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ソシャゲダンジョン  作者: 止流うず
第二章 ―折れた魔剣―
52/99

020 主《あるじ》


 今日も今日とて赤鐘後輩を背負っての『饕餮(とうてつ)牧場』のランニングだ。

 不整地な場所を走るのは体幹を鍛えるのに良いのかもしれない(赤鐘後輩はおかげで血を吐くが)。

「せ、センパイ、ボク死にそうです」

「よしよし、よく頑張ったな」

 赤鐘後輩の頭を撫でつつランニングを終えれば、ドロップアイテムの確認に入る。

 そろそろ全て網羅できる頃だと思うが、どうだろう?

「で、まずは魂は変わらないか」

「ですね」

 机と椅子を広げ、草原の真ん中で3人でドロップを確認していく。

 魂は、


 『小饕餮の魂』『大饕餮の魂』『狂饕餮の魂』『狂王・饕餮の魂』『シャドウ宝船ソウル』


 最初の周で確認できたものと同じものだ。

「忠次様、どうぞ」

「お、サンキュー」

 饕餮肉に下味をつけたものを華が炭火の上に置いたプレートで焼いていく。

(こいつ、養鶏場で俺が鍛錬してたときに『朱雀大樹』で炭作ってたんだよな)

 俺が鍛錬してた時に何やってたんだって感じだが今こうして焼き肉ができるという点では感謝してやってもいい。

 そう、焼き肉である。

 と、同時にドロップアイテムも確認していく。


 『饕餮刀』『饕餮短刀』『饕餮弓』『饕餮大幣』『饕餮式符』


 出現する武器種に変わりはない。『戦士』の刀、『盗賊』の弓と短刀、『僧侶』の大幣、『魔法使い』の式符。これらも養鶏場でドロップした武器と同じ進化武器だ。

 進化は必ずしておくべきだろう。最終進化で面白いスキルが出るかも知れないし、属性の違う強い武器を持っておけば多くのボスに対応できる。

 アイテム欄を表示させ、それらのことを話しながらも、華が世話をして焼けた肉を摘む。つけるのはタレではなく、刻んだ『饕餮草』(ネギっぽい。このエリアに生えている野草アイテムである)と塩などの調味料各種を混ぜ合わせたものだ。美味い。肉だ。牛肉だ。焼き肉だ。心の内が勝手に盛り上がってくるが、先の醜態を思い出す。思い出に心を焼かれたくない。我慢しておく。


 『饕餮肉』『饕餮希少肉』『饕餮乳』『高品質饕餮乳』『饕餮内臓』『饕餮心臓』『饕餮骨』『饕餮大骨』『饕餮厚皮』『饕餮希少厚皮』『饕餮爪』『饕餮虎爪』『饕餮角』『饕餮禍角』『狂王肉』『狂王希少肉』『狂王乳』『高品質狂王乳』『狂王内臓』『狂王心臓』『狂王大骨』『狂王艶皮』『狂王虎爪』『狂王禍角』


 この辺は食材アイテムに素材アイテムだ。素材、素材なぁ。ギルドハウスを作成した際のオプションでついでに作った工作室に素材を使用してアイテムを作り出す機能があったはずだ。

 ギルドハウスも、あんまりにも要素が多すぎて、全てをじっくりと確認しているわけではない。

 華が焼いている肉を次々と腹に収めていく。

 美味(うま)い。美味いなぁ。すげぇ美味い。肉だけでも美味い。饕餮希少肉とかいうのがめっちゃくちゃ美味い。

 ついでに朱雀肉も焼いて食っているのだが、炭火がコンロで焼くより美味さを倍増させるのか普段よりも美味い。

 あまりにも美味いのでお前も食えと赤鐘後輩に焼けた肉を差し出してみるがふるふると首を振られた。

 手元の『高品質狂王乳』をこくこくと飲みながら「ボクはこれで十分です。その、今は……」なんて言ってくる。

 そうだな。肉はまだ早いか……。赤鐘後輩の頭を撫でてやると目を細めてくる。あんまり嫌がっていない、か? 少しは仲良くなれてきたか?

「忠次様」

 声を掛けられて華を見れば口を俺に向けて開けている華。こいつはこいつで……。

「おら、食え」

 たまには甘やかした方がいいだろうかと箸を使って口に肉を放り込めばにこにこ笑って「おいしいですね。本当に」と華。その様子を眺めていた赤鐘後輩が「うへぇ、キモ」と呻いた。

(こいつらの確執もな……)

 華の方は全く意識していないが、赤鐘後輩の方が何かあるのだろう。


 『饕餮脂』『饕餮希少脂』『ランダム宝袋』


 脂の方は、この階層の武具強化用素材で、『ランダム宝袋』はランダムでフレポや換金アイテムが出てくるアイテムだ。

 華によると脂は料理にも使えるらしいが、この辺の処理は任せてしまう。

 『狂王内臓』と『狂王希少肉』で作られたソーセージを(俺が)食べつつ、(華に)食べさせつつ、残りを確認する。


 『饕餮草』『希少な饕餮草』『饕餮球根(土)』『饕餮アイス』『特盛饕餮アイス』『壊れた機械』『神木材(赤)』


 どれもフィールドの採取品やドロップ品だ。

 注目すべきはこのエリアの『光苔(炎)』に相当する『饕餮球根(土)』。『饕餮草』の球根であるこいつは料理に使うと8時間の石化耐性を得ることができる。


 名前【饕餮球根(土)】 レアリティ【HN】

 説明:土の力を秘めた饕餮草の球根。


 もちろん、アイテムテキストはこんなものなので華が調理をして、できた料理の効果から隠された効果を確認する必要があった。

「状態異常の石化ってのは、狂王・饕餮が使ってくるのか?」

「朱雀王と同じならそのはずです」

「確認する必要はあると思うか?」

「怠惰の大罪魔王は使ってこないと思いますが、石化の効果は把握しておいた方がいいかもしれませんね。狂王・饕餮が朱雀王と同じなら、怠惰の大罪魔王と一緒に出現するでしょうから」

 だよな、と頷きあいながら、華がそろそろどうですか、と差し出してきた丼を受け取り、焼いた肉を乗っけて一緒に食う。美味い。超美味い。大好きだこの味。焼き肉って感じがする。

 ああ、畜生、日本、帰りてぇなぁ。


 『男子用袴レシピ』『女子用振り袖レシピ』『新春巫女服レシピ』『穴あき羽子板レシピ』『ボロボロ重箱レシピ』


「で、これか」

「ありましたね。レシピ」

「レシピって、ボクを殺した(ジョブ)の別の(ジョブ)ですか?」

 やっとわかる話になったからか、俺と華の確認作業を黙って見ていた赤鐘後輩が口を挟んでくる。

「たぶん次は死なねぇと思う。てか、もう大丈夫だろ?」

 先の騒動で、過去のトラウマに対して、理解を得ているはずだ。

 しかし、どうにもこの後輩、記憶や思い込みに弱すぎる気がする。

 『死病』を発生させるぐらいだし、そういう傾向があるのかもしれないが、それを封じてもなお思い込みが強すぎる。

 心の底で自分は治らないとかそういうことを考えているのか? それとも辛い記憶でも抱えているのか?

(そんなもんは気合でなんとかしろっても効かないだろうしな……)

 そもそも、そんなもん個人差だ。小さな傷を大きく感じる奴もいれば、大きな傷を傷とすら思わない者も世の中にはいる。

 この後輩にとって、今の状態は気合とかそういう問題ではないのだろう。

 心底辛いのだ。こいつにとって、過去も今も。

(俺に、なんとかできんのかね)

 傲慢は共感を失わせる。俺は赤鐘後輩の辛さを理解できても、寄り添ってやることはできない。

 赤鐘後輩の頭を撫でてやりつつ、俺はレシピを1つ1つ確認していく。

 どれも作るには素材が足りない。華もそうだし、赤鐘後輩もそうだ。3人の素材を合わせりゃ作れるかもしれないが、ランニングして素材集めて全員で作っても結果は同じだろう。

「とりあえず、ジョブの解放を優先して、それからスキルの拡張だな。って、どうした華?」

「いえ、今回は装備できそうなものが見当たらないですね」

 言われてドロップアイテムを見る。確かに、どれもこれもただの素材だ。朱雀王金冠のようなものは見当たらない。

 いや、と思い直す。よく考えろ。いつものことだ。この世界は意地が悪い。見当たらないのではない。隠されていると考えるべきだ。

(朱雀王金冠がむしろ、なんでああいう形だったのかだ……)

 あれは、天使なりのチュートリアルだったのか? つまり――

「――形は示したから、自分で作れってことか?」

 戸惑いながら考えを口にすればきょとんとした顔で華が俺を見る。おい。なんでお前が驚く。お前が自然にやっていたことだろ今まで。

「いや、お前が自分でやってただろ。鍋も包丁も焼肉用のプレートも、訓練器具だって自作してただろ」

「それは必要に駆られてですので。そもそも、わたしはゲームというものに触れたことがありません。何を作れば? いえ、もちろん作れと命じられればなんでも作ってはみせますが」

 装飾品ですよね? 指輪ですか? 首飾りですか? 額当てですか? 靴ですか? 腕輪ですか? 忠次様が望めば眼鏡だって作ってみせますよ、と華は俺を見てきっぱりと言い切る。

 言われて呻く。風魔法を使って華は金属加工ができる。こいつはマジでなんでも作れるのだ。

(しかし、それにしたってやらなきゃならねぇことが多すぎるぞ)

 正直、これは後回しにしてもよかった。

 優先順位は赤鐘後輩だ。俺たちの強化はまだいい。まだなんとかなる。いや、違う。赤鐘後輩を戦えるようにしなければ俺たちをいくら強化しても意味はない。たった2人でいつか必ず行われるレイド戦を迎えたくない。

(だが、今やらねーと華があとで勝手にやって成果だけ報告してくるかもしれねぇんだよな)

 威厳というか、俺の傲慢を満足させるためにも少しは主っぽいことをしておかないとならないんだが……。

 正直、作らせるのはなんでもいい気がする。

 たぶん指輪なんかは鉄板の装備枠だ。むしろなんで今まで俺は思いつかなかったのか。

 そこを突っ込みたいぐらいに遅い気づきだった。

 だが、そこで俺はふと思い出した。

「ああ、そういう? そういう(・・・・)ことか?」


 ――装飾品は自作できる、その思考への導線が工作室か?


「忠次様?」

「センパイ?」

 埋まっていた石板と同じだ。よく考えれば、よく探せば道筋が用意されている。むしろ今回はわかりやすい方か。

 運営、天使、天使め。頭の中の天使(アルミシリア)は、気づかないあなたたちがアホなのですとでも言いそうな顔をしていた。

「なんとも、ままならねぇな」

 ほんとままならねぇ。そして人手が足りない。

 検証を専門でやってくれる人材が欲しい。華は十分に有能だが、それだけでは足りない。

(マジで赤鐘後輩をなんとかし終わったら、少し情報を漏らしてでも――)

 雑事専門の誰かを勧誘してこなけりゃならねぇな……。

 そうして時間は過ぎていく。

 晩飯代わりの焼き肉を食べ終えた俺は、ギルドハウスの浴場で赤鐘後輩と風呂に入り(華には外で待つように強く言った)、ギルドハウス付属のトレーニング室でトレーニングをして、書庫で勉強をして(赤鐘後輩も付き合わせた、地頭は悪くなさそうだったが、病気で授業に出ていなかったせいもあって成績はそこまでよくなかった)、そうして自室に戻る。

 優先順位の低い工作室の確認は後日に回す。

 どちらにせよ、しなければならないことが山盛りで、ついでに言えばそんなことよりも俺は。

「赤鐘後輩がなぁ……ふぁ……眠い……寝よ……」

 そうして眠りにつく直前に、すっと布団に入ってくる影。

 どうせ華だろうと俺は無視して目を閉じる。

 疲れていたのだろう、すぐに睡魔が俺の意識を刈り取って――


「……センパイ……センパイならボクの(あるじ)に……」


 ――深い眠りにつく直前、そんな声が聞こえたような気がした。


「神園ばっかり……ずるい」

「ずるくないですよ」

「ひッ!? 神園華ッッ!?」




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