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ソシャゲダンジョン  作者: 止流うず
第一章 ―狂信する魔性―
3/99

003


 エリア『始まりの洞窟』。そこは5戦の『通常戦闘』を抜けると『ボス戦闘:ゴーレム』にたどり着くエリアだ。

 ボスがめちゃんこ強い以外は出現するモンスターも弱い初心者用エリア……なのだと思う。

「っと、パーティー確認しとかないとな」

 あいつらとパーティーは別れてからそちらの画面はいじっていない。『ステータス』と呟き現れた画面を操作していく。

 パーティーリーダーは新井忠次。俺だ。メンバーはいないので『なし』。フレンドはLR僧侶の御衣木栞さんを呼び出しておく。

「あー。クソが……。まー、御衣木さんいるし、ボス以外はなんとかなるだろ」

 個人的には道中1戦目で切り上げたいところだが、道中4戦目のドロップ品はそこそこに経験値効率の良い合成アイテムだ。一人じゃきついがなんとか頑張ってそこまで行きたいところだった。

「効率良いって言ってもこのエリアでの話だし、ああ、嫌だなぁ。マジでここのシステムがターン制じゃなきゃな……」

 ついでに戦闘がアクション系だったらよかったのに。俺は愚痴りながら『始まりの洞窟』と岩場を分ける境目を乗り越えた。


 ――空気が変わる。


 これはなんとも言えない感覚だ。今までの岩場はのんびりした、リラックスできる空気が漂っていたのに、エリアに一歩踏み込んだ瞬間、空気が肌がひりつくようなものに変わる。

 皆があの岩場を休憩所と呼び、長居してもいいかなんて言ってしまうのはきっとそのためなんだろう。

 特に意味は無いけれど手の中の『見習いの剣』を試しに振るう。ちなみに『顕現』させなくても装備スロットに入れた『武器』はエリアに入った瞬間に手の中に現れるのだが、なんとなくかっこいいので『顕現』させてしまうのは男の子のサガという奴だろうな。

 ちなみに『装備』は誰でも初期に持たされていて、その場合だと『折れた』シリーズになる。

  俺の剣は現在『折れた』の次の次に強い『見習い』シリーズだ。

「ふッ、とこんなもんか。まぁ意味はないけど」

 ぶん、っと剣を振って呟く。

 俺の剣は3か月の間、強化素材をぶち込み続けて鍛えた一品だ。といってもそこまで強くはない。『見習いの剣』は限界まで鍛えたところでせいぜいがATK(こうげきりょく)を100プラスしてくれるぐらいのもので、特殊能力なども全くない。

 本当に見習いの品なんだろう。

 ろくなもんじゃない、とはいえこれより下のランク品である『折れた剣』や『粗末な剣』よりマシな品であることは確かではある。

「じゃあ、頼む。御衣木さん」

 エリアに入った瞬間、俺の背後に出現した黒い影(フレンドシャドウ)がこくりと頷いた、ような気がした。


 ――フレンドシャドウ。


 戦闘エリアに侵入した際、パーティーに『設定』した『フレンド』を呼び出すシステムだ。

 もっとも本人ではない影のようなもので、喋ったりはしないが戦闘時では自己判断(オート)で戦ってくれる存在だ。

 賢くはないが馬鹿でもなく、レアリティが高ければ下手な味方より頼りになるのだ。


『名称:御衣木栞

 レアリティ:『LR』

 ジョブ:僧侶

 レベル:60/100

 HP:5800/5800

 ATK:3500

 リーダースキル:『聖女の理レキシンティア・シンティリラ

 効果:自分のターン開始時、パーティー全員のHPを1割回復する。

 スキル1:『天の恵み』《常時》

 効果:回復魔法の効果を単体からパーティー全体に変更する。

 スキル2:『三対神徳:慈愛』《クール:6ターン》

 効果:パーティー全体の状態異常を治療し、HPを小回復する。

 スキル3:『マナの奔流』《常時》

 効果:ターン経過で補充されるマナを+2する。

 必殺技:『月光聖樹』《消費マナ10》《クール:8ターン》

 効果:パーティー全体の戦闘不能者をHPを全回復して蘇生する』


 ちなみにこれが彼女のステータスである。

 俺のカスみたいなステータスとは比べ物にならないものだろう。ちなみに『クール』とはクールタイムの略であり、一度使ったら設定されたターンが経過しないと再使用できない、というものだ。

「で、そろそろか……」

 そうして俺は「あー、くそ。いやだなぁ」なんてつぶやきながら洞窟のある一定の地点より先へ踏み出し。

「おらぁ! いくぞ!!」

 気合の雄叫びをあげた。


 ――バトル、スタート。


 勝手に表示されたステータス画面に、そんな言葉が表示される。

 そして俺の目の前に出現する人型の怪物(モンスター)が3体。

 それぞれゴブリンA、ゴブリンB、ゴブリンCと頭上に表示が出ている。足元にある赤色の付いた横棒は奴らのヒットポイントバーだ。モンスターに攻撃をして、今からあれを削りきらなければならない。


 ――そうしなければ終わらない(・・・・・)


 ターン開始の文字がステータスウィンドウに表示され、俺の身体を回復魔法が包み込む。御衣木さんのリーダースキルだ。『聖女の理レキシンティア・シンティリラ』。自分のターン開始時、パーティー全員のHPを1割回復するスキル。

 パーティーリーダーが持つリーダースキルとフレンドに設定した人のリーダースキルは同時に機能する。だから呼び出すフレンドは重要だった。

 その点御衣木さんのリーダースキルは破格と言っていい。これだけで俺が死ぬ確率が激減する。

「おらぁ!」

 とりあえず、と手近のゴブリンの一体に俺は剣を振り下ろす。俺の一撃を受けたゴブリンのヒットポイントバーが砕け散り、消滅する。さすがに1戦目だ。16レベルまで鍛えた『R』レアリティの戦士の一撃を耐える体力は奴らにはない。

「みんなに癒やしを」

 そして俺の行動の後、背後の御衣木さんが設定された『定型文』を呟きながら手に持ったかなりのレアリティの杖を振り上げ、パーティー全員の体力が回復する。(もっともこちらのターンから始まるので、未だなんのダメージも食らってはいないが)

 『僧侶は攻撃ができない』。この空間でのルールの一つだ。正確には攻撃はできるのだが、僧侶は杖で殴ったり拳で殴りかかったりしても相手にダメージが入らない。という奴らしい。

 この世界に詳しい奴が言うところの仕様(システム)という奴なのだ。

 そして『エネミーターン』という文字がステータスに表示される。

「ぐ」

 目をつぶる。こればかりは慣れない。ゴブリンが近づいてきて俺に棍棒で殴り掛かる。がつんと腹に痛み。ステータスのヒットポイントの表示が100ぐらい削れる。「てめぇ」睨みつける。身体は動かない。自分のターンに『攻撃』してしまったら『回避』も『防御』もできない。そういう仕様(システム)

 別のゴブリンが近づいてきて俺に棍棒で殴り掛かる(こうげき)。身体に痛み。ヒットポイントが削れる。糞。

 倒したゴブリンは1体。攻撃してきたゴブリンは2体。よし、俺たちのターンだ。

 『パーティーターン』ステータスに表示。御衣木さんのスキルによって俺の体力が回復。そして俺の手番になり身体が動くようになる。

「『勇猛』」

 俺はスキルを発動した。スキルの発動に手番は消費されない。俺の攻撃力が上昇する。同時にスキルコマンドの『勇猛』に『再使用まで6ターン』という表示が出る。一度使えば二度目の使用までにターン経過を必要とするのがスキルなのだ。

 もっともゴブリン程度別にスキルを使わなくても倒せるのだが、腹いせもあっての行動だった。俺を殴ったゴブリンの一体に向かって走り出し、剣を振り上げる。

「痛かったぞてめぇこら!」

 剣を振り下ろす。機械みたいに悲鳴も上げずに倒れるゴブリンB。砕け散るヒットポイントバー。

「みんなに癒やしを」

 『定型文』をつぶやいた御衣木さんが俺と自分の体力を魔法で回復し(全体回復魔法らしいのでダメージを食らってない御衣木さんも回復されるのだ)、ターンが終了。

 そして『エネミーターン』だ。ゴブリンが突っ込んできて俺の身体が棍棒で強く殴られる。

「ぐぬぬ」

 この攻撃を食らうとわかっているのに動けないもどかしい感覚が嫌いだ。まるで処刑場でギロチンの刃が落ちるのを待つ死刑囚の気分である。

 もっともどう受けたところでダメージ量は変わらないのでおそらくは身体に受けなくてもゴブリンが棍棒を振り下ろせば俺のヒットポイントは自動で削られるのだろうとは思う(敵のターンではまともに動くことはできないのでそういう状況に遭遇したことはないが)。

 で、ゴブリンCが行動を終了したので俺たちのターンだ。御衣木さんのリーダースキルで俺のヒットポイントが回復し、俺の手番。俺の身体が動くようになる。

「これで終わりだな」

 ゴブリンCは終わっていた。俺が攻撃すれば死ぬ。だというのになんの感情もその表情には浮かんでいない。逃げる様子もない。

 ターン制なのでこうして状況が詰んでいても俺が行動を終了するまでゴブリンは動けないのだ。機械みたいな無表情で、ぴくりとも動かない敵は俺をじっと見ている。

 俺はステータス表示を見る。御衣木さんのスキルのおかげか『マナ』が溜まっている。

「必殺技で締めるか」

 『マナ』。1ターンに1だけ溜まるなんかよくわからない数値だ。御衣木さんはこれを1ターンに追加で2増やす破格のスキルを持っている。マナを消費して使える『必殺技』はRレアリティ以上の人間が持つ強力な技で、これのチャージ時間を減らすスキルを持っている御衣木さんはさすがのLRレアリティだと言っていいだろう。

 ちなみに最大値は10で3ターン目の現在、マナは9つ溜まっていた。

「必殺!!」

 叫ぶ。叫ばなくても『使う』と念じれば使えるのだが、なんとなく叫びたくなるのが必殺技である。

 通常の攻撃コマンドと違い、俺の身体が勝手に剣を高く振り上げた。剣が光を放ち、俺の身体が勝手にゴブリンに向かって走り出す。

「大、斬撃!!」

 どん! と派手な光と衝撃。ゴブリンが吹っ飛び消滅。ついでに派手な演出の巻き添えでヒットポイントバーも砕け散る。

 ぱんぱかぱーん、なんてめでたい音楽がどこからともなく鳴り響く。

 『コングラッチレーション』とステータスに表示が出る。ついでアイテムとゴールドを取得したとの報告も。

 ドロップアイテムは『折れた剣』『折れた剣』『ゴブリンの魂』だ。『折れた剣』は戦士の武器だが『見習いの剣』があるので今の俺にはいらない装備だ。

 とはいえ装備としてはいらないのであって、素材に換算すれば無用のものというわけでもない。

 ステータスから開ける『合成』コマンドで折れた剣を見習いの剣に合成すれば見習いの剣のレベルがあがり、攻撃力が上昇するのだ。未だ見習いの剣はレベルマックスというわけではないので、地道だがやらないわけにはいかない作業の一つ。

 そして『ゴブリンの魂』。売値もレアリティもカスみたいな素材だが、重要といえば重要なアイテムだった。

 こっちは『強化』から俺のステータスに合成することで微々たるものだが俺の経験値となり、ステータスに表記されるレベル上昇の助けとなる。

 そしてゴールド。『始まりの洞窟』の通常ステージ1ともなればゴールドなんか雀の涙ぐらいしか手に入らないのだが、ゴールドは『合成』と『強化』を行うのに必要な資源(リソース)なので、こんなカスみたいな量でも収集をおろそかにしてはいけないのだ。

 取得品を確認してアイテムボックスに入れた俺は剣を片手に先の通路を見る。

 『戦闘』に突入すればもう『戦闘』するしか行動ができないのだが、こうして『戦闘』が終われば先の道に進むこともできるのが、この空間の特徴だった。

「よし行くか。御衣木さん、いつもありがと」

 意味のないお礼だ。だが1人でずっと戦ってると息が詰まるので積極的に話しかけてみる。

 もっとも、真っ黒な御衣木さんはシャドウなので、知能はない。返答も何もなく、自動で行動するただの影なのだ。

 それでもこくりと頷いたような気がする。俺が寂しすぎて見えてしまっている幻覚かもしれないが。

「地味に1人だとしんどいよな」

 グズども3人。あれはあれで仲良すぎて部外者だった俺はたまに寂しい想いをしたが、なんだかんだで話はできたしそんな悪いもんでもなかった気がする。グズじゃなけりゃもうちっと付き合ってもよかったんだが……。

「ま、もう手遅れなんだけどな」

 今日は通常ステージ4まで行って帰るを繰り返そう。人の募集は噂が消えるのを祈るしかねぇが、無理かなぁ……。

 とはいえ、俺が噂を払拭してどっかに加入させてもらうにはとにかくレベルを上げて俺の価値をあげなきゃ話にならないのだった。


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ターン制にも体動かすのが苦手とかの人には利点はあるんだろうが鍛えた技術の入る隙が無いのはクソだな。本当にステータスが全てやん、こんな世界は嫌やな
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