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ソシャゲダンジョン  作者: 止流うず
第二章 ―折れた魔剣―
34/99

002 明けの明星


 俺たちはルシファーを倒したことで、なんの後腐れもなく朱雀の養鶏場から出られるようにはなった。

 だが、すぐにこの隠しエリアから出られたわけではない。

 難度上昇による敵のステータスや行動パターンの検証が必要だったし、何より孔雀王から得た素材で作った装備の強化を行いたかったからだ。

 ちなみに、朱雀の養鶏場最終地点で孔雀王と再戦ができるようだったが挑んではいない。

 難度上昇による影響で敵モンスターのHPが2倍、ATKが1.2倍になっていたからだ。

(主従のエピソードを俺は得たが、これだけ敵が強くなったなら再戦しても孔雀王には勝てねぇだろうな……)

 相手の攻撃が強化されている。それをどうにかしたとしても単純に手数が足りない。敵は変身する。HPを削りきれない。

(それに、だ。難度上昇、こいつのせいで次の大罪戦では栞のフレンドシャドウは使えない……)

 難度が上昇したと聞いてから覚悟していたことだった。前回もギリギリだったのだ。

 栞は現状俺が用意できる最強のフレンドシャドウだが、難度の上昇した大罪戦につれていけるほど強いわけではない。

 栞のレベルは最大ではない。装備も貧弱だ。

 それにシャドウである以上、特殊ステータスやエピソードの構築もない。

 もちろん対処法はある。上に上がり、エリアを進んだ後、全てを栞に打ち明け、共にパーティーを組んでもらう方法だ。

 そうすれば爆速でレベルを最大まで上げられる。シャドウに特殊ステータスやエピソードの共有はないが、レベルが上がるだけでも生存率はだいぶ変わる。

(だが、そいつはありえねぇ)

 栞に言えば絶対にジューゴに伝わる。ジューゴが大罪を知れば奴は面白がって挑むだろう。

 ジューゴに大罪に適応した特殊ステータスやエピソードがあるかはわからないが、おそらく奴は魔王を倒す。倒してしまう。笑いながら、楽しみながら倒しちまう。


 ――剣崎重吾(けんざきじゅうご)ってのはそういう奴なんだ。


 この腐れた現実がゲームやマンガだったなら、誰もが認める主役みたいな奴なんだ。

(元の世界に戻るためには大罪は倒さなきゃならねぇが、だからってジューゴに譲る理由もねぇ)

 大罪は俺の獲物だ。俺が見つけたのだ。だから俺は栞には言わない。栞の強化はできない。

「忠次様?」

「いや、なんでもない。なるべくレアリティの高い僧侶を見つけないとな……」

「そうですね。わたしが僧侶をできればいいのですが」

「そこは次のエリアのジョブに期待するしかないな」

 俺もそろそろSRになってみたいが、どうなんだろうなぁその辺りは。またレアリティ下がったら泣くぜ?

「ただ、一応だがこいつも手に入ったしな……」


 名称【明けの明星ルシファーズ・プライド・真】 レアリティ【LR】 レベル【100/100】

 HP【+1000】 ATK【+1000】

 スキル :『傲慢の天』

 効果  :敵全体に【攻撃力低下(小)】を与える。(永続)

 説明  :大罪の力を秘めた首飾り。真に傲慢たる者はただ在るだけで弱者の膝を折る。

 装備条件:『大罪耐性(中)』以上


 俺は俺の首で揺れるそいつを眺める。中心に巨大な目玉が鈍く輝く赤黒い金属製のネックレスだ。

 まるで意思があるかのように、そいつはギョロギョロと周囲を睥睨している。華がネックレスの視線を避けるかのように俺の背後に回った。

「その装飾品は、微かにですが常に大罪を発しています。忠次様なら大丈夫だとは思いますけど、不気味です。苦手です」

「だが強い」

 断言した。華が呻く。ATKの上昇も強力だが、敵の攻撃力を下げられるのだ。難度が上がったことで上昇した敵のATKに対応できるこいつは強い。フレンドシャドウの生存率にも関わる重要な装備だ。

 勿論装備していれば、このネックレスに秘められた傲慢の力が俺を圧迫するだろう。だが、それとて俺が持つ大罪耐性と気の持ちようで問題がなくなるレベルだ。

 大罪に苦手意識があるのだろう、華が心配そうに見てくるが俺は手を振って華の心配を退けた。

「装備すれば確実に強くなれる」

 華もそれは否定できないのかこくりと俺の肩口で頷いた。

「それでだ。確認できるのはこんなもんか。他にはもうないか?」

「ええ、はい。大丈夫だと思います」

 そうか、と俺は周囲を見渡した。

 『朱雀の養鶏場』。殺風景だった洞窟は、俺たちの使っているテントやテーブル、華が木材を加工して作った簡易的な訓練道具などが転がってなんとも言えない感じに使い込まれた場所になっていた。

 このエリアには1ヶ月滞在した。

 だからか、ここから離れると考えればなんとも言えない気持ちになる。

 もっとも転移キーがあるので、今後も訪れることは容易だが、それにしたって何も感慨がないわけではない。

 このエリアは多くのものを俺にくれた。感謝の気持ちが自然と湧き上がってくる。

「華、上に行ったら、手はず通りに頼むぜ」

「はい、忠次様。計画したとおりに」

 そうして俺たちは戦闘エリアへと侵入し、朱雀王とシャドウサンタを華の圧倒的火力で1ターンキルした。


 ―『ボス:朱雀王』『ボス:シャドウサンタ』を撃破しました―

 ―『エリア1【始まりの洞窟】』へ帰還できます―


 『YES』を選択すれば、周囲の雪景色が徐々に消えていき――



                ◇◆◇◆◇



 ――『始まりの洞窟』へと俺たちは戻ってくる。


 喧騒は少なかった。俺がいたときよりも明らかに人の数が減っている。

 やる気のある連中が皆出ていったのか? それとも、ボスを倒せずともルーチンワークとなっているデイリーミッション消化のための不在か?

 どこを見ても転がっているのは岩、岩、岩だ。ここは変わらない。死臭(ぜつぼう)はなくとも諦観(あきらめ)が満ちている。

「忠次様」

「俺は行く」

 はい、と華が頷いた。両手を胸の上に置いた華が切なそうに俺を見てくるが、無視(スルー)してすたすたと華から離れていく。

 俺たちが現れてから数十秒が経っていた。ざわめきが徐々にだが広がっていく。壁際にたむろっている連中がリスポーン地点に立っている華に気づいたのだ。

 艶のある長い黒髪。モデルのような長い手足。細い腰、大きな胸、シミひとつない白い肌、美貌。

 華。神園華。それはただ立っているだけで周囲を魅了してしまう人外の美の持ち主だ。

 そして、ただ美しいだけではない。周囲が自然と崇めてしまうような、神園華はそんな雰囲気(カリスマ)を自然に纏っている。

 「華、先輩?」「神園先輩だ」「え、なんで?」「嘘だろ。え? 今までどこにいたんだ?」「時間差とかあるのか?」「いや、ほんと美人だすげー!」「わあああああ! 華先輩! 先輩!!」

 (ノーマル)レアリティのグズどもが華に群がっていく。俺がいたことになど誰も気づかない。いや、気づいていながらも一瞬で忘れたのかもしれない。

 神園華には、俺の存在を無価値にするほどの存在感がある。

 想像はしていたが、あからさまなそれに劣等感が刺激された。頭を振って傲慢でその感情を押しつぶす。神園華はすでに俺の配下だ。気にしてはいけない。

(ああ、そうだ。今は別だ。俺にもやるべきことがある)

 目指す場所がある。

 壁際まで歩き、そいつらを見つけた。予想していた光景に呆れ返るも、そいつらの変わらぬ姿に口角が吊り上がった。

 変わらない。何も変わっていない。だがそれでも、そいつらは変わらずに(・・・・・)ここにいる。

 すでに変わってしまった俺の心が自然と暖かくなる。もはやこの輪の中には入れないとわかっていても穏やかな気分になれる。

「ははッ。よー、お前らマジで変わんねぇな」

「あ、あらい? 新井か? お前、今までどこに?」

 華に近づくこともなく、喧騒を遠巻きに見ていた連中の中に、そいつらはいた。


 ――雪辱を晴らせる機会ってのは、人生でそうあるもんじゃねぇ。


 俺の短い人生経験でもそれぐらいのことはわかるのだ。

 俺は目の前のグズどもを見下すように眺めた。

 茂部沢もぶさわじゃっく座古ざこ助三すけぞう無作ぶさそだつ

 奴らはメンバーを確保できなかったのか。それとも出ていかれたのか相変わらず3人でツルんでいた。

 まだここに居座っているのかよ。アホどもめ。

 だが、こいつらは俺とジューゴと栞ができなかったことをたやすく達成していた。し続けていた。

 自然と、口の端が歪にねじれるのがわかった。悪い顔をしている。悪い声を出している。傲慢がすべてを嘲笑っている。

「なぁ、久しぶりついでに悪いがパーティー組んでくれよ」

 1ヶ月前にはできなかったことがある。俺は、それを果たしたい。


 ――ゴミレアリティだろうが、俺にも意地がある。


 なぁ、俺よ。そうだろう? そうなんだろ?

 呆然と俺を見上げる三人組を見ながら、俺は重ねて言う。

「なぁ、前衛をやらせてくれよ。なぁ、俺たちでゴーレムを倒そうぜ。なぁ、茂部沢。なぁなぁなぁ」

 俺の勢いに、ええと、と引きつったように、茂部沢が気弱に笑ってみせた。


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