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ソシャゲダンジョン  作者: 止流うず
第二章 ―折れた魔剣―
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027 トレーニングデイズ


 新エリアの饕餮牧場。ギルドの設立。新ジョブの解放。装備レシピ入手からの作成と進化。

 毎日何かしら発見がある。発見は些細なことだったり重要なことだったりと種類も数も多い。

 それらは一つ一つ検証をすべきだし、ジョブに合わせて特殊ステータスを増やしたりもすべきだ。

 するべきことは多い。多すぎるぐらいにある。

 それでも、やることの基本は変わらない。

 鍛錬。

 鍛錬鍛錬鍛錬鍛錬鍛錬。

 鍛錬の日々である。

 ジャージとシューズ、トレーニングルームにあったそれらを身に着けてエリアを周回する。

 トレーニングルームで器具を使って運動、ルームにはクライミング用の練習壁まであるので至れり尽くせりだ。

 その頃にはだいたい昼になっているのでギルドハウスに戻ってシャワーで汗を流し、3人で昼食を食べつつ、鍛錬に関する意見を言ったり、方針を決めたりする。

 新しい発見があったりしたらここで話してあとで検証する予定を立てたりもする。

 昼食を終えたら自由時間を少しだ。俺はこの間に少し眠る。休息は大事だ。だから眠る。起きるとだいたい華と朝姫が俺を見ていて少しビビる。執着されている自覚はある。それでもなんつーか……怖いよなこいつら。

 ジューゴを尊敬するのはこういうときだ。あいつの周囲にはこういう女子がダース単位でいたのだ。接触スケジュールはジューゴを無理やり説得して俺が管理していた。そうしないと血を見ることになるからだった(ジューゴは楽しんで修羅場を作り出そうとするからな)。栞の機嫌も悪くなるしな……。

 話が逸れた。

 そのあとは華が俺たちに授業をする。俺はあんまり頭よくない自覚がある。考える力を養った方がたぶん良い。そういう意味でも勉強には力を入れる。

 ギルドハウスができて、ステータスへの補助効果はないものの、野菜だのフルーツだの調味料だのが自由に使えるようになったということで華が作った菓子なんかを途中で食べたりしつつ、勉強を終了。

 夕方には俺と朝姫はトレーニングルームで鍛錬しつつ、華はギルドハウスの施設を調べて新しい発見をしていく。

 風呂に入り、夕食を全員でとり、夜にも勉強をし、軽く雑談をして眠る。

 そういう繰り返しを、俺たちは重ねていく。


                ◇◆◇◆◇


 トレーニングルームにある板張りの鍛錬場でのことだ。

 朝姫が正月装備である『賀正の奇跡・朝姫』にジョブチェンジすると、なんというか、少しだけ調子が良くなる。

「記憶にはないんですけど、たぶん、これ、ボクの毒が解毒されたら訪れる未来なんじゃないかなって……」

 そんな感じです、と笑って言うので、そうか、とだけ返した。

 毒ってなんだよ毒って、病気はどうした、なんてことは聞かない。死病だ死毒だなんだで予想はできるものの、華だけで俺はいっぱいいっぱいなのだ。朝姫の複雑な事情まで抱えたくない。

(だから聞かせるなよ俺に。マジで頼むぜ朝姫よぅ)

 内心で考えてることは顔に出さず朝姫を撫でれば、ふにゃりと朝姫はその美少女顔を綻ばせて喜んだ。

(また髪が赤く染まってる……)

 そろそろ朝姫の黒髪のすべてが赤髪になりそうだった。これもなんなんだ? 毎回食事のあとに求められて血を飲ませているからか? わからない。不気味だ。あまり聞きたくない。抱えたくない。

「じゃあ、その、えっと、名残惜しいですが、やりますね」

 言いながら、俺からててててっと離れた朝姫は、最大進化させた饕餮刀、『四凶(しきょう)獄刀(ごくとう)饕餮(とうてつ)』を握って、でー、と言いながら刀を振るってみせた。

 禍々しい色の刃を持つ妖刀が、妖しく風を斬る。目で追っているはずなのに、その動きは目で追うことができない。妖刀の効果ではない、朝姫の持つ技術だ。

 錯覚を利用しているのか? 単純に振りが速いというわけではないのに、どの方向から見ても刀の動きを目で追いきれない。

「ほらほらセンパイ! こんな感じこんな感じ!!」

 俺が担がなくなって、自主的に戦闘に参加するようになった朝姫はすぐに特殊ステータスを4つ取得した。

 本人曰く、肉体が復調して使えなくなっていたものが使えるようになっただけらしい。俺の傲慢と一緒だ。過去に持っていて、だけれど失われたものを取り戻しただけのこと。


『刃の系譜』:ジョブを問わず刀系武器を装備できる。

『赤鐘剣術秘奥 ―壱死(イシ)―』:通常攻撃のクリティカル率上昇(大)、また通常攻撃時に一定確率で【即死】を付与【刀専用】。

『赤鐘剣術秘奥 ―二影(ニエ)―』:通常攻撃の攻撃回数を+1する【刀専用】。

『赤鐘剣術秘奥 ―三血(サンケツ)―』:通常攻撃時、一定確率で流血を付与【刀専用】。


「これが赤鐘家の秘奥って奴ですよセンパイ! ゆっくりやりますねー!」

 俺の前で朝姫がゆっくりと饕餮刀を振るう。

 朝姫のジョブは正月フィールドで手に入れた『振り袖女子』で、装備できるのはレシピから製造できる『羽子板』か『重箱』だけなのだが、特殊ステータス『刃の系譜』の力によって、饕餮刀を装備可能としていた。

「ほらほら、こんな感じですよ。剣先や腕じゃなくて、ボクの身体全体の動きをよく見ててくださいね」

 すっ、と朝姫がまた刀を振るう。ゆっくりだ。ゆっくりだがもうわからない。何やってんだこいつ。

「本当はこれ、多数に囲まれたときに一振りで2人以上を殺すための奥義的なあれこれなんですけど」

 技術もこれは一つだけをやってるわけじゃなくて、と言いながらもう一度饕餮刀を振るってみせる朝姫。

 ゆっくりじっくり見せてもらっているが俺では絶対にできない刀の使い方だった。才能を持ったものが努力して努力して努力した果てにできる剣術の秘奥であった。赤鐘家という、剣術に全てを捧げてきた家が積み重ねてきた技術を複雑に組み合わせた秘奥であった。

 これに加えて朝姫は他の2つの特殊ステータスである剣術秘奥を同時に行使する。行使できるのだ。才能の怪物だった。数日前の弱々しかった頃など考えられない姿だった。

「人を殺すのにいちいち深く斬りつけるとかやりませんからね赤鐘(うち)は。だから露出してる血管部分を治療の難しい感じに斬りつけて失血死させるって感じなんですけど。聞いてます?」

 鍛錬スペースに設置した台の上の饕餮肉に刀の剣先を引っ掛けて、ほらほら、と言いながら細かく千切り飛ばしていく朝姫。何? どうやってんのそれ? 器用すぎないか? 手首の負担どうなってんの? つかお前の細腕でそのクソ長い刀よく振れるよな。お前の筋力どうなってんの?

「あー、わかったわかった」

 無理だ。俺には無理。それがわかっただけで十分だ。

「まぁまぁ」

 そんな俺の様子を見たのか。にやりと笑ってみせる朝姫。てこてこと近づいてくると俺の手に饕餮刀を握らせる。

「ボクがじっくりたっぷりねっとり教えてあげますから」

 いやらしい朝姫の視線に嫌そうな顔で「いや」と拒否しようとすれば「いいんですか?」と不思議そうに問われる。

「いいんですかって、何がだよ?」

「センパイが欲しがってる強くなる機会ってヤツですよ。これ」

 絡みつく朝姫の指は意外にも弱く、振り払うならばいつでもできた。

「神園も欲した赤鐘家の門外不出の技術の数々ですよ。欲しくないんですか?」

 俺の内心を抉るような強い視線。

 俺は、わかったよ、としか言えない。

 強くなれるならば、手段を選ばずやらなければならない。

 それが最終的に無駄になろうとも、試さなくてはならない。

 天才(ジューゴ)凡才(おれ)が勝つにはどうしたってそうしなければならない。


 ――さっぱりできなかったけどな。


                ◇◆◇◆◇


 さて、鍛錬が終わり、食堂にあるテーブルに俺たちは集まっていた。

「とりあえずギルドのショップ項目から購入できるレシピで一通り作ってみました」

 夕食のあとのミーティングである。

 俺と朝姫が鍛錬中、工作室に籠もっていた華の報告だ。

 華がアイテムボックスからアイテムを顕現させる。

 指輪、腕輪、首輪、靴、手袋、帽子、マント、他にも様々なそれら。


 ――『装飾品』だ。


 現在、通常エリアやフレンドガチャから装飾品は出ない。例外は朱雀王金冠だけで、これらは工作室で華が作成したものである。

「で、やっぱり装飾品枠は種類に関わらず最大3つか?」

「みたいですね」

 華がテーブルに転がした様々なアイテムを身に着けたり外したりしながら確認を行っていた。

 傍らにはステータスが表示されている。例外なく効果が反映されていないことを確かめているのだ。

 少し前にわかっていたことだ。

 俺は【明けの明星ルシファーズ・プライド・真】を常に装備しているが、これに加えてジャージとシューズを鍛錬中に装備し、そのうえで朱雀王金冠を装備したときに、アイテム効果が反映されなかったことから判明したことだった。

(一応、効果が反映されないだけで身につけることはできたんだよな。ただのオシャレでしかないけどよ)

 ちなみにシューズに関してだが、ほんの少しだけ移動速度を上昇させる効果がある。

 トレーニングつっても周回速度は重要だ。シューズを装備しているのは走り心地が良いのもそうだが、移動速度を増やすのも目的だった。日々のランニングは速度が上がった分だけ周回数を増やすことができるようになった。

 もちろんここではなんでも自由にやっていいから走りたければ好きなだけ走ればいい。

 だけれどランニングだけやっているわけにもいかないのが現状なので、こういう効果が地味に嬉しかったりもする。

 そして重要なのは、このシューズの移動速度上昇効果は、アイテムのテキストにはなかった効果だということだ。

 というかシューズ自体、アイテム欄には、靴としか説明がなかった。ステータス補助もない衣装アイテムだと思っていた。

 だから同じ衣装アイテムのジャージにもなにかあるんだろうと思われるが、まだそれはわかっていない。

 ゲームでよくある隠し効果というヤツかもしれない。それともトレーニング施設自体が持つ効果なのだろうか?

 この辺りの検証はいずれやっていくことになるだろう。

 ただ、それは今ではない。他にやるべきことは多い。隠しステータス検証の優先度は低い。

 それにジャージを優先して枠に装備しても華がいる以上、ランニング時のステータス的には問題ないからな。困るようになったら本格的に考えればいい話だ。

「装備してステータスに反映されるのは3つだけ」

 朝姫が指輪の一つを手にとって俺に差し出してくる。

「じゃあ、装備していく装飾品はきちんと決めないといけないですね」

「そうだな」

 華が俺にぐいぐいと指輪を押し付けてくるのでそっと取り上げてテーブルに戻す。

 装飾品の優先順位か。

 現状、苦戦するような敵は大罪魔王を除いて存在しない……。

 そもそもこの装飾品は工作室で製作したもので、その工作室はギルドハウス、つまり大罪戦のクリアで解放される要素だ。

 だから、大罪魔王戦のためにこれらは用意されていると考える。

「装飾品でできるのはステータスの上昇、状態異常耐性、ダメージ軽減、属性耐性、クリティカル率の上昇、ダメージ上昇、ドロップ系」

 孔雀王ルシファーを仮想敵として考えてみる。

 まず、恐怖の状態異常を無効にする装飾品があれば初手で撒き散らされる恐怖を無効にすることができるだろう。

 次に耐性だ。あのクソ鳥、ルシファーの攻撃属性はわからないが、わかればその属性の耐性装備を用意できる。

 ちなみにダメージ軽減系の減少率はすべての攻撃を減少できる代わりに低く設定され、属性軽減はその属性しか軽減できない代わりに高く設定されている。

 クリティカル率の上昇があればダメージの増加が見込める。もちろん手動攻撃でクリティカルを狙うこともできるが敵のHPが高い状態では発生させることは困難だ。だから装飾品を装備し、クリティカル率を上昇させてシステム的に狙うことは手段として有効だろう。

 もちろんダメージ上昇系を装備してもともとのATKを上昇させることを狙ってもいい。

「構成に悩むな……」

 大罪戦は時間制限があるのだ。だから敵に特化した構成にしなければいけない。だが俺の足りない頭では何が正しいのかわからない。

 指輪の一つを指先で小突いてステータスを表示してみる。


 名称【柘榴石の指輪】

 レアリティ【R】 レベル【40/40】

 HP【+200】 ATK【+0】

 スキル:『地属性耐性(小)』

 効果:地属性のダメージを20%軽減する。

 説明:柘榴石の嵌められた指輪。


 属性も全属性作れるわけではない。

 朱雀の養鶏場のプレゼントボックスから出る『紅玉(ルビー)』で火属性、饕餮牧場のランダム宝袋から出る『柘榴石』で地属性の2つ。

 ちなみに、指輪の素材には、プレゼントボックスとランダム宝袋から稀に出る『銀』も要求される。

 素材を全部売らなくてよかったぜ……。いや、周回すりゃいいだけなんだけど、やっぱり手間だからな集めるのは。

「一応、ルシファーからのドロップで暗黒属性も作れますけど。素材の数が揃ってませんので作れていません」

 華の補足に頷き返す。

「あのクソ鳥は周回する必要があるんだよな」

 考えて気が滅入る。クソ長いからなルシファー戦は。

 オリジナルであるルシファーは殺したため、大罪の影響は恐らくもうないだろうが、それにしたって酷く疲れることは確かなのだ。

「それでも一回はやらなきゃならねぇんだが……」

 怠惰の大罪はまだ倒してないから様子見で行って負ければ相手の大罪を強化してしまう。

 だが、倒したルシファー相手なら難度上昇後の大罪戦をリスクなく体験できるはずだ。

 俺は朝姫を見た。こいつは、大罪に耐えられるのだろうか?

(戦闘数を重ねるランニングは無理なくできているようだが……)

 俺の視線に気づいたのか。朝姫が、んー? と顔を寄せてくる。

「かわいいボクを撫でますか?」

 撫でないよ。

 でも一応撫でておいた。喜んでくれているようで結構。

 だが華、お前、羨ましいからって朝姫をすごい目で見るなよ。怖いよお前。


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