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「いくぜ」
『勇猛』によって上昇する攻撃力は1.2倍。
これは3ターンの間維持される。
『付与:傲慢たる獅子の心』で付与される『大罪耐性(中)』も同様だ。なんらかの手段で解除されない限り、これらのバフは3ターンの間、維持される。
四聖極剣の柄を強く握る。華とシャドウ栞のスキル、『マナの奔流』×2と『マナ効率』でマナは6つ溜まっている。
自身のステータスを見る。
ATK2200。これに『努力の筋肉』+500。『朱雀王ごった煮鍋』+1000。『四聖極剣スザク』+800。『朱雀王金冠』+600。ATK合計値5100。
更に『勇猛』による攻撃力(小)上昇により1.2倍。『跪け、傲慢たるや悪逆の天』による攻撃力(中)低下により0.7倍。『叛逆の狼煙』レアリティ特攻1.5倍。『傲慢の大罪』大罪特攻1.5倍。ATK合計値9639。
「必殺」
駆け抜ける。『妬心怪鬼』でターゲッティングしている孔雀王ルシファーへと。
オートでの肉体操作を拒み、地面を蹴り、駆け抜ける。
「喰らえやぁああああ! 大、斬撃ぃいいいいいい!!!」
地面を蹴り、巨大な孔雀の化け物相手に、真正面から聖炎ほとばしる斬撃をぶちかました。
ATK2倍。マナ消費3の俺の必殺技。炎迸る長剣は人間ならばそのまま唐竹割りにするような大上段の軌跡を描く。
『ギピィイイイイイイイイイイイ!!!!』
絶叫。聖炎属性がどれだけ効いているかわからないが、前はカスみたいに削れただけだった相手のHPが目に見えて削られる。相手に耐性がなければ19278の大ダメージだ。減衰なしで食らえば朱雀王でさえも死にかける一撃。
(俺も、ここまで強くなったかッ!!)
相手のHPバーを注視する。1%ぐらいか? 1%ほどだ。1%削れた。HPは恐らく200万ぐらいか!? 2回目の挑戦から華が割り出したHPと変わらない数値だ。
――『オートカウンター』。
「ぐッ!?」
孔雀王の反撃だ。攻撃に反応して自動で反撃の行われるスキル。
『妬心怪鬼』でスキル成功に割り込みを行うも、嫉妬が足りねぇッ。刃の雨がごとくの鋭い羽の射出。俺の腹が深く、深くえぐり取られる。普通なら即死だが、演出のようなものだ。痛みはある。HPも減る。出血もする。しかしこれで死ぬことはない。
戦闘フィールドでの死はHPが完全に0になることで発生する。
複数の大罪耐性と華のリーダースキルによるダメージ減衰があるものの俺のHPは3割近く削られる。
「クソッ。俺も強くなったが、やはり、こいつはつぇぇぜ……」
相手に必殺を叩き込んだが、依然として泰然としている。孔雀王の姿に揺るぎはない。俺は、その姿を見ながら嫉妬の炎を燃やしていく。そうだ。もっとだ。もっともっともっと。
――もっと嫉妬しろ。
勝つためとか、そんなことじゃない。相手をとにかく極限まで、羨め。それこそが、嫉妬の真髄だ。
――俺は、お前が羨ましい。その力が欲しい。羨ましい。欲しい。俺にない力を持ちやがって、妬ましいぞこのヤロウ。
そして俺の手番が終わる。
◇◆◇◆◇
俺の手番が終わり、華の手番へと移る。といってもすることはスキルを使って無敵を張るだけだ。
俺と違って『恐慌』に耐性を持たない華はこのターン攻撃を行うことはできない。
とはいえ、スキルを使うことはできる。『恐慌』の状態異常は行動を禁止するが、スキルの発動までは禁止しないのだ。
(行動不能は厄介だ……)
戦闘行動を不能にする状態異常は他にもある。朱雀王がばら撒いてくる『燃焼』だ。こいつはターン開始にダメージを受ける種類の状態異常なのだが、こいつは更に、攻撃コマンドを使えなくさせる効果がある(ただ、『恐慌』と同じくスキルを使うことはできる)。
行動不能の状態異常が複数あるのはクソゲーみたいなもんだと思うが、一応『燃焼』に関しては対策がある。
洞窟でとれる『光苔(炎)』。こいつをいくらかレアリティの高い食材と一緒に調理することで料理に『燃焼耐性』を付与することができるのだ。
ただ、いくら探しても恐怖耐性を付与できる食材を得ることはできなかった。
俺たちが知らないだけかもわからないが、こいつのおかげで華の手番が1つ減らされる。
「『三対神徳:信仰』」
天から俺たち全員に光が降り注ぐ。ステータスに『無敵』状態を示すアイコンが表示され、華が静かに行動を終了した。
「いいぞ。華」
大罪耐性がなければスキルさえも使うことができなかったのだ。スキルが使えるようになっただけ勝負になっているとも言えた。
ちなみに、2度目の検証のとき華はミニスカサンタだった。あの姿の華には『状態異常無効』のスキルがあったので、大罪耐性さえ付与できればそのまま攻撃に移れたのだが……。
「気は抜けませんね……」
杖を構えて緊張する華。
そして、シャドウ栞に手番が移る。
シャドウに明確な行動を指示することはできない。だが、俺と華はシャドウ栞の行動パターンは把握しているのでさほど心配はしてない。シャドウ栞のジョブが僧侶というのも余計な行動をする心配をしなくて済む。何しろ攻撃ができないからな。フレンドシャドウがオートカウンターで勝手に死ぬ心配をしなくて済むのは良い点だ。
「『三対神徳:慈愛』」
自身と華が状態異常になっていることを理解しているシャドウ栞は状態異常解除のスキルを使用した。
天から降り注ぐ光によって、華と栞に付与された『恐慌』の状態異常が浄化される。
「みんなに癒やしを」
『定型文』をつぶやいたシャドウ栞によって、俺のHPが全回復する。
戦闘全体を見て、華の手番を1つ潰してまでもシャドウ栞の手番を最後にしたのはこれが理由だ。
オートカウンター対策。与えられたダメージを回復するためには、栞の順番は最後でなければならなかった。
そして、俺たちのターンが終了する。
『滅せよ。滅せよ。滅せよ。滅せよ』
2回目の戦闘ではなかった演出だった。魂を心底から恐怖させるような不気味な声の輪唱だ。同時に3体の朱雀王が宙へと飛翔する。冥闇の空間に浮かぶ無数の目玉がギョロギョロと俺たちを凝視する。
『滅せよ』
轟、と宙空の朱雀王から発せられた炎の熱波が俺たちを3度焼く。華の無敵が効果を発揮し、俺たちへのダメージは無効化される。『燃焼』も同じく、だ。食事効果で一応の対策はとってきたが、食事をとらなかったシャドウ栞にも燃焼は付与されていない。検証回数が少なかったために確信はとれなかったが、やはり『無敵』は攻撃に含まれる追加効果を防ぐことができる。
だが、喜んでいる暇などない。
『滅せよ』
俺たちの真下に暗黒が凝縮されていく。冥闇の中でなお理解できるほどの濃密な闇。
爆音と共に俺たちの身体に衝撃が走る。打ち上げられたのだ。宙空に漂う身体。滞空し、地面に叩きつけられる。
『無敵』のおかげで痛みもHPダメージもない。だが、この衝撃。2度目の戦い方と攻撃の演出が変わっている。
「やっぱ、猶予、ねぇのかこれは……」
最初はただ闇で塗りつぶすだけだった。2度目は闇の波だった。3度目の今回は闇が凝縮し、俺たちを個別に狙ってきた。
次はあまり想像したくない。演出がやばくなるのは間違いないだろう。
加えて、あまりよくない追加効果も増強されているようだった。
そう、振り返れば肩を抱くように震えを抑える華がいる。
「う……うぅ……」
「華」
華はうつむきながら、勇気を振り絞るようにして声を発する。
「忠次様。敵の、孔雀王の攻撃に含まれる『大罪』が強化されています。申し訳ありません。この戦いで負ければ、次の戦いに私は参加できなくなります」
華が大罪に弱すぎるのか。それとも俺が強いだけなのか。どちらでもいい。華の予想通り、やはりリミットはないのだ。
華がいなければこの戦いには勝てない。俺だけでは勝てないのだ。
(シャドウ栞は……)
振り返る。フレンドシャドウらしからぬ微かな震え。大罪の影響は出ている。出てしまっている。
「これが、最後のチャンスか」
勝てないからといって何かあるわけでもない。
だが、それでも。
「負けるわけにはいかねぇんだよ……」
俺が、俺であるために。
かつての、ただただ傲慢であった俺に戻るために。




