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ソシャゲダンジョン  作者: 止流うず
第一章 ―狂信する魔性―
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 ターンが移る。

 シャドウ栞が杖を振るい、全体のHPを1割回復する。『聖女の理レキシンティア・シンティリラ』。フレンドシャドウのリーダースキルだ。

 攻撃順は戦闘が始まれば変えることはできない。俺からの攻撃。必殺技がクールタイムに入っているために孔雀王ルシファーには通常攻撃で攻撃を行う。

 と表現すれば簡単だが実際は走って斬りつけるという動作が必要だ。

「だが、それだけじゃ芸がねぇよな……」

 もう修練とかは関係がない。特殊ステータスの発生を狙っている暇はない。オートで敵を攻撃したところで問題はない。

 だが、そうじゃねぇ。俺たちの修練は無駄じゃねぇんだ。オートとマニュアルにも違いは当然ある。

 ターキーでクリティカルを高確率で出せるようになってわかってきた、戦闘の仕様。

 自ら攻撃をすることでできることはある。


 ――あるのだ(・・・・)


 そう、自力で攻撃することで攻撃時に稀に発生するクリティカルは意図的に発生させられる。

 だから、俺はこの戦いで孔雀王の弱所を探ってみる努力をしなければならない。

(ターキーの補正がありゃちったぁ楽だったはずだが……)

 小胆が告げてくる疑念。やる必要はあるのか、と?

 100ターンの時間制限? 華の計算上では現状の戦力でも間に合うはず?

 馬鹿が。そんなことは知ったことか。そんなことはどうでもいいんだ。

(俺よぉ。俺がこの戦いをやってんのは、とにかく奴をぶっ殺す。それだけの為だろうがよ)

 だからこの戦いの中でも俺は、やらなければならない努力をする。

「さて……」

 剣を握り直す。敵を見据え、思考を巡らせる。

 孔雀王ルシファーはいろいろと差異はあるものの、有り体に言えば巨大な孔雀だ。

 本質はどうあれ、そのモデルが生物であることは間違いない。なので意図的にクリティカルを発生させるなら、首や心臓などの急所を狙えば高確率でクリティカルが発生するはずだが……。

(でけぇな……)

 高層ビル並とはいわねぇが、2階建ての家ぐらいはあるだろう。なので豪華だが、棒きれ程度の長さの剣で奴にクリティカルをぶち込むためにはあの頭をどうにかして下げさせねぇといけねぇんだが。

 心臓は無理だ。肉が厚すぎて手にもってる剣で心臓まで貫通できる自信がねぇ。つかそもそも鳥の内臓の構造を俺はよく知らねぇ。

(で、首は無理か?)

 華の行動順が俺より前ならば可能性もあったが、俺がターンの始めであるならばもはやどうにもできない。


 ――できない? 今、俺はできないと考えたか?


 この、どこまでいってもクソみてぇな小胆を発揮しやがって……!!

「そんなこと考えてたら負けるだけじゃねぇか! 華!! どうにかしてあいつの頭を下げさせろ!!」

 俺の言葉を受けた華がはッ、としたように杖を持つ腕をあげた。

 舌打ちが漏れる。華にしては勘が鈍い。大罪によって思考が鈍化でもしてんのか!?

「クリティカルだ! 頭ァ下げさせろ! 華!」

「ッ……やってみます!!」

 攻撃はシステムから攻撃を選択しない限りは行えない。だが、だ。華の魔法なんかは別だ。

 華の持つ、スキルではなく自ら身につけたことで得た特殊ステータス『魔導練達者』。これはスキルによらず自ら魔法を扱えるようになった証。

(ただし、だ。俺たちはまだ戦闘中に意図して魔法を使ったことはねぇ。必要がなかったからだ)

 だが、戦闘中にコマンドを経由せずとも行うことはできる。

 イベントエリアのツリー破壊。華はあれを攻撃コマンドを介さずに行った。行えたのだ。

 華の魔法により、渦巻く風が孔雀王ルシファーの頭上に現れる。

 懸念はある。これが『攻撃』とカウントされ、華が『オートカウンター』の餌食になる可能性だ。

 もう華が『無敵』を張った前回ターンは終わっている。

 華の特殊ステータス『新井忠次(かみ)への信仰』で無敵ターンが延びている俺は別だが、華もシャドウ栞も、ターンを経過したことで華の張った『無敵』の効果が切れているのだ。

 だからこの干渉でオートカウンターを食らえば華はこのターンで死亡する。華の現在HPは装備と料理による増強、更に『エピソード』による強化もあって8880。HPが低めの魔法使いとはいえ、低レアの戦士を上回るHP量だ。さすがのLRレアリティだ。伊達ではない。

 そしてその上で大罪耐性(中)とリーダースキルによるダメージ減衰があるのだ。これに加えて、ターン最後に全体回復を行うシャドウ栞の回復魔法があれば、各々10000ダメージを与えてくる(前回の検証で計測できた数値だ)孔雀王のオートカウンターと全体攻撃を『魔法使い』の華でも耐えられる。

(だが、華は孔雀王ルシファーの攻撃を3度耐えることはできねぇ!!)

 計算の結果。華が耐えられるのはオートカウンター1回と全体攻撃1回だけだ。オートカウンター2回は勘定には入っていないのだ。

 そして、このターン。華の手番での攻撃は必定だった。必ずしなければいけない手順だった。

 でなければ俺たちは全滅する。『無敵』の切れている現在ターンに朱雀王2体と孔雀王ルシファーの攻撃を全て喰らったら『無敵』のある俺はともかくシャドウ栞が死亡するからだ。

 シャドウ栞が死ねば華を蘇生する手段はなくなる。俺も不死鳥による一回だけの蘇生はあるが、HPの回復が行えずに死ぬ。この戦いは俺たちの敗北で終わる。

 ならば華の行動を制止すべきか?

(そうじゃねぇよな……)

 ここは、やる(・・)一手だ。やる一手しかねぇんだ。俺たちは、俺たちの計算を上回らなければならねぇ。このクソみたいなシステムに反逆しなければならねぇ。

 あのクソみてぇな孔雀王の、憎悪と殺意に満ちた視線で見られりゃ理解できる(わかる)


 ――俺たちは、見透かされている。


 だから、努力すべき余地があるってのに、手を休めるのは賢い選択肢じゃねぇんだ。賢しさを装った臆病はクソみてぇな腑抜けのすることだ。

 そもそもだ。ここで突っ込む理由なんざ1つしかねぇんだよ。


 ――鼠みてぇに縮こまるのは俺の傲慢が許せねぇと言っている。


 それだけの話だ。

 だから、華の魔法が展開した瞬間に過ぎったそれらの考えの全てを脇に投げ捨てて、俺は剣を強く握り、駆け出していた。

「ぶっ殺す! 絶対にだ!!」

「風魔法! 頭を落として!!」

 渦巻く風。逆巻く轟風。ヤロウの頭が下がるのを期待して、孔雀王(とりやろう)の頭が俺の前に来るのに合わせて剣を振るってみるものの。

「華てめぇ! 下がらねぇじゃねぇか!!」

 俺の斬撃は深く奴の腹をえぐっただけだった。敵ボスのくせに、ふかふかしてやがる奴の黒い羽毛に覆われた土手っ腹に俺の斬撃が叩き込まれる。

 そしてオートカウンター。『妬心怪鬼(エンヴィーラ)』は今回も不発。『無敵』でダメージは入らねぇが「ぐぇぇッ!?」剣みてぇな羽にぶっ飛ばされて元の位置に叩き返される。

 やはり、だ。傲慢の大罪が精神の主軸である俺には、剣を振った瞬間にも嫉妬の意識を維持するための執念が足りない。だから俺の攻撃に対して発動するカウンターを無効化することが俺にはできねぇ。

「す、すみません。相手が強すぎて、わたしには頭を下げさせるのは無理でした」

「あ゛あ゛? つまり、ピンピンしてやがるから駄目だっていうのか……?」

 確かに奴のHPバーは9割以上が残っている。あれが減れば奴は弱るか?


 ――弱るだろうな。


 俺もHPバーの数値が減少すれば、弱る。いや、まぁその状態に至るために受けた苦痛で精神的に弱らされているという意味だが。

 無論、死に慣れている、というより肉体のダメージを度外視して動ける華なんかはHPバーが減少したとて弱ることはない。こいつが弱るのは大罪の影響を受けたときぐらいのもので、熱した鶏肉を手に載せながら、震え1つなく俺に差し出してくる真似すらできる精神的な超人だ。

「なら、クリティカルを意図的に与えるには、弱らせる必要があるってことか……」

 あの頃はあまり確認してはなかったが、確かに、機械的に動くゴブリンですら、ダメージを受ければ弱った演出ぐらいはしていたように思える。

 『演出』……。つまり、そういうことか。

(オートでの肉体操作とマニュアルでの肉体操作、結果は同じなのにどうして存在しているのか不明だったが……)

 やはり、だ。観察すれば、考えれば、『始まりの洞窟』から出る手段はたくさんあった。

 俺の不明が。俺を苦境に叩き落としたのだ。

(ま、ゴーレムは意図的にクリティカルを狙うのは難しかっただろうがな……)

 生物じゃねえぇあれに疲れるとか、そういう感情的なもんを期待するのはどうかと俺は思うぜ。

 そして、幸いにも戦闘コマンド以外での攻撃は攻撃と認識されなかったのか。孔雀王ルシファーの『オートカウンター』は華へ発動せず、華の手番へと移る。


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