018 なんとかしてやる
「そういえば、エリア2には行かないのですか?」
「お前がいなかったから行けなかったんだよ。華」
「それは失礼いたしました」
あら、という顔の華を、俺はへッ、と鼻で嗤った。
ギルドハウスにある食堂。かなり広い大広間だ。100人ぐらいは一緒に飯を食えるだろうか? そんな部屋の片隅で、俺たちは朝食をとっていた。
赤鐘後輩を膝の上に乗せて、俺の作った粥を食わせている。赤鐘後輩は華に目を向けない。華も赤鐘後輩に目を向けない。
「お前ら、なんかあるのか?」
この2人、俺が知らないだけで関係があるのか? 嫌な予感を覚えながらの問いかけだ。
「いえ、別に……」
「わたしは羨ましいだけです。見るとどうにかしたくなるので目を背けています。そちらの朝姫さんがどう思っているのかわかりませんが、神園は赤鐘には特に何も。隔意などの感情はありませんね」
膝の上の赤鐘後輩が、華の答えに目を見開いていた。相も変わらず薄い尻肉の感触。落ちないように赤鐘後輩を背後から支えつつ、俺は2人の話を頭に入れる。
(神園だ? 赤鐘だ? なんだ、家の問題か?)
ふと、赤鐘後輩の言葉を思い出す。赤鐘が神園から血を取り入れただのなんだのという言葉を。
(旧家同士の争いだと? わかんねぇ。関わりたくねぇ。絶対に俺の手には負えねぇぞこれ)
「……驚いた。そんな素直に言うんだ」
膝の上の赤鐘後輩の言葉に胸を張る華。
「ええ、忠次様に嘘をつくぐらいなら自害しますよ。わたしは」
「か、みさま? ねぇ、昨日から思ってたんだけど。それ何? 神園でしょ? いいの? それで?」
「良いも何も」
うっすらと華は笑みを浮かべる。
「わたしはこの方に心を捧げています。わたしの全てはこの方のためにあります。ただあるだけでわたしを救ってくださったのが忠次様なのですから」
「……こわ……」
小声で呟けば、膝の上の赤鐘後輩がとんでもない顔をしながら俺を見上げた。びっくりしすぎだろお前。
「こわ、って、先輩がそれを言うの? 神園華の主人なんじゃないの?」
「あ、いや、悪い」
とにかく、と華が箸を動かす。俺と華が食べているのは華が作った朱雀肉定食だ。炊いた米、焼いた朱雀肉、付け合せの朱雀草。味噌汁はついていないが朱雀骨で出汁を取ったスープがついている。
美味いし、それなりにHPとATKの上昇値も高い。朝食としては重いのが問題だがこれから動くのだからこれぐらい食っておいた方が良いとの華の判断だった。
「忠次様。エリア2に行きましょう。エリア2がエリア1と同じ構造なら、忠次様の新しいジョブが見つかるかも知れません。忠次様の力が増えるかも知れません」
「行くが、待て。赤鐘後輩のレベルを上げておきたいし、ジョブチェンジも確認しておきたい。『不死鳥・戦』付きの武器も装備させたいしな」
エリア2は未知のエリアだし、難度の上昇もある。華も無敵じゃないのだ。
準備が必要だ。
赤鐘後輩を未知のエリアに連れていくにしても、自動蘇生スキルのついた装備があれば少しは楽になる。
この世界ではいくらでも死ねるとはいっても、別に好んで殺したいわけでもないのだから。
華は呆れたような顔で、俺の膝の上の赤鐘後輩を見た。
「赤鐘がそのザマですか。主の為の刀が主に手間を掛けさせている。心底から笑えますね」
華に言われ、赤鐘後輩が俺の膝を制服の上から握ってくる。力はない。だが悔しさの感じる強さだった。
「しょうがない、じゃないか」
ボクは、と赤鐘後輩は強く華を睨みつける。
「壊れてるんだ。折れてるんだボクは。だから」
「だから?」
冷たい瞳の華。まるで人間を見る目ではない。
「……ボクを助けてくれるって、忠次先輩は言ったんだ」
「そうなのですか?」
きょとんとした顔だった。そんなことを俺が言うのはおかしい、みたいな目だった。
「言ったよ。言った。俺がなんとかしてやると言った」
「わたし以外を、助ける、と?」
「悪いか?」
「いえ。驚いただけ、です。そう。そうですよね。そういうこともありますよね。あの、なんで、わたしは驚いたんでしょうか?」
「知らねぇよ。お前にわからないことを俺がわかるわけねぇだろうが」
ただよー、なんとなくわかるぜ華。
お前は、赤鐘後輩を俺が助けられないと思った。大方、俺の能力の限界を超えていると思ったんだろう。お前は俺がなんでもできるみたいに思っている節があるからな。無意識に俺が、俺の能力を大幅に超えることをやるわけがないとでも考えたんだろうさ。
――なんでもできるはずなのに、できないことがある。
この理論、矛盾しているが、華の中では矛盾していないのだ。狂人だからな。
だがわかっている。わかっているぜ、と俺は腕の中の赤鐘後輩に目を向けた。
痩せた身体だ。折れてしまいそうな、というより折れる身体だ。擦り切れた心を持った、死にかけの人間だ。
震える目で俺を見上げていた。
俺は傲慢だ。だからその悲哀に共感してやることはできない。
だけれど、その感情を推測してやることはできる。
大丈夫だと膝の上の少女の頭を撫でてやる。目の端に涙を浮かべた赤鐘後輩は、いつものように鬱陶しそうに目を細めた。
「安心しろよ、なんとかしてやるから」
だから、俺を信じてくれよ。なぁ、赤鐘朝姫よ。俺を信じてくれ。
(俺には能力がない。だから精一杯やるしかねぇんだ……だけどよ、それにしたってお前が信じてくれることが第一なんだぜ?)
俺がそうだった。華を信じたから俺は力を手に入れられた。
華は俺が華を救ったと言う。
だけれどそれは逆でもあるんだよ。
俺もまた、華に救われたのだ。ただの生意気なガキだった俺を、華がここまで引き上げてくれた。
もはや傲慢によってその感情は失せてしまっているが、それでもよ。
(記憶は残っている。だから俺は同じことをする)
赤鐘朝姫、俺を信じてほしい。
エピソードは関係性の表れ。
だから、お前が信じてくれることが始まりなんだ。
◇◆◇◆◇
名称【赤鐘朝姫】 レアリティ【SSR】
ジョブ【戦士】 レベル【80/80】
HP【8800/8800】 ATK【4400】
リーダースキル:『死病の温室』
効果 :戦闘開始時、敵味方に【毒】【麻痺】を与える。
スキル1 :『闘争本能【死】』《クール:6ターン》
効果 :自身のATK上昇(大)
スキル2 :『剣術の心得』《常時》
効果 :刃のある武器装備時、ATK上昇(大)
スキル3 :『忌避の本能【病魔】』《常時》
効果 :他に前衛がいる場合、【赤鐘朝姫】は敵のターゲットにならない。
必殺技 :『死病特攻・同病相討』《消費マナ:4》《クール:5ターン》
効果 :【毒】状態の敵1体にATK18倍の攻撃を行う。
とにもかくにも華が急かすのは当然のことだ。
孔雀王を倒す間に俺たちはエリア1で時間を使いすぎていた。
俺がエリア1でジューゴたちに置いていかれてから、華と出会い、修行に移行するまでの期間が長すぎた。
孔雀王を倒すことで他の連中に難度の枷をはめることができたが、それだってギルドの解放でトップ連中には意味のないものになっている。
さらなる難度の上昇は必要で(それだって新しいシステムが解放されれば意味がなくなるかもしれないが)、とにかく大罪の討伐を行うべきだった。
「で、ジョブチェンジできそうか?」
ん、と戦士のレベルが最大になった赤鐘後輩がステータスを俺に示してくる。俺がやれってか? レシピは獲得しているし、素材はジョブをミニスカサンタにした華を仲間に加えているからドロップ上昇の効果もあって(朝食とは別にドロップ数を上げる777ターキーも食べている)、『朱雀の養鶏場』を何回か周回することで達成できた。
条件は揃っている。
勿論、素材や装備そのものをくれてやることもできた。だが、実際に戦闘を経験することは大事だ。たぶん。わからないけれど。
ただ、俺はぽんと結果だけくれてやるだけでは尊敬は得られないと思った。経験を伴わない交流に意味はあるのかと疑問に思っただけだ。
(ただ、華がフレンドにしたNレアどもに華のジョブチェンジがバレちまっただろう。だが、俺はデメリットよりも未来のメリットをとる)
難度は上昇している。Nレアどもだけではエリア2で詰む。絶望が奴らを覆うだろう。だが、華がフレンドとして登録してあれば話は別だ。Nレアどもは華に特大の感謝を捧げる。そのフレンドリスト目当てに高レアどもがNレアどもを引き入れるかもしれない。
(そもそもジョブチェンジだけなら栞のフレンドリストから既にバレてるはずだったんだ。……ジューゴは興味を持たなかったみたいだが)
有り得る話だ。あいつの興味は妙な部分にある。
それに勇者のジョブは強力だ。『ジョブ【嫉妬男子】』などどうでもいいのかもしれない。
とにかく、だ。この変化は、あとで必要になるかもしれない変化だ。
とにかくあのだらけきった世界に、ジョブチェンジという特大の爆弾をぶちこめればそれでいい。
俺に計算はできねぇ。だからとにかく引っ掻き回す。この世界にはまだまだ秘密がある。それを知れ。あがけ。探れ。雑魚どもめ。だらだら過ごしやがってよ。俺と同じぐらい努力してみろよ、クソどもが。
(それに、こっちは回収してあるしな。エリア2の隠しエリアへ侵入する条件がバレることはない)
俺のアイテムボックスにはエリア2の隠しエリアへ入る条件の書かれた石板がある。華に回収させておいたものだ。
内容は、だいぶ迂遠に書かれている。要約すりゃ、一ヶ月戦いもせずに休息エリアで過ごした後で最初の戦闘で負けろ、だ。
担当する大罪は『怠惰』。
一ヶ月、一ヶ月ね。
(これは、偶然か?)
俺は赤鐘後輩に目を向ける。赤鐘後輩はじとっとした目で俺を見る。
「どうしたんですか? やってくれるのでは?」
「ああ、やる」
赤鐘朝姫は、戦闘もせずに白陶先輩に恵んでもらっていたパンと水だけで過ごしていたという。だから、この少女だけがエリア2で唯一隠しエリアに到達できたはずなのだ。
(いや、戦闘で負けるのは無理か。赤鐘後輩だけならともかく誰かが一緒に付くだろう)
ならば、たった一人で挑むのか? 挑み、隠しエリアに落ちて、『死病』の効果でただ死に続けるのか?
華と同じ境遇になる。ステータスを知っていようが、赤鐘朝姫は『死病』がある限り死に続けることになる。
「先輩?」
「忠次様?」
さすがに不審に思った2人に問われ、俺はなんでもないと赤鐘後輩のメニュー画面から衣装の製造を開始する。
製造されたミニスカサンタ服を赤鐘後輩は奇妙なものを見る目で見る。そうだよな。そういう反応になるよな。
「あの、これをボクが着るんですか?」
「ああ。いや、システムメニューにジョブ変更の項目が増えてるからそれでジョブを変更すればいい」
はい、と赤鐘後輩が指を動かせば、衣服が変更され――
――どしん、と休息エリアに消毒の匂いのするベッドが出現する。
そして、赤鐘朝姫は倒れていた。血を吐いて、ベッドの上に倒れている。いや、パーティーメニューからHPを見れば0になっていた。死んでいた。
(ジョブの変更にともなってレベルが1になって最大HPが低下したから、死んだ?)
それだけじゃない気がする。死に続けていた。赤鐘後輩は出現しては死ぬを繰り返していた。
「おい、華」
「わたしではありませんよ」
華が殺しているわけではない? ああ? 額を押さえる。じゃああれは自然死、してんのか?
「クソ、華、どうにかしろ」
さっき開いていたステータスは死んで閉じてしまっている。そして、赤鐘後輩にステータスを開かせなければレベルアップもできない。だが死に続けている現状、ステータスを開く暇もない。
「わかりました」
華が微かに口を動かした。風で直接言葉を届けているのか。
「朝姫さん。それは過去の赤鐘朝姫です。今の赤鐘朝姫ではありませんよ」
パーティー画面に表示されている赤鐘後輩のHPの減少が、途端に緩やかになる。
だが、緩やかになっただけだ。止まったわけではない。『妬心怪鬼』の感覚はある。『死病』ではないのだ、これは。
「今だッ! ステータスを開け! 赤鐘後輩!!」
俺の言葉を聞いてか、赤鐘後輩の口から微かにステータス、という声が漏れた。俺は出現した消毒液臭いベッドの上に飛び乗ってそれを操作する。
とにかくレベルアップさせる。ジョブチェンジで戦士に戻した方が早いだろうが、それでは次にジョブをこれに変えた時にまた死に続ける恐れがある。今後を考えれば、とにかくレベルアップさせた方がいい。
赤鐘後輩のステータスを操作し、レシピの製造素材を手に入れるために周回したおかげで大量にある魂をぶちこむ。足りない分は俺の持っている素材を赤鐘後輩にくれてやって、レベルアップだ。
一気に赤鐘後輩のレベルがMAXになる。
ついでにステータスを表示させて、覗き込んだ。いったい何が原因だ?
名称【郷愁と憧憬・朝姫】 レアリティ【SR】
ジョブ【ミニスカサンタ】 レベル【60/60】
HP【7600/7800】 ATK【7500】
リーダースキル:『病室のメリークリスマス』
効果 :戦闘開始時、敵味方に【眠り】を与える。
スキル1 :『自我妄想・わたしはげんき』《クール:4ターン》
効果 :自身の状態異常を全て治療する。
スキル2 :『あったかおふとん』《クール:4ターン》
効果 :敵1体に状態異常【眠り】を与える。
スキル3 :『豪華なプレゼント』《常時》
効果 :エリア『朱雀の養鶏場』のモンスタードロップを+2する。
必殺技 :『感染経路不明の悪夢』《消費マナ2》《クール:5ターン》
効果 :敵味方の【眠り】状態のユニット全てに【気絶】を与える。
「どういう、構成だ。これは」
これでなんでHPが減る? っていうか今も減り続けている。特殊ステータスか? いや、発生はしていない。あるのは死病だけだ。
赤鐘後輩が頭を振りながら、震えるように言う。
「これ、この感情、なんですか? これ?」
「朝姫さん。それは、あなたがその時に感じていた感情です。あなたが、去年のクリスマスに、覚えた感情そのものです」
うめき声があがる。赤鐘後輩が俺を見ていた。
「先輩、戻して、いいですか? ジョブってのを」
「あ、ああ。戻していい」
赤鐘後輩が手元のステータスを操作する。ベッドが消え、制服姿に戻った赤鐘後輩が地面にうずくまる。反吐をぶちまける音が響く。赤鐘後輩が吐いていた。
俺は背中をさすり、吐かせきってから水を飲ませてやる。
「華、言うな」
「はい」
何かを言おうとした華を牽制する。一瞬だが、瞳に悪意が灯っていた。世話されている赤鐘後輩に嫉妬したのだ。華が赤鐘後輩を必要もなく虐めようとしていた。
これは面倒だが言わなくてはならないか。
「なぁ、華。俺はお前を自由にさせている。極力枷をはめないようにしてる。それはなぜだかわかるか?」
「忠次様がわたしを信頼しているからでは?」
「ちげぇよ」
違う。信頼なんかしてねぇよ。こいつはやらかすとずっと思っているし、現に華をエリア2に解き放った後に、こいつはやらかした。
だが俺はそれでも華に何もするなとは言わない。それだけは言ってはならない。信頼とか忠誠とか信用とかそういうことではなく、それは単純に。
「お前が、俺の想像の外のことをするからだ。想定外の成果を持ってくるからだ。華、お前が俺の指示通りにしか動けない人形なら、お前なんかいらねぇ。俺の傲慢が加速するだけだからな」
だが、と俺は言葉を付け加える。
「お前はいつだって俺の想像の外にいる。俺の想像の外のことをする。それがお前を俺の配下にする一番の理由だ。お前が優秀だからじゃねぇ。お前が俺に従うからじゃねぇ。俺の想像の外にお前は必ずいる。俺の予想外を持ってくる。だから俺はお前を自由にする」
俺が考える常識では絶対にこの悪夢のような状況は打開できない。魔王は倒せない。ジューゴには勝てない。ステータスもそうだが、俺の発想はあくまで一般人の尺度の内側にある。だから、俺の想定をことごとく上回る華は俺にとってはなくてはならない存在だ。
だけれど、と俺は赤鐘後輩の背中をさすりながら華に命令をする。
「だからといってな。こいつをあまりいじめるな。気分が悪くなる」
それだけだ、と俺は言った。華は泣きそうな顔で俺を見ていた。俺に叱られたせいか、今にも死にそうな顔をしていた。
エピソードが失われる気配はない。息を吐く。傲慢があるとはいえ、叱るのはあまり気分がよくはない。爆弾処理をしている気分になるからな。
「すみませんでした。気をつけます。だから、その」
何かを言おうとした華を手で遮る。あまえんなよ華。今はお前のケアをしている暇はない。見てわかるよな?
「気をつけるんだな? わかった。話は終わりだ。……それで、赤鐘後輩。大丈夫か? 平気か?」
「ああ、先輩。最悪ですよ。これ、この、感情、やだ、やだなほんと」
赤鐘後輩が再び反吐をぶちまける。背中をさすってやる。嗚咽を漏らしながら赤鐘後輩は枯れた声で言う。切れ切れで、聞き取りにくく、だが、恨みだけは十分に籠もっている声だった。
「誰も、誰も来なかったんですよ。クリスマスだってのに、このボクが、娘が、妹が、病室で死にそうだってのに、父さんも母さんも、姉さんも、兄さんも、誰も」
去年のクリスマス。栞は、ジューゴとともにいた。金持ちの女友達の、なんだ、ホームパーティーに呼ばれたんだそうだ。華音もその場にいたらしい。
俺は呼ばれなかった。呼ばれなかったから俺はモテない男子どもをまとめてカラオケだの男子だけのパーティーだのをやっていた。
俺の心に嫉妬の感情が燃え上がる。ジューゴめ。クソ。あいつ。クリスマス楽しかったらしいな。クソが。俺も呼べよ。親友だろ一応。
ため息が聞こえた。俺の腕の中で赤鐘後輩が地面に向かって反吐と一緒に吐いたのだ。
「……一番、具合が悪かったんです。クリスマス。だから、ボク。ジョブチェンジでそれを思い出しちゃって。苦しくて」
ああ、と俺は赤鐘後輩の薄い背中を擦ってやる。共感は全くできないが、理解はしてやれる。
「なんとかするよ。そいつも。お前が平気になるまでな」
そうですか、と赤鐘後輩が安心したように力を抜いた。
俺は、なんとかってなんだよと内心だけでつぶやいた。
ため息は、出なかったと思う。




