を利用しないのだと、人間をあざ笑うのか?
わからない。わからないが、こうやって穴を見つけようとする行為は……。
「卑しい。情けない。これだけの補助があって、まだまだ強くなれる要素があって、それでもなお、システムの穴を探すのか俺は」
俺の目的は、そもそも違うんだよ。
大罪魔王を倒すのは過程にすぎない。目につく場所にいるから殺すだけだ。ジューゴにとられたくないから先にやるだけだ。
だからそんなものは目的じゃないんだ。過程なんだよ。
俺の目的は、ジューゴの上へ立つことなんだ。
俺自身を鍛え上げて、奴を超えるのが目的なんだ。
(システムの穴を見つけて楽をすることは目的じゃねぇんだよ……)
俺は四聖極剣スザクを顕現させ、華の持っている偽ギルドエンブレムを取り上げ、放り投げ、断ち切った。
「もうこれはいい。スキルはとりあえずATK3倍でいいだろ」
使えるタイミングを確認しなければならない。24時間に1回だからな。検証には数日かかるだろう。
俺の中の傲慢が嗤っていた。情けない真似をした。頭をガシガシと掻けば、2人が俺を見ている。
「なんだよ」
いえいえ、と華は嬉しそうに俺に向かって微笑む。
「っていうかわざわざシステムの穴なんて探さなくてもボクがいるじゃないですか」
主を持った赤鐘は最強ですからね、と自信満々な朝姫は、だからもっとボクを頼ってもいいんですよ、と小さな胸を張っていた。
「うるせぇ、バーカ」
俺は小さく舌打ちした。なんでそこで喜ぶんだお前らは。
『神園華はエピソード5【あなたはそれでいい】を取得しました』
『赤鐘朝姫はエピソード4【そのためのボク】を取得しました』
◇◆◇◆◇
『エピソード5【あなたはそれでいい】』
効果:『新井忠次』と同一パーティーの際、『神園華』のステータスをHP+2000 ATK+2000する。
『神園華』は『新井忠次』が参加するパーティーでのみ戦闘に参加できる。
あなたがその道を行くならば、最後までわたしは貴方に尽くそう。
『エピソード4【そのためのボク】』
効果:『新井忠次』と同一パーティーの際、『赤鐘朝姫』のステータスをHP+1600 ATK+1600する。
『赤鐘朝姫』は『新井忠次』以外のフレンドをすべて破棄する。
積み重ねる。自身を削って主の為に。
◇◆◇◆◇
『トロフィー【ギルドエンブレム!】を取得しました』
これもなぁ、と俺は表示されていたウィンドウを見ながらため息を吐く。
トロフィー。ゲームで言うところの実績という奴だ。なにか適当なことを達成すると貰える的なものだ。
朝姫が不思議そうに首を傾げる。
「トロフィーっていいことなんじゃ?」
「いや、いいことはいいことだけど。なんつーか」
これ見てると複雑な気分になるんだよな。
とはいえ取得したなら一応確認しに行くか、と3人で連れ立ってギルドハウス内にある『実績部屋』という部屋に入る。
このトロフィーとやら、取得するそもそもの条件に『実績部屋』の作成というものが必要らしい。また、メンバーが取得した実績はギルド全体で共有される仕様でもある。
『チュートリアル突破!』『召喚・100日目突破!』
『朱雀の養鶏場クリア!』『饕餮牧場クリア!』
『朱雀王100体討伐!』『朱雀王1000体討伐!』
『シャドウサンタ100体討伐!』『シャドウサンタ1000体討伐!』
『狂王・饕餮100体討伐!』『シャドウ宝船100体討伐!』
『はじめてのギルド!』『はじめてのギルドメンバー!』
『はじめての特殊ステータス取得!』『はじめてのエピソード取得!』
『はじめてのジョブチェンジ!』『ギルドハウス建築!』
『ギルドエンブレム!』『究極、最終進化武器獲得10!』
『聖戦! 孔雀王ルシファー討伐!』
『トロフィー効果 【レアドロップ率+1】 が発動しています』
部屋に入れば、ガラス棚の中に新しいトロフィーが追加されている。棚を開けてトロフィーを手に取り底を見た。
そこには『おめでとうございます! よくできましたー! by アルミシリア』という天使からのメッセージが刻まれている。
煽ってんのかこいつは? かなりむかつくぜ。舌打ちをしてトロフィーを棚に戻した。
「なんかトロフィー効果増えてるか?」
「いえ、やはり10刻みということではないでしょうか?」
「効果ってトロフィー10個獲得で付与された『レアドロップ率上昇+1』ですよね。あんまり実感ないですけど」
いや、と俺は華を見る。
「ほんの少しですがランニング時のレアドロップは増えています。統計をとって初めてわかる程度に、本当にほんの少しですけれど」
「らしいな。それに……」
俺の言葉に朝姫が「それに?」と問うてくる。
「このレアドロップ率ってのを重ねたら新しいドロップアイテムが追加されるかもしれない」
かつて学園で行われた文化祭の記憶を思い出す。
文化祭でくだらない賭けをすることになったときのことだ、ジューゴを勝たせるために俺はゲーム同好会に所属するオタクどもと仲良くなる必要があった。
その時の交流で、こんなことを聞いた覚えがある。
『新井氏~~。このゲームはですな。何度もクリアして周回要素を解放してボーナスを設定すると敵にドロップが追加されるのですぞ~~。特にこのレアドロップという奴なんですが重複して設定することで新しいレアドロップが――』
何度もクリアするとかアホかよ、一回でいいだろ一回で、とか思ったし、実際に突っ込んだが、キャラクターごとの好感度がどうのとか複数のエンディングで真のエンディングがどうのとかそいつは鬱陶しかった。
懐かしいな。もう半年以上も前なんだよな。
「なんで笑ってるんです?」
「思い出し笑いだよ。――で、実績だがな。天使どもが何の意味もないものを置くはずがない」
「ですね。それに、何の意味もないならないで、単純にわたしたちに有利な要素ですよ」
「ふーん、じゃあ、とらない理由もないんですね」
ああ、と頷く。天使の煽りがむかつくが、俺たちに有利な要素であることに間違いはないのだ。
ただし、実績の獲得条件は開示されていない。今の時点でわかるのは新しい要素とボスの討伐だが。他にもあるかもしれない。
「そろそろやってみるか」
孔雀王ルシファー、再戦といこうか。




